治療を懇願した遠山の作業はあっけないほどすぐに終わる。
外に出たミツオ達はサイレンが鳴り響く街の異変に気づく。
暴徒が店を襲い、警察が走り回っている。
「大抵のシステムが遠山のプログラムを使っていたから、しばらくはしょうがない」
ミツオはたばこの煙を深く吐き出しながらエリーに続けてつぶやく。
「これから、あんたはどうする」
「私は消失を免れたようです」
エリーは視線を落とし、自身の身の振り方に困惑しているようにミツオには見えた。
「俺んちに来るかい」
エリーは顔を上げてミツオを見る。「いいんですか」
「ああ」
ミツオは歩き出す。
エリーがミツオの後を追いかける。
外に出たミツオ達はサイレンが鳴り響く街の異変に気づく。
暴徒が店を襲い、警察が走り回っている。
「大抵のシステムが遠山のプログラムを使っていたから、しばらくはしょうがない」
ミツオはたばこの煙を深く吐き出しながらエリーに続けてつぶやく。
「これから、あんたはどうする」
「私は消失を免れたようです」
エリーは視線を落とし、自身の身の振り方に困惑しているようにミツオには見えた。
「俺んちに来るかい」
エリーは顔を上げてミツオを見る。「いいんですか」
「ああ」
ミツオは歩き出す。
エリーがミツオの後を追いかける。
引き金にかかる指先がかすかに動く。
衝撃音と共にミツオがこの部屋に入ったドアが吹き飛んだ。複数のレーザーサイトの軌道が煙に浮かびあがる。手下達の手に持つ短銃がすべて吹き飛ぶ。ミツオは瞬間的に遠山との距離をつめた。棒立ちになっている遠山の首筋に、ミツオはオートマチックの銃身をめり込ませる。
「動くな」
ミツオは一喝し、その場にいる人間の動きが止まる。
爆音と共に入ってきたのは、外にいたガードロボットだ。
「本体をガードロボに移しておいたの。その子は遠隔操作で動いているコピー」
ひざまずいて動かないロボットを手で指し示しながら、あらたな個体に乗り変わったエリーがミツオに説明した。
「さあ、遠山さん。今度こそ停止プログラムを発動してもらおうか」
ミツオはちゃぶ台の上に無造作においてあるラップトップを指さした。「はい分かりましたと俺が言うとでも思っているのか」
遠山は憎々しげにミツオをにらみつける。
直後、銃声が2発響き渡る。
一発はミツオが放った銃弾。遠山の右肩に当たった。
もう一発はエリーが放った。右太ももに当たった。
遠山は完全に戦意を喪失したように見えた。
衝撃音と共にミツオがこの部屋に入ったドアが吹き飛んだ。複数のレーザーサイトの軌道が煙に浮かびあがる。手下達の手に持つ短銃がすべて吹き飛ぶ。ミツオは瞬間的に遠山との距離をつめた。棒立ちになっている遠山の首筋に、ミツオはオートマチックの銃身をめり込ませる。
「動くな」
ミツオは一喝し、その場にいる人間の動きが止まる。
爆音と共に入ってきたのは、外にいたガードロボットだ。
「本体をガードロボに移しておいたの。その子は遠隔操作で動いているコピー」
ひざまずいて動かないロボットを手で指し示しながら、あらたな個体に乗り変わったエリーがミツオに説明した。
「さあ、遠山さん。今度こそ停止プログラムを発動してもらおうか」
ミツオはちゃぶ台の上に無造作においてあるラップトップを指さした。「はい分かりましたと俺が言うとでも思っているのか」
遠山は憎々しげにミツオをにらみつける。
直後、銃声が2発響き渡る。
一発はミツオが放った銃弾。遠山の右肩に当たった。
もう一発はエリーが放った。右太ももに当たった。
遠山は完全に戦意を喪失したように見えた。
「しっかりしろ」
ミツオは動かなくなったエリーに駆け寄る。力一杯ゆすっても、エリーには何の反応もなかった。
奥の扉が開き、多数の手下と共に、ある人物が現れた。
「次に会った時には、命はないと忠告したはずだ」
「遠山」
彫刻刀で彫ったような粘着質の目をミツオ達に向けている。
遠山の姿を確認した権堂は、遠山達に歩み寄り、頭を下げた。遠山はねぎらうように権堂に顎で挨拶を返した。そして懐から封筒を取り出し権堂に渡す。封筒を大事そうに受け取った権堂は、感謝の言葉を残して部屋から出て行った。
「あいつはお前達をおびきだす囮だけの役目だ。プログラムは俺が書いた。あいつには会社の看板を利用して全世界に、俺の悪巧みをばらまいてもらったというわけだ」
「エリーは誰が……」
「あの大家の息子だよ。俺たちの企みを察知したあいつがどうやら忍び込ましたらしい。今エリーが読み込んだのは、俺のプログラム実行阻止コードではない。エリー自身のアンインストールコードだ」
無駄話はおしまいだというように遠山は手下に目で合図する。
複数の銃口がミツオに向く。
ミツオは動かなくなったエリーに駆け寄る。力一杯ゆすっても、エリーには何の反応もなかった。
奥の扉が開き、多数の手下と共に、ある人物が現れた。
「次に会った時には、命はないと忠告したはずだ」
「遠山」
彫刻刀で彫ったような粘着質の目をミツオ達に向けている。
遠山の姿を確認した権堂は、遠山達に歩み寄り、頭を下げた。遠山はねぎらうように権堂に顎で挨拶を返した。そして懐から封筒を取り出し権堂に渡す。封筒を大事そうに受け取った権堂は、感謝の言葉を残して部屋から出て行った。
「あいつはお前達をおびきだす囮だけの役目だ。プログラムは俺が書いた。あいつには会社の看板を利用して全世界に、俺の悪巧みをばらまいてもらったというわけだ」
「エリーは誰が……」
「あの大家の息子だよ。俺たちの企みを察知したあいつがどうやら忍び込ましたらしい。今エリーが読み込んだのは、俺のプログラム実行阻止コードではない。エリー自身のアンインストールコードだ」
無駄話はおしまいだというように遠山は手下に目で合図する。
複数の銃口がミツオに向く。
「やあ、お待ちしておりました。これがあなたたちが探しているものです。どうぞお持ちください」
権堂は食べ終わったカップラーメンの器が何個も散乱する、ちゃぶ台の座椅子に座っていた。ミツオ達を確認するとうれしそうに立ち上がってきた。
「待て、どうして素直に教える。おかしいじゃないか」
「このコードを信じるか信じないかはあなた次第です。この軟禁生活から早く解放されたいのです。ここにあなたたちがやってきたのは、磯山会の護衛プランのミスです。わたしには関係ありません」
「それはそうかもしれないわ」
エリーは権堂の示したカードを読み込ませ始めた。
「おい大丈夫なのか」
ミツオは焦りながらエリーの顔を見る。エリーには今のところ異常はない。
「ミツオさん……」
エリーが振り返ってミツオを見た。「どうした」
「どうやら大丈夫じゃなかったみたいです」
エリーはがっくりとひざまずき、活動を停止する。
権堂は食べ終わったカップラーメンの器が何個も散乱する、ちゃぶ台の座椅子に座っていた。ミツオ達を確認するとうれしそうに立ち上がってきた。
「待て、どうして素直に教える。おかしいじゃないか」
「このコードを信じるか信じないかはあなた次第です。この軟禁生活から早く解放されたいのです。ここにあなたたちがやってきたのは、磯山会の護衛プランのミスです。わたしには関係ありません」
「それはそうかもしれないわ」
エリーは権堂の示したカードを読み込ませ始めた。
「おい大丈夫なのか」
ミツオは焦りながらエリーの顔を見る。エリーには今のところ異常はない。
「ミツオさん……」
エリーが振り返ってミツオを見た。「どうした」
「どうやら大丈夫じゃなかったみたいです」
エリーはがっくりとひざまずき、活動を停止する。
権堂は一番奥まった部屋にいる。エリーはそう言った。ミツオはステンレスのライターを手でこする。まるで鏡のようになったライターを廊下の角に差し出す。奥の様子が映り込む。廊下には八体以上のロボットが集合していた。
「ロボ大集合ですよ。エリーさんどうします」
「最後の護衛をロボットに任せてくれてラッキーでした」
青色に点灯しているエリーの瞳が暗くなった。ミツオは一体何が始まるのかと見守る。直後、圧縮空気で動く人工筋肉の音が停止した。
「とりあえずガードロボに全員に細工しました。行きましょう」
二人は機能を停止したロボを避けながら一番奥のドアの前に立つ。エリーがドアノブに手をかける。鍵がかかっている。
「どいてくれ」
ミツオが鍵穴を見ながらかがむ。アナログな解錠はミツオの得意技であった。鍵が開く音が廊下に響く。扉が開く。
「ロボ大集合ですよ。エリーさんどうします」
「最後の護衛をロボットに任せてくれてラッキーでした」
青色に点灯しているエリーの瞳が暗くなった。ミツオは一体何が始まるのかと見守る。直後、圧縮空気で動く人工筋肉の音が停止した。
「とりあえずガードロボに全員に細工しました。行きましょう」
二人は機能を停止したロボを避けながら一番奥のドアの前に立つ。エリーがドアノブに手をかける。鍵がかかっている。
「どいてくれ」
ミツオが鍵穴を見ながらかがむ。アナログな解錠はミツオの得意技であった。鍵が開く音が廊下に響く。扉が開く。
エリーの動きは素晴らしかった。見つけた手下を片っ端から倒していく。
「地下一階に権堂がいるらしい」
ついていくのがやっとのミツオは息を切らしながらエリーに続く。
「そうね、この子のメモリーに具体的な場所が記されている」
振り返ったエリーに敵がせまる。ミツオは狙いを定める間もなく腰の位置からオートマチックを発砲する。手下の肩に弾丸が当たり、傷口を押さえて手下はひざまづいた。即座にエリーがとどめの蹴りを顎先に見舞う。意識をなくした手下は、人形のようにばったりと崩れ落ちた。
「ありがとう」
エリーがおどけて会釈する。
「どういたしまして」
ミツオは倒れ込んだ手下の様子を見る。反撃は出来そうもない状態を確認して走り出す。
「権堂は素直に停止コードを教えてくれるのか」
ミツオは最大の疑問をエリーに問いかける。
「私に考えがあるの」
エリーがかすかに笑ったようにミツオには見えた。
「地下一階に権堂がいるらしい」
ついていくのがやっとのミツオは息を切らしながらエリーに続く。
「そうね、この子のメモリーに具体的な場所が記されている」
振り返ったエリーに敵がせまる。ミツオは狙いを定める間もなく腰の位置からオートマチックを発砲する。手下の肩に弾丸が当たり、傷口を押さえて手下はひざまづいた。即座にエリーがとどめの蹴りを顎先に見舞う。意識をなくした手下は、人形のようにばったりと崩れ落ちた。
「ありがとう」
エリーがおどけて会釈する。
「どういたしまして」
ミツオは倒れ込んだ手下の様子を見る。反撃は出来そうもない状態を確認して走り出す。
「権堂は素直に停止コードを教えてくれるのか」
ミツオは最大の疑問をエリーに問いかける。
「私に考えがあるの」
エリーがかすかに笑ったようにミツオには見えた。
階段を目指す。
すぐ背後に、気配が迫る。
ミツオは素早く振り返り、捨て身の足払いをくりだす。
ひょい
ちょっとした跳躍でミツオの蹴りはかわされる。
ロボはミツオを見下ろす。
ミツオの思考は完全停止。
終わった。
「よかった間に合った」
抑揚のとぼしい合成音声が響く。
一瞬何が起こったのか分からない。ようやく声がでた。
「エリーか?」
「そうです。ようやく乗っ取ることができました。とにかく急ぎましょう。今夜の騒動がきっかけかはわかりませんが、今夜12時にプログラムが開始する指令が下っています」
ミツオは声にならないうめきで応答しながら起き上がる。腕時計を確認する。12時まであと30分もない。
「急ごう」
ミツオは屋上の見張りから奪ったオートマチック拳銃を確認する。
こうなったら、銃声がしようがしまいが、関係ない。
二人は階下を目指して駆けだした。
すぐ背後に、気配が迫る。
ミツオは素早く振り返り、捨て身の足払いをくりだす。
ひょい
ちょっとした跳躍でミツオの蹴りはかわされる。
ロボはミツオを見下ろす。
ミツオの思考は完全停止。
終わった。
「よかった間に合った」
抑揚のとぼしい合成音声が響く。
一瞬何が起こったのか分からない。ようやく声がでた。
「エリーか?」
「そうです。ようやく乗っ取ることができました。とにかく急ぎましょう。今夜の騒動がきっかけかはわかりませんが、今夜12時にプログラムが開始する指令が下っています」
ミツオは声にならないうめきで応答しながら起き上がる。腕時計を確認する。12時まであと30分もない。
「急ごう」
ミツオは屋上の見張りから奪ったオートマチック拳銃を確認する。
こうなったら、銃声がしようがしまいが、関係ない。
二人は階下を目指して駆けだした。
男の上着に、その発信器はあった。ライターぐらいの大きさ。これを持つものを格闘アンドロイドは味方と判断する。
ちなみに男からの情報で、権堂は地下一階の部屋でかくまわれている。屋上から1フロア下がった廊下に再び戻ってきた。
アンドロイドがいる気配はある。 大丈夫と分かっていても足は震える。
意を決して廊下を横切り、階下に向かう階段へと足をすすめる。
キシュシュシュ
一段と甲高い音が廊下の奥に響く。 アンドロイドが全速力でミツオに向かって走りだす姿が見えた。
「うそでしょう」
ミツオは毒づきながら、階段を目指す。
しかし、アンドロイドの跳躍はすばらしく素早く、一瞬でミツオのすぐそばに肉薄する。
ちなみに男からの情報で、権堂は地下一階の部屋でかくまわれている。屋上から1フロア下がった廊下に再び戻ってきた。
アンドロイドがいる気配はある。 大丈夫と分かっていても足は震える。
意を決して廊下を横切り、階下に向かう階段へと足をすすめる。
キシュシュシュ
一段と甲高い音が廊下の奥に響く。 アンドロイドが全速力でミツオに向かって走りだす姿が見えた。
「うそでしょう」
ミツオは毒づきながら、階段を目指す。
しかし、アンドロイドの跳躍はすばらしく素早く、一瞬でミツオのすぐそばに肉薄する。
この建物に権堂がいることは間違いない。しかし具体的にどこにいるのだろう。
ミツオは不安しか感じない。でも行くしかない。震える足を押さえつけて、慎重に階段を下る。
踊り場をひとつ周り、1フロア下がる。廊下が左右に伸びている。中腰になり、首を出す。
いる。
格闘タイプのアンドロイドだ。
圧縮空気の音と共に、しなやかな人工筋肉の動く音がする。
このまま、もう1フロア下がりたいが、一度廊下に出ないと、下りの階段にたどりつけない構造になっている。
敵と味方の人間を区別する何かがあるはずだとミツオは思った。
あわてて屋上に引き返す。
先ほどの手下が同じ位置に転がっている。
「お前、ロボットが敵と味方を判断する発信装置を持っているだろう」
「なんのことだ」
ミツオはため息をつきながら、男を自分の肩に抱え上げる。
わめく男を、屋上の手すりに乗せた。
「そんなこと言っていて良いのか。このまま俺が手を離したら、あんたどうなる」
男は自分の首をねじって確認した。地上まで20メートル以上ある。ここから落ちたら確実に命を失う。
男が内情を説明するのに、そんなには時間はかからなかった。
ミツオは不安しか感じない。でも行くしかない。震える足を押さえつけて、慎重に階段を下る。
踊り場をひとつ周り、1フロア下がる。廊下が左右に伸びている。中腰になり、首を出す。
いる。
格闘タイプのアンドロイドだ。
圧縮空気の音と共に、しなやかな人工筋肉の動く音がする。
このまま、もう1フロア下がりたいが、一度廊下に出ないと、下りの階段にたどりつけない構造になっている。
敵と味方の人間を区別する何かがあるはずだとミツオは思った。
あわてて屋上に引き返す。
先ほどの手下が同じ位置に転がっている。
「お前、ロボットが敵と味方を判断する発信装置を持っているだろう」
「なんのことだ」
ミツオはため息をつきながら、男を自分の肩に抱え上げる。
わめく男を、屋上の手すりに乗せた。
「そんなこと言っていて良いのか。このまま俺が手を離したら、あんたどうなる」
男は自分の首をねじって確認した。地上まで20メートル以上ある。ここから落ちたら確実に命を失う。
男が内情を説明するのに、そんなには時間はかからなかった。