のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

第 三 部  五、生けにえ (最後の戦い)

2014-12-29 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

最後の戦い

 

 「ついにやって来おったな。」

 「姉様、どうか気をつけて。」

 「分かっておる。パルガ、お前こそ、首尾よくの。」

  パルマとパルガは素早い動きで王の間を出て王宮のバルコニーに出た。ウイズビーとゲッペルが赤と青の玉を持ってその後に続いた。バックルパー達もバルコニーに出た。

 中庭では、民衆がひしめき合い、全員天を仰いでいた。悲鳴はそこから聞こえて来たのだった。王城の天空には、不気味な黒雲が全天を覆うように広がり、どろりとした渦を巻いていた。それはまるで巨大な蛇が大空一面にとぐろを巻いて世界を覆い尽くそうとしているように見えた。至る所から稲妻が鋭い光を走らせた。その度に雲は悶えるように波打っていた。その光に応じるように、地面が小刻みに振動していた。

  「な、何なのこれは、」エグマは首が折れるぐらいに真上を見上げて叫んだ。

  「ヴォウヅンクロウゾの正体じゃ。」

  「ヴォウヅンクロウゾ、恐ろしい姿だ。」ウイズビーが空をにらんだ。

  「我らがもたついている間に、態勢を整えおった。姉様、大丈夫か。」

  「やるしかあるまいの。後は頼んだぞ。」

 「安心して下され。」

 「では行くぞ。」

 パルマが右手を高々と上げた。すると無数のカラスの群れが空に現れた。

 「カウカウカウ、カウカウカウ、カウカウカウ、」

 カラスの群れが狂ったように鳴き出した。パルマがやすやすと飛び上がり、カラスの群れの上に、仁王立ちになった。それと同時に不気味な地鳴りが起こった。大地が激しく上下左右に揺れた。城壁は波打ち崩れ落ちた。誰も立っていられなかった。地面は割れ、民衆は逃げ惑い、割れ目に飲み込まれ、地面を転がった。パルガ達もバルコニーの床に伏せてその激しい揺れをしのいでいた。やがて地震がやんだ。

 「時間がない、さあ、行くぞ。玉をしっかり持ってくるのじゃ。」

  パルガは、傾いたバルコニーから素早く地上に降りた。そして中庭の敷石の上に青い玉と赤い玉を並べて置かせた。玉は互いに反応し合ってさらに光を増しているようだった。

 パルガは玉を置いた敷石の四隅に小さな結界を張った。そして天と地を貫くように意識を集中し、長い呪文を唱え始めた。

 天空では、恐ろしい光景が展開していた。空一杯にとぐろを巻いた蛇は城を一のみしそうな大きな口を開けてパルマを威かくしていた。パルマはカラスのかたまりに乗って、その口の中に飛び込もうとした。するとその口から、真っ赤に燃える灼熱の炎が吐き出されパルマを襲った。パルマの全身から青い幕が張り出して、バリヤーを張ったがその青いボールごと炎に包まれてしまった。地上は肌が焼けるような熱風が吹き荒れた。民衆の悲鳴が至るところで聞こえた。火炎の舌が王城をなめまわした。パルマは炎に包まれながら、しかし炎を避けようとはしなかった。パルマを乗せているカラスの群れの中から、数羽のカラスが火に包まれて地上に落ちて来た。それでもパルマは耐えていた。パルマは大蛇の炎が治まるのを待っていたのだ。そして炎が消えた瞬間、パルマはカラスの群れと共に素早く動き、巨大な、天空に渦巻く大蛇の口に飛び込んだ。地上からは、パルマがヴォウヅンクロウゾに飲み込まれたように見えた。

 「パルマが食べられた!」エグマが泣き出しそうな声で叫んだ。

 「見ろ、あの蛇の胴体を!」カルパコが天を指さした。

 「あれは何だ。」ダルカンが声高に言った。

 とぐろを巻いた巨大な蛇の胴体から、腫れ上がるような紫色の鈍い光が現れたのだ。それはまるで身体を犯すガン細胞のように増殖して、見る見るその紫色の腫れ物が膨らみ、不気味な光を放ち始めた。大蛇は苦しそうにもがき、天を押し潰すように巨大な胴体を不規則にくねらせ始めた。

  「ギギギギギギギ」

  耳をすり潰されるような鋭い声が天空に響き渡った。

 「一体何が起こっているのだ。」地上からいぶかる声が聞こえてきた。

 大蛇の胴体に広がった紫色の腫れ物がさらに膨れ上がったかと思うと、至る所から白い光が飛び出して来た、鋭い光が天空の蛇の体内から胴体を突き破り、切り裂いてあらゆる所から外に出て来たのだ。無数のカラスがその光と共に蛇の体内から飛び出した。大蛇はずたずたに引き裂かれ、天空に黒雲となって散乱した。

 「カウカウカウ、カウカウカウ、カウカウカウ、」カラスが狂ったように鳴いた。

 「大蛇をやっつけたぞ!」

 「やった!」

  地上では皆がパルマに声援を送った

  パルガの呪文は、時々テンポを変えながら延々と続いていた。その呪文に呼応するように二つの玉はまるで呼吸するように明滅し始めた。パルガの額から玉のような汗が吹き出していた。緊張が極度に高まり、パルガは呪文そのものになっていくように見えた。 

  「竜巻だぞ!」誰かが叫んだ。

  「こちらに来るぞ!」悲鳴と共に逃げ惑う民衆の姿が中庭に入り乱れた。

   天空に散乱した黒雲が、激しいスピードで回転し始めたのだ。雲の残片を一つ一つ取り込みながら真っ黒な竜巻は少しずつ大きく成長して地上に一本の足を降ろした。そして周辺の木や岩を巻き込み激しく回転させて次々と空に巻き上げていった。巨大な竜巻は大地をはぎ取るようにしてじわじわと王城に迫って来るのだった。                 

  「地下に逃げろ!」

 民衆は王城の地下に先を争って非難した。

  『地下に逃げるのだ。』

  バックルパーやエミー達の頭の中に、パルマの声が響いた。

 「しかし、パルガが、パルガをどうするんだ!」

  バックルパーが叫んだ。

  『パルガは大丈夫だ。お前達は生身の体、命を落とすでない。』

 パルマの声が直接、皆の頭脳に届いていた。

 「パルマは避難しろと言ってるわ。」エグマが言った。

 「みんな、とにかく地下に身を隠すんだ。」バックルパーが言った。

 山を一つ丸ごと飲み込んでしまうほどの大きな竜巻がもう目の前に迫っていた。小石が横に飛んで、バチバチと城壁にぶつかっていた。上空ではカラスが激しい渦巻きに巻き込まれて一匹残らず竜巻の外へ吹き飛ばされていた。パルマは空中に立ちはだかり、竜巻を城に近づけないように身を呈して立ち向かっていった。

 激しい音と共に、バリバリと放電が起こり、ヴォウヅンクロウゾとパルマがぶつかった。竜巻のエネルギーは、パルマの力をはるかに越えていた。パルマの体は渦巻きの方向に引き伸ばされ、少しずつちぎれて竜巻に取り込まれ、なす術もなく消滅した。

 「ヴォウヅンクロウゾ」はらわたに響き渡る不気味な声が聞こえた。

 「ヴォウヅンクロウゾ!ギギギギギギ」勝ち誇ったような悪魔の声が天空に響いた。

 黒い悪魔の竜巻はますます勢いを増して城に近づいた。竜巻が通った後は、大地がVの字にえぐられ、大きな谷が出来ていた。

  「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」

  「ズズズズズズズズ」

 すざましい音と風がやって来てあらゆるものが天空に巻き上げられた。

 パルガはそんな激しい風の中で一心に呪文を唱えていた。どんなに天地が歪んでも、パルガの集中を解くことは出来ないようだった。赤と青の玉は今や激しい息遣いで点滅を繰り返し互いを引き合うように動いていた。竜巻は狂ったように世界をぶち壊しながら蛇行して進んできた。やがて竜巻は一気に王城を飲み込んだ。王城は紙の箱をねじるように歪み、粉々に砕け散った。一かかえもあるような城壁の破片が竜巻に捕らえられ、渦を中心に激しく回転していた。その一つがパルガを直撃した。パルガは城壁の破片と共に竜巻の渦に巻き込まれた。

 しかしそんなことさえパルガは気づかない程意識を集中させて呪文を唱え続けていた。パルガは風に飛ばされ身体が粉々になりながら、集中した精神を解かなかった。

 「ギヤーッ!」何ものの声なのか、大きな悲鳴が聞こえた。

 その時、世界は完全な闇に包まれた。すべての音が失われた。すべての感覚が消え去った。

 何もなかった。

 無が訪れた。

 光も音も、そして一塵の物さえ存在しない世界がどこまでも続いていた。果てしない無、恐ろしい虚無の闇がすべてを飲み込んだのだ。

 無・・無・・無・・無・・無・・無。

 どこに行っても、どこを見ても、誰もいなかった。

 何もなかった。

 何も聞こえなかった。

 時間も失われた。

 光も消えた。

 一抹の暖かさもなかった。

 そんな闇を見つめる目だけが存在した。

 誰でもない、どこにもいない、それでも闇を見つめる目だけがどこかに残って、見ることの出来ない闇を見続けていた。

 目が形となって闇の中にあるのでもなかった。

 無限に広がる果てしない無の闇、どこを探してもそんな目などなかったが、それでも目がその闇を見つめ続けていた。この闇そのものが目なのかも知れなかった。

 闇の目、無の目がどこかに存在した。

 どこにあるとも言えない目が闇を、何もないものを見つめていた。

  その無の目が、小さな光を捕らえた。その光は二つの色に輝いていた。真空の闇の空間に赤い玉(ロゼ・ボン)と青い玉(プルマ・ボン)が互いの周りをゆっくり回っていた。それはまるで宇宙空間に浮かぶ連星のように見えた。無の中に浮かぶ唯一の光だった。互いに引き合って回転しているために。赤い光と青い光が交互に明滅して見えた。

  やがて二つの星は互いにその距離を縮めていった。何ものかの力によって、二つの玉は

互いに引き寄せられていたのだ。

 ついに二つの玉はその中央で激しくぶつかった。無の空間に世界を生み出す大爆発が起こった。一瞬にして、無の空間に物が満ちあふれ急激に広がっていった。激しい勢いで物と熱が四方八方に押し広げられていったのだ。

  まるでそんな大爆発を超スローモーションでも見るように、 無の目は、ゆっくりと変化していく世界を見つめ、その流れを無心で眺め続けていた。やがて無の空間にたくさんの星が生まれていた。実の所、一瞬に世界が生まれたのだ。暗い夜空に花火が広がるように、果てしない空に無数の星が生まれたのだ。

 満天に星がきらめいていた。どこを見てもきらめく星が見えた。その星を隠すように、大きな丸い月が昼間のように輝いて天空を移動していった。満月の夜だった。

  王城の地下室から、バックルパーが顔を出した。続いて王子とゲッペルが出て来た。二人は大きく深呼吸して、新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。かすかにバラの香りが流れていた。

 続いてエグマとダルカンが恐る恐る顔を出した。竜巻が通り過ぎて、やっと地上に出ることが出来た。その二人の目に飛び込んで来た風景は、こぼれてきそうな程の星空だった。

 その後に、カルパコとエミーが地下室から出て来た。

 「これは、一体どういう訳なの。」エミーが不思議そうに訊いた。

 激しい竜巻が通過した。悪魔の力を見せつけられたのだ。しかし地上に上がって見ると、そんな痕跡はどこにもなかった。パルガの姿もなかった。ただ美しい夜空だけが静寂を歌っていた。

 「我々は元の世界に戻ったのだ。」バックルパーが唐突に言った。

 「えっ、」

 「ここは生の国、我々の世界だ。」

 「そういえば、西に傾いた満月の空が青い。」

 「本当だわ、青いわ、ねえ、青い世界よ。」エグマが叫んだ。

 「パルガは成功したのだな。」ウイズビー王子がつぶやいた。

 「そうだ、我々が勝ったんだ。」

 「すると、黄泉の国はどうなったの。」エミーが訊いた。

 「命の輪が正しくつながったのだ。」

 「黄泉の国はなくなってしまったの。母さんもユングも、ねえバック」

 「分からない。」バックルパーは正直に答えた。

 「そうだ、黄泉の国の事は分からない。しかしきっとあるだろう。正しくな。」王子が言った。

 「母さんにお別れを言うの忘れたわ。」エミーは淋しそうに言った。

 「エミー、ヅウワンは心の中に生きている。それでいいんだ。」

 「うん、」エミーは甘酸っぱい気持が胸に広がるのを感じた。

 「エミー、ありがとう。」カルパコがエミーの目を見た。

 「カルパコ、よかった元気になって。」

 「みんなに迷惑をかけてしまった。恥ずかしいよ。」

 「そんなことないわ。カルパコはやっぱり私達のリーダーよ、ねえみんな。」エグマが言った。

 「その通りさ。」

 「ありがとうみんな。」

 「パルマやパルガ、ジルはどうなってしまったんだろう。もう戻って来ないのかしら。」

 「パルマ達は、ヴォウヅンクロウゾと一つになったのだ。我らの体の中にも、あの星空の中にも、パルマとヴォウヅンクロウゾがきっと共存しているのだ。」ウイズビーが言った。

 「王子様の言うとおりだ。」バックルパーが相槌を打った。

 「生も死もみな一つの世界の裏表にすぎなかったんですね。」ダルカンがつぶやいた。

 「みんな、愛の力でつながっているのだわ、パルマがそう言ってた。」エグマがダルカンに向かって言った。

 「そうだな。」

  「そうなのよね。」エミーがカルパコを見て言った。

 夜が白み始めていた。セブズーに夜明けは近かった。

 

 

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