日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日のお話(スマホアプリ ケッツ!)

2016年01月31日 | ◎これまでの「OM君」
目が覚めて、昨夜の出来事を思い出す。
「係長って基本、悩みますよね~」
バイトの娘さんにズバッと指摘されてしまった。
そうなのだ。
決まらないのだ。
ネクタイを前に悩みだして15分。
今日しめるネクタイの柄が決まっていない。
ドット模様にするか、モノグラムにするか。
今日はお客さんのなかでも苦手なあのドック社の社長と会う日。
まだ、シャツとスーツ、靴も決定しなければならない。
電車に乗り遅れるタイムリミットの時間がせまる。
ああ、どうする。
完全にパニックだ。
「ヘイ!ケッツ!今日のおすすめのコーディネートは」
思わず口に出していた。
ケッツとは検索アプリの亜流だ。
僕が自分の優柔不断を苦にして開発したアプリだ。
「おはようございます。本日はドット柄のネクタイとホワイトのボタンダウンシャツ、三つボタンのグレーのスーツ。それに靴はプレーンな黒の革靴でよろしいですよ」
(そうか、まったく決めてもらってありがたい。さすが自分で作ったアプリ)
ケッツのよいところ、それは決定してくれること。
悩んだ選択肢を列挙し、よろしい結果がおこりそうな確率をパーセントで表示し、数字の高いほうをすすめる。
そうやって何とか制作した苦心のアプリだ。
誇らしげに身支度を整え、駅に向かう。
足を進めながらも頭は迷っていた。
あの社長の世間話は何が正解なのか。
社長室のカレンダーはプロ野球球団Hのものだ。
「H」のファンか…
いや待て待て、「H」は電気屋さんのスポンサーにもなっているから、家電を買ったときのノベルティでもらっただけかもしれないぞ。
あの日焼けはどうだ。
何かのスポーツが好き、たとえばゴルフであるとか、テニスとか…
そんな切り口で聞いてみるか。
いや、もし、お子さんのつきあいで公園に行っただけで日に焼けている公園焼けだったら、どうする。
「いやースポーツは僕、ぜんぜん興味なくて」
何て返されたら目も当てられないぞ。
結婚もまだの俺が子供の話を振っても説得力ないし。
結局、仕事の話をするのが一番無難になって、同じ話の繰り返しになるんだよな。
そうだ…
「ヘイ、ケッツ!ドック社の社長の世間話、プロ野球球団Hとゴルフの話、どっちがいい?」
「はい、お答えします。ドック社の社長はH球団の球場の年間パスを保有しております。ですので野球の話がよろしいかと存じます」
「サンキュー、ケッツ!」

ケッツのおかげで社長に自信をもって野球の話をぶつける事ができた。
本当に使えるアプリだ。
我ながらケッツのない暮らしは考えられない。

「先輩、最近調子いいですね」
出社直後、そう話しかけてきたのは後輩の桃子だ。
新入社員の頃から面倒をみてきた。
お客の懐に愛嬌で飛び込むガッツのあるかわいい後輩だ。
「おう、そうなんだ。調子いいんだ」
「そんな係長にお願いしてもいいですか。実は今日なんですけどB社の部長に会ってもらいたいんです。どうも先輩が開発したツールに興味があるみたいで。もちろん同行させていただきます。その後、食事でも一緒にどうですか」
「空いてないこともないけど…まあ、行ってやるか」
思わず鼻の下がのびた。



その直後、部長から呼び出しがあった。
俺の活躍を誉めてくれるのか。
ノックして部長室にはいる。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開けて部長のオフィスに入る。
部長は背中を向けて座っていた。
くるりといすが回転し、俺と向き合った。
涙ホクロが右目の下にある魅力的な女性。
ああ、うちの部長は女性なのだ。
杏部長だ。
「ケッツ」
ギクリ
「あなた、あのアプリ、うちのチームの開発ツールをつかって作ったでしょう。おかしくない」
「そうです。部長に話を通してから開発すべきでした」
「あの開発ツール、ほぼ私が構築したのよ。でも、まあいいわ。会社が儲かるアプリを開発したあなたの手腕は買うわ。でね、ちょっとした次のアプリの相談をしたいの。近所の居酒屋なんだけどどう、今晩空いてる?」
「今晩ですね。ちょっと先約があるので時間の確認をしてきます。時間が合えばぜひ…」
「そう、いい返事待ってるわ」

長い人生で一度だけ訪れるという、これは完全に「モテキ」だな。
二人の女性に同時に誘われるなんて。
ああケッツよ
おれはどうすればいいんだ。
おれはポケットからスマホを取り出した。
「ヘイ、ケッツ。後輩の桃子、上司の杏部長、どちらのお誘いに応じるべきか…」
「はい、お答えはどちらもダメです。では」
「ケッツ、おいケッツ。どうしてそんな事言うんだ」
「はい、それはしょうが無いからです」
(なんで…)

そのころ桃子はスマホに話しかけていた。
「ヘイ、ケッツ。係長 最大利用」
「はい、お答えします。B社の商談を成立させたら、ぽいです。係長とあなたの相性は最悪です」
桃子はニヤリと笑った。

杏部長もスマホに話しかけていた。
「ヘイ、ケッツ。係長の利用方法」
「はいお答えします。次のアプリをあなた名義で係長に開発させれば、もう彼の才能は枯渇します。ぽいです」
杏部長はニヤリと笑った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎うしろうしろ!エイリアンと目が合う。

2016年01月24日 | ◎これまでの「OM君」
うしろうしろ!
エイリアンいるんですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日のお話(最新VRゲーム「ボーダーライン」登場)

2016年01月23日 | ◎これまでの「OM君」
明日は休みだ。
早く家に帰って「ボーダーライン」を立ち上げたい。
「ボーダーライン」とは最近はまっているゲーム。近未来が舞台の銃撃戦ゲーム。
人類同士の争いに、エイリアンが参戦してくる。簡単に言うとそんなお話だが、これだけ夢中になるには理由があった。
ゲームハード自体のナンバリングも10を突破、ヘッドアップディスプレイを装着して遊ぶ仕様となる。
このヘッドアップディスプレーは頭部全体をすっぽりと覆っていた。
360度の視界。
ゴーグル型よりも没入感はハンパない。
しかもつなぎ型の服、手袋、靴も同封なのだ。
これにはインプット、アウトプットのセンサーが搭載されていて、岩を踏めば、岩の感触が足裏に伝わり、川の流水を手で触れば、冷たい水の流れを感じることが出来た。

コウスケはいそいそと帰り支度を始めていた。そのとき
「コウスケ君、今夜いっぱいどうかね」
ヤマモト部長のおさそいに引っかかってしまった。
宮使いの悲しさで反射的に「はいお供します」
もみ手もプラスして返事していた。

赤羽のガード下にあるいつもの居酒屋にピットインする。
「お姉さん生ビール2つ」
そう言いながらカウンター席に座った。
お通しのほうれん草のおひたしをつつきながらビールの到着を待つ。
ほどなく生ビールが到着し、一応の乾杯、ジョッキをカチンとあてて「お疲れ」口元に運ぶ。
一気に半分は飲み干した。
なんだかんだ言ってもビールはうまいし、まあ、そこそこ部長とも気が合う。
「いつもつき合ってもらってわるいね」
部長はそう言った。
「そんなことありませんよ。いつでもおつきあいします」
「まあまあ、ささぐっと一杯」
休日前のビールはうまい。
すすむ。
「ところで個人的な事なんだが聞いてもいいかね」
「はい、なんでも」
「きみ、銀行は何銀行をつかってるの?」
「会社の給料振り込みの関係で部長と同じ銀行を利用してます。知ってるでしょう」
「支店は?」
「○○支店です(今日の部長は変なこと聞くなあ…)」

まあそんなこんなで3時間程度おつきあいしましたよ。
終電間近の時間に家にたどり着き、お風呂で身を清め、「ボーダーライン」の世界に突入した。
一人称視点のシューティングゲームなので、難しいことはない。
お話にそって、次から次に敵がおしよせてくる。
身を隠し、敵を打ち抜き、殴り、前進するのみだ。
しかし、今夜は様子が違っていた。
マップが見覚えのある町だった。
俺んちの近所だ。
たしかに、「ボーダーライン」はネットに繋がっていてマップソフトとも連携していると説明書に書いてあった。
こういうことか。
まさか戦場の舞台が自分ちの近所から始まるとは驚きだ。
ためしに自分のアパートを見てみる。
階段を上り、2階隅の部屋の前に立つ。
俺んちだ。
明かりは点いている。
ドアノブをひねるとドアが開いた。
靴はある。
ゲームの中だが、靴を脱ぎ、部屋に上がった。
おもわず苦笑した。
俺らしき男がツナギを着て、丸い大きなボール型ヘッドアップディスプレーを頭からすっぽりとかぶり、「ボーダーライン」をプレイ中だ。
しばらく観察する。
周囲をみまわす俺、うしろを振り返る俺、しゃがむ俺。
滑稽だな。
そっとしておこう。
自分の部屋を出た。

敵を探す。
何かおかしい。いつもなら敵は波状攻撃をしかけてくる。
息つく暇もない程だ。
静まり返っている。
そのとき、肩をとんとんと叩かれる感触。
うっ
びっくりして振り返る。
パトロール中の警官が二人、パトカーから降り、いつの間にか俺の背後に立っていた。
「ご主人、こんばんわ。こんな時間にどうされましたか」
職務質問…このゲーム凝っているな。
黙っていると「危ないものとかお持ちじゃあ無いですか。そんな丸いのかぶってどうされました?よかったら持ち物みせてもらいませんか」
警官の瞳が青く光ったように見えた。
これは敵か。
装備の一つ、警棒を振り抜き、警官の頭部にたたき込む。
警官は後ろに吹き飛んだ。
「何をするかー!」
もう一人の警官が同じく警棒を抜き襲いかかってきた。
このステージは格闘戦がメインか…
そう思いながら、くるりと振り向き、逃げた。
「待て!」
角を曲がる。
急停止し壁に身を寄せる。
追いかけてくる警官の足を引っかけ転倒させる。
そこに追い打ちの一打を加え、昏倒させる。
ゲームとは言え警官を倒すのは心が痛む。
そう思いながらも次の敵を探す。
だんだんこのステージの目的が明らかになってきた。
警察署に乗り込み、人間にばけているエイリアンを抹殺するのが目的らしい。
ちょうどパトカーがある。
これで乗り込むこととする。
もうゲームなんで、パトカーごと警察署の玄関につっこむ。
騒然とする署内。
車から降りた俺は倒れている警官の腰に手を伸ばし銃を抜いた。
ランヤードにつながれたままの状態で正確に射撃していく。
前進。
しかし、次の角を曲がったところで強烈なタックルを食らった。
悶絶。
昏倒。
意識がうすれる。
ゲームオーバーか。
復活のチェックポイントはどこからスタートになるのかな。
そうおぼろげに考えていた。


ヤマモト部長は警官と話していた。
もう一週間。
無断欠勤をするコウスケを心配してヤマモトはコウスケのアパートにやってきていた。
明かりが点いていて、人の気配もある。
しかし、呼びかけには応答がない。
その時、叫び声が室内から聞こえた。
悩んだあげく、警察のお世話になることを決心した。

管理人立ち会いのもと、警官と一緒に室内に入る。
そこには丸いドームをかぶったコウスケが倒れていた。
「大丈夫かコウスケ」
ヤマモト部長はコウスケを抱きかかえた。
「あっ部長。さっきはごちそうさまでした。えっ、どうしました」
コウスケは警官、管理人、部長その他大勢の人々を見て驚いた。
「どうしたも、こうしたも無いよ!ごちそうさまって何を言っているんだね。君は一週間も無断欠勤をしたんだ。事故か事件にでもあったかと心配したんだぞ!」
「え、会社休んでないでしょう。今日も朝から出勤して、退社後、部長と赤羽のいつもの
居酒屋で飲んだじゃあないですか!」
その場にいた警官が静かに口を開いた。
「あなた、ボーダーラインやってたでしょう」
警官は丸いドーム型ゴーグルを指さす。
「ハッカーに乗っ取られてますね。この案件は最近急増しています。プレイヤーの五感を仮想現実で乗っ取る。
ゲームを終えて現実世界に戻ったと思わせて、実はゲームは終わっていない。
仮想現実の中。
まだゴーグルもスーツもはずしていない。
普段の生活が始まったと錯覚し、日常生活をおくる。
暗証番号を含む、個人情報をすべて丸裸にされ、資産は電子送金され、すべてを奪う。まだ犯行は愉快犯の域をでていませんが、そのうちあなたのすべてをハッカーが奪う。早急にそのゲームはやめなさい!」

ああ、そうなのか…
どこまでが現実でどこまでが仮想なのかが分からない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日のなぜ?(なぜブタメンを深海に?)

2016年01月23日 | ◎これまでの「OM君」
なぜブタメンをチョイスしたのか?
小さいからか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日のお話(荷台の天井にゴトリと何かが落ちた話)

2016年01月17日 | ◎これまでの「OM君」
「おい安井君、荷台の天井がへこんでるように見えるけど何か心当たり無い?」
とある運送業者の小さな支店。
荷物を積み込んでいた俺はふと荷台の天井のへこみに目がいった。
3日前にこの車に乗ったときは無かったような気がする。
「ああ、2日前の夜中、なんか落ちてきたみたいなんですよ。すぐ止まって確認したんですけど、雨も降ってまして、何が落ちてきたか分からなかったんす。」
「そうか」
俺は脚立を持ち出した。
トラックの銀色の荷台の天井を見るためだ。
あまり荷台の天井を見ようと試みた事は無かったが、上ってみると思いの外、荷台は背が高かった。
脚立の最上部につま先立ちし、何とか天井が見えた。
確かに丸くへこんでいる。
「なんだろうねえ、植木鉢でも落ちてきたのかな」

俺の仕事は新聞を各営業所に配達する仕事だ。
深夜が俺の仕事時間なのだ。
その日も印刷所で刷り上がった新聞を荷台に満載して出発した。
走り出してしばらくすると…
「ごとん」
かすかに後ろの荷台から音が聞こえたような気がした。
俺は特に霊感が強い方ではないが、交通量も極端に減った深夜、一人ぼっちの車中。
基本的にあまり気持ちのよいシュチュエーションではない。
(気のせい、気のせい)
ラジオのスイッチをいれる。
AM、FMとも、選ぶほどの番組は放送されていない。
しかし、何かしらの放送は行われているはずだ。不思議と今夜はどの局も受信できない。
ざー
選曲スイッチを押す度、ノイズが一瞬とぎれてはまた、一定の雑音をスピーカーから発した。

「ごとん」
先ほどよりはっきりと何かの物音が聞こえた。
荷台の天井付近だったようなきがする。
(うわー気持ち悪いなー)
何とかその日の配達業務を終え、営業所に帰った。

ちょうど安井君も配達から帰ってきたので、話しかけた。
「天井付近から物音したよ」
「あ…」
そう言って彼は目をそらしながら出ていった。

次の日も、また次の日も。
その車を運転するとゴトン、ゴトンと音がする。
音量、頻度。
だんだんと激しくなっている。

「安井君!ちょっといいかな!」
退社間際の安井君を引き連れ休憩室に入った。
「場所はどのあたりで、あの車の荷台にものが落ちてきた音がした?」
俺はなぜか緊張していた。

場所を聞いた。
そこは日中でも特に交通量の少ない、歩道橋のある交差点だった。
交差点手前で通勤で使用しているバイクを止めた。
交差点のすぐ横に狭く、深い用水路が併走していることを俺は知っていた。
歩道橋の真下、安井君から聞いていた車の進行方向を想像しながら、おそるおそる用水路の底をのぞきこんだ。
真っ暗で何も見えない。
持参してきたライトで照らしてみる。
藻がゆらゆらと液面にそって揺れている。
しかし、藻の色は黒かった。

用水路の下に降りるための梯子が上流に見えた。
俺はもう少し近づこうと考え、柵を乗り越え、壁に直接打ち付けてある足場に足をかけ、用水路の底に降り立った。

近づく。
近づく。

分かった。
俺はふるえる手でスマホを取り出し、電話した。

「女性の遺体を発見しました。」


理由は分からないが、歩道橋から落下した女性がちょうどトラックの荷台でバウンドし、そのまま用水路底に、落下しはまりこんだのだ。
安井には何と伝えれば良いのだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日のお話(人気作家の壮大な物語の発表媒体は…)

2016年01月16日 | ◎これまでの「OM君」
とある会議室にて。
二人の男がコの時に配置されたテーブルの角に座っている。
「先生の構想は10部構成。しかもそれぞれが5章あるらしいな。」
口ひげをはやした男がコーヒーを飲み干しながら言った。
「そう聞いています」
もう一人は若かった。口ひげの男の部下だ。
「長いな。先生の作品は人気があるからいいと言えばいいんだけどな…でもなあ…う~ん」
「まずいですか?先生のあふれでる創作の構想ご不満でもありますか!入社以来、私の初めての大役、お忙しい先生に張り付くこと半年。最初は会うこともままなら無い状態でした。門前払いのある日、このまま帰るわけにはいきませんと先生の玄関先に座り込み、一夜をあかしたこともありました。
やっと話を聞いてもらえる様になり、うちの熱意をくんでいただき、このお話を創作していただいております。それを長いってどういうことですか!工場長!」
「そう、そこなんだよ!」
白い帽子をかぶり、全身白い作業着を着た口ひげの工場長は言った。
「うちが何屋か知ってる?饅頭屋だよ。君だって現場のラインに入るだろう。商品の箱に入れるぺろっとした紙に印刷される饅頭の紹介文の文章だよ。それを10部構成5章立ての一大戯曲いるかなあ。しかも、ローマ時代のローマ人が主役って。饅頭はどこにでてくるんだよ!」
「はあ、まあ、ローマ人の主人公の大好物がうちの饅頭という設定です」
「先生にすぐ謝ってこい!」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日のお話「プロの奢られ屋」

2016年01月11日 | ◎これまでの「OM君」
「さあ、今夜もラジオの前の皆様とご一緒に勉強いたしましょう。アシスタントを勤めさせていただきます石井静香です。どうぞよろしく。
そして本日もいつものように国家資格発足当初よりの第一人者であられます上川先生にお越しいただいております。
「どうぞよろしく」

「では早速、今夜はファミレスにおいての注意点です。先生、どういった事がポイントとなるでしょうか?」
「そうですね、日常生活において状況としてはありがちな場面ですが、ちょっとしたコツでスムーズにこなすことができます。そのコツは来店時の入店順番です」
「入店順番ですか?」
「そうです、順番です。何番目が正解だと思われますか?
実は…2番目に入店するの事が望ましいです。
1番目に入店いたしますと、どうしても店員の対応が発生します。何名様ですか?や、禁煙席か、喫煙席なのか?
イキがって仕切ってしまうと支払いの時に微妙な間がテーブル上に発生してしまいます。
どうしても支払いを回避した最終目的達成時、何かいやらしいものが醸し出されてしまいます」
「なるほど」
「かといって入店時、一番最後に入ってしまうと、おのずとテーブルの一番端に座ることになります。これは一番のタブーです。支払いレシートは通常テーブルの端に置かれるからです。目の前に支払いレシートがあるのはあまり好ましい状況ではありません。ですからファミレスでのセオリーとしては2番目の入店がベストです。
そして肝心の支払い時の注意点ですが、もうそろそろ帰ろうかというタイミングが訪れた時、決して自ら動かないということです。支払いレシートを誰かが手に取るまでは視線を斜め下、うつむき気味に固定する。そして成り行きに身を任せる。これも鉄則です。ここを自然に乗り切ればわざわざ許可証を提示して奢られる資格があることを納得させる手間も減ります」」
「そうですね。提示なしの奢られ行為を推奨するのが近年のトレンドとなりつつあります。
プロの奢られ屋たるものそれくらいの身のこなしは常に心得たいものです。
入店順番に関する出題は過去のセンター共通奢られ試験では必ず出題される傾向にあります」
「奢られ一級資格発足当初には無かった形態のもの、例えばネット接続料金なども奢られ範囲内になっておりますので、この資格が近年見直されております。私も今年で奢られ資格取得40年を迎えます。こんなものも奢っていただけるのかと毎日が感謝と発見の日々です。
そして受験勉強はつらかったけれども取得しておいて本当に良かったなと痛感しております。
まあ、しかし資格を持ったものだけが奢られる権利があるようになった事は結果的には良かったと思います。
それまでは奢られる側の怠慢が世に横行しておりました。奢られて当然的な無礼な行動などです。」
「なるほど!実はアシスタントを勤めております私も今年受験をしようと思って準備しているんです」
一瞬、先生の顔色が曇った。そしてしぼりだすように言った。
「ほう~…とうとう決心されましたか。いやいやつらいかとは思いますが正念場です。がんばってください」
「はい、ありがとうございます。しかし、受験料金300万円。これは正直つらいです」
「はは…そうですな」
先生は苦悶の表情をうかべている。
「なので…」
アシスタントの静香は懐に手を入れる。
「まさか!待て、早まるな!」
そう言いながら上川はイスを蹴倒し立ち上がった。
懐から抜かれた静香の手には38口径のリボルバーが握られていた。
撃鉄が銃内部に入れ込まれたコンシールド仕様の銃は衣服のどこにも引っかからずするりと取り出されていた。
まっすぐに上川の眉間に銃身は向けられている。
静香は言った。
「奢られ許可証を奪うことに決めました。」
引き金にかかった指に力がこもる。


この許可証が及ぼす影響を考慮して世に流通する許可証の枚数は決まっている。
今年は保有者の返納などで空きが発生し、試験が実施される運びとなったのだ。
ほぼ受験しても落ちる。
それぐらいの合格率なのだ。
世の不満をそらすため、政府は特例として生死を問わない許可証の譲り合いも認めており、どうしたいのか全く分からない政策とも批判を受けている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎サービス精神旺盛なカップ式コーヒー自販機を見た。

2016年01月09日 | ◎これまでの「OM君」
自販機の中で行われているコーヒー豆抽出シーンを生中継で確認することができます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日のお話「マニュアルはずし」

2016年01月01日 | ◎これまでの「OM君」
「あっつい、あつあつのハンバーガーやで!」
とあるハンバーガーショップに響く怒鳴り声。
背の小さなおばさんなのだが、声がやたらでかい。
眉間に湿布を小さな四角に切ったものが貼られている。
肩掛け鞄から大根の葉っぱが覗いている。
トラディショナル、伝統的おばさんスタイル。
「肉はあつあつ、これ当たり前。外はカリカリ、中ほっくりの焼きたてパンではさんで!」
レジのバイト2年目のケイコちゃんの顔はこわばっている。
「出来立てのものをお持ちするように努力いたします。」
そう返答するのがやっとだった。
「そうか!まあええやろ。ポテトは塩抜きやで!在庫の作りおきやなくて、作りなおしてや!ジュースは氷抜きや!その方がジュースの量が多いやろ!ほなら頼んだで!できたら席まで持ってきて」
そう言うと会計をすまし、席にどっかと座った。

厨房ではてんやわんやの騒ぎとなった。
「おいおい、どうする。これ在庫のハンバーガー持っていったら絶対もめるで」
「そやな、なんとかしょう。マニュアルニには存在しない、超法規的措置っちゅうやつや。
店長ちょうどお昼休憩やし。見つかったら首になるかもな。でもケイコちゃん泣かすわけにいかん。
まずこのパンな~。トースターでちょっと暖めてみるか。焦げ目もちょい付けてみよう。これで外はカリっと中はモチモチ感を演出しよ。
パンの作業と同時に肉も同時進行。肉もこれどうしよか…」
「ソース混ぜの極意で対抗するしかないな」
「あの技、使うんかいな」
「せや、バイト君がネットに投稿して袋叩きにあったあの技の応用や。そして禁断のレアで加熱をやめようや」
「せや、せや。ファーストフードの意地みせたる。」

おそるおそるテーブルに商品を運ぶケイコちゃん。
あえてそちらを見ないおばちゃん。
怖い。怖すぎる。

「うんまいがな。やれば出来るんやって。また来るわ」
そう言っておばちゃんは満足そうに帰っていった。
もうこんといて
クルー全員そう思ったのだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする