池上彰の新聞ななめ読み
朝日新聞 2015年7月31日
安全保障関連法案の衆議院特別委員会での採決を「自公が強行」と伝える7月16日付の朝日新聞朝刊1面と、衆議院本会議での可決を受けた翌17日付の読売新聞朝刊1面
論戦の舞台を参議院に移した安全保障関連法案。新聞各社の世論調査では、「反対」の声の方が多くなっています。安倍晋三首相は7月15日の衆議院特別委員会での質疑で、「国民の理解が進んでいる状況ではない」と認めました。賛成意見が少ないのは理解されていないから、という認識なのでしょう。
この法案については、「よくわからない」という人が多いのも事実。こういうときこそ新聞の出番です。自社の意見は意見として主張しつつも、賛成と反対双方の論者に語らせ、読者の判断材料を提供するのも大事な役割です。
さて、その機能を新聞各社は果たしているのか。
*
衆議院の特別委員会で採決が行われた翌日(7月16日)の朝日新聞朝刊は、1面トップの見出しが「安保採決 自公が強行」。紙面のつくりは、安保関連法案に批判的です。
それでも朝刊3面に、「法整備は必要」という立場の細谷雄一・慶応大教授のコメントと、「周辺国の軍拡を招く可能性」を指摘した遠藤誠治・成蹊大教授の意見を掲載。賛成と反対の双方の主張を紹介しています。
賛成にせよ反対にせよ、違う意見の持ち主は、どんな論拠を持っているのかを知ることは、民主主義社会にとって大切なことです。
毎日新聞も紙面全体は安保法制に批判的ですが、17日付朝刊の11面で、「国際情勢のニーズに対応」と評価する佐藤正久・自民党参院議員と、「不自然な状態の海外派遣」と批判的な伊勢崎賢治・東京外国語大学教授の意見を紹介。朝日より掲載が1日遅れましたが、朝日より分量が多く、じっくり読ませます。
*
安保関連法案に関し、賛成や反対という明確な態度の表明を抑え気味の日経新聞は、17日付朝刊の3面に「おかしな現状 見直しに意義」との外交評論家の岡本行夫氏の意見と、「自衛隊員にリスク 議論尽くされず」と批判的な柳沢協二・元官房副長官補のコメントを併記しています。ただ、分量がとても少なく、不満が残ります。双方の意見をとりあえず紹介しておこう、という程度では、読者の知的欲求に十分応えられないのです。
では、読売新聞はどうか。朝日も毎日も、特別委員会での採決を「強行」と表現していましたが、読売の紙面には「強行」の言葉はありません。17日付朝刊の社説は、「日本の平和確保に重要な前進」と高く評価しています。
新聞によって、評価がこれほどまでに異なるのだと、改めて驚きます。読売新聞は、全体として、安保関連法案賛成の紙面づくりを展開しています。17日付朝刊の「論点スペシャル」で3人の識者の意見を掲載していますが、いずれも法案を評価するもの。反対論者がひとりも登場しないのです。
読売新聞として、安保法制に賛成するのは、もちろん構いませんし、社説などを通じて、自社の意見を読者に訴えるのは、当然のことでしょう。でも、世の中には、反対論者も大勢いるのです。その人たちの意見を紹介しないというのは、幅広い議論の場の提供を放棄していると言われても仕方のないことでしょう。
*
その読売新聞は、7月27日付朝刊で、安保関連法案に関する全国世論調査の結果を紹介しています。安保関連法案の今国会での成立について、「反対」が「賛成」を上回っていることを伝えています。
驚くのは、質問の文章です。読売新聞は、世論調査で、次のような質問をしたのです。
「安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか」
こんな聞き方だったら、「それはいいことだ」と賛成と答える人が大勢出そうです。設問で答えを誘導していると言われても仕方ないでしょう。それでも、「賛成」は38%、「反対」が51%でした。
賛成の答えを誘導するかのような質問にもかかわらず、「反対」と答えた人の方が、はるかに多い。国民の「理解」は深まっているように思えますが。
朝日新聞 2015年7月31日
安全保障関連法案の衆議院特別委員会での採決を「自公が強行」と伝える7月16日付の朝日新聞朝刊1面と、衆議院本会議での可決を受けた翌17日付の読売新聞朝刊1面
論戦の舞台を参議院に移した安全保障関連法案。新聞各社の世論調査では、「反対」の声の方が多くなっています。安倍晋三首相は7月15日の衆議院特別委員会での質疑で、「国民の理解が進んでいる状況ではない」と認めました。賛成意見が少ないのは理解されていないから、という認識なのでしょう。
この法案については、「よくわからない」という人が多いのも事実。こういうときこそ新聞の出番です。自社の意見は意見として主張しつつも、賛成と反対双方の論者に語らせ、読者の判断材料を提供するのも大事な役割です。
さて、その機能を新聞各社は果たしているのか。
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衆議院の特別委員会で採決が行われた翌日(7月16日)の朝日新聞朝刊は、1面トップの見出しが「安保採決 自公が強行」。紙面のつくりは、安保関連法案に批判的です。
それでも朝刊3面に、「法整備は必要」という立場の細谷雄一・慶応大教授のコメントと、「周辺国の軍拡を招く可能性」を指摘した遠藤誠治・成蹊大教授の意見を掲載。賛成と反対の双方の主張を紹介しています。
賛成にせよ反対にせよ、違う意見の持ち主は、どんな論拠を持っているのかを知ることは、民主主義社会にとって大切なことです。
毎日新聞も紙面全体は安保法制に批判的ですが、17日付朝刊の11面で、「国際情勢のニーズに対応」と評価する佐藤正久・自民党参院議員と、「不自然な状態の海外派遣」と批判的な伊勢崎賢治・東京外国語大学教授の意見を紹介。朝日より掲載が1日遅れましたが、朝日より分量が多く、じっくり読ませます。
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安保関連法案に関し、賛成や反対という明確な態度の表明を抑え気味の日経新聞は、17日付朝刊の3面に「おかしな現状 見直しに意義」との外交評論家の岡本行夫氏の意見と、「自衛隊員にリスク 議論尽くされず」と批判的な柳沢協二・元官房副長官補のコメントを併記しています。ただ、分量がとても少なく、不満が残ります。双方の意見をとりあえず紹介しておこう、という程度では、読者の知的欲求に十分応えられないのです。
では、読売新聞はどうか。朝日も毎日も、特別委員会での採決を「強行」と表現していましたが、読売の紙面には「強行」の言葉はありません。17日付朝刊の社説は、「日本の平和確保に重要な前進」と高く評価しています。
新聞によって、評価がこれほどまでに異なるのだと、改めて驚きます。読売新聞は、全体として、安保関連法案賛成の紙面づくりを展開しています。17日付朝刊の「論点スペシャル」で3人の識者の意見を掲載していますが、いずれも法案を評価するもの。反対論者がひとりも登場しないのです。
読売新聞として、安保法制に賛成するのは、もちろん構いませんし、社説などを通じて、自社の意見を読者に訴えるのは、当然のことでしょう。でも、世の中には、反対論者も大勢いるのです。その人たちの意見を紹介しないというのは、幅広い議論の場の提供を放棄していると言われても仕方のないことでしょう。
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その読売新聞は、7月27日付朝刊で、安保関連法案に関する全国世論調査の結果を紹介しています。安保関連法案の今国会での成立について、「反対」が「賛成」を上回っていることを伝えています。
驚くのは、質問の文章です。読売新聞は、世論調査で、次のような質問をしたのです。
「安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか」
こんな聞き方だったら、「それはいいことだ」と賛成と答える人が大勢出そうです。設問で答えを誘導していると言われても仕方ないでしょう。それでも、「賛成」は38%、「反対」が51%でした。
賛成の答えを誘導するかのような質問にもかかわらず、「反対」と答えた人の方が、はるかに多い。国民の「理解」は深まっているように思えますが。
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