釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

腸内細菌

2016-09-03 19:13:12 | 科学
動物では多くが、受精後に心臓や脳などの重要な器官からではなく、最初に原始的な腸が作られる。その腸からやがて肺や肝臓も作られて行く。発生学的に腸は生命を維持するためにも真っ先に形成される。そんな腸には腸内細菌が棲みつき、100兆個もの細菌が集まる腸内細菌叢を作っている。人では体内外の異物から免疫によって体を守る。その免疫の60~70%を腸が担っている。この腸の免疫は従って、腸内細菌如何で決まって来る。1700年も前に人は腸の不調に人の糞便を治療薬として使っていた。まさに腸内細菌を丸ごと薬として使ったのだ。現在、難病とされる潰瘍性大腸炎でも同じく糞便を薬として使ったところ、4分の1の人に効果があった。また大腸癌の人を調べてみると腸内細菌叢に偏りが見られている。肥満者も特有の腸内細菌叢になっていて、痩せた人に肥満者の糞便を使ったところ痩せた人が肥満となった。人の免疫力を利用した悪性黒色腫の治療薬は同じ病気でも人によって効果が異なるが、効果の少ない人の腸内細菌では減少している細菌があり、その腸内細菌を補ってやることで効果が出ている。腸内細菌はまた糖尿病などの疾患にも関与しており、近年では不安やうつ、気分障害などの精神的なものにも関係していることが明らかになっている。一方で、細菌感染には抗菌剤が多用され、そのために抗菌剤が効かない、いわゆる耐性菌も増加している。特に免疫力の低下した人に急速に拡大している「スーパーバグ」と呼ばれる耐性菌は世界的にも問題となっている。魚の養殖や食肉用の家畜でも抗菌剤が多用されており、こうした直接、間接の抗菌剤の使用が腸内細菌のバランスを崩している。和食から洋食への食生活の変化も当然腸内細菌叢を変えてしまう。その結果、癌を含めた多様な疾患を生み出して来た。社会的なステレスもやはり腸内細菌叢を変えてしまう。もっとも身近で、当たり前のような腸の存在は、最近の研究で我々が考えていた以上に、とても重要であることが分かって来ている。老化さえもが腸内細菌で大きく速度が変わる。加齢とともに腸内の善玉菌が減少する。適切な腸内環境を整えることが、健康維持と老化を少しでも遅らせることに大切なのだ。
コスモス