た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

友遠方より来る

2005年12月30日 | essay
 東京から不意に知人が訪れて来た。
 おしなべて私の知人は不意に現れる。私を困らせるのも挨拶のうちとくらいに思っている。おかげでこちらは多忙の藪を掻き分けて無いはずの閑を取り出し、温泉にゆっくりと浸かることができた。
 「なかなかいい温泉だね」
 彼は両手で顔を擦りながら意外なように言う。「ところでお互い老けたな」
 私の何を見てそう言ったかは定かでない。何しろ裸体を晒しているだけに気懸かりである。彼はしゃべることまで不意打ちでいけない。
 「老けたかな」 
 「ああ老けた。何年かぶりに会って、温泉に入って話題もなくぼーっと湯に浸かって、幸せそうな顔をしているだろ。老けた証拠だよ」
 私は細い腕をさすった。湯船の中央に進み、白茶けた湯に顎まで浸かった。それから彼の言葉に応えた。
 「老けたら、話題がなくなるのか」
 「話しても無駄だと思うのさ」
 窓の外の竹林を、師走の風が走った。
 「なるほど」
 私は感心してうなずいた。離れたところでどこいらの子どもが湯船の湯を叩き、父親に窘(たしな)められた。子どもはそれでももう一度湯を叩いた。
 私の頬に滴が当たった。
   
 
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師走句

2005年12月30日 | 俳句
つごもりや 雪に許され もう一杯
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