諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

146 「学び」と私たち#1 テキスト:「学び」の構造

2021年07月25日 | 「学び」と私たち
絵地図 八ケ岳の南端の登山口観音平で、実際は木立があり山は見えないのでこの看板が有効です。そして、振り返ると麓では見えないかった南アルプス 仙丈ヶ岳が見えてきます。

この夏は、研修と言っても出歩きにくいので、読書に時間をさけます。ずっと前から読まなきゃと思っていた本を「夏休みの課題図書」?に設定してみました
それが、

佐伯 胖『「学び」の構造』東洋館出版社 (昭和50年出版)

です。
佐伯さんは、認知心理学者で、ウィキペディアには、「認知心理学の知見に基づく「学び」の思考過程の分析。」とあります。同書はその初期の代表作。「学び」についての名著と言っていいものです。
で、これを味わいつつ読むために、当ブログでもダイジェスト部分を載せたいと思います。

もちろん、ブログ的にもつながりがあります。
130号で述べた脳の入出力の間の「部屋」ないし、「人格の部分」です。

「五感から入った信号は脳の「感覚野」というところで処理され次の部屋に伝えられる。そして、その部屋から伝わってきた情報は「運動野」によって具体的な命令にされ、筋肉によって出力される。「感覚野」と「運動野」の間にある部分、つまり今「ある意志」をもつと言った部分である。こここそ入力から出力を判断する部分であるといえる。別の言い方なら人格の部分といえるのだろう。」
「130 「ズレ」を考える #3 感覚野と運動野の間」

「学ぶ」ということのプロセスと、結果として、それが教育のめざす人格の完成とどう関連づくのか、といった解を認知心理学に求めたということです。「連合野」の内実といってもいいのでしょうか。
そうそう、教授が「品性の陶冶」につながるといったあのヘルバルトの説いてた真意もここに見出せるかもしれません。

ちょっと広げすぎましたが、そんな視点で読んでいきます。
しかし、名著というもは、無駄な部分がありません。
そこで、佐伯さんが冒頭述べている

「本書は、特定の「専門的な立場」から書かれたものではない。ひとりの人間として、親として、教師のひとりとして、また、学者として、ただ「学び」について考えられるだけ素直に、ありのままを考えようとした。」

と言う中でも、本当はアカデミックで難しいと思われる内容を、うまく説明し、納得させてくれる部分を紹介していきたいと思います。


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145 カスタマイズのちから

2021年07月18日 | エッセイ
絵地図! 八ケ岳 県界尾根ルートへのマップ。マイナールートで、さすがにこれだけだとわかりませんでした。

 「カスタマイズ」という言葉をはじめて聞いたのは、中古車ディーラーだったようの思う。
「割安な中古車にして、カスタマイズして乗るのも車の楽しみですよ」
という。
好きなように部品を足したり、付け替えたりして自分好みの車に仕上げていくことが楽しいというのである。
その後、パソコンやスマホも壁紙を変えたり、アプリを入れたりしてカスタマイズしていたりする。

山登りでもそんな感じでカスタマイズしている人がいる。

 一番多いと思われるのが、写真好きである。
一眼レフに望遠レンズをつけて雄大な山岳写真をねらう人、逆に足もとの草花を接写するために身をかがめている人も見かける。写真といってもさまざまだ。
 展望のいいベンチでリュックザックからコーヒーセット一式をだして、本格的なドリップコーヒーを入れている人もある。水は途中の沢で汲んだ天然水のようだ。
 ハードな山登りを望む人はトレールランニングの軽装で稜線を駆け、はたまた一般ルートでないところを好んで登る人もあり、泥だらけになって山小屋にたどり着いたところを見たことがある。
 反対に、「あの人、2週間前、この先の湿原の花を見るために来たんだけど、少し早かったんで、今週また休みとって登ってきたんですよ」と親爺さんが教えてくれたその山小屋は麓から5時間の高所なのだから、タフな“詩人”がいるのである。
 そして、私のように気分転換と運動不足解消という人もある。

 山登りというと、頂上に到達することが目標のような印象を受けるが、カスタマイズの仕様によって山から受けるものは多様である。
 そう考えると、ひたすら高い山に挑戦することなど多様性の中の一部のように感じる。
 個々人がどうカスタマイズするか、である。

 学校に時々阪神ファンの卒業生がくる。母校の施設を利用してサークル活動をしている。
「先生は巨人ファンか。やっぱり坂本はいいよねぇ」
「岡本も育ってきたしねぇ」
「でも、やっぱり読売は地力があるね。もう追いついてきちゃった。」
といって、タイガースのキャップの下でニコニコしている。
そんな他愛のない話に愛嬌がある。
進路担当に聞いてみると、順調に仕事も頑張っているという。

それぞれの生活を上手にカスタマイズしてくれるといい。

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144 「ズレ」を考える #17 未来との同居

2021年07月11日 | 「ズレ」を考える
絵地図! 高尾山のものです。わかりやすいし、楽しい登山を予感をさせますね。

「ズレ」というキーワドが発展し、教育方法史の方面までいきました。
で、次は、自意識のズレについて考えていきたいのですが、ちょっと準備不足でなので今回は、入口だけです。

サルトルのこの言葉に立ち戻ります。

人間は現在もっているものの総和ではなく、彼がまだもっていないもの、これからもちうるものの合計である。

これが、人間が、明日に向かって生きてく原理であると言ってもいいし、人間の存在そのものがその原理として前に進むようにできているとも言えるだろう。
もっと言えば、常に、明日へのイマジネーションが広がってしまうのである。
そういう存在自体に内包する推進性が、努力の糧になったり、学ぶ意欲とつながっていると考えても良いだろう。

未来の自分と常に同居している自分

ところが、である。
その存在性がゆえに、
未来の自分と、現にここにある自分のズレに悩むということがある。
拡がるイマジネーションに負けそうになる自分。
例えば、こんなコメントがある。

私は人間という生き物が嫌いです。だから自分も嫌いです。みんなも嫌いです。けれどそんな嫌いなみんなと仲良くしないと世の中を渡れません。人と人が繋げている橋を渡らなければいけません。私はこの橋が崩れそうで渡りたくありません。何故なら嫌いなみんなが作ったものだから。でも渡らないと将来という渡った先に着けない。
私は17歳です。高校2年生です。
橋の前にたっている気がします。この橋を渡らずの先行く方法はありますか??、ないですか??、どうやったら人を好きになれるのだろう?。溜息がでます。はぁ……。


                    村上春樹『村上さんのところ』新潮社 ※)

こういうことって、ある種の刺激を放ちつつ、多くの人の心に響くコメントだろう。
「分かるよ」って。
そして一方で、「未来の自分と同居している自分」存在性をもつ私達として宿命?のようにも感じる。

あるべき自分と、ある自分とのズレ

教育の問題ではないが、教育の根源にかかわることに違いはないだろう。
このテーマについては、もう少し準備が必要なので、宿題にしようと思います。
もっとも、答えは見えていて、心を沿わせつつ、一緒にいる人があることなのでしょけど。それがまた人間らしくもある。

※)この本は村上さんが、読者のメールによる質問の答える形のもので、上の引用も読者の方からの質問です。ブログの趣旨とは関係ありませんが、参考に。村上さんは慎重に次のように返答しています。

他のみんなもきらいだけど、きみ自身もきらいなんだ。そう言われると筋がとおっているような気がします。自分のことは好きだけど、まわりのみんなのことはきいらだというよりまともですよね。人間そのものがすべて気に入らない。フェアな考え方です。僕は思うんだけど、そういうときには、自分の中のいったい何がこんあにいやなんだろうと考えていくといいんじゃないかな。他人の中のいやなところって、なかなか突き詰めて考えられませんよね。他人のことだから。他人の心の中までは見通せないから。でも自分の中のいやなところって、どんどん突き詰めて行けます。具体的にどうやってうまく突き詰めていけがいいか? それはきみ次第です。きみが自分で考えるしかありません。僕の場合は本とか音楽とか猫とかが助けてくれました。きみにも助けてくれる何か(誰か)があるといいですね。








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143 「ズレ」を考える #16 教育内容決定権

2021年07月04日 | 「ズレ」を考える
絵地図! 上高地の奥 横尾にある穂高連峰の絵地図。この絵の上にけが人の数が貼ってあることがあり、気が引き締まります。

授業における教授方法について考えきました。
一斉授業という枠組みの中で最大限に子ども達の変容を促すための歴史の変遷をまとめたつもりです。広く見ると授業の中の子ども達の認識ズレを意図的に組織していく技術ともいえるように思います。
そして、今回は教授とは直接は関係のないのですが、寄り道して、教育内容が決定される根拠をテキストにそって学んでみます。

まず、19世紀の半ば、西欧では、数学化学工学医学法学政治学社会学心理学が確立し、その後基礎科学(特に理学的な分野)、応用科学(特に工学的な分野)が加わり学問領域ができた。これが、学校の教科の基盤である。

ところが、教育には、別の要素が入ってきて、ナショナル・アイデンティティを形成する内容(国語、道徳、歴史、体育)が、産業社会を建設する内容(数学、科学、技術)が導入され、個々のアイデンティティを表現する内容(音楽、美術)という目的性が与えられる。

つまり教科は単純に学問領域の基礎をなすのでないということである。当たり前だが、社会のあり様や国の未来像に向けての思惟が含まれ編成される面がどうしたって学校教育にはある。

そして、教育内容の決定の在り方には原理的に課題が生じる。
一つは、基盤となる学問領域もそのものが明治時代に西欧からの輸入したそのままのものだったこともあり、人々の日常に遊離したものに感じたこと。
二つ目には、高度化する社会にあって、学問領域はその時々の課題解決にはフィットしにくいということである。

だから、時折、教科学習より日々の生徒の実感に根差しやすい生活教育(統合学習とか総合学習)に注目が集まったりすることになる。

教育内容の決定の大枠は、ざっと以上の構造のようだ。
ただ、よくよく考えてみると社会科も理科も家庭科も領域統合された教科だし、やり方によっては生活教育的にもできるから教科と生活とを二項対立させるのも適切でない面がある。

ところで、こうした構造のなる背景を、テキストでは、「リベラルアーツ」「一般教育」を取り上げて解説している。

暗黒の中世にあって、ルネッサンスのごとくギリシャ時代の復古する動きの中で、プラトンの「自由7科」(『国家』)が再考され、封建社会の個人に精神的な「解放(リベレイト)」を求めたという動きがあった。
これが、人文主義の古典を中心に教育内容となり、学校教育に用いられた。論理的思考の態度そのものが「精神陶冶」という価値として、中等教育、高等教育に「教養主義」として広まったという。これが確立したのが19世紀で、アメリカや日本にも大きく影響した。この流れを「リベラルアーツ」という。

日本の旧制高校はこの「リベラルアーツ」と呼ばれる「教養主義」の典型で、旧制高校を経験した方の著作などにもプラトン以降の偉人たちの古典を読みふけった話などがよく出てくる。
そして、初等教育も含めて教科(学問)を分科主義で教育する伝統もこの影響であるという。
今でも小学校になるとこれまでの幼稚園学習指導要領の「遊びを通しての総合的指導」がガラッと変わって教科教育的な学習になるが、これもこの分科主義の流れであろう。
ところが、「香しき…」「文化の精華」の旧高校の誇り高き「リベラルアーツ」も現実社会から遊離した教養主義とエリート主義という批判が、アメリカで市民社会の成熟とともに起こりはじめた。

民主主義の社会を実現する市民の教育とは「現実の社会的な問題の解決に貢献する教養の形成」という19世紀末のアメリカに起源をもつこの考えを「一般教育」という。
そして、2度の大戦を経つつ、「リベラルアーツ」との質のちがいを明確にしつつ、1945年の『自由社会における一般教育』という大学研究の報告書が出され、アメリカの教育改革の指針になる。
ここでは、
「一般教育」の目的を民主主義社会を建設する自由な市民の形成に求め、その基礎となる教養を大学においては「自然」、「人文」、「社会」の3つの領域を選択する方法をで、高校においては「数学と科学」「文学と言語」「社会科と社会諸科学」「芸術」「職業」の5領域で構成する
という。ちなみに日本の大学の「一般教養」はこの発想に基づている。
そして、全米各地で「平和」と「自由」と「民主主義」を主題とする「一般教育」の学校改革がなされる。
つまり、「一般教育」はその本来の目的性からみて、教科分科ではなく、結果的に領域という総合性こそが市民としての課題解決にふさわしい教養を導くのだと説くのである。

教育内容の決定はもちろん、人類の文化遺産の基礎的部分を子ども達に着実に伝えるということだろう。だから、普遍的な人類の歩みを静かに読み解くことは当然である。ここに変わらない「静の教養」がある。
しかし、現代を生きるものとして直面する社会や個人の課題に立ち向かう力も必要だ。それもまた違った性質の教養である。「動の教養」と言っていいのかもしれない。

だから教育内容は変わらないものを含みながらも更新させる、このことは今後も変わらない。
要は個々から子ども達が何を学び取っているのか、それは教育方法の問題になる。



                                   テキスト:佐藤学『教育方法学』岩波書店


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