エミー達は、ただ聞くしかなかった。その話にどう反応して良いのか分からなかったのだ。パルマの話は続いた。
「砂漠の民の生への執着心は、この地に合理的な産業を発展させ、そのおかげで砂漠の生活では考えられないような豊かな国が生まれた。セブ王はその力を誇示するために二対の像を作ったのだ。それがセブ王の噴水なのだよ。」
「二対ですか、でもセブ王の噴水は、一つしかありませんね。するともう一つがどこかにあるということですか。」ダルカンが訊いた。
「一つは生の国の象徴として、そしてもう一つは死の国の象徴として作られたと言われておる。いつの頃からか片方の像はこの国から姿を消した。壊されたのか、どこかに隠されたのか、それは定かではない。ただ、なくなった片方の像は黄泉の国つまり死の国という意味なのだが、その黄泉の国に持ち去られたのだという噂がまことしやかに流れたということじゃ。」
「黄泉の国ですか。」エミーは何を考えるともなくつぶやいた。
「黄泉の国というのは、死んだ人がいくところなの?」エグマがきいた。
「そういうことだの。」
「それでセブ王は三百年以上も本当に生きていたのですか?」ダルカンが身を乗り出した。
「セブ王は生に執着するあまり悪魔に身を委ねたという噂もある。悪魔の力を利用してセブ王は三百年を生きたのだ。正確には三六一年と言われておる。」
「悪魔ですか。」
「三六一年も、信じられないわ。」
四人はパルマの話に呆然とした。どう応えていいか分からなかった。とにかく時間をかけて自分の中を整理する必要があった。
「ところでパルマ、セブ二世になって、『旧字体』を廃して『新字体』を制定したと歴史の本には書かれているのですが、どうしてそんなことが必要だったのですか。何か過去の歴史を隠すためではなかったのかとも思うんですが。」ダルカンが訊いた。
パルマは軽くうなずいて、少し姿勢を正してから答えた。
「そうだな、もともとグルゾ人にはしっかりした文字の文化がなかったのだ。そのために簡単な絵文字しか持っていなかった。そこに砂漠の民がやって来たのだ。そこでセブ王のとった融合政策のために、双方のことばがうまく混合して変化し、新しいことばが生まれていったというわけだ。比較的短期間でことばの方は互いに共有出来る体系が出来上がったのだ。」
「すると今のことばは、クルゾのことばと砂漠の民のことばが入り交ざって出来ているんですね。」
「そうだ。たとえば『ダンク(闇)』ということばは、もともとクルゾのことばだった。クルゾ語で『ダンク』といえば闇と同時に光という意味にも使っていたのだが、いつの間にか光という意味はすたれて、代わりに『ロット(光)』ということばが使われるようになった。これはもともと砂漠の民のことばだったのだ。」
「ロットとダンク(光と闇)ですか、なんだか面白いですね。この問題もっと勉強したくなっちゃった。」エグマが目を輝かせて言った。
「しかし文字の方は、砂漠の民の旧字体にクルゾ人はなじまず、国の文字として定着しなかった。そこでセブ二世の時代に、クルゾの絵文字の感覚を受け入れて旧字体に絵文字の要素を取り入れた新しい文字を作ったと言われておる。」
「すると旧字体は砂漠の民独自の文字で、それにクルゾの絵文字が合わさって、文字そのものにも意味がある今の新字体が作られたのですね」エグマが興奮気味に言った。
「ま、そういうことじゃ。ただ旧字体も同じ性質の文字だったのだが。その文字の形にクルゾ人は馴染めなかったのだ。しかしなかなか難しいことを知っておるの。」
「エグマはことばの天才ですから。」エミーが冗談のように口を挟んだ。
「最近の学生はたいしたものだ。」パルマは嬉しそうな顔をした。
「それはどんな形をしていたんですか?」エグマが訊いた。
「さあ、今となっては何も残っておらぬ。わしとてそこまでは知らぬわ。」
「すると何かを隠すためというのではなかったのか。」カルパコが口を挟んだ。
「どういう意味?」
「だから、国の文字を変えたというのは、セブ王が何かを隠すためじゃないかって思っていたけど、そうじゃなかったってことさ。」
「そうか。」
「いや、そうとも言えぬ。」
「というと?」四人は一斉にパルマを見た。
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