ぽぉぽぉたんのお部屋

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「大いなる自由」

2023-07-30 | 映画のお話
2021年製作/116分/R15+/オーストリア・ドイツ合作

カンヌ映画祭、ある視点部門審査員賞
アカデミー賞 国際長編映画賞オーストラリア代表
ドイツ映画賞 最多8部門ノミネート 作品賞・メイクアップ賞受賞
ヨーロッパ映画賞 撮影賞・作曲賞受賞



本当に信じられないのだが、ドイツでは1871~1994年まで
男性の同性愛を禁止する法律があったという。
ドイツ刑法175条
1969年に21歳以上の男性同性愛は犯罪ではなくなったが
120年間に14万人ほどが処罰されたという。

刑法175条で繰り返し投獄されていたハンスの人生は何だったのだろう・・・

またつかまることが解っているのに
どうしてやめようとしなかったのか、
もっとうまいことやれたのではなかったのかという思いが渦巻く

ユダヤ人としてアウシュヴィッツに送られていたハンスは
終戦で命拾いしてドイツの刑務所に送られてきたはずなのに・・・

わたしには理解できないことばかり

でも、はかり知れない彼の生い立ちとそれまでのできごとを思うと
自分の、人を愛する自由だけは貫き通したかったのかもしれない

1945年、同房になった殺人犯ヴィクトールはハンスを毛嫌いするが
ハンスの腕に彫られた番号を見て
彼がアウシュビッツから刑務所へ送られてきたことを知る。
そうして、その番号を消してやろうとその上から大きく入れ墨を入れた
どうやら、そのウサギの入れ墨は
自由と解放、独創性とセクシュアリティを意味するようだ

殺人犯のヴィクトールがずっと刑務所にいる間
ハンスは何度も出入りを繰り返す
そんなかたくなで危なっかしいハンスを
ヴィクトールは静かに見守りながら忠告するのだが
自分を曲げず、恋人をかばって懲罰房に入れられるハンス
パンツ姿でバケツだけを持って入る狭い暗がり
差し入れされたマッチやたばこのあかりがどれだけ希望になっただろうか
そんな一筋の光を求めて20年以上の間 追い求めていた本当の自由

アポロの月面着陸の様子が流れ
鉄格子の外の月を観るハンスのまなざし
刑法175条が改正されハンスはやっと無罪放免になる

最期の日、看守に頼み込んで同室にしてもらうヴィクトールだったが
出所直前の自死
愛する妻のためにその愛人を殺したヴィクトールにはもう帰る場所がなかった・・・

高級品の並ぶショーウインドウを壊して盗み、
その場に座り込むハンスの姿

今度こそ 自由になったはずなのに
自由とはいったい何なのだろう

20年以上の時を経て
生き場のなかった二人の姿が
そうして随分前に屋上から飛び降りたハンスの恋人の姿と相まって
なんとも言いようのない悲しい映画だ

本当は誰も何一つ悪くはないのに・・・

どうしてこんな人生を送ることになってしまったのか
2人にとって刑務所は、逃げ場ではなかったはずなのに・・・

差別の中で生き抜くことは辛く苦しい
ずうっと昔から変わることのない世間
それでも愛し愛され、いつかいつかと希望を持ち続けながら生きてきた人々の物語
刑務所の窓から見える月のもの悲しい美しさ

ユダヤ人としてアウシュビッツを逃れたハンスの人生は何だったのか

重苦しく暗い刑務所の中で
年を経て変わってゆく二人の様相が実にリアルで別人のようだった。

深く静かに心に沁み込み考えさせられる、
最近見たにぎやかなインド映画にもアカデミー賞の中国映画にもない
重厚さが素晴らしかった。
観客はみな深い余韻に浸っていて、すぐ席を立つ人はいなかった。

まだ、こんな人たちがどこかにいるのかもしれない







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