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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

1月8日・カール・ロジャーズの方法

2020-01-08 | 科学
1月8日は、至上のロックスター、デヴィッド・ボウイが生まれた日(1947年)だが、現代世界に多大な影響を与えた大心理学者、カール・ロジャーズの誕生日でもある。

カール・ランサム・ロジャーズは、1902年1月8日、合衆国イリノイ州オークパークで生まれた。父親は土木技師で、会衆派のプロテスタントだった。宗教的に厳格なWASPの家庭に育ったカールは、幼稚園に入る以前からすでに本を読んでいた秀才で、そういう子どもらしく、独立心に富み、孤独で、倫理的にきびしい傾向をもっていた。
カールはウィスコンシン大学に進み、はじめ農学を、やがて歴史、宗教を学んだ。
そしてウィスコンシン大在学中の20歳のころ、中国の北京で開かれたキリスト教の国際会議に出席し、このころから宗教について疑念を抱くようになった。
22歳でウィスコンシン大を卒業したカール・ロジャーズは、ニューヨークにあるユニオン神学校へ進んだが、しだいに無神論に傾き、2年で中退した。
彼はニューヨークのコロンビア大学の教育学部に入り直し、臨床心理学を学びだした。
コロンビア大で博士課程を終了した彼は、28歳からニューヨーク州ロチェスターの児童虐待防止協会の管理職として問題児童の心理に取り組み、ロチェスター大学でも講義を担当した。そして38歳でオハイオ大学の心理学教授に就任し、その後、シカゴ大学やウィスコンシン大学の教授も務めた。

臨床心理の現場で経験を積み研究を重ねるうち、ロジャーズはクライエント中心アプローチ(来訪者中心療法)という方法を提唱するようになった。
これは、専門家が患者を分析し助言を与えていこうとする従来の心理学療法とは決定的に異なり、カウンセラー(心理学者)がクライエント(患者)の考えや気持ちを無条件に肯定して受け入れ、共感をもって理解し、あくまでもクライエントを中心にして考えていこうとする方法で、「クライエント」という用語を使いはじめたのもロジャーズだった。
60歳をすぎ、ロジャーズは個人セラピーから、集団実践療法であるエンカウンター・グループ(出会い集団)へと、その研究テーマを移行させ、人間中心アプローチへとその理論を発展させ、最後まで現役の研究者でありつづけた。
米国のサイコセラピスト・アカデミー会長ほかさまざまな役職を歴任したロジャーズは、1987年2月、転倒による骨盤損傷のため緊急入院したカリフォルニア州サンディエゴの病院で手術を受けた後に心臓発作を起こし、没した。85歳だった。

ロジャーズの人間中心アプローチは、カウンセリング界のみならず、現代では世界のさまざまな分野に多大な影響を与えている。医療でも介護でもどんな世界でも、昔とちがい、「受け手側の立場に立つ」ということが強調されない分野はない。これはひとりロジャーズだけの影響ではないのかもしれないが、やはり彼が投じた一石は大きかったろう。

ロジャーズは、人間の奥にある成長・向上する力を信頼し、また、そこにある孤独を見つめた人である。彼はこう書いている。
「人が自分の孤独を秘かに隠すひとつの大きな要因は、真実の自己、つまり内的自己、他人から隠している自己は、だれからも愛されないと確信するからである」(畠瀬稔、畠瀬直子訳『エンカウンター・グループ──人間信頼の原点を求めて』(ダイヤモンド社)
(2020年1月8日)




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