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ラーメンの「旅路」

2014-07-29 07:12:42 | 創作欄
店前に掲げられていたラーメンの旗に似合わずその店は「旅路」という情緒的な店名であった。
マスターの船橋暁人は取手の老舗の和菓子屋の長男であったが、中学から地元ではなく東京の中高一貫教育の学校で学んだ。
だが、高校生になると東京の渋谷界隈や新宿でナンパに明け暮れるようになった。
このため大学へ進学することなく自堕落な生活を送り、挙げ句の果ては水商売の女と同棲した。
相手は新宿のキャバレーで働く女であった。
親には大学へ進学をしたと嘘をついていたのだ。
だが、その女が妊娠したことから、事態は思わぬ方向へ発展した。
女の兄だと名乗る男が、船橋暁人の実家に乗り込んできたのだ。
「俺はお宅の倅さんの大野達夫さんと同棲している小泉志津香の兄の達郎だが、妹ことで話をつけに来た」
和菓子屋には3人の客が来ていた。
船橋暁人の姉の亮子は心の動揺を抑えながら、「奥へどうぞ」と迎え入れた。
1階の居間には70歳の祖母が居てテレビを見ていたので、西日が差し込んでいた2階の座敷に男を案内した。
結局、船橋暁人は、姉にも説得され責任をとる形で小泉志津香と結婚した。
そして、東京の生活を切り上げ取手に戻ってきて「旅路」という店を始めたのだ。
妻の志津香は東京の生活に未練を残していた。
「茨城県は私の肌に合わないよ」志津香は愚痴をこぼしていた。
「そんなこと言うなよ。住めば都と言うじゃないか」暁人は懇願するように言った。
「私のことを、本当に愛しているなら、東京へ戻ってよ。私は取手が合わないのよ」志津香は不機嫌になるばかりであった。


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