「歩きながらのスマホ、危ないですよ」
突然、話しかけられた。
「えっと・・・」
メールを打ちながら歩いていた。
立ち止まり、声の主と目が合う。
がっしりとした巨大な体躯。
太い首。
編み上げのブーツに白黒ボーダーのTシャツ。
は虫類を思わせる、小さく、くぼんだ瞳でこちらを見ていた。
手にはティッシュを持ってこちらに差し出していた。
(何だ、ティッシュを配っていたのか)
ごにょごにょと言語らしきものを発しながら男の手のものを受け取った。
しばらく歩いてから、後ろを振り返った。
男はティッシュを配るのではなく、こちらをじっと見ていた。
こわっ。
そう思い、男の視線から逃げるように裏道の細い道に曲がった。
男からもらったティッシュはまだ手に持っていた。
見るでもなく、見ると「危ないよ、歩きスマホ」と書かれていた。
「椅子に座ってアクセスしよう」
そんなことも書かれていた。
それは、今、遊んでいるゲームのレアアイテムが手に入るアドレスとのことだった。
(ちょっと、うれしい)
そう思いながらアクセスするとダウンロードが始まった。
地図ソフトとGPSが立ち上がり、矢印と目的地が表示された。
(?・・・)
目的地は「×」印で表示されており、ここから300mほど離れた場所だった。
目的地に到着した。
そこにはバーコードが貼られていた。
ピンと来た俺は、スマホをバーコードにかざした。
AR技術で画面上にアイテムがうかんでいた。
(やった)
画面には次の目的地が表示された。
何度も「工事中」「立ち入り禁止」の立て看板を乗り越えて先に進んだ。
町中なのにだんだんと人に会わなくなってきていた。
こんなところもあるんだな。
そう思いながら歩いていた。
「×」印の目的地が近い。
あと1m。
50cm、30cm、20・・・
あっ。
落ちた。
そう思うまでもなく、腰に痛みを感じた。
いってー。
見上げると、上まで5mはある。
落とし穴だ。
下にはクッションがひいてあったので大事にはいたらなかった。
「何か食べ物、持ってませんか」
人がいる。
しかも多数。
「・・・・」
「おかしな事に携帯がつながらないんです。人も来ないんです。
私は、もう2日、ここにいます」
あいつにはめられた。
何枚もの工事中、立ち入り禁止の看板が救助の手を遠ざけているのだ。
携帯がつながらないのもあいつの仕業だろう。
突然、話しかけられた。
「えっと・・・」
メールを打ちながら歩いていた。
立ち止まり、声の主と目が合う。
がっしりとした巨大な体躯。
太い首。
編み上げのブーツに白黒ボーダーのTシャツ。
は虫類を思わせる、小さく、くぼんだ瞳でこちらを見ていた。
手にはティッシュを持ってこちらに差し出していた。
(何だ、ティッシュを配っていたのか)
ごにょごにょと言語らしきものを発しながら男の手のものを受け取った。
しばらく歩いてから、後ろを振り返った。
男はティッシュを配るのではなく、こちらをじっと見ていた。
こわっ。
そう思い、男の視線から逃げるように裏道の細い道に曲がった。
男からもらったティッシュはまだ手に持っていた。
見るでもなく、見ると「危ないよ、歩きスマホ」と書かれていた。
「椅子に座ってアクセスしよう」
そんなことも書かれていた。
それは、今、遊んでいるゲームのレアアイテムが手に入るアドレスとのことだった。
(ちょっと、うれしい)
そう思いながらアクセスするとダウンロードが始まった。
地図ソフトとGPSが立ち上がり、矢印と目的地が表示された。
(?・・・)
目的地は「×」印で表示されており、ここから300mほど離れた場所だった。
目的地に到着した。
そこにはバーコードが貼られていた。
ピンと来た俺は、スマホをバーコードにかざした。
AR技術で画面上にアイテムがうかんでいた。
(やった)
画面には次の目的地が表示された。
何度も「工事中」「立ち入り禁止」の立て看板を乗り越えて先に進んだ。
町中なのにだんだんと人に会わなくなってきていた。
こんなところもあるんだな。
そう思いながら歩いていた。
「×」印の目的地が近い。
あと1m。
50cm、30cm、20・・・
あっ。
落ちた。
そう思うまでもなく、腰に痛みを感じた。
いってー。
見上げると、上まで5mはある。
落とし穴だ。
下にはクッションがひいてあったので大事にはいたらなかった。
「何か食べ物、持ってませんか」
人がいる。
しかも多数。
「・・・・」
「おかしな事に携帯がつながらないんです。人も来ないんです。
私は、もう2日、ここにいます」
あいつにはめられた。
何枚もの工事中、立ち入り禁止の看板が救助の手を遠ざけているのだ。
携帯がつながらないのもあいつの仕業だろう。
ブーブーブーブー
携帯電話のバイブが鳴った。
非通知だった。
非通知着信は出ない主義だ。
ほっておくと留守番メモに切り替わった。
ご用の方はメッセージをどうぞ・・・
「あの、わたし、あなたの秘密を知っています。秘密をばらされたくなければ電話にでてください」
2年前、人を殺した。
深夜、路上でけんかになった。
その夜はかなりの酒が入っていた。
あいても酒に酔っていた。
細い裏路裏。
すれ違いざま肩があたった。
先に殴りかかってきたのは相手だった。
顔面に飛んできた拳を避け、腰の入ったフックをアゴにたたき込んだ。
電柱に後頭部をしこたまぶつけ、相手はそのまま座るように崩れ落ちた。
まあ、死にはしないだろう。
そう思って、そのまま帰宅した。
次の日のニュースで男が死んだことを知った。
「だれだ」
携帯電話に出た。
「あっ出ましたね。」
「だれだ」
「そんなことはどうでもいいじゃあありませんか。どうします。秘密を知っています。少し援助してもらいませんか」
「何を言っている。秘密なんてない」
「おや、おかしいですね。秘密のない人はこんな電話にはでませんよ。私見てました。証拠もあります。
証拠と引き替えに5万円恵んでもらえませんか。
いまから言う口座に振り込んでもらえませんか。
振り込みが確認されたら証拠をお送りいたします」
女は口座番号を言い、そのまま電話は切れた。
次の日、女はATMにいた。
昨夜の男から送金があった。
現金を取り出しながら思った。
無作為に電話をかけまくって同じセリフを言うだけで、生活するには困らないお金が手にはいるなんて。
世の中には秘密のある人ばかりですね。
ホホホ。
もちろん昨日話した男とも面識はなく、秘密なんてもちろん知らない。
ましてや証拠なんてまったくないのだ。
携帯電話のバイブが鳴った。
非通知だった。
非通知着信は出ない主義だ。
ほっておくと留守番メモに切り替わった。
ご用の方はメッセージをどうぞ・・・
「あの、わたし、あなたの秘密を知っています。秘密をばらされたくなければ電話にでてください」
2年前、人を殺した。
深夜、路上でけんかになった。
その夜はかなりの酒が入っていた。
あいても酒に酔っていた。
細い裏路裏。
すれ違いざま肩があたった。
先に殴りかかってきたのは相手だった。
顔面に飛んできた拳を避け、腰の入ったフックをアゴにたたき込んだ。
電柱に後頭部をしこたまぶつけ、相手はそのまま座るように崩れ落ちた。
まあ、死にはしないだろう。
そう思って、そのまま帰宅した。
次の日のニュースで男が死んだことを知った。
「だれだ」
携帯電話に出た。
「あっ出ましたね。」
「だれだ」
「そんなことはどうでもいいじゃあありませんか。どうします。秘密を知っています。少し援助してもらいませんか」
「何を言っている。秘密なんてない」
「おや、おかしいですね。秘密のない人はこんな電話にはでませんよ。私見てました。証拠もあります。
証拠と引き替えに5万円恵んでもらえませんか。
いまから言う口座に振り込んでもらえませんか。
振り込みが確認されたら証拠をお送りいたします」
女は口座番号を言い、そのまま電話は切れた。
次の日、女はATMにいた。
昨夜の男から送金があった。
現金を取り出しながら思った。
無作為に電話をかけまくって同じセリフを言うだけで、生活するには困らないお金が手にはいるなんて。
世の中には秘密のある人ばかりですね。
ホホホ。
もちろん昨日話した男とも面識はなく、秘密なんてもちろん知らない。
ましてや証拠なんてまったくないのだ。
あっ、いいかも。
軽い思いつきでアプリをダウンロードした。
写真を撮影すると、相手の目元、口元で表情を感知して、そのときの心情をふきだし風の画像にしてレイヤー状のシートを写真にかぶせて表示する。
犬の鳴き声を日本語に翻訳する玩具があったが、それの人間版みたいなかんじ。
アプリ名は「ニンゲンガル」
はいチーズ。
カシャ
「たのしいな」
恋人のカオリは無邪気に笑っていた。
「ニンゲンガル」の吹き出しもその表情のままの吹き出しを表示していた。
半年後・・・
カオリが俺を避けているような気がする。
予定がある、予定がある。
ここ2ヶ月そういわれて会っていない。
「ニンゲンガル」の吹き出しもそれにあわせて不機嫌な吹き出しを表示していた。
「あいたくない」
「帰りたい」
「カズオにあいたい」
ん!
カズオって誰だ。
俺の名前では無い。
「ニンゲンガル」は勝手にソフトを更新しているふしがある。
「カズオにあいたい」の吹き出しにはリンクが貼られていた。
クリックしてみる。
そんな機能はなかったはずだ。
カズオ:大学の同級生。
一人暮らし。
住所:○○○○○
携帯TEL:○○○○○
ゼミの飲み会でおちかづきになった。
先週は海に行った。
今週は遊園地に行く予定だ。楽しみ。etc
カオリの言葉で語られている。
なんだこのリンクは・・・
今週は遊園地Aに行くと書かれていた。
来た。
手をつないで二人はやってきた。
ぐらぐらと地面がゆがむのを感じた。
二人に気づかれないようにその日は部屋に帰った。
1週間後
足下にはカズオが倒れている。
ここはカズオの部屋。
クローゼットの中に隠れていた。
そこに酒に酔ったカズオが帰ってきた。
倒れるようにベットに横になりそのまま眠ってしまった。
手に持ったガスを吸わせ、さらに深い眠りにつかせた。
給湯機の不完全燃焼をよそおってカズオを殺害した。
すべてはカオリのためだ。
こいつがいるから気が迷うのだ。
偶然をよそおいカオリにあった。
「どうして連絡くれないの」
そういった直後、カオリは泣きながらその場に崩れ落ちた。
「どうしたの・・・車にのりなよ」
半年後、カオリと一緒に遊園地に来ている。
すべてが順調だ。
「はいチーズ」
カオリがスマホで写真をとった。
撮った写真を確認していた。
一瞬、顔色が変わったように見えた。
ある夜。
一人で眠っていた。
人の気配がする。
体が動かない。
誰だ。
ゆっくりと現れたのはカオリ。
(カオリ・・・何をしている。どうして何も言わない。)
カオリの手には見たことのあるガスの容器を手にしていた。
(そのガスは・・・カズオの時に使ったガス・・・)
「ニンゲンガルって知ってる?このアプリおかしいんだよね。
最初はたわいもないせりふしか表示されないの。
でも、使っているうちに、写った人物の過去をリンクでたどれるようになるの。
あなたのやったことも書かれていたの。
不思議よね、このアプリ」
カオリの瞳には怒りの炎が燃えている。
意識は遠のいてった。
軽い思いつきでアプリをダウンロードした。
写真を撮影すると、相手の目元、口元で表情を感知して、そのときの心情をふきだし風の画像にしてレイヤー状のシートを写真にかぶせて表示する。
犬の鳴き声を日本語に翻訳する玩具があったが、それの人間版みたいなかんじ。
アプリ名は「ニンゲンガル」
はいチーズ。
カシャ
「たのしいな」
恋人のカオリは無邪気に笑っていた。
「ニンゲンガル」の吹き出しもその表情のままの吹き出しを表示していた。
半年後・・・
カオリが俺を避けているような気がする。
予定がある、予定がある。
ここ2ヶ月そういわれて会っていない。
「ニンゲンガル」の吹き出しもそれにあわせて不機嫌な吹き出しを表示していた。
「あいたくない」
「帰りたい」
「カズオにあいたい」
ん!
カズオって誰だ。
俺の名前では無い。
「ニンゲンガル」は勝手にソフトを更新しているふしがある。
「カズオにあいたい」の吹き出しにはリンクが貼られていた。
クリックしてみる。
そんな機能はなかったはずだ。
カズオ:大学の同級生。
一人暮らし。
住所:○○○○○
携帯TEL:○○○○○
ゼミの飲み会でおちかづきになった。
先週は海に行った。
今週は遊園地に行く予定だ。楽しみ。etc
カオリの言葉で語られている。
なんだこのリンクは・・・
今週は遊園地Aに行くと書かれていた。
来た。
手をつないで二人はやってきた。
ぐらぐらと地面がゆがむのを感じた。
二人に気づかれないようにその日は部屋に帰った。
1週間後
足下にはカズオが倒れている。
ここはカズオの部屋。
クローゼットの中に隠れていた。
そこに酒に酔ったカズオが帰ってきた。
倒れるようにベットに横になりそのまま眠ってしまった。
手に持ったガスを吸わせ、さらに深い眠りにつかせた。
給湯機の不完全燃焼をよそおってカズオを殺害した。
すべてはカオリのためだ。
こいつがいるから気が迷うのだ。
偶然をよそおいカオリにあった。
「どうして連絡くれないの」
そういった直後、カオリは泣きながらその場に崩れ落ちた。
「どうしたの・・・車にのりなよ」
半年後、カオリと一緒に遊園地に来ている。
すべてが順調だ。
「はいチーズ」
カオリがスマホで写真をとった。
撮った写真を確認していた。
一瞬、顔色が変わったように見えた。
ある夜。
一人で眠っていた。
人の気配がする。
体が動かない。
誰だ。
ゆっくりと現れたのはカオリ。
(カオリ・・・何をしている。どうして何も言わない。)
カオリの手には見たことのあるガスの容器を手にしていた。
(そのガスは・・・カズオの時に使ったガス・・・)
「ニンゲンガルって知ってる?このアプリおかしいんだよね。
最初はたわいもないせりふしか表示されないの。
でも、使っているうちに、写った人物の過去をリンクでたどれるようになるの。
あなたのやったことも書かれていたの。
不思議よね、このアプリ」
カオリの瞳には怒りの炎が燃えている。
意識は遠のいてった。
ある休日の朝、中古ハード屋さんのジャンク品コーナーを物色していた。
ジャンクのズームレンズ、提示価格は500円。
35-70mm(3.5-4.5)
中古価格の相場は3000円~4000円程度。
レンズの声が聞こえた。
私を見て。kenkoのskylight保護レンズ装着してあるでしょう。
フードも付いているでしょう。
前のオーナーは大事に私を使ってくれたのよ。
ジャンク品じゃあないのよ。
お買い上げした。
動いた。
写った。
よかった。
悪魔のささやきの話。
「wii fitやりたい。半分出すからハードごと買わない」
という悪魔の提案を聞く。
「えー・・・OK。のった」
ジャンクのズームレンズ、提示価格は500円。
35-70mm(3.5-4.5)
中古価格の相場は3000円~4000円程度。
レンズの声が聞こえた。
私を見て。kenkoのskylight保護レンズ装着してあるでしょう。
フードも付いているでしょう。
前のオーナーは大事に私を使ってくれたのよ。
ジャンク品じゃあないのよ。
お買い上げした。
動いた。
写った。
よかった。
悪魔のささやきの話。
「wii fitやりたい。半分出すからハードごと買わない」
という悪魔の提案を聞く。
「えー・・・OK。のった」
「ねえねえ知ってる?この前発売されたi社のスマホの初期ロット、回収されたでしょう?なんでか知ってる?」
私は休日の朝、コーヒーショップでアイスコーヒーを飲んでいた。
後ろの席で女学生が二人、参考書を広げて勉強していた。
その女学生の会話が聞こえたのだ。
(i社のスマホの回収?知らないなあ・・・)
私は内心ひやひやしながら聞いていた。
なぜなら先日、そのスマホを購入したからだ。
「えー、回収。知らない知らない。
てか、同級生の京子が、見せびらかしてたの知ってるよ。
あいつのも回収かな」
「どうやら大々的に回収してるわけじゃあ無いらしいのよ。
その事に気づいてショップに持ち込むと別室に通されてスマホの交換と向こう十年の通話料無料、それと引き替えに誓約書に一筆書かされるらしいのよ。
このことは他言いたしませんって」
「このことって結局なによ。もったいぶらないで教えてよ」
「あのね・・・カメラに写るらしいのよ」
「なにが・・・」
「お亡くなりになる人の顔にバツマーク」
「お亡くなりになる人って?これから死ぬ人ってこと?」
「そう。しかもバツマークが出て24時間以内に死んじゃうんだって。
i社が極秘に開発中の死亡予測プログラムっていうのを、解雇されたエンジニアが発売直前の初期ロットのごく一部に搭載したらしいのよ。
i社も内密に処理したいってわけ。
もちろん気づかずに使っている人もいるのよ」
「へえ、京子のはどうなんだろうね」
「さあ・・・」
私をアイスコーヒーをゴクリと飲み干し、車に戻った。
ポケットからスマホを取り出す。
予約して手に入れたスマホは間違いなく、初期ロットだ。
カメラを起動して車内を写してみる。
とくにどうということは無く画面に足下が写っている。
(へんな話聞いちゃったな)
そう思いながらネットで検索してみた。
「i社 初期ロット 不具合」
さきほどの女学生の話、そのまんまが多くのサイトに漂流していた。
(死亡予測プログラムか・・・)
ネットを終了し、カメラを再び起動する。
スマホの裏側を顔に向け、シャッターを切った。
カシャ
聞きなれた電子シャッター音が車内に響いた。
今日はやけに大きくシャッター音が聞こえた。
おそるおそる保存された画像を確認する。
自分の顔には大きく「×」が被さっていた。
私は休日の朝、コーヒーショップでアイスコーヒーを飲んでいた。
後ろの席で女学生が二人、参考書を広げて勉強していた。
その女学生の会話が聞こえたのだ。
(i社のスマホの回収?知らないなあ・・・)
私は内心ひやひやしながら聞いていた。
なぜなら先日、そのスマホを購入したからだ。
「えー、回収。知らない知らない。
てか、同級生の京子が、見せびらかしてたの知ってるよ。
あいつのも回収かな」
「どうやら大々的に回収してるわけじゃあ無いらしいのよ。
その事に気づいてショップに持ち込むと別室に通されてスマホの交換と向こう十年の通話料無料、それと引き替えに誓約書に一筆書かされるらしいのよ。
このことは他言いたしませんって」
「このことって結局なによ。もったいぶらないで教えてよ」
「あのね・・・カメラに写るらしいのよ」
「なにが・・・」
「お亡くなりになる人の顔にバツマーク」
「お亡くなりになる人って?これから死ぬ人ってこと?」
「そう。しかもバツマークが出て24時間以内に死んじゃうんだって。
i社が極秘に開発中の死亡予測プログラムっていうのを、解雇されたエンジニアが発売直前の初期ロットのごく一部に搭載したらしいのよ。
i社も内密に処理したいってわけ。
もちろん気づかずに使っている人もいるのよ」
「へえ、京子のはどうなんだろうね」
「さあ・・・」
私をアイスコーヒーをゴクリと飲み干し、車に戻った。
ポケットからスマホを取り出す。
予約して手に入れたスマホは間違いなく、初期ロットだ。
カメラを起動して車内を写してみる。
とくにどうということは無く画面に足下が写っている。
(へんな話聞いちゃったな)
そう思いながらネットで検索してみた。
「i社 初期ロット 不具合」
さきほどの女学生の話、そのまんまが多くのサイトに漂流していた。
(死亡予測プログラムか・・・)
ネットを終了し、カメラを再び起動する。
スマホの裏側を顔に向け、シャッターを切った。
カシャ
聞きなれた電子シャッター音が車内に響いた。
今日はやけに大きくシャッター音が聞こえた。
おそるおそる保存された画像を確認する。
自分の顔には大きく「×」が被さっていた。
夜七時、店をあけた。
今夜は金曜日。
お客さんたくさんいらっしゃい。
「大将、こんばんわ~。生と砂ぎもね~。今日も暑かった~」
「らっしゃい」
常連組がやってきた。
本当にありがたい。
ビジネス街の一角に店をかまえて30年。
焼き鳥を焼き続けてきた。
今夜も忙しくなりそうだ。
「10人なんだけど、いけますか」
若い男だった。
腰まで伸びた髪の毛を額の真ん中できっちり分けている。
分厚いめがねをかけた男。
団体客か、いけるな。ありがたい。
そう思った。
「大丈夫ですよ」
「そう良かった。大丈夫だって」
外の仲間に声をかけていた。
ぞろぞろと若い男ばかり10人。
団体客の注文を必死でさばいて2時間程度過ぎただろうか。
「あの団体さん、どうも変なんです」
バイトの女の子が言った。
「いつの間にか部屋に2人しかいないんです。
それでこんな話をしてくるんです。
お姉さん、バスの事故がお店の前であったの知ってるって聞くんです。
聞いたこと無いですね。って答えたら、あ~お姉さん若いからって言うんです。
自分だって大学生くらいなのに変なのと思ったんです」
焼き鳥をひっくり返す手を止めた。
(バスの事故!)
「バスの事故かい?そういえばあったんだよ。でもこのお店が開店した年だったからちょうど30年前のはなしだよ。学生がバスを借りて自分たちで運転してたんだな。酒でも飲んでいたのか中央分離帯に激突、炎上して乗っていた男の子は全員死亡したよ。」
「えーそうなんですか。私ちっとも知らなくて・・・。
そしたらこう言ったんです。
バスは燃えてね、熱かったんだ。
男の子たちはみんなお酒が好きでね。
今日みたいに暑い日は冷たいビール、キンキンに冷えたビールを飲みにこの界隈に現れるみたいなんだよねって」
「なんだよその話、気持ち悪いな~。ちょっと団体さんの部屋見てきてよ」
「はい、私ちょっと見てきます」
そういってバイトちゃんは厨房から出ていった。
「マスター大変です。」
血相を変えて走り込んできた。
「マスター出ました。炎上したバスの幽霊が!」
「どういうこと」
「はい部屋に入ったら誰もいなくなってて、
焼けこげためがねが一つ落ちているだけなんです。
焼き鳥をさかなに生ビールを飲みに幽霊が出たんですよ」
(・・・・・)
しばし沈黙した。
またまた沈黙した。
そして重い口を開ける。
「バイトちゃん・・・」
「はいマスター・・・」
「それは食い逃げだ。警察に電話して」
今夜は金曜日。
お客さんたくさんいらっしゃい。
「大将、こんばんわ~。生と砂ぎもね~。今日も暑かった~」
「らっしゃい」
常連組がやってきた。
本当にありがたい。
ビジネス街の一角に店をかまえて30年。
焼き鳥を焼き続けてきた。
今夜も忙しくなりそうだ。
「10人なんだけど、いけますか」
若い男だった。
腰まで伸びた髪の毛を額の真ん中できっちり分けている。
分厚いめがねをかけた男。
団体客か、いけるな。ありがたい。
そう思った。
「大丈夫ですよ」
「そう良かった。大丈夫だって」
外の仲間に声をかけていた。
ぞろぞろと若い男ばかり10人。
団体客の注文を必死でさばいて2時間程度過ぎただろうか。
「あの団体さん、どうも変なんです」
バイトの女の子が言った。
「いつの間にか部屋に2人しかいないんです。
それでこんな話をしてくるんです。
お姉さん、バスの事故がお店の前であったの知ってるって聞くんです。
聞いたこと無いですね。って答えたら、あ~お姉さん若いからって言うんです。
自分だって大学生くらいなのに変なのと思ったんです」
焼き鳥をひっくり返す手を止めた。
(バスの事故!)
「バスの事故かい?そういえばあったんだよ。でもこのお店が開店した年だったからちょうど30年前のはなしだよ。学生がバスを借りて自分たちで運転してたんだな。酒でも飲んでいたのか中央分離帯に激突、炎上して乗っていた男の子は全員死亡したよ。」
「えーそうなんですか。私ちっとも知らなくて・・・。
そしたらこう言ったんです。
バスは燃えてね、熱かったんだ。
男の子たちはみんなお酒が好きでね。
今日みたいに暑い日は冷たいビール、キンキンに冷えたビールを飲みにこの界隈に現れるみたいなんだよねって」
「なんだよその話、気持ち悪いな~。ちょっと団体さんの部屋見てきてよ」
「はい、私ちょっと見てきます」
そういってバイトちゃんは厨房から出ていった。
「マスター大変です。」
血相を変えて走り込んできた。
「マスター出ました。炎上したバスの幽霊が!」
「どういうこと」
「はい部屋に入ったら誰もいなくなってて、
焼けこげためがねが一つ落ちているだけなんです。
焼き鳥をさかなに生ビールを飲みに幽霊が出たんですよ」
(・・・・・)
しばし沈黙した。
またまた沈黙した。
そして重い口を開ける。
「バイトちゃん・・・」
「はいマスター・・・」
「それは食い逃げだ。警察に電話して」
スピードの魅力ににとりつかれている。
最初は高校の時にまたがった原付スクーターだった。
ボアアップを繰り返し、キャブレターを交換し、チャンバーを交換した。
フルスロットル。
足りない直線。
最高速の快楽が終わる。
ゆるめるアクセル。
こうなってくると後はエスカレートするのみだった。
バイクの排気量が増えた。
1OOOccを越えたあたりでお金がつきた。
スピードを得るために労働した。
しかし、労働だけでは満足できるチューンを成し遂げられない。
そう限界だ。
人間はこの時選択する。
あきらめるか、あきらめないかの2択だ。
俺はラッキーだった。
恵まれた才能があった。
プログラムを組む才能。
そこそこのパソコンがあればプログラムは組める。
要は思いつきの具象化だ。
あれよあれよという間に富豪になっていた。
うなるマネーをつぎ込んだ。
それでも欲求は止まらない。
そんな時、事故を起こした。
車ごと崖から落ちた。
自爆だ。
幸い、車は全損したが、誰も巻き込まず、けがも無かった。
奇跡だ。
経験したことしか後悔できないのが俺だった。
バカな話だ。
そこでプライベートサーキットを建築し、ロボットを乗せ、サーキットを走らせる計画を立てた。
住居の近くでは広大な敷地を確保出来ないのでサーキット自体は何千キロもあっちだ。
しかしロボットの操縦は自分で行う。
加速Gや体感スピードはバーチャルシステムでほぼ正確に感じることが出来た。
めんたまが飛び出るくらいのフルブレーキングからのフルスロットル。
最高だった。
誰にも迷惑をかけず、けがもしない。
「あの人も本望だったと思います。100歳の誕生日に300kmの加速Gと共に老衰で死ぬなんて」
妻の計画だった。
サーキットは存在しない。
遠隔操作のロボットも存在しない。
存在したのはバーチャルシステムのみ。
本人は実際の車を操っていたつもりだったが、虚構のゲームだった。
しかし、本人は信じていた。
横で妻はそんな夫を何十年と見守っていた。
この人は本当に幸せだわ。
妻は信じていた。
夫も信じていた。
最初は高校の時にまたがった原付スクーターだった。
ボアアップを繰り返し、キャブレターを交換し、チャンバーを交換した。
フルスロットル。
足りない直線。
最高速の快楽が終わる。
ゆるめるアクセル。
こうなってくると後はエスカレートするのみだった。
バイクの排気量が増えた。
1OOOccを越えたあたりでお金がつきた。
スピードを得るために労働した。
しかし、労働だけでは満足できるチューンを成し遂げられない。
そう限界だ。
人間はこの時選択する。
あきらめるか、あきらめないかの2択だ。
俺はラッキーだった。
恵まれた才能があった。
プログラムを組む才能。
そこそこのパソコンがあればプログラムは組める。
要は思いつきの具象化だ。
あれよあれよという間に富豪になっていた。
うなるマネーをつぎ込んだ。
それでも欲求は止まらない。
そんな時、事故を起こした。
車ごと崖から落ちた。
自爆だ。
幸い、車は全損したが、誰も巻き込まず、けがも無かった。
奇跡だ。
経験したことしか後悔できないのが俺だった。
バカな話だ。
そこでプライベートサーキットを建築し、ロボットを乗せ、サーキットを走らせる計画を立てた。
住居の近くでは広大な敷地を確保出来ないのでサーキット自体は何千キロもあっちだ。
しかしロボットの操縦は自分で行う。
加速Gや体感スピードはバーチャルシステムでほぼ正確に感じることが出来た。
めんたまが飛び出るくらいのフルブレーキングからのフルスロットル。
最高だった。
誰にも迷惑をかけず、けがもしない。
「あの人も本望だったと思います。100歳の誕生日に300kmの加速Gと共に老衰で死ぬなんて」
妻の計画だった。
サーキットは存在しない。
遠隔操作のロボットも存在しない。
存在したのはバーチャルシステムのみ。
本人は実際の車を操っていたつもりだったが、虚構のゲームだった。
しかし、本人は信じていた。
横で妻はそんな夫を何十年と見守っていた。
この人は本当に幸せだわ。
妻は信じていた。
夫も信じていた。
「穴に入ると吉」
なんだこのおみくじ。
初詣もひと段落した1月中旬。
風もあまり無く温かかった。
妻は朝から子供を連れて友達の家へ出かけた。
普段歩かない小道を選んで散歩に出かけた。小さな神社をみつけた。
(へえ、こんなところに神社があったんだ。)
足を向けると、巫女のおねえちゃんがちゃんと座っていた。
目があってしまい、何となくおみくじを頼んだ。
200円を手渡す。
おねえちゃんが言った。
「うちのはよく当たるんよ」
「へえ」
(若いのに、おばあちゃんみたいな話し方をするな。)そう思いながらおみくじを開いた。
帰り道、たこやきを買った。
大通りに面したたこ焼き屋。
車で通る度にいつか行ってみたいと思っていた。
おみやげに一皿、その場で食べる一皿を買った。
7個入り350円。
発泡スチロールの皿ではなく、船型の皿にのっている。
ソースとマヨネーズの間でかつおぶしが踊っている。
うまい。
一気に食べるはもったいない。
そんな気分で足下をふと見た。
穴が開いていた。
穴の大きさは5cm弱。
ちょうどたこ焼き1個が入るぐらいの穴だ。
昼間にひいたおみくじを思い出した。
「穴に入ると吉」
(まさかね)
財布に入れておいた「おみくじ」を一応確認しよう。
他に何か書いてあったっけ。
そう思った。
妻に見せようと思い、持ち帰ったのだ。
たこ焼きの皿を持ちながら、ポケットから財布を取り出す。
ポロッ。
ストッ。
あっ。
期せずしてたこ焼き1個は見事に穴に吸い込まれて消えた。
様子を見ていたが、穴には特に変化は現れなかった。
(何がうちのおみくじはよく当たるだよ。何にも当たらないじゃない。)
そう思いながら、まだ温かい残りのたこ焼きを一気に食べて、家路を急いだ。
遠くで見ているものがいた。
おばあちゃんの様に話す昼間の巫女。
今はジーンズにシャツを着ている。
しかし地上から30mほど宙に浮きながら男を見ていた。
「よしよし・・・うちのおみくじはよくあたるんじゃー」
そうつぶやいて消えた。
翌朝。
たまたま付近の工事中の現場にやってきたガス会社の人間が穴に気づいた。
この穴からガスが漏れていた。
奇妙な事に、ちょうどたこ焼きが蓋になってガスの流出を防いでいた。
穴がふさがれていなければどうなっていたか。
冷や汗を背中にかきながら復旧の作業にとりかかった。
なんだこのおみくじ。
初詣もひと段落した1月中旬。
風もあまり無く温かかった。
妻は朝から子供を連れて友達の家へ出かけた。
普段歩かない小道を選んで散歩に出かけた。小さな神社をみつけた。
(へえ、こんなところに神社があったんだ。)
足を向けると、巫女のおねえちゃんがちゃんと座っていた。
目があってしまい、何となくおみくじを頼んだ。
200円を手渡す。
おねえちゃんが言った。
「うちのはよく当たるんよ」
「へえ」
(若いのに、おばあちゃんみたいな話し方をするな。)そう思いながらおみくじを開いた。
帰り道、たこやきを買った。
大通りに面したたこ焼き屋。
車で通る度にいつか行ってみたいと思っていた。
おみやげに一皿、その場で食べる一皿を買った。
7個入り350円。
発泡スチロールの皿ではなく、船型の皿にのっている。
ソースとマヨネーズの間でかつおぶしが踊っている。
うまい。
一気に食べるはもったいない。
そんな気分で足下をふと見た。
穴が開いていた。
穴の大きさは5cm弱。
ちょうどたこ焼き1個が入るぐらいの穴だ。
昼間にひいたおみくじを思い出した。
「穴に入ると吉」
(まさかね)
財布に入れておいた「おみくじ」を一応確認しよう。
他に何か書いてあったっけ。
そう思った。
妻に見せようと思い、持ち帰ったのだ。
たこ焼きの皿を持ちながら、ポケットから財布を取り出す。
ポロッ。
ストッ。
あっ。
期せずしてたこ焼き1個は見事に穴に吸い込まれて消えた。
様子を見ていたが、穴には特に変化は現れなかった。
(何がうちのおみくじはよく当たるだよ。何にも当たらないじゃない。)
そう思いながら、まだ温かい残りのたこ焼きを一気に食べて、家路を急いだ。
遠くで見ているものがいた。
おばあちゃんの様に話す昼間の巫女。
今はジーンズにシャツを着ている。
しかし地上から30mほど宙に浮きながら男を見ていた。
「よしよし・・・うちのおみくじはよくあたるんじゃー」
そうつぶやいて消えた。
翌朝。
たまたま付近の工事中の現場にやってきたガス会社の人間が穴に気づいた。
この穴からガスが漏れていた。
奇妙な事に、ちょうどたこ焼きが蓋になってガスの流出を防いでいた。
穴がふさがれていなければどうなっていたか。
冷や汗を背中にかきながら復旧の作業にとりかかった。