時々雑録

ペース落ちてます。ぼちぼちと更新するので、気が向いたらどうぞ。
いちおう、音声学のことが中心のはず。

「よそ者」市長さんのことば

2006年01月18日 | 
何度も書いたとおり、ずっとTVがない生活をしています。こちらの国の情報はNPRとNew York TimesのWebで仕入れます。あまりちゃんとチェックしていませんが。昨日(16日)の記事で、ことば、とりわけ方言に関する記事があったので、紹介します。もっともNew York TimesのWebはたいていが無料で見られるので(会員登録必要)ご存知の方もいると思います。

就任して4年のNYの市長Bloombergさんが、この4年で出身地のBostonなまりが抜けてきて、NYなまりに変わってきている、という趣旨です。この記事、Webのトップに近い位置にありました。日本と同じく「どこのことばをしゃべってると聞こえるか」ということは政治家にとってかなり重要なようです。

BloombergさんはNYに移住して40年なんだそうですが、聞く人が聞けば明らかに、Bostonのことばだと分かるし、それを"brick-throated bullfrog,"(よくわかりません「のどがレンガでできたガマガエル」みたいな声?)と揶揄する作家もいるんだそうです。でも、そのことばに変化が、という記事。おもしろいのは、
1) その変化が意識的なものかどうか、議論の対象になっている
2) それを論じるために、数人の学者に意見を聞いている
ことです。

William Labov御大も登場して、「市民と接触するうちに無意識のうちにシフトしたんだろう」ってな意見を言ってます。逆に、有権者を意識した意図的な行動だ、という分析もありましたが、私見では「どっちなんだ!?」と追求してもあまり意味がないだろうと思います。同化するにせよ、同化を拒むにせよ、「意識・無意識両面ある」という結論にしかならないだろうと思うので。

去年のハリケーンKatrinaの後、インタビューに答えるNew Orleans市長Nagin氏の録音がNPRで聞けました。合衆国政府の援助の遅れを非難する彼のことばは、私でも分かる程度に標準発音とははっきり異なっていました(たぶん、南部なまり)。これは、彼自身の出自によるところもあるでしょうが(New Orleans出身だそうです)、市民へのアピールのため、半ば意識的にその特徴を隠さず強く打ち出している面もあるだろうな、と感じましたが。

音声的な特徴として比較されているのは、おなじみの「postvocalic-r」があるかどうか(car、father...)。一般の人にわかりやすいんでしょうが、またそれかい… ちなみに、他に意見を求められているのも音声学というより方言学の学者さんでした。(日本で言うと、たとえば故金田一春彦博士が出てきて、ガ行を鼻音で発音してるかどうか云々…)

BostonはNYよりも古く発達した都市らしいし、有名な大学もたくさんある地域なので、日本で言えば「東京都知事が京都の人で、40年も東京にいるのにずっと京都方言で話してたけど、就任から4年たって少し東京っぽくなってきた」という感じ? なお、「よそ者」市長は彼が初めてではないそうです。

この記事の中では「余談」ですが私にはもっと面白かったのが、彼がスペイン語を勉強中で、さらに選挙演説を中国語(数種類の方言で)、ロシア語、ウルドゥー語、朝鮮語で録音した、という点。多様な民族を抱える大都市の首長になるのは大変ですね。日本も東京都知事候補は少なくとも××語と△△語で演説できるようじゃなきゃ、ということになったら、東京ももっと面白い都市になるんじゃないかと思います。

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