デング熱疑いにはどの解熱鎮痛薬を薦めるべき?
日経DI ONLINE 2014年9月4日
【質問】
8月末からニュースになっているデング熱について、来局した患者や家族から質問を受けます。デング熱の治療にはどのような薬が使われるのか、また患者にアドバイスすべきポイントを教えてください。(東京都、50代女性)
【回答】
デング熱の疑いがあればアスピリンは禁忌
回答者 ◎ 笠原 英城(日本医科大学武蔵小杉病院薬剤部)
________________________________________
デング熱は、デングウイルスを持った蚊に刺された後、2~15日(多くは2~7日)の潜伏期を経て発症します。38~40℃程度の熱が5~7日間持続し、頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹を伴いますが、軽症で済む場合がほとんどです。マラリアのように重症化して致命的な経過をたどることはまずありませんが、まれにデング出血熱、デングショック症候群という重症な疾患になる場合があり、死亡率は1%以下であると推測されています。
デング熱に対する特別な治療薬や予防薬はなく、通常であれば対症療法としてアセトアミノフェンの内服と輸液の投与が推奨されています。また、アスピリンなどサリチル酸系の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、出血傾向やアシドーシスを助長するため、禁忌としている論文があります。
従って、もし薬局で解熱鎮痛用に一般用医薬品(OTC)を販売する際は、安全性の観点から基本的にアセトアミノフェンを薦めるのが正しいといえるでしょう。また、アスピリンを含有する感冒薬を飲むのは避けるようアドバイスすることも重要です。
蚊に刺されないことが唯一の予防法
デング熱の予防方法は化学的には一切なく、蚊に刺されないことが唯一の予防法です。
屋外では、(1)長袖・長ズボンを着用し、シャツはズボンに入れ裾を縛る、(2)防虫スプレーをこまめにつける(2時間ごと)、(3)蚊は黒いものに集まるため、明るい色の服を着る――などに留意することが大切です。蚊がいるところで車の窓を安易に開けて風を入れると、蚊の侵入を助長するので注意が必要です。
屋内でも、風呂場、洗面所の物入、壁掛けの絵や時計の裏、垂れ下がったシーツの裏やソファの下、窓のカーテンなどに蚊が生息していることがあります。また、蚊帳を過信しないことも大切です。というのは、蚊帳の中で蚊を飼っていることになりかねないためです。
デング熱は東南アジアの病気というイメージがあるせいか、森や林、ジャングル、田舎で感染すると誤解されていることがありますが、デングウイルスを媒介する蚊はヒトの住環境で生息しており、都市部で流行します。
そして、デングウイルスを媒介するネッタイシマカとヒトスジシマカは、東北地方以南に生息し、夏季には活発に活動していることが明らかになっています。最近の日本は亜熱帯地域のような気候ですから、今回のような事態は半ば予想されていたともいえます。
実は、日本では1940年代に神戸・大阪・広島・呉・佐世保・長崎などで約20万人に上る温帯地域最大のデング熱流行が発生しています。当時は衛生状態や住宅事情も悪く、広まりやすい条件が整っていましたが、今回はすぐに収束していくかどうか、注意しておかなければなりません。
通常の感染症は、一度かかると免疫を獲得して次回以降、感染しづらくなりますが、デング熱は免疫があると逆に重症化しやすくなることが知られています。
なお、デング熱と同様に、蚊に刺されることで感染する病気にマラリアがあります。現在、輸入マラリア(海外で感染した人が日本で発症するマラリア)は年間100人程度報告されています。マラリアは全世界では毎年100万人以上の死亡者が報告されており、感染する可能性のある国は100カ国以上に上ります。これらの国を訪れる際には、くれぐれも蚊に刺されないように注意しましょう。
日経DI ONLINE 2014年9月4日
【質問】
8月末からニュースになっているデング熱について、来局した患者や家族から質問を受けます。デング熱の治療にはどのような薬が使われるのか、また患者にアドバイスすべきポイントを教えてください。(東京都、50代女性)
【回答】
デング熱の疑いがあればアスピリンは禁忌
回答者 ◎ 笠原 英城(日本医科大学武蔵小杉病院薬剤部)
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デング熱は、デングウイルスを持った蚊に刺された後、2~15日(多くは2~7日)の潜伏期を経て発症します。38~40℃程度の熱が5~7日間持続し、頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹を伴いますが、軽症で済む場合がほとんどです。マラリアのように重症化して致命的な経過をたどることはまずありませんが、まれにデング出血熱、デングショック症候群という重症な疾患になる場合があり、死亡率は1%以下であると推測されています。
デング熱に対する特別な治療薬や予防薬はなく、通常であれば対症療法としてアセトアミノフェンの内服と輸液の投与が推奨されています。また、アスピリンなどサリチル酸系の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、出血傾向やアシドーシスを助長するため、禁忌としている論文があります。
従って、もし薬局で解熱鎮痛用に一般用医薬品(OTC)を販売する際は、安全性の観点から基本的にアセトアミノフェンを薦めるのが正しいといえるでしょう。また、アスピリンを含有する感冒薬を飲むのは避けるようアドバイスすることも重要です。
蚊に刺されないことが唯一の予防法
デング熱の予防方法は化学的には一切なく、蚊に刺されないことが唯一の予防法です。
屋外では、(1)長袖・長ズボンを着用し、シャツはズボンに入れ裾を縛る、(2)防虫スプレーをこまめにつける(2時間ごと)、(3)蚊は黒いものに集まるため、明るい色の服を着る――などに留意することが大切です。蚊がいるところで車の窓を安易に開けて風を入れると、蚊の侵入を助長するので注意が必要です。
屋内でも、風呂場、洗面所の物入、壁掛けの絵や時計の裏、垂れ下がったシーツの裏やソファの下、窓のカーテンなどに蚊が生息していることがあります。また、蚊帳を過信しないことも大切です。というのは、蚊帳の中で蚊を飼っていることになりかねないためです。
デング熱は東南アジアの病気というイメージがあるせいか、森や林、ジャングル、田舎で感染すると誤解されていることがありますが、デングウイルスを媒介する蚊はヒトの住環境で生息しており、都市部で流行します。
そして、デングウイルスを媒介するネッタイシマカとヒトスジシマカは、東北地方以南に生息し、夏季には活発に活動していることが明らかになっています。最近の日本は亜熱帯地域のような気候ですから、今回のような事態は半ば予想されていたともいえます。
実は、日本では1940年代に神戸・大阪・広島・呉・佐世保・長崎などで約20万人に上る温帯地域最大のデング熱流行が発生しています。当時は衛生状態や住宅事情も悪く、広まりやすい条件が整っていましたが、今回はすぐに収束していくかどうか、注意しておかなければなりません。
通常の感染症は、一度かかると免疫を獲得して次回以降、感染しづらくなりますが、デング熱は免疫があると逆に重症化しやすくなることが知られています。
なお、デング熱と同様に、蚊に刺されることで感染する病気にマラリアがあります。現在、輸入マラリア(海外で感染した人が日本で発症するマラリア)は年間100人程度報告されています。マラリアは全世界では毎年100万人以上の死亡者が報告されており、感染する可能性のある国は100カ国以上に上ります。これらの国を訪れる際には、くれぐれも蚊に刺されないように注意しましょう。
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