日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎「霧中」(その1)

2023年11月13日 | ◎本日の想像話
 グラスの中で液体が青い光を放つ。種類はアルコールだが、全合成された人工のものだ。ろくでもないものだが、酔うためにはこれしかない。 ミツオは酩酊した目でグラスを眺める。懐からタバコを取り出す。とたんにメタリックに輝くバーテンが指摘する。
「店内禁煙」
 生身の人間が働く姿を見ることは少なくなった。
 オンラインで人とはつながっているが、目の前のバーテンは機械だ。
「そうだったな」
 ミツオはおぼつかない足下を引きずるように立ち上がるり、店外へと続く扉に手をかける。
 少し開けた扉の隙間から、我先にミルクのような湿気をはらんだ外気が店内に流れ込む。
 外は雨。
 やまない霧雨はいつしか、はれない霧を呼び、2メートル先が見えない街となった。
 店内も禁煙だが、外だって喫煙禁止エリアなのだ。
 どうしても吸いたいミツオは、店外へと足を運んだ。
 よれたタバコをくわえて、ライターからほとばしる巨大な火でタバコに着火する。ふかく吸い込んだ煙をうまそうに吐き出した。


 赤と青のフラッシュがミツオを襲う。
「喫煙禁止エリアです」 
(今日は早いな)
 ミツオは驚きもせずにタバコを吸う。はるか上空から聞こえるサイレンと警告を無視してミツオは悠然と煙を吐き出す。
(どうとでもなれ)
 タバコを挟んでいる指先をかすめるように鉄の板がミツオの視界を奪う。その板は四枚あり、ミツオを棺桶のように取り囲んでいる。
「喫煙状況に変化なし。排除します」
 人工音声は最後通知を、密閉された空間にいるミツオにつげる。髪の毛が吸い上げられる感覚を感じた次の瞬間、ミツオは吸い上げられる感覚を感じていた。
(やばい、連行される)
 西暦2400年、ある夜の出来事。

コメント
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