ちょっと自慢っぽく聞こえたらあれなんだけど…、
初心を忘れたくないので、
ここに書いておきます。
先日、知的発達のあるダウン症の患者さんが、
私のところへ来ました。
これまでのカルテの記録を見たら、
もう、いろんな歯科医院をたらい回し。
パプースという、デンタルチェアーに縛り付ける道具も使われているし、
全身麻酔で眠らせて治療になっていたり、
そんな患者さんが、
歯科医師不在の、私一人で診療しているときに来るというんです。
私は初対面です。
ええ~~、大丈夫かな?
と思いましたけど、
まあ、なんとかするしかない。
20代女性のその患者さんは、
私くらいの年齢のお母さんと一緒に来院されました。
高齢出産ではないのに、ダウン症の子だったんだなぁと、
そう思いました。
ゴールドラメ系のフェイスパウダーを少しと、
赤いリップをオバQの口みたいに、
はみ出して塗って、
その上にマスクして来院。
お化粧が好きなんだなと思いました。
歯科治療において、
彼女もお母さんも、悪夢しか経験したことがないんだろうなと思うほど、
警戒しているのが伝わってきました。
患者の彼女に至っては、
口を開けない。
舌で何でも押し返す。
唇に触れただけで、「嫌!」と顔を横に動かす。
お母さんは、
「ちょっと歯肉に触れただけで血が出るから、
歯も磨けない。」
と言うので、
ダウン症の場合、若い年齢でも重度の歯周病になって、
歯がなくなってしまうことがあること、
歯周病とはどういう病気なのかを、
模型を使って説明するも、
他人事のように聞き流しているのが分かりました。
歯のクリーニングを開始し、
歯周病が相当進行しているのが分かり、
「これは大変な状態だ。」と思いながら進めていると、
お母さんが、
「そんなに大したことはないんでしょ?」
と聞いてきます。
患者の彼女も相変わらず、嫌嫌嫌嫌、首を横に振り、
口を殆ど開けない。
ショックを受けるかもしれないけれど、
きちんと真実を伝えるべきだと思ったので、
「残念ながら歯周病は重症です。元の健康な状態に戻ることはありません。
このままの衛生状態で過ごすのであれば、
1.5~2年以内に、前歯が痛みもなく抜け落ちていきます。
今のところ、
上の前歯6本、下の前歯6本の合計12本、
グラグラしているので、
順番に抜け落ちていきます。
その後はインプラントは無理でしょうから、
入れ歯になります。
彼女の歯科保険内の入れ歯は
大きなプラスチックが口に入るので、
慣れと痛みが大変でしょうし、
食べる楽しみも無くなる可能性があります。
彼女のこの笑顔も、もう数年間だと
その辺、覚悟しておいてください。」
と、飄々と、でも脅し気味に言ってみたら、
(脅しじゃなくて、真実です。)
彼女も、お母さんも顔つきが変わりました。
そこからは患者の彼女に説明していきました。
「私の仕事は、あなたの口の中を綺麗にクリーニングして、
あなたの歯が出来るだけ抜けないように手助けするだけ。
あなたが、そんなに嫌がるのなら、しない。
私だって、嫌がるのを無理矢理するなんていやだし、
しなきゃいけない理由がないの。
ただ、こんなに口紅が似合うのに、
もう歯が抜けちゃうなんて可哀相だわと思うだけ。
私が手にしているのは、ミラーとスクレイパー(スケーラー)のみ。
針も注射もハサミもドリルも持っていない。
何が嫌なの?って不思議だわ。
ちょっと試しに動かないでじっとしててごらん。
あなたが動くから、動かないように強く抑えないといけないし、
あなたが口を開けないから、力を入れてこじ開けなきゃいけない。
よーく考えてごらん、私、あなたが痛がることしてる?
あなたは、怖いだけ。
その気持ちはよく分かる。
今まで怖い思いしてきたもんね。
私も歯医者なんか大嫌い!
子供の頃は、歯医者の脛を蹴飛ばしたことがある。
私もロープでグルグル巻きにされてた。(真実です)
でも、一回信じてみて。
私は痛いことはしない。」
と言うと、
急に彼女の体の力が抜けて、
私に託す感じが分かりました。
その後は普通に歯のクリーニングが出来たので、
序でにSRP(ディープクリーニング)も
出来るところはしておきました(無料で)。
するとお母さんが
「この子が、
人間らしく、ちゃんと言うこと聞いて、
歯科治療に臨んでいる姿は初めて。
これまで、3人がかりで押さえつけられたり、
パプース使ったり、全身麻酔で眠らされたりだったのに、
ちゃんと嫌がらずに口を開けてる。」
と泣き出しました。
「お母さん、これまで一人で頑張ってこられましたね。
本当に凄いと思います。
彼女の歯を守ることに関しては、
これからはお母さんと、彼女と、私と、
3人のチームワークでやっていきます。
できそうですか?」
と問うと、
「はい!やるしかないですから!」
と言ういい返事。
次に患者の彼女に、
「お母さんに歯磨きを完全に任せるのはおかしい。
あなたの歯なんだから。
先ず、自分で磨いてから、
お母さんに仕上げ磨きしてもらおう。
自分でお化粧できるんでしょ?
だったら歯磨きだって出来る。
そう思わない?」
と言うと、
バツが悪そうに下を向くので、
「お化粧好き?」
と聞くと、
「うん」と彼女。
「私も大好き。
私ね、使ってない新品の口紅、
家にた~っくさんあるの。
可愛いラメの入ったピンクもあってね、
あなたが使ったほうが似合うと思うんだけど、
使ってみたい?」
と言うと、
目が輝いてる。
「じゃあ、3か月後、
私があなたの口の中見て、
歯磨き上手に出来てるなぁと思ったら、
あげる。
イブサンローランがいいかな~?
ディオールがいいかな~?
リップグロスがいいかな~?
あなたに似合うの選んでおくね。」
と言うと、
大きな笑顔が返ってきました。
診察後、
彼女が私に近寄って、
「サンキュー」って。
「歯科医院で、娘が自らサンキューって言うなんて、
生まれて初めて。
娘もよく頑張ったけど、
この歯科衛生士、凄い!」
と、お母さん号泣しながら、
待合室の他の患者さんに言ってたって。
2人の前では泣かなかったけど、
これまで大変だったんだろうなという思いと、
診療が上手く流れてホッとしたのとで、
2人が帰った後、私も少し涙ぐんでしまいました。
今回は彼女と波長が合ったので上手く行ったけど、
波長の合わない患者さんだっているわけで、
こうやって、歯科治療の難しい障害者の患者さんと、
できるだけガッツリ向き合っていけるような、
そんな歯科衛生士であり続けたいな~と、
心から思いました。
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1人に人間として向き合い、丁寧に説明すればわかり合える。
素晴らしい。
私も3ヶ月に1度クリーニングに行きますが、何の説明もなしに「はい終りました」
あなたのような方がいたらいいですね^^
したっけ。