釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

「中国はグローバル・サウスで勝利を収めている」

2024-09-14 19:13:37 | 社会
今日のビル・トッテン氏訳、「China is Winning the Global South(中国はグローバル・サウスで勝利を収めている)」。8月21日、米国でForeign Affairsと肩を並べるThe National Interest掲載記事。執筆はワシントンD.C.にある戦略国際問題研究所(CSIS)の上級副所長、ダニエル・F・ランデDaniel F. Runde。


米国とその同盟国は、中国と競合するにあたり軍事面と技術面に重点的に取り組んできたが、第三の戦線であるグローバル・サウスは重要でありながら過小評価されている。

しかしこれで米国が冷戦や冷戦直後の戦略から戦略を更新しなければならないという事実は変わらない。米国は主に、非軍事的なグローバル・サウスにおける大国間の競争に参加するために、これらの新たな現実に対応しなければならない。それには、貿易、インフラ、デジタル接続、教育、経済開発などの分野において、グローバル・サウスとより積極的に関与することである。

特に通信は重要な分野である。中国は「デジタル・シルクロード」の一環として、海底ケーブルの主要な供給者および所有者となっている。中国の国有企業で、政府補助を受けているHMNテクノロジー(ファーウェイ)は、現在世界第4位のケーブル供給者で過去10年間で最も急速に成長し、108以上のプロジェクトを完了している。投資分野にはインターネットサービスなど新興の重要な技術分野も含まれ、ファーウェイはそこで数億人にインターネットアクセスを提供している。現在、ファーウェイの子会社はサハラ以南のアフリカにおける4Gネットワークの最大70%を所有している

通信業界における中国の優位性は米国にとって戦略的脅威である。北京が重要なデジタルインフラの流れを管理できるということは、監視の可能性を高めることになる。この現実はすでに明らかになりつつある。中国が発展途上国の独裁者を支援し、中国のデジタル権威主義モデルを通じて市民や反対派を弾圧しているからだ。

米国はグローバル・サウスにおけるデジタルインフラへの投資を増やし、米国の通信企業を促進し、ファーウェイの技術よりも安全で競争力のある代替案を提供することでこれに対抗しなければならない。

中国はまた、「デジタル・シルクロード」の海洋版である「海上シルクロード」計画の下、戦略的に重要な港湾のグローバルネットワークを構築している。北京は現在50カ国以上の約100カ所の港湾およびターミナルを所有または運営しており、その範囲はすべての海洋と大陸に及んでいる。中国はアフリカだけでも約23の港湾を所有している。これにより中国は事実上、世界的なサプライチェーンの中心にある港湾を支配することになり、それは地政学的な利益獲得に活用できる可能性がある。米国は港湾インフラプロジェクトへの投資、有利な融資条件の提供、南半球における港湾開発を支援するための官民パートナーシップの構築などで対応しなければならない。

中国は2009年以来、アフリカ最大の貿易相手国として米国を圧倒している。現在、アフリカの総輸出額の5分の1が中国向けでその大半は金属鉱物、鉱物製品、燃料である。現在の米国とアフリカ諸国間の貿易量は、アフリカと中国の貿易量のわずか5分の1にすぎない。現在までに、アフリカ54カ国のうち52カ国が、一帯一路構想(BRI)と協定または了解覚書を締結している。これは、西側諸国全体を合わせた2.5倍に相当するアフリカのインフラプロジェクトである。貿易と投資を通じた中国の経済的影響力は依存関係を生み出し、潜在的に北京との政治的連携につながる可能性がある。これに対処するために米国はアフリカ諸国との貿易を拡大し、米国企業がこれらの市場に参入できるよう支援することで、経済的な関与を強化しなければならない。開発金融公社(DFC)の業務の範囲と規模を拡大し、持続可能な開発パートナーシップを促進することが中国の経済的影響力を相殺するのに役立ついくつかのステップのうちの第一歩である。

グローバル・サウスにおける中国の影響力の重要な側面も、貿易と債務を巡るものである。昨年、中国による一帯一路構想では約210件の取引で900億ドルが投じられたが、DFCが投じたのは約130件の取引で90億ドルである。その結果、多くの開発途上国が中国の債務の罠(原文のまま)に陥っている。この経済的依存関係は、北京にとって政治的な影響力を意味する。大国間の競争が激化するこの新たな時代において、米国はこうした現実に対応するために、自国の対外援助モデルを再構築しなければならない。これには開発融資と無償援助のバランスを再考すること、そして、不公正な経済慣行に抵抗しながら、国内外で開放的かつ市場ベースの経済を維持することが含まれる。開発援助は単なる慈善行為ではなく将来の同盟国への戦略的投資である。米国の支援を受けて能力を向上させた国々は、中国の債務の罠に陥る可能性が低く、公正かつ透明性の高い統治を行う可能性が高い。

グローバルな力学の変化におけるもう一つの重要な要素は、グローバル・サウスのエリート層がどこで学ぶかということである。高等教育は、優れた統治、機能的で説明責任を果たす機関、そして力を持つ市民社会を育成するソフトパワーの最も効果的な手段の一つである。中国への留学生数の増加は、教育交流が将来の指導者の視点や忠誠心を形作る上で影響力を持つことを認識していることを示している。2003年には、中国の大学に在籍するアフリカ人留学生は1,300人にも満たなかった。2017年には8万人を超えた。ユネスコの「グローバル教育モニタリング報告書」2020年版によると、中国は世界最大の奨学金供与国である。公的資金では米国はトップ10にも入っていない。2020年には、中国はアフリカの学生に1万2000件の学術奨学金を供与したが、英国は1000件だった。米国のフルブライト奨学金プログラムはわずか200件強だった。

米国のプログラムは、リソースの制限、規制当局の非現実的な期待、ビザの制限によって妨げられてきた。しかし米国の競争優位性は、依然としてその質の高い教育、公平で透明性の高い採用プロセス、市民意識の高いカリキュラムに触れることができるという点にある。実際、2023年には、米国の大学で学ぶ中国人留学生は29万人に達し、その大半は奨学金を受け取らず、米国で学ぶ外国人留学生の中で圧倒的に最も多い割合を占めていた。米国はこれらの価値を活かし、発展途上国の学生たちが中国の統制された画一的な環境ではなく、米国のリベラルな教育システムに触れる機会をより多く確保しなければならない。

さらに、世界の力学を変化させる重要な要素はグローバル・サウスの国々が軍事装備をどこから調達するかである。例えば、インドとロシアは数十年にわたり緊密な防衛関係を保っている。インド陸軍はロシア製の戦車やライフル銃を装備し、空軍はスホーイ戦闘機やMi-17ヘリコプターを使用している。米国との関係が深まっているにもかかわらずインドは依然としてロシア製武器の最大の購入国である。この関係が、ウクライナ侵攻後のロシア非難にインドが及び腰であることの一因となっている。ニューデリーは間接的にモスクワに国際法の尊重を求めたが、ロシアを批判するまでには至らなかった。 このことは、中国やロシアから軍事装備を購入する国々は、しばしば地政学的にこれらの大国と将来にわたって結びついた立場になることを示している。米国は、これらの国々が米国の地政学的利益を支持することを確実にするために、より良い代替案を提供しなければならない。

また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける中国のワクチン外交はその影響力を大幅に強化した。中国は2021年9月までに世界中に22億回分のワクチンを配布したと主張している。国内へのワクチン配布が外交よりも優先したOECD諸国とは異なり、中国とロシアは海外での地政学的な優位性を得るために独裁体制であることを利用して自国内でのワクチン配布を差し控えた。ドミニカ共和国、エルサルバドル、ブラジルなどの国々にワクチンを提供することで、中国は台湾を承認しないことや、通信システムにファーウェイを採用することなど、外交上の譲歩を確保しようとした。この問題をめぐり、パラグアイが台湾から中国への承認切り替えを検討したという噂もある。このアプローチは、かつてワクチンを製造できなかった中国のような国々が今では低品質のワクチンを外交的利益を得るための戦略的ツールとして使用しているという、グローバルなパワーバランスの変化を浮き彫りにしている。

グローバル・サウスを無視することは米国の国家安全保障にとって危険である。中国がこれらの地域で影響力を強めていることは、単に経済的な課題にとどまらず、世界のパワーバランスを大きく変える戦略的な脅威である。ほとんどの国は米国との協力を望んでいるが、中国が提供する以上の魅力的なオファーがなければ、必然的に中国に傾倒することになるだろう。

世界のパワー競争の舞台は変化したが、発展途上国の重要性はかつてないほど高まっている。米国はこの新たな時代の課題に効果的に対処するために、かつて冷戦時代にそうしたように再び道徳的信念と戦略的洞察力を活用しなければならない。米国の長期的な利益は、いざとなればルールに基づく自由な世界秩序を支持するであろうパートナー諸国の台頭を支援することで最もよく守られる。中国による「グローバル・ガバナンスの代替案」に対抗する米国の外交政策にとって、グローバル・サウスへの関与へのコミットメントを再確認することは極めて重要である。

そうすることで、米国は強靭なパートナーシップを構築し、優れた統治を推進し、急速に変化する世界情勢の中で自国の利益を確保することができる。リスクは高いが行動を起こすなら今しかない。
ミセバヤ