た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

小雨(三杯目)

2005年10月04日 | 寄席
 したたか飲みましたなああの晩は。金がないのにダルマ一本空けましたもんねえ。何しろママに味わいがあるんだ、でしゃばらず、かといって気がつかないわけじゃなくて、たとえば私の煙草が雨でしけっているのに気づいてですな、私がライターで火をつける前に、かるく煙草を遠火であぶってくれたほどですからねえ。
 「ママさん、ママさんの名前が小雨ってことはわかったけど、そりゃもちろん本名じゃないでしょう。違うかい?失礼ながら。ねえ、どうして小雨って名前をつけたんだい」
 私のそういう若気の至りの不躾な質問にですな、ママさんはバージニアスリムの煙を細く噴き出してから、困ったように微笑んで因縁を聞かせてくれました。
 あ、申し上げるのが遅れちまいましたが、ママさんは黒いシャツの胸元に見える、そう、ベージュ色のツィードってやつを着てました。ちょっと鬢のよじれた、二重まぶたの物憂げなママさんには、それが妙に似合ってたんでございます。(つづく)
                                                 
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