釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

主食と進化

2018-04-14 19:16:35 | 科学
青森県の八甲田山系につながる丘陵地帯に5900年前から人が大規模な集落を形成した三内丸山遺跡がある。人々はクリ林やクルミ林を管理栽培していた。そして、エゴマ、ヒョウタン、ゴボウ、マメなども栽培していた。しかし、ここでは稲は見られていない。岡山県の彦崎貝塚や朝寝鼻貝塚は6000年前の遺跡であるが、これらからは稲の細胞成分であるプラントオパールが発見されている。特に前者からは大量に発見された。稲の栽培は湿地での直播きと、水田を設置しての栽培があり、後者の遺構は2950年前の佐賀県唐津市にある菜畑遺跡が日本最古の水田稲作跡となっている。これまでの考古学的な発見からは日本人の祖先が米を口にしたのは6000年前からと言うことになる。つまり、日本人と米は切っても切れない関係とされて来たが、実際には人類の歴史のごく最近の出来事と言ってもいいくらいなのだ。その米の消費量は近年減少して来ている。洋食が普及したことが大きい。米の消費は減って来ているが、小麦は1960年代に急増して、以後、ほぼ安定して消費されている。結果、相対的に小麦の消費割合が増加した。人は動物であり、動物の進化は長い時間を要する。米の6000年の歴史では米を問題なく人の体に取り組む仕組みに進化するには短すぎる。小麦も同様で、米や小麦が消化吸収され、効率よく体内で利用される仕組みはまだ出来上がっていない。しかし、米や小麦の生産者である農家にとっては、米の消費量の減少や小麦の消費量が伸びないのは問題である。日本農業新聞は、今年3月15日、「ご飯、うどん・・・ 炭水化物減らすダイエット 60代後半で老化顕著に 糖質制限ご用心」なる記事を載せている。男性よりも女性に多いダイエットで、糖質制限が老化を進めることへの警告だ。米や小麦は炭水化物であり、炭水化物は主に糖分となり、体内ではエネルギーとなる。過剰なエネルギーは、しかし、脂肪として蓄えられてしまう。これを避けるために炭水化物を減らすダイエットが普及した。新聞の記事では、東北大学大学院農学研究科の都築毅准教授の研究を紹介している。マウスに糖質制限食を与えた場合と、通常食を与えた場合で、後者は平均寿命よりも長生きしたが、前者では平均寿命より20~25%ほど短命で、見た目も背骨の曲がりや脱毛などがひどく、老化の進度が30%速かった。同准教授は、詳しいメカニズムははっきりしていないが、「糖質制限食の個体は、血液中に多く存在するとがんや糖尿病の発症が早くなる可能性が高まる物質が多くなっていた」と述べている。これを読むと、米や小麦などの炭水化物を摂らないと、老化しやすいと考えてしまう。しかし、欧米や日本の研究では炭水化物は血糖値を上げて、むしろよくないとされる。人の何万年もの歴史と同じく、マウスなどの齧歯類の歴史はさらに長い。その人よりもずっと長い歴史の中で、マウスの主食はずっと炭水化物であった。つまり、マウスの体は炭水化物を効率よく利用できるように進化してしまっている。にも関わらず、そのマウスにとって効率のいいはずの炭水化物を制限すれば、当然、マウスの体には不具合を生じる。こうした単純にマウスの実験結果を人にも当てはめようとすることには無理がある。動物それぞれの長い進化の歴史を無視することは出来ない。
愛染山