釜石の日々

健康長寿の可能性

昨年7月に厚生労働省が発表した2016年の日本人の平均寿命は、男女ともに過去最高を更新し、女性87.14歳、男性80.98歳となった。1960年には女性が70.19歳、男性が65.32歳であった。平均寿命は同じ死亡率が続くと仮定した場合、その年に生まれた0歳児が何年生きられるかを表している。日本人の平均寿命はめざましく延びて来た。しかし、その一方で、高齢化とともに何らかの病気を抱える人も増加している。寿命が延びても健康でなければ、延びた意味は薄まる。そこで、健康で生きられる期間、いわゆる健康寿命を昨年7月やはり厚生労働省が発表した2016年簡易生命表に基づいて試算された健康寿命を見てみると、女性が74.21歳、男性が71.19歳となっている。平均寿命に比べて、健康寿命では男女差が縮まっている。しかも、平均寿命の延び率よりも健康寿命の延び率が良くない。健康な長寿が理想だ。人の老化は、身体の中の細胞の老化であり、その細胞の老化が病気ももたらしている。病気の代表である癌は今では日本人の2人に1人がなっている。人の身体では毎日数千個もの癌細胞が発生していると言われる。その癌細胞は身体の免疫機能により、増殖を防いでもらっているために健康でいられる。しかし、免疫機能も老化とともに急速に低下して行く。癌以外の生活習慣病と言われる病気などもやはり細胞の老化が関与している。健康な長寿生活を維持するには、細胞の老化を防がなければならない。細胞も分裂を繰り返しながら次第に老化して行く。そして、細胞分裂のたびに染色体の末端部の「テロメア」が短くなることが分かっている。細胞の老化を防ぐには、このテロメアが短くならないようにする必要がある。昨年10月17日、生物・医学学術誌のBMC Cell Biologyに英国エクスター大学とブライトン大学の研究者たちが「Small molecule modulation of splicing factor expression is associated with rescue from cellular senescence」と言う論文を発表した。この論文によると、研究者たちは老化とともに短くなるテロメアを長くし、老化した人の細胞を若返らせることに成功した。エクスター大学のローナ・ハリーズLorna W. Harries教授たちは、細胞が分裂する際に、DNAが正常にコピーされるために重要な働きをしているスプライシング因子と呼ばれる遺伝子が、老化した細胞では活動が低下していることに注目した。教授たちは、赤ブドウ、赤ワイン、ダークチョコレートなどにも含まれる「レスベラトロール類似体」と呼ばれる化学物質を、培養液の中に入れて、培養液の中の老化した人の細胞を観察した。すると、数時間のうちにスプライシング因子が活動し、老化細胞は若い細胞のようにふるまい、分裂を始めたのだ。若返った細胞を調べてみると、テロメアまで長くなっていた。何度も同じ実験を繰り返したが、どの場合も細胞が若返った。この研究は、老化した細胞の機能を回復させ、人が健康を維持したまま長寿を叶えられる可能性を示した。
今年もカッコウが鳴いていた遠野の田園地帯
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