諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

172近未来からの風#10 「未来の教室」

2022年02月20日 | 近未来からの風
久しぶりのテント泊 本沢温泉のテント場にもどってきました。久しぶりに我が家?に宿泊

ところで、文部科学省の業務は、「教育」「科学技術・学術」「スポーツ」「文化」ということにになるが、長く「教育」についは他の省庁の干渉をうけずにいたという。
ところが、

2020年に始まったコロナ渦対応で加速したが、それ以前からも目論まれていたのがリモート授業や学習履歴データの蓄積といった「学校の情報化」である。学校の情報化には企業の参入が必要となり大きなビジネスチャンスが生まれる。さらに、教育の場で生み出されるビッグデータは「宝の山」となる。(中略)経産省の商務情報政策局の商務・サービスグループにはサービス政策課が置かれ、その下に教育産業室が存在していることは、経産省の教育ビジネスへの参入の意思を明確にあらわしている。さらに官邸は科学技術・イノベーション政策や産業政策の旗振り役であり、教育政策にも深い関心を持っている。

   青木栄一『文部科学省』中公新書

第四次産業革命に向けて、教育への多様なニーズは、一つの省庁の枠組みでは対応できないというのは理解できる。柔軟であり、変化に即時の対応も理論的には必要である。
ところがもう一方で、特定の企業にとってビジネスチャンスであり、特にこれまで個人情報として慎重に扱ってきた学習履歴情報が ビッグデータに取り込まれていくことには警戒をせざるを得ないのだろう。

そして、その経済産業省が推進役を担っている ICT教育は、「GIGAスクール構想」として「未来の教室」の中心に位置づけ、文部科学省、経済産業省、総務省の3省庁合同で実現されてきている。

その全体像を示すのが下の図である。


この図の右側の楕円が経済産業省の推進する部分である。教育産業が学校教育に参入できうる構造を示している。また下からの矢印は、産業界・大学・研究機関からの要請である。ここでも、産業界からの流れの部分は、経済産業省が担うことになっている。
文部科学省は、今日学校で課題になっている事象について、このGIGAスクール環境で改善を図る、と同時にこれまで省内で分離的に扱っていた大学、研究機関からの要請にも直接応えられる仕組みになっている。
多方面からの教育内容や教育の方法について、「GIGAスクール環境」(つまり一人一台端末・高速通信網)というインフラ整備によって実現が可能になっていくということらしい。

このことについて、佐藤さんは、

「未来の教室」は、一人一台の端末を準備するGIGAスクール構想によって一挙に現実化されています。公教育と教育産業と IT産業がボーダーレスに一体化したところにGIGAスクール構想と「未来の教育」が位置付けられている点が重要です。

第四次産業革命に対応するために、三つの省庁がチームを組んで対応する形ではあるが、もう少し中身を見ていこう。

「『未来の教室』とEdTech」のICT教育の柱は、
「学びの自立化・個別最適化」、「学びのSTEAM化」、「新しい学習基盤づくり」
の3つであるらしい。佐藤さんの文書の引用を借りて説明したい。

「学びの自立化・個別最適化」
これが最大の目玉と言っていようである。従来の一斉授業ではなく、それぞれの学びの現在地に応じた学びを ITの力を利用しながら合理的に進めようということである。これを自立化・個別最適化というのだろう。

すなわち「学びの自立化」は「自習」、「個別最適化」は一人ひとりに即した学びの個別化です。この二つのうち、経済産業省が構想を当初から「未来の教室」で掲げているのは「個別最適化」です。

この「学習の個別化」はそれ自体が新しいものではないという。
50年前にスキナーがプログラム学習を、ブルームが「完全習得学習」を提唱したのと本質的にあまり変わりはないらしい。ブルームは小学校から高校までの教科のすべての内容を細かく行動目標で分類し、細分化した目標の達成度に即して、一人ひとりの学習過程を評価して学習の個別化を行い、誰もが完全習得の学習を実現することを目指したのである。


しかし、「個別最適化」が従来の「学習の個別化」と異なっているのは、AIとIoTとビッグ・データによって統制された学びであることです。



現在、Googleは、アメリカのすべての学習者の小学1年から高校3年までの学力テストの成績をもちろん、数学のどこまでつまずいたのか、どの問題でどう思考しどう理解したのが、社会科でどの資料をどう参照してどう思考したのかなど、個々人の学習歴に関する ビッグ・データを保有しています。そのビッグ・データと ICTの技術によって、一人一人に最適の教育プログラムの提供が理論的には可能であり、そのメリットによって海外のICT企業と教育企業は学校教育に進出しています。


ちょうどこのことは、以前取り上げた佐伯胖さんの「機械で学ぶころはできるのか」という問いと一致する。学びは質的はどうなのか。これについては回を改めたい。

「学びのSTEAM化」
これは、教育内容と領域の改革らしい。

「STEAM」とは、科学(science)、技術(technology)、工学(engineering)、芸術(art)、数学(mathematics)を「文理融合」した学びを意味しています。
「STEAM」とは、もともと2003年にアメリカの国立科学財団が当時大量に不足しているといわれた指導的な「ハイテク人材」の育成を目的とした「STEM」に由来し、「STEM」に「芸術(art)」が加わって成立しています。

「STEM」にしろ「STEAM」にしろ、科学技術(と芸術)の融合分野に対する興味や関心を高めて「ハイテク人材」を育成することが目的の総合学習であり、IC T教育とは関係のない教育プロジェクトです。

これは、実際は実をともなっていないイメージだけのような印象だ。実際どう教育課程に落とし込んでいくのか、詳しく勉強する必要がありそうだ。

「新しい学習基礎づくり」

これは、「個別最適化」「STEAM」の二つを実現する基礎作りであり、IT環境の整備と IT技術による学校経営の合理化と効率化が提案されています。

この中で文部科学省は、今日の学校における諸問題、あるいは IT化による人的省力化を意図した部分が表れているのかもしれない。これについても子どもたちの学びの質とともに検証する必要があるだろう。

いずれにしても、グローバル世界の中の社会の変化、それに伴う教育のイノベーションという観点から各論を吟味せざる得ないだろう。
「近未来からの風」に向かってするべきこととは何だろう、ということ。


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