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師走の意味、ついたちの語源

2010-12-07 06:20:00 | 日本語学
2005/12/01 木
ニッポニアニッポン語教師日誌>ことばの知恵の輪「ついたち、とおか、はつか、みそか」
 
12月1日は、師走ついたち。あっというまに十日(とおか)二十日(はつか)が過ぎていく。一年さいごの大晦日(おおみそか大三十日)まで、駆け足。早い!
 忙しい12月ではありますが、日本語トリビアをひとつ。

 日付を教わった留学生からの質問。二つ→ふつか、三つ→三日、四つ→四日です。ひとつ→ひとか?ひつか?いいえ、ついたち。なぜ、最初の日は、ついたちなの?

 大学後期10月から日本語学習を始めた留学生達、一日に4~5時間の日本語授業を週に5日受け、8週間で160時間日本語を学んだところ。まだまだヨチヨチ歩きの、おぼつかない足取りです。
 日本語集中コース初級は、5ヶ月間で約300時間の日本語授業を受け、修了となります。

 300時間の外国語授業、日本の中学校英語授業に換算すると、3年間分にあたります。
 日本人中学生が3年間かけて習う英語と同じ分量の日本語を、5ヶ月で詰め込むのです。
 この「日本語集中コース」を担当するようになって、10年になります。

 学生は博士課程修士課程へ進学する大学院の院生研究生たち。5ヶ月で3年分を詰め込む「シンカンセン授業」にも耐えて、熱心に日本語を吸収する。ま、教える教師がいいからですね、、、、ってことはありませんで、国費奨学金を受けている優秀な学生が集まっているからです。

 日本語ゼロスタートの留学生にとって、日本語の日付の言い方も、関門のひとつ。
 月の言い方は、注意さえすればなんとかなる。4月を「よんがつ」「よがつ」と言ったり、9月を「きゅうがつ」と言ったりする間違いを訂正して、「4月はよんがつじゃ、ありません。しがつですよ。9月はくがつ」と、練習れんしゅう。

 次ぎに日付の言い方。学生にとっては、物の数え方が「ひとつ、ふたつ~」の和語と「いち、に、さん~」の、中国語由来の数え方の二種類あるのだけでも、たいへん。それに、日付の特別な言い方が加わります。

 英語圏の学生や、外国語教育としてインドヨーロッパ語系の言語しか習ったことがない学生。英語では、「one two three~ 」の基数と「first second  third~」の序数を覚えれば、日付もOK。

 ところが、日本語では日付は特別な言い方を用いる。「12月いちにち、12月ににち、12月さんにち」と言えません。
 まず「ひとつ、ふたつ、みっつ~」の言い方を復習する。「1=ひ、2=ふ、3=み、4=よ~」を思い出させて、「日」を「か」と読む読み方をインストール。
 2日は、「ふつ+か→ふつか」。3日は、「みつ+か→みっか」。4日は「よつ+か→よっか」。5日「いつ+か→いつか」。
 促音(つまる音)、小さい「っ」になるところ、注意。

 でも、6日は「むつ+か」が「むつか」にならず、「むいか」に変化するし、「なな+か」は「ななか」ではなくて「なのか」、「やつ+か」は「ようか」になるので、ややこしい。
 「ついたち、ふつか、みっか、よっか、いつか、むいか、なのか、ようか、ここのか、とおか」お経のように唱えて暗記させる。

 あるとき、言葉の規則、音のルールに注意深い学生が、日付のルール違反に気づいた。「二日から十日までは、ひづけに『か』がつくのに、1日目は、『か』がつかない。どうして?『ひとか』か『ひつか』になるはずなのに」

 この疑問を、日本語教育研究の日本人学生に、出題しました。
 こういう質問が留学生から出たとき、答えられますか?「なんでもいいから、とにかく覚えろ」という返事をする先生もいますし、「さあ、なんでついたちだけ、ちがうんでしょうね。日本語はいろいろだわね」という先生もいます。
 でも、正解を答えてあげられれば、留学生は日本語によりいっそう興味を感じて、勉強に熱がはいると思うよ。

 正解。「ついたち」は「つきたち=月+立ち」から変化したことば。日本語音声ルールでいう音便です。(この場合は「イおんびん」)
 新しい月が、この日に立ち上がる。

 旧暦(太陰暦)のこよみでは、「ついたち」が新月(朔月)の日。文字どおり、新しいお月様が空に立ち上がるのが見える日だった。
 新月から15日に満月になり、また月が欠けていく。月の満ち欠けによって、月日の移り変わりを知った。

 「This first day , the new month stands up.」 Month は、つき→つい、Standing up は、たち」と、言ってあげると、留学生の印象にも残り、覚えやすくなります。

 日本人学生たち、たいていは「なんで、ついたちっていうか、初めて知った」と言う。
 「どんなトリビアも、日本語教師の知恵袋に入れておこうね。日本語学習者からどういう思いがけない質問が飛び出すかわからない。
 なんでもかんでも知っておいてソンはありません。」

 さて、師走ついたち、ふつかと過ぎ去りまして、十日(とおか)二十日(はつか)三十日(みそか)もすぐに。大三十日(大晦日)まで、カレンダーは駆け足です。<おわり>