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にっぽにあにっぽん日本語&日本語言語文化

日本語・日本語言語文化・日本語教育

サルでも出来る日本語の教え方 目次

2010-12-12 09:28:00 | 日本語教育
2003/12月目次
BC級日本語教育研究「サルでも出来る日本語の教え方」

12/01 2003/9月10月11月の目次
12/02 春庭BC級日本語教育研究「サルでもできる日本語の教え方」
12/03 「サル出来日本語」うなぎ文
12/04 「サル出来日本語」母語、第二言語、バイリンガル」
12/05 「サル出来日本語」複数形
12/08 「日本語教師はトリビア雑学博士であるべし
12/09 「日本語古文も、なんなく読める」
12/10 留学生・就学生、そして戦争
12/11 日本語教師になりたい人のために
12/12 ニッポニアニッポン語とは何か
12/15 BC級日本語教室リストラされた
12/16 BC級日本語教師養成講座
12/17 サルが教える初級日本語
12/18 「直接法」大地の子に出演した
12/19 「 動詞の名詞化を教える」BC級日本語教授法実践教室
12/20 「動詞の名詞化 こと/の」
12/21 「が」の機能
12/22 漢字クイズで授業おさめ
12/24  ラポール①
12/25 ラポール②心と心をつなぐ伝達
12/26 宿題答え合わせ①「タコが海で泳ぐ」
12/27 宿題答え合わせ②敬語
12/29 宿題答え合わせ③動詞の分類
12/30 宿題答え合わせ④タ形ル形

語彙教育をめぐって-留学生と日本語

2010-10-23 07:12:00 | 日本語教育
2010/05/04
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語de作文「罪と罰」(1)刑務所の定義

 2007年に実施した留学生授業の一部分をご紹介します。もうこの大学には出講していませんが、授業の記録は私にとっては1時間1時間がなつかしいものです。2007年12月に、実施した「日本語中級総合・中間試験」の中から、興味深い留学生の回答を抜き書きしておきます。留学生の名は仮名です。

 日本語学習も中級になると、語彙もふえ、とてもしっかりした表現ができるようになります。それでも試験をしてみると、間違ってしまうことも多々あります。
 授業では『ニューアプローチ完成扁』という教科書を用いました。聴解読解会話の総合テキストですが、授業では読解中心になってしまいました。1週間に90分授業1回、12週続く授業です。10月から授業が始まり、冬休みの前に中間試験を行いました。

 中間試験に出題した8課の読解は、「ことばの世界を楽しむ」と題したものでした。
 辞書のことば定義に関して、「右」ということばをどのように定義しているかなど、いくつかの辞書を比較したりした内容を読解しました。中間試験には、8課の後半の文章を出題しました。問題文は教科書の中の文章そのまま。設問は春庭の作成です。

 問題文『 辞書を読むもうひとつの楽しみは辞書にはない説明を考えて、頭の体操をやってみることだ。言葉の意味というものは、辞書の定義のほかに、じつにさまざまな物事とむすびついて、私たちの頭の中に収納されている。だから、その取り出し方しだいでは、別の説明が可能になる。
 刑務所はどうだろうか。案の定「受刑者を収容しておくところ」と書かれている。これではあまりに一方的で味気ない。反対の立場になって作文してみたらどうだろう。 』

設問
1)この文章のなかで、筆者が考える「頭の体操」は何をすることですか。
2)「案の定」とは、どのようなことですか。「案の定」の読み方を書き、このことばをつかって短い文を書いてください。
3)「一方的で味気ない」と、同じ使いかたをしている文を選びなさい。
  A)この料理は、塩が不足しているので味気ない。
  B) 彼はいつも面白いことを言ってわらわせている味気ない人だ
  C)毎日勉強ばかりで、味気ない留学生活をおくっている。
4)「刑務所」の定義を、文章中の「反対の立場になって」あなた自身のことばで作文してみましょう。

 (1)と(3)の正答率は高かったです。皆、よく語句の意味を覚えていました。
 (4)の刑務所の定義は、それぞれの個性が表れた答えがあったので、紹介します。

4)「刑務所」の定義を、文章中の「反対の立場になって」あなた自身のことばで作文してみましょう。
という問題、むずかしいかなと思ったのですが、留学生たち、いろいろな解答を書いてくれました。ウィットに富んだ答え、きまじめなこたえ、面白く読みました。問題文の中の刑務所の定義は刑務所側の立場から書かれている記述なので「反対の立場から刑務所を定義する」というのは、「受刑者側からの定義」ということなのですが、そのニュアンスを受け取って書いた留学生もいるし、あくまでも辞書的に定義しようと、苦心して作文した留学生もいます。

 ギさん(韓国)「ただのごはんも出るし、寝るところもあるし、なつかしい仲間もたくさんいるところ」
 笑いました。ふだんはきまじめなギさんなのに、こんな隠されたウィットがあったのね。

 シルさん(ブルガリア)「受刑者を収容しても、自分の悪いところをなおすおり、他の受刑者と次の罪を計画して、相談できる所です」
 ほんとにね。日本もそうみたいよ。「受刑者側の視点」というニュアンスを生かした答えです。

 次回、世界各地から集まった留学生の解答紹介。

<つづく>
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2010年05月05日


ぽかぽか春庭「刑務所の定義つづき」
2010/05/05
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語de作文「罪と罰」(2)刑務所の定義つづき

 中級日本語中間試験、「刑務所を定義する」解答紹介のつづき。
 イーさん(韓国)「刑務所は、犯した人が反省しながら、善という人間の本性にもどるところである」
 うん、まじめなイーさんらしい解答です。

 キヨさん(中国)「罰を犯した人が監視された共同生活に(を)つうじて、二度と罰を犯さないと誓うところ」
 漢字の「罪」と「罰」を間違えてしまったのですが、オーソドックスなまとめ方です。

 ワーさん(ミャンマー)「刑務所は罪をおかした人をあつかって、もう二度と罪をおかさないように、犯人たちを(に)いやなことをさせる所だと思います。彼らがやった、いはんなことを彼らに後かいさせるようにした所でもある。せいしん的にも物質的にもよくない所です」
 ワーさんにとって刑務所がいやな所だという気持ちがよくわかります。

 イヴさん(スイス)「犯罪者は常につみがあるかどうかはっきりわからないから、うたがうとき、この人は自由になったらいいと思います」
 冤罪は、日本でも大問題です。

 カタさん(ハンガリー)「罪をおかしたらああいうところに入ります。あそこでは、普遍的にいつも無料で働かせますが、もしかしたら、急用なそうじのしごとがなければ、ゴロゴロとテレビ放送のサッカーも見られます。仲間の中からもたくさんの新友が作れます」
 ハンガリーの刑務所はサッカー見るのが楽しみのひとつなのかな。サッカー応援しながら新しい親友も生まれるのね

 デビさん(オーストラリア)「罪をおかした後、まずい食べ物を罰として生活しているところである」
 オーストラリアの刑務所給食事情はどうなんでしょう。日本の刑務所の食事はだいぶおいしくなったということですが。

 ソニさん(インド)「刑務所は受形(刑)者に自分のまちがいをなおして、新たなじんせいをくらすチャンスをあげる所です」
 そうね、そうなるべきと私も思います。

 日本語の文法や漢字のまちがいは、まだ残っていますが、自分なりの考えでこの「刑務所の定義」を書いている留学生の日本語力、なかなかウィットに富み個性豊かだと思いました。
 
<つづく> 
08:08 コメント(3) ページのトップへ
2010年05月07日


ぽかぽか春庭「案の定」
2010/05/07
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語de作文「罪と罰」(3)案の定

 日本語試験の問題中、既習の語と思って授業中では説明を詳しくしなかった「案の定」は、「あんのてい」と読み方を書いてしまった留学生が多かった。

 「案の定」を使った短文の解答。
  イーさん「韓国といえば、案の定キムチの国と定義されている」
 キヨさん「授業の質問時間の時、案の定みな、静かになった」
 ブーさん「彼は時間を守る男だ。案の定今日の会議に一番先に来た」
 これらの使い方はまあまあ。「予想したとおりになった」というときに「案の定」を用いるという点では間違った使い方ではないのですが、「案の定」は、悪い結果を予想して、その通りになったときに使う方がよい語です。「案の定、失敗してしまった」などのように、よい結果にならなかった場合を表現した方が適切です。

 ギーさん「世の中には案の定どおりにはいかないこともあるものだ」
 「案の定」は、副詞的に使われることが多いので「案の定どおり」という使い方は「?」ですが、いっしょうけんめい意味を考えて作文したことは伝わりました。
 カタさん「学校に通わないといけない、ということは案の定ですね」これもまあまあかな。
 ワーさん「彼はあそんでばかりいます。案の定、試験に合格して成績は一位でした」え?これは「案の定」の使い方がまだよくわかっていない解答。逆接の文はつなぎにくい。
 シルさん「不景気をさからうために、この会議ではいくつかの案の定を聞かせてもらいたいです」これは、「案の定」を「案」と間違えている。
 ソニさん「公園の案の定は、子供があそぶ所ですね」
 え?案の定って、どんな遊び場?

 試験のあと「この刑務所の定義や案の定の回答、おもしろかったから、日本の人たちに紹介してもいいですか」と、たずねたら、みな、賛成してくれました。

 私は、2007年に中国赴任したあと、2008年3月にこの中級授業を担当した大学での授業はなくなってしまいました。もうこのときのクラスの人たちに会うチャンスはありませんけれど、日本で仕事を見つけたいと言っていた人も、帰国して国の大学で研究を続けたいと言っていた人も、日本のクラスでの90分間に読んだこと話したことが心に思い浮かぶ日があったら、「刑務所」の定義で文を作ったことも思い出すかも知れません。
 彼らはこのあとも、大学や大学院での勉学を続け、決して刑務所に入ったりする機会はないことでしょうが、刑務所という言葉をきいたとき、私と笑ってすごしたクラスでの日々を思い出してくれたらうれしいです。

 ギさんが書いた刑務所の定義「ただのごはんも出るし、寝るところもあるし、なつかしい仲間もたくさんいるところ」とは違うけれど、春庭クラスを「なつかしい仲間がいたところ」と思い出してほしいです。
 それとも、「案の定」が適切に使えるようになって「帰国して日本語を使わないで暮らしているとすぐに忘れてしまうと先生に言われていたが、案の定、すっかり日本語を忘れてしまった」と、なるのかもしれません。

<おわり>

留学生語彙教育としての漢字教育

2010-10-21 04:40:00 | 日本語教育
2010/05/08
ぽかぽか春庭言海漂流・葦の小舟ことばの海をただようて>ふりがな考(1)看護師試験の日本語

 日本の中学生が3年間で学習する英語の分量(学習時間300時間程度。50分(45分)×週3コマ×30週×3年)にあたる初級課程の日本語を、私が教える集中コースでは4~5ヶ月で完了しなければなりません。(90分×週10コマ×15週)
 この初級教育の間に200~300の漢字を導入しますが、非漢字圏の学生はヒィヒィいいながらもがんばっています。

 私が担当するのは、日本の大学院に入る予定の国費留学生ですから、日本語学習の負担もある程度は当然のこととして、漢字もガンガン詰め込みます。
 しかし、漢字学習がネックとなっている日本語学習者の話もよく聞きます。

 インドネシアやフィリピンから2008年に日本にやってきた看護師介護福祉士(経済連携協定(EPA)により厚労省が受け入れた資格保持者)の中で、日本の国家試験に合格できた人は、2009年度254名の受験者のうちたった3名でした。日本人受験者の合格率は90%であるのに対して、外国人受験者は、1%の合格率でした。派遣元の国ではすでに正式な看護師介護士の資格を持っている人たちであり大学既卒の人もいるのに、漢字がネックとなっていて日本人と同じ試験に合格するのは難しい。
 合格した3人のうち2人のリア・アグスティナさん(26)とヤレド・フェブリアン・フェルナンデスさん(26)は、新潟の三之町病院に勤務しており、病院をあげての日本語学習の支援があっての合格なのだそうです。

 来日看護師を受け入れた病院や介護施設のなかで、きちんとした日本語教育の体制を作っているところは少なく、大半は、「安い労働力」としての受け入れしかないのです。
 日本での仕事を継続することを望んで来日した人にとっては、仕事をしながら日本語を学び、日本人と同じ国家試験に合格することは負担が大きい。来日後、3年の間に合格できなかったら帰国しなければなりません。
 現在の体制で病院や介護施設で働きながら日本語試験の壁を乗り越えるには、手厚い支援体制が必要となるのに、その体制は整えないままの労働力導入です。厚労省はきちんと体制を作るべきでしょう。

 私は、この医療福祉関係の日本語教育に関係していませんが、日本語教育に携わる者の一人として、国と国とが契約を交わして労働力を受け入れたのであるなら、きちんとした日本語教育を行ってほしいと願っています。厚労省は今後、日本語を教える研修費の助成など施設での語学教育を支援する方針ということですが、医療現場では人手不足から、超過勤務が当然のように行われていると聞きます。そのような現場で日本語教育を行う余裕のある病院があるのだろうか、研修費の助成だけで十分ではないと思います。
 日本に招聘して日本の病院で働いてもらうのを「短期の安価な労働力」として扱うのでなく、「日本語を習得し、日本語英語(インドネシア語・フィリピン語)に通じた医療従事者」として地域に根付いていけるよう、体制を整えてほしいと思います。

 外国人受験者に対しては、試験問題の漢字に振り仮名をつけたらどうか、という案もありますが、反対意見もあります。現場の患者連絡メモに「Aさんの褥瘡処置について」という記録があったとき、「褥瘡」が読めない看護師では困る、という反論が出たそうです。私など、「じょくそう」という言葉を知ってはいても、メモに書けと言われたら漢字では書けない人間ですから、医療や介護の現場で「褥瘡」という漢字をメモに残せる人ってすごいなあと感心するばかり。

 医療現場の日本語についての教科書も出始めており、看護師介護福祉士の日本語教育にも新しい方向が出てきました。
 日本語の漢字文化とふりがなの問題、いろいろな現場でそれぞれのいいやり方を研究して、漢字文化を大切にしつつ、国際社会での交流がすすむといいのですが。

<つづく>
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2010年05月09日


ぽかぽか春庭「ルビ=ふりがな」
2010/05/09
ぽかぽか春庭言海漂流・葦の小舟ことばの海をただようて>ふりがな考(2)ルビ=ふりがな

 黄表紙本、読本などの江戸時代の木版印刷に変わって、明治時代に活版印刷が「殖産興業」のひとつとして興隆しました。
 「ルビ活字」とは、本文に付け足された漢字振り仮名などに用いられた小さな活字のことをいいます。もともとは、イギリスから輸入された5.5ポイント活字が宝石のルビーのようだというので、rubyと呼び名をつけられていたことに由来します。

 中国語では漢字にピン音(発音表記)をふったり、日本語では漢字に読み仮名を振ったりするのにルビ活字が使われています。
 現在のパソコンでは、振り仮名機能を活用することで簡単にルビがつけられます。私が使用しているのは、通常、本文表示の標準の大きさは10.5ポイントで、ルビは5.0ポイントです。

 文脈によって読み方を決定する機能において、日本語ワープロの中ではジャストシステムの一太郎がもっとも賢い。でも、多くの人がワードを使っているので、私は一太郎で作成した文書をワードにコピーしてメール送信しています。一太郎文書をそのまま送信すると互換性がないパソコンもあったからです。息子が卒論を書くために古文書をパソコンに取り入れる縦書き機能が充実した新しいワープロソフトが必要だというので。2月に発売された一太郎2010を買いました。

 最近の電子辞書は、読み方がわからない漢字でも比較的簡単にサーチできる機能がつくようになり、昔のように部首や画数の数え方をしっかり教えないと、知らない漢字を辞書で引くこともできない、というのとは異なってきましたけれど、留学生にとっても日本人学生にとっても、新しい漢字の読み方を覚えることは新しい語彙を覚えること。日本語力をつける第一歩です。
 
 漢字の造語力は大きな広がりを持ちます。造語力の「力」にしても、「老人力」以後、大人力とか女子力、日本語力、情報力とか何にでも「力」がくっついて新語を作る。
 漢字を面倒がらずに楽しく覚えていくことができるよう、留学生教育も工夫をしていきたいと思います。

 社会での漢字使用の考え方には、「皆が読み書きできる漢字を定めて、それ以上の漢字の使用は制限すべき」というものと「国家が文字、言語、文化を規制すべきではない」というものの、両方があります。

 私はどちらかと言えば後者の考え方をする者ですが、「漢字は常用漢字を定めた上で使用制限をなくし、社会で使用する漢字には、教育漢字(小学校で学習する漢字、約1000字)以上の漢字には、読み仮名を施す」という折衷案的な意見を持っています。さきごろ漫画の性描写規制について、都行政と漫画家集団の間に論争がありました。表現する側が規制に対して反対なのは当然でしょう。
 漢字についても、その漢字を使うか使わないかは、自分自身で決めればよいことであって、国が「この漢字を使え、これは使うな」と決めることには抵抗を感じます。

 新聞雑誌など公共的な出版の場合に一応の目安が必要なことはわかりますが、それに従うかどうかは個人の語感の問題でよいと思うのです。作家が新聞に寄稿して「相手の気持ちを忖度する」という文を書いたとき、「忖度」の「忖」は常用漢字にも新常用漢字にも入っていないという理由で「そん度」と直すよりも、「忖度そんたく」振り仮名を振っておけば、「忖度」という語を知らなかった中学生でも辞書を引けば意味はわかる。

 「忖度」をコピーペーストしてパソコンで意味を調べることもできるので、振り仮名もいらないという意見もありますし、文章にくっついている振り仮名を「わずらわしい」と感じる人もいるのですが。さて、振り仮名問題、どう推移してくでしょうか。

<つづく>
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2010年05月11日


ぽかぽか春庭「山サンやま」
2010/05/11
ぽかぽか春庭言海漂流・葦の小舟ことばの海をただようて>ふりがな考(3)山サンやま

 漢字を書いた上でわざとルビを振らない、という表現も考えられます。漢字の読みの多様性を生かしたことば遊びが使えるからです。風邪という漢字にルビを振らなければ、「カゼ」と「フウジャ」という両方の読みを与えることができます。たとえばゲームのキャラクターなら、「風邪」「土邪」「水邪」「火邪」なんていう名前をつけた悪役を登場させて闘わせるとか。

 私が読めない漢字や知らないカタカナことばを娘息子が知っているので「へぇ、この漢字が読めるんだね」「え、こんなカタカナ語知ってるの?」と感心すると、たいてい「ロールプレイングゲームの武器の名前だから知ってる」とか「キャラクターの名前に出てきた」とかです。ある語を広めようとしたら、ゲームやアニメに取り入れるのが一番若者への浸透が図れるのかも。数年前にはたいていの中学生に読めなかった「羞恥心」が、お笑いタレントが結成した歌のグループ名になったら、ほとんどの中学生高校生にも読める熟語になりました。

 「図る」は「ずる」じゃありません。「はかる」です。「計る」「測る」「量る」「謀る」「諮る」という同音異義語のひとつですけれど、「はかる」ひとつにこんなにたくさんの漢字覚えるのたいへんだ、と留学生の拒否反応が出る前にルビをつけて、授業では「意味の違いを見つけましょう」と、クイズにしています。
 でも、「図る」を「ずる」と誤読するのも、地口や洒落の材料になります。

 ひとつの文字の形を見て、音読みと訓読みの両方の発音が頭の中に響く、というのは、世界で日本語だけが持つ特徴なのです。たとえば「山」という文字を見て「サン」と「やま」の両方の発音が頭の中に思い浮かびます。(中国でも韓国でも標準語での漢字の読み方は原則としてひとつだけです)。

 一つの表記でふたつ以上の発音が存在するのは、世界の文字文化の中では例外的なものです。たとえば、英語で「etc.」と表記されている語には「イーティーシー」という発音と「エトセトラ」という発音の両方が考えられますが、ラテン語の Et cetera の省略形であり「その他」という意味だという知識がある人にとっては、「イーティーシー」ではなく、「エトセトラ」です。エトセトラという意味を知らない人にとっては「イーティーシー」です。

 日本語では「日」は、「ニチ、ジツ、ひ」の3種類の発音があることは小学生から習うことであり、語により使い分けがあることは小学校以上の教育を受ける子供には常識となっています。「明日一日は日曜日だが、次の祝日までの日にちは何日間か。あと数日で夏の休日になれば、また休める」という文で、「明日」は「アス/アシタ」または「ミョウニチ」。「一日」は日付なら「ツイタチ」、文脈によっては「イチニチ」「イチジツ」。日曜日の最初の「日」は「ニチ」で、終わりの「日」は「ビ」。「日にち」は「ヒ」で、祝日数日休日は「ジツ」

 これらの読み方をひとつひとつ覚えていくのはたいへんですが、「日」の一字をこのように読み分けて使うのは、日本語にとって有意義な言語文化であると私は感じています。

 日本語の特徴とされるうち、ほとんどのものは、世界の言語のどれかと共通するものです。文法の統語(言葉の並べ方)は韓国語朝鮮語やモンゴル語と同じですし、漢字は中国から伝わった文字。
 発音の音韻が「子音プラス母音」という開音節で構成されているという特徴は、南方諸言語と共通しています。(印欧語ではイタリア語が開音節だし、アフリカのスワヒリ語も開音節ですが)

 漢字平仮名片仮名アルファベットアラビア数字という5種類の文字をひとつの表記の中に使い分けるという特徴と、この「ひとつの文字に複数の発音(読み方)がある」という特徴のみが、他のどの言語とも共通しない日本語だけの特徴です。別段「唯一独自」のものにこだわることもないのですけれど、「唯一」という文字を「ゆいいつ」と読ませるほかに「ただひとつ」と読んでもよい、という特徴は、実に世界で唯一、ユニークな言語だなあと、私は感じております。

 読みの曖昧さを取り除き、書いた人が「こう読んでほしい」と思う漢字には振り仮名を振る。多様な読み方を期待して、振り仮名をふらずにおいて読む人の自由にまかせたい書き手は、振り仮名を付けない。または、ひらがなの表記のみにしておけば、「我が身ふりゆくながめせしまに」という句に「降りゆく長雨」と「経りゆく眺め」という掛詞が成立し、日本語言語文化の花の色が際立ちます。

 多様な言語生活が考えられるほうがいいんじゃないかと、思います。標準語共通語という、みなに通じる話し方があってよいけれど、地方の多様な方言言語文化も大切だし、多様な漢字文化の楽しみ方もあってよい。

 規範はあってよいけれど、規範に縛られることはない。
 このたび改訂作業が進んでいる新常用漢字。196字が加わって、1945プラス196=2105字が「社会生活で標準的に用いる漢字」として制定されます。漢字をどのように読み書きしていくか、活用するもしないもあなた次第。自分自身の感覚で漢字文化を楽しみましょう。

 今通勤電車の車中読書は買ったままツンドクだった網野善彦『日本論の視座』です。この本の中でも「文字社会」となった日本において、文字の民衆への広がりと定着によってどのような社会変化が起こってきたかが論考されています。文字が社会を変えるのです。
 さて、これからの社会はどのように文字を選択し、どのような社会を築き上げていくのでしょうか。

<おわり>
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2010年05月13日


ぽかぽか春庭「羞恥心」
2010/05/13
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>新常用漢字(1)羞恥心

 留学生のための漢字教育は私にとって大切な授業内容になっており、「英語で論文を書く人たちも漢字学習が必要です。話せれば大丈夫、書くのはテキトーでいいからって漢字の勉強をしないと日本語が上達しませんよ。日本で生活するには漢字を知らないと不自由です。漢字学習をおろそかにしてはいけません」と言い聞かせて漢字習得の必要性を説きます。なぜなら、日本語の70%は漢字熟語であり、漢字習得とは語彙習得と同義だからです。

 日常生活で「えんぴつ」とか「えんそく」という言葉を聞いて、鉛筆遠足という文字を思い浮かべられなくても不自由はありません。「えんぴつ」は「鉛筆」以外の語は日常生活で使うことはないので、漢字を知らなくても誤解を生むことはまずないですから。しかし、「こうえんへ行きましょう」と言われたとき、「講演」「公演」「公園」「後援」などの同音異義語の違いを知らないと返事ができません。

 また、大学や大学院での授業を受ける留学生には、日常生活使用語彙以上の「講義を聴ける日本語力」が要求されますが、漢字語彙を知らないと、講義内容もわかりません。
 今期は「漢字授業」の受け持ちがなくなり、授業で直接漢字指導をすることがないのですが、文章表現(作文論文)授業の中に漢字指導も含まれます。
 留学生の漢字教育も、常用漢字を基準としています。留学生の大学進学や就職に必要な資格のひとつとなっている日本語能力試験でも、1~4級の中で「文字語彙」として出題されます。

 日本語能力試験3級では300字程度の漢字、2級では教育漢字1000字。1級問題には、日本人が読み書きする常用漢字すべてが出題されます。
 ただし、すべてマークシート解答のため、四択解答です。たとえば、読み問題で「就職」という出題に①しゅしき②しゅうしょく③きょうしょく④じゅしょく、などの読み方が並ぶ中から選ぶ。「先生のこうぎを受けて学んだ」という出題で①溝議②講義③講議④構技、から選ぶ、などです。

 現行の常用漢字(義務教育修了までに読めるようにすることが望まれ、新聞雑誌など社会一般で使用する範囲の漢字)は1945字あり、さらに196字を追加するかどうか検討されています。
 常用漢字は使用目安であってそれ以外の漢字使用を制限するためのものではないのですが、新聞社雑誌社などは、常用漢字に独自の基準を加えて事実上常用漢字以内で表記するようになっています。

 文化庁は追加漢字を審議していますが、これらの漢字の社会浸透度などについて直接の調査をしていません。そのかわり、NHK放送文化研究所が、全国都道府県の高校301校を対象に漢字の読みテストを行いました。2009年5月~6月に1万1千人余の高校生の回答率を調査した結果を出したものが発表され、「『新常用漢字』高校生は読める?」という番組が2010年03月15日NHKのスタジオパークの中で放映されました。
 日頃は昼間のテレビ放送を見る機会が少ないですが、3月15日は、片づけ仕事がイヤになってちょっと一休みというときに、ファンである尺八奏者の藤原道山さんが出演したのでテレビを見ていたら、同じ番組の中でちょうど新常用漢字の調査結果を発表していたのです。

 たとえば、「俺」は100%の高校生が読めました。漫画や携帯小説にも「俺」はよく使われているので、皆読める。「拉致」は、ニュースなどでよく目にした熟語なので、91%が読めました。これまでだったら高校生に縁遠かったかも知れない「羞恥心」も、97%が読めました。これは、テレビで人気が高かったアイドルグループの名前が浸透していたためだと思われます。

 「未曾有」が42%の正解率だったのは、麻生太郎前首相が未曾有を「みぞうゆう」と読み間違えたからかもしれません。きっと国語の先生はここぞと高校生に「みぞうも読めないと、首相といえども知性を疑われて政権も危うくなる。将来のためにしっかり漢字を覚えておけ」と「未曾有」を教室で紹介したのではないでしょうか。

 漢字が読めない首相もママからお金をもらってがんばったけれど、5月末までという約束の沖縄基地問題を解決できず「私は愚かな総理だったかもしれません」とぼやく首相も、羞恥心ということばを繰り返し読むべきでしょう。

<つづく>
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2010年05月14日


ぽかぽか春庭「漢字読みテスト挨拶」 
2010/05/14
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>新常用漢字(2)漢字読みテスト挨拶 

 新常用漢字候補の読みテスト、5年前に行われた調査では「破綻」という熟語が読めた高校生は42%だったのに対し、2009年の調査で61%が読めたのは、それだけニュースなどに「銀行破綻」「リーマンショックで会社破綻」などが頻出したからでしょう。

 高校生には歯が立たなかった字も多い。派閥の「領袖りょうしゅう」、人格を「陶冶とうや」する、は1%の正答率。交渉が「進捗しんちょく」する、は2%など、生活にあまり関わりのない熟語だと正答率が低くなります。高齢層にはなじみの「葛餅くずもち」「参詣さんけい」などの語も、高校生には縁が薄い。

 さて、高校生に実施されたNHKの新常用漢字読みテスト。日本語学概論を受講する日本人学生、どれほどできるか、テスト問題をコピーしました。
 漢字に強いと思っている方、漢字は苦手と敬遠している方、試しにやってみましょう。ほとんどの漢字、今でも使用されているからこそ「新常用」に選ばれたわけです。「え、これ常用漢字じゃなかったのね」というほうが多いのですが、さて、みなさま、高校生に比べて正答率やいかに。
 私は、100%パーフェクトに読めると信じてテストしましたが、333題並べたうち、なんと1問落としました。

 25題ずつ並んでいます。1~333番までのうち、本日は50番まで。明日から333までテスト。嫌気がささない程度にお楽しみください。現行の常用漢字には入っていない漢字ですから、国語の授業では教わらなかった漢字です。できなくて当たり前、読めたら自慢して。

1)先生に「挨拶」する 2)「曖昧」な返事をする 3)「顎」の骨を折る 4)「下顎骨」を折る重傷 5)「宛先」を書く 6)春の「嵐」が吹く 7)「青嵐」が山に立ちこめる 8)「畏敬」の念を持つ 9)神を「畏れる」 10)社長の訓辞を「畏まって」聞く 11)強敵に対して「萎縮」する 12)気持ちが「萎える」 13)朝顔の花が「萎む」 14)きのう買った花が「萎れる」 15)「椅子」を並べる 16)「語彙」の豊かな人 17)「茨城県」の名産 18)「耳鼻咽喉科」の医師 19)「淫行条例」に違反する 20)目に余る「淫らなふるまい 21)怨恨による殺人事件 22)「怨念」を抱く 23)人に「怨まれる」覚えはない 24)「才媛」のほまれが高い 25)「愛媛県」はみかんの産地
(答え)
1)あいさつ2)あいまい3)あご2)かがくこつ3)あてさき4)あらし5)せいらん8)いけい9)おそれる10)かしこまって11)いしゅく12)なえる13)しぼむ14)しおれる15)いす16)ごい 17)いばらきけん 18)じびいんこうか19)いんこうじょうれい20)みだらな21)えんこん22)おんねん 23)うらまれる24)さいえん25)えひめけん

26)肌の「色艶」がよい27)「艶やかな」着物姿 28)食欲が「旺盛」だ 29)力が満ちあふれて「旺んだ」 30)「福岡県」へ出張する 31)「臆病」な性格 32)「俺」について来い 33)「苛酷」な労働 34)列車の遅れに「苛立つ」 35)敵の「牙城」に迫る 36)貴重な「象牙」 37)ライオンが「牙」をむく 38)計画が「瓦解」した 39)屋根の「鬼瓦」 40)「胃潰瘍」で苦しむ 41)面目が「潰れる」 42)「俳諧」を味わう 43)「断崖」に立つ 44)切り立った「崖」 45)石器時代人の「頭蓋骨」 46)びんの「蓋」をあける 47)仏像の頭部を「蓋う」飾り 48)航空機の「残骸」が散らばる 49)兄弟の心理的な「葛藤」 50)「葛餅」を食べる
(答え)
26)いろつや27)あでやか28)おうせい29)さかんだ30)ふくおかけん31)おくびょう32)おれ33)かこく34)いらだつ35)がじょう36)ぞうげ37)きば38)がかい39)おにがわら40)いかいよう41)つぶれる42)はいかい43)だんがい44)がけ45)ずがいこつ46)ふた47)おおう48)ざんがい49)かっとう50)くずもち

<つづく>
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2010年05月15日


ぽかぽか春庭「漢字読みテスト玩ぶ」
2010/05/15
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>新常用漢字(3)漢字読みテスト玩ぶ

 さて、新常用漢字の読みテスト、第一日目はいかがでしたか。社会に浸透しているという理由で選ばれている新常用漢字候補なので、おおかたは読めると思うのですが、75番あたり、若者と年配者の読み方が別れる例かもしれません。ほとんどの人が誤読するようになれば、誤読のほうが「正しい読み方」となっていく、という例のひとつ。「誤読から慣用読みへ」については、下記の春庭「感じる漢字」話のサイトをご覧下さい。
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/nipponia0502.htm

51)手で扇子を「玩ぶ」 52)愛玩動物」を飼う 53)日本と「韓国」との交流 54)「歌舞伎」の公演 55)不思議な顔の「伎楽」の面 56)ビルの壁に「亀裂」が走る 57)鶴は千年、「亀」は万年 58)「近畿地方」の天気予報 59)肩を「脱臼」する 60)「石臼」でそば粉をひく 61)犬は「嗅覚」がすぐれている 62)花のにおいを「嗅ぐ」 63)床に「雑巾」をかける 64)「僅差」で逃げ切る 65)「僅かな」差で金メダルをのがす 66)「錦秋」の時期に旅行する 67)「錦絵」に描かれた風景 68)将来を「危惧」する 69)絶滅の「惧れ」のある小動物 70)肉を「串」に刺す 71)「洞窟」の中を探検する 72)「熊」が人里に現れる 73)お寺に「参詣」する 74)「初詣で」に出かける 75)古代美術への「憧憬」
(答え)
51)もてあそぶ52)あいがんどうぶつ53)かんこく54)かぶき55)ぎがく56)きれつ57)かめ58)きんきちほう59)だっきゅう60)いしうす61)きゅうかく62)かぐ63)ぞうきん64)きんさ65)わずかな66)きんしゅう67)にしきえ68)きぐ69)おそれ70)くし71)どうくつ72)くま73)さんけい74)はつもうで75)しょうけい(最近では「どうけい」という誤読のほうが優勢)

76)サッカー選手に「憬れる」 77)弟子に「稽古」をつける 78)「間隙」をついて攻める 79)「隙間」から風が入る 80)「手間隙」をかけた仕事 81)「桁違い」の実力の持ち主 82)「拳銃」を密輸する 83)「拳」を振り上げる 84)「拳骨」でなぐる 85)ピアノの「鍵盤」 86)自転車の「鍵」を忘れる 87)船が「右舷」から波をかぶる 88)「股関節」をいためる 89)「大股」で歩く 90)「太股」の筋肉をもみほぐす 91)「猛虎」がすむという密林 92)「虎」の尾を踏む気持ち 93)「脳梗塞」で入院する 94)「鎌」で稲を刈る 95)「喉元」すぎれば熱さを忘れる 96)「雨乞い」の祈り 97)「傲慢」な態度をとる 98)「傲る」平家は久しからず 99)決勝に「駒」を進める 100)競走馬の子を「産駒」と言う

76)あこがれる77)けいこ78)かんげき79)すきま80)てまひま81)けたちがい82)けんじゅう83)こぶし84)げんこつ85)けんばん86)かぎ87)うげん88)こかんせつ89)おおまた90)ふともも91)もうこ92)とら93)のうこうそく94)かま95)のどもと96)あまごい97)ごうまん98)おごる99)こま100)さんく

 私は100番の「さんく」という競馬用語を知りませんでした。私が知らないだけで競走馬関係の専門用語であるだろうと見当をつけたのですが、重箱読み湯桶読みの可能性もあるので、「さんごま」「さんこま」「さんく」のどれかわかりませんでした。
 結局は音読みの原則通りでよかったのに。「さんく」漢字に強い一太郎の熟語変換でも「三区・三句・惨苦」の三つしかでてきませんでした。この調査を編集した人たちの中に競馬ファンがいたという理由のほかに、この産駒が漢字読み仮名テストの熟語に選ばれた理由がわかりません。

 1題3点で計算して、100題で300点満点です。以下、333題まで、脳の活性化めざしてがんばりましょう。

<つづく>
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2010年05月16日


ぽかぽか春庭「漢字読みテスト手頃」
2010/05/16
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>新常用漢字(3)漢字読みテスト手頃

 憧憬はやはり「どうけい」派と「しょうけい」派に別れました。もう少ししたらNHK漢字読み調査班や文科省も「どうけい」を正解にするようになるでしょう。岩波国語辞書(第四版)では「しょうけい」欄には「どうけいともいう」と注記され、「どうけい」欄には「しょうけいが正しい読み方」と注記されています。ところが、金田一京助編集の三省堂国語辞典では「どうけい」のみ掲載され「しょうけい」はないのです。Qさま出演で漢字に弱いことが判明した金田一秀穂のじっちゃん、漢字に関しては「若者」だった!

 さて、誤植誤変換訂正は、わが家の家業であるのですが、春庭は入力ミス頻発で、皆様のご指摘には感謝&恐縮の至り。
 漢字読みテストの解答にミスがありました。茨城県の読み方は「いばらきけん」です。「いばらぎけん」と濁音で表記すると、いばらき県民は不愉快に思うとのことです。が、なぜ「いばらぎ」と思われてしまうかというと、北関東と東北の発音の訛りに関わります。私は北毛地方の出身ですが、「学校へ行く」の「いく」は「いぐ、いがない」と濁音で発音していました。「欠く」「置く」「聞く」などでは「きぐ」「おぐ」にならないのに、「いく」だけは「いぐ」でした。

 同じように、茨城栃木の北部から東北地方の発音では、語頭になく、語中・語尾のカ行の発音が濁る傾向があります。牛のことを東北方言では「べこ」と言います。「べ~」という牛の鳴き声に子をつけて「にゃんこ」「わんこ」と同じように「べこ」というのですが、多くの東北地方では「べご」と濁音で発音します。そのほうが言いやすいからです。

 茨城県の「いばらき」も、茨城北部の人たち、表記は「いばらき」ですが、会話のときは「いばらぎ」と濁音に聞こえる発音をしている人が多かった。私も関東北部出身者のひとりとして、「いばらぎ」と濁って発話していました。それで、「茨城」の振り仮名に「いばらぎ」と入力してしまいました。(ご指摘を受けて訂正済み)。
 一太郎は「いばらき」「いばらぎ」のどちらに入力しても「茨城」が出力されますので、気づきませんでした。

 現在は茨城県内でも「いばらぎ」と看板などに表記する例も出てきているとのことで、さて、この誤表記が広まるものやら、県民の「おらが県はいばらぎじゃねぇよ、いばらギだよ」との抗議により、他県民には「いばらぎ」に聞こえたとしても表記は「いばらき」なのだ、という道理が通って、「いばらぎ」という無理が引っ込むのか。
 ご指摘くださったyokochannさん、ありがとうございます。

 新常用漢字の読み練習つづきです。101~200

101)「手頃」な値段 102)マンモスがいた「痕跡」 103)腕に切り傷の「痕」がある 104)「ご無沙汰」しています 105)「挫折」から立ち直る 106)足首を「捻挫」した 107)敵の野望を「挫く」 108)気持ちが「挫ける」 109)みごとな「采配」を振る 110)「要塞」を攻め落とす 111)「閉塞」した時代に生きる 112)耳を「塞ぎ」たくなる事実 113)事故で道路が「塞がる」 114)「埼玉県」から都心に通勤する 115)鉄の「柵」で囲う 116)奈良の「古刹」をめぐる 117)「刹那的」な犯行 118)風で「椎」の実がたくさん落ちた 119)「斬新」な考え 120)刀で人を「斬る」 121)「恣意的」な判断 122)「擬餌針」を使って釣りをする 123)家畜に「餌」を与える 124)ひな鳥が猛獣の「餌食」になる 125)父は「小唄」を習っている
(答え)
101)てごろ 102)こんせき 103)あと 104)ごぶさた 105)ざせつ 106)ねんざ 107)くじく 108)くじける 109)さいはい 110)ようさい 111)へいそく 112)ふさぎ 113)ふさがる 114)さいたまけん 115)さく 116)こさつ 117)せつなてき118)しい 119)ざんしん 120)きる 121)しいてき 122)ぎじばり 123)えさ 124)えじき125)こうた

126)「鹿」が鳴く 127)「鹿の子」模様の着物 128)「鹿鳴館」で行われた舞踏会 129)きびしい「叱責」を受ける 130)親が子どもを「叱る」 131)友人に「嫉妬」する 132)同僚の出世を「嫉む」 133)がんなどの悪性の「肉腫」 134)検査で「腫瘍」が見つかる 135)突き指をしたところが「腫れる」 136)泣き「腫らした」目 137)「呪縛」が解ける 138)わが身の不運を「呪う」 139)派閥の「領袖」 140)「半袖」の服を着る 141)「羞恥心」を忘れた行動 142)おのれの不明を「羞じる」 143)要求を「一蹴」する 144)サッカーボールを「蹴る」 145)他人を「蹴落として」出世する 146)大きな大会の「前哨戦」 147)疑惑を「払拭」する 148)タオルで手を「拭く」 149)ひたいの汗を「拭う」 150)こわくて「尻込み」する
(答え)
126)しか 127)かのこ 128)ろくめいかん 129)しっせき 130)しかる 131)しっと 132)ねたむ(そねむ) 133)にくしゅ 134)しゅよう 135)はれる 136)はらした 137)じゅばく 138)のろう 139)りょうしゅう 140)はんそで 141)しゅうちしん 142)はじる 143)いっしゅう 144)ける 145)けおとして 146)ぜんしょうせん 147)ふっしょく 148)ふく 149)ぬぐう 150)しりごみ

151)鉛筆の「芯」を削る 152)「腎臓」の具合がよくない 153)「必須」の要件 154)富士山の「裾野」 155)「凄惨」な事故現場 156)「凄じい」速さのスポーツカー 157)あの映画は「凄い」評判だ 158)カフェインの「覚醒」作用 159)酒の酔いから「醒める」 160)事故で「脊髄」をいためる 161)魚は「脊椎」動物だ 162)「親戚」の子と遊ぶ 163)毎朝「煎茶」を飲む 164)みやげに「煎餅」を買う 165)豆を「煎る」 167)「羨望」のまなざしで見る 168)他人の成功を「羨む」 169)泳ぎの得意な兄が「羨ましい」 170)首のリンパ「腺」がはれる 175)あれこれ「詮索」する
(答え)
151)しん 152)じんぞう 153)ひっす 154)すその 155)せいさん 156)すさまじい 157)すごい 158)かくせい 159)さめる 160)せきずい 161)せきつい 162)しんせき 163)せんちゃ 164)せんべい 165)いる 167)せんぼう 168)うらやむ 169)うらやましい 170)せん 175)せんさく

176)「処方箋」を受け取る 177)誕生会の「お膳立て」 178)重要人物が「狙撃」される 179)優勝のチャンスを「狙う」 180)サケが川を「遡上」する 181)歴史を「遡る」テーマのテレビ番組 182)「曽祖父」は百歳に近い 183)「未曽有」の大事件 184)「曽て」住んでいた場所 185)雲一つなく「爽快」な朝 186)「爽やか」な朝を迎える 187)「痩身」で品のよい老紳士 188)体が「痩せて」、力が出ない 189)彼が「失踪」して5年たった 190レーダーで飛行機を「捕捉」する 191)問題をどう「捉える」べきか 192)「謙遜」したもの言い 193)「遜った」態度をとる194)「唾液」は消化を助ける 195)「生唾」を飲み込む 196)河口に砂が「堆積」する 197)国王の「戴冠式」 198)頭に王冠を「戴く」 199)「誓願」成就した 200)元旦に一年の「誓い」を立てる

176)しょほうせん 177)おぜんだて 178)そげき 179)ねらう 180)そじょう 181)さかのぼる 182)そうそふ 183)みぞう 184)かって 185)そうかい 186)さわやか 187)そうしん 188)やせて 189)しっそう 190)ほそく 191)とらえる 192)けんそん 193)へりくだった194だえき 195)なまつば 196)たいせき 197)たいかんしき 198)いただく 199)せいがん 200)ちかい

 漢字の正解率がお笑い芸人のロザンのウジハラやシンデレラ畠山に劣る金田一秀穂センセー、私の周囲では「ああいう人が日本語学者の代表だと世間に思われたらイヤダ」という日本語研究者たちが多いのですが、私は、あの低い正答率にもめげずにゲーノー界大好きなピデボセンセーのファンです。トッツァンのパルピコ先生が童謡歌手を目指していたみたいに、「漢字に弱い日本語のセンセー代表」としてゲーノー界バラエティ番組でかんばってください。

<つづく>
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2010年05月18日


ぽかぽか春庭「漢字読みテスト旦那」
2010/05/18
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>新常用漢字(4)漢字読みテスト旦那

 新常用漢字の読み練習つづきです。201~300

201)奉公人に理解のある「旦那」 202)経営が「破綻」する 203)ズボンのすそが「綻びる」 204)「忌憚」なく話す 205)人目を「憚らず」に泣く 206)「緻密」な計画を立てる 207)「焼酎」をベースにした飲み物 208)写真を「貼付」する 209)ポスターを「貼る」 210)観衆から「嘲笑」を受ける演技 211)他人を「嘲る」ような態度 212)外国で「諜報」活動を続ける 213)交渉が「進捗」する 214)仕事が順調に「捗る」 215)猫が「爪」をたてる 216)「爪先」で立つ 217)白い「鶴」がいる 218)吉報を「鶴首」して待つ 219人生を「諦観」できる年齢 220)最後まで「諦める」な 221)「真摯」に受け止める 222)祖母が孫を「溺愛」する223)川で「溺れ」そうになる 224)損失した分を「補填」する 225)机の上を「整頓」する
(答え)
201)だんな 202)はたん 203)ほころびる 204)きたん 205)はばからず 206)ちみつな 207)しょうちゅう 208)てんぷする 209)はる 210)ちょうしょう 211)あざける212)ちょうほう 213)しんちょく 214)はかどる 215)つめ 216)つまさき 217)つる218)かくしゅ 219)ていかん 220)あきらめる 221)しんし 222)できあい223)おぼれ 224)ほてん 225)せいとんする

226)友人に「嫉妬」する 227)同僚の出世を「妬む」 228)「賭博」を禁じている国 229)大金を「賭けて」勝負する 230)難しい「磯」釣り231)「藤」の花が見ごろになる 232)「瞳孔」を見開く 233)つぶらな「瞳」の少女 234)「栃木県」にある日光国立公園 235)「貪欲」に知識を吸収する 236)暴利を「貪る」悪徳業者 237)「丼」を洗う 238)エビの「天丼」を食べる 239)「鵜」飼いの見物 240)「奈落」の底に落ちる 241)「洋梨」の皮をむく 242)「梨園」の名門で育つ 243)「柿」の実を買う244)「熟柿」の甘さ 245)事件の「謎」を解く 246)冬は「鍋物」が一番だ 247)バラの「匂い」をかぐ 248)「虹」が空にかかる 249)目に入る光を調節する「虹彩」 150)「釜」でめしを炊く
(答え)
226)しっと 227)ねたむ 228)とばく 229)かけて 230)いそ 231)ふじ 232)どうこう 233)ひとみ 234)とちぎけん 235)どんよく 236)むさぼる 237)どんぶり 238)てんどん 239)う 240)ならく 241)ようなし 242)りえん 243)かき244)じゅくし245)なぞ 246)なべもの 247)におい 248)にじ 249)こうさい 250)かま

251)不可解な話を聞いて首を「捻る」 252)手ぬぐいを「捻って」頭に巻く 253)「罵声」を浴びせる 254)人前にもかかわらず「罵る」 255)優勝選手のメダルを「剥奪する」 256)電柱のビラを「剥がす」 257)仮面を「剥ぐ」 258)みかんの皮を「剥く」 259)「剥製」の動物 260)豆を「箸」ではさむ 261)大雨で川が「氾濫」する 262)「汎用性」のあるコンピューター 263)「阪神」地方の高級住宅地 264)「大阪城」をめぐるマラソンコース 265)体に「斑点」が出た 266)雪が「斑」に消え残る 267)「眉目」秀麗な若者 268)「眉間」にしわを寄せる 269)「眉毛」を整える 270)「膝」をくずしてすわる 271)将軍の前で「膝行」する 272)「肘掛け」がついたソファー 273)恩人の「訃報」を聞く 274)「岐阜県」を水源とする河川 275)外国から講師を「招聘」する
(答え)
251)ひねる 252)ねじって 253)ばせい 254)ののしる 255)はくだつ 256)はがす 257)はぐ 258)むく 259)はくせい 260)はし 261)はんらん 262)はんようせい 263)はんしん 264)おおさかじょう 265)はんてん 266)まだら 267)びもく 268)みけん 269)まゆげ 270)ひざ 271)しっこうする 272)ひじかけ 273)ふほうく 274)ぎふけん 275)しょうへい

276)過去の不正を「隠蔽」する 277)霧に「蔽われた」牧場 278)「餅」を焼いて食べる279)「誰」にも言えない秘密 280)「完璧」にやりとげる 281)「軽蔑」したくなる行い 282)ひきょうな行為だと「蔑む」 283)困った農民が「蜂起」する 284)「蜂」の巣をつついたような騒ぎ 285)めざましい「変貌」をとげた国 286)寒さで「頬」が赤くなる 287)地域紛争が「勃発」する 288)ぜいたく「三昧」な暮らし 289)「枕元」に時計を置く 290)「枕頭」の書を選ぶ 291)昆虫が花の「蜜」を吸う 292)故人の「冥福」を祈る 293)役者「冥利」に尽きる 294)「麺類」が好きだ 295)人格を「陶冶」する 296)「弥生」時代の土器 297)「弥縫策」にすぎないと批判される 298)本尊の「阿弥陀」如来 299)「暗闇」に浮かぶ明かり 300)「暁闇」を破るときの声
(答え)
276)いんぺい 277)おおわれた 278)もち279)だれ 280)かんぺき 281)けいべつ 282)さげすむ 283)ほうきする 284)はち 285)へんぼう 286)ほお (ほほ)287)ぼっぱつ 288)ざんまい 289)まくらもと 290)ちんとう 291)みつ 292)めいふく 293)みょうり 294)めんるい 295)とうや 296)やよいじだい 297)びほうさく 298)あみだ 299)くらやみ 300)ぎょうあん

<つづく>
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2010年05月19日


ぽかぽか春庭「漢字読みテスト比喩的」
2010/05/19
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>新常用漢字(5)漢字読みテスト比喩的

 新常用漢字の読み練習つづきです。301~333

301)「比喩的」に表現する 302)人生を旅に「喩える」 303)温泉が「湧出」する 304)森の中に泉が「湧く」 305)「妖精」の出てくる話 305)「妖しい」魅力を持つ人 306)「胃潰瘍」で苦しむ 307)「鵜」がアユをくわえる 308)「肥沃」な土地を耕す 309)外交官が秘密警察に「拉致」される 310)「辛辣」な意見を述べる 311)法隆寺の「伽藍」 312)「藍色」のジーンズをはく 313)人形「浄瑠璃」を見る 314)凶悪事件に「戦慄」を覚える 315)恐怖に「慄いた」表情 316)人々から尊敬される「僧侶」 317)「明瞭」な発音 318)「風呂」に入る 319)戦争に「翻弄」された人生 320)人の感情を「弄ぶ」 321)人質をとって「籠城」する 322)犯人が店に立て「籠もる」 323)「籠」の中にカナリアがいる 324)「山麓」に草原が広がる 325)山頂から「麓」の町を見下ろす 326)「脇役」の俳優 327)「脇息」に体をもたせかける 328)「憂鬱」な気持ち 329)「妖艶」な表情 330) 「貫禄」のある人物 331)「獅子」を描いたふすま絵 332)奇跡的に「蘇生」した 333)死者が「蘇る」
(答え)
301)ひゆてき 302)たとえる 303)ゆうしゅつ 304)わく 305)ようせい 305)あやしい 306)いかいよう 307)う 308)ひよく 309)らち 310)しんらつ 311)がらん 312)あいいろ 313)じょうるり 314)せんりつ 315)おののいた 316そうりょ 317)めいりょう318)ふろ 319)ほんろう 320)もてあそぶ 321)ろうじょう 322)こもる 323)かご 324)さんれい 325)ふもと 326)わきやく 327)きょうそく 328)ゆううつ 329)ようえん 330)かんろく 331)しし 332)そせい 333)よみがえる

 333題の漢字問題のなか、新常用漢字表には選ばれなかったけれど、NHKではニュースなどで漢字表記をしている字、数題を付け足しとして出題してあります。(例:柿、獅子)
 1問1点として333点満点です。3倍してから1点おまけで付け足して、1000点にして10で割ると100点満点になります。
 さて、100点満点だった方もいらっしゃるでしょう。私は100番の「さんく」でこけたので、満点にはならず、99.7ポイントでした。

 漢字は日本言語文化にとって大切なものです。戦後教育では漢文教育の時間が減り、私も漢字漢語に弱い人間のひとりですが、意味がわからない漢語でも、ふりがながあれば、辞書を引くのも容易になります。

 非漢字圏の留学生にとって、漢字2000字余りを覚えるのは負担が大きいです。日本語の中級までの教科書ですと、新出漢字にはルビ(ふりがな)がついていて、学生たちは一生懸命読み方を覚えようとします。読み方がわかれば辞書を引くのも簡単。
 上級になると、生教材(日本の新聞雑誌や書籍など実際の生活で使われている文章を教材として扱うようになるので、昔は新しい漢字に四苦八苦していました。近頃の留学生は、現代のパソコン技術を駆使して読み仮名を調べます。まずスキャナーで新聞などの文章をパソコンに取り込み、ふりがな機能を操作して漢字の読み方を調べるのです。ときどきとてもへんてこりんな読みをする学生がいますが、きっとパソコンがそのように読んだのでしょう。こんなことなら、最初からルビがついていればいいのに、と思うのです。

 漢字学習は日本語母語話者にとっても留学生にとっても関門のひとつではあるのですが、漢字表記は千年の使用を経て、日本語になっています。かって漢字を自国語の表記のひとつとして採用していたベトナム(越南)は漢字表記からアルファベット表記に切り替えました。ベトナム語の構造は漢字表記に不便だったからです。日本語と同じ膠着語構造でも閉音節の発音を持つ朝鮮・韓国でもハングル表記がほとんどになり、自分の名前の漢字表記を知らない人います。しかし、開音節の音節構造をもち名詞に助詞を付属させるという文法構造の日本語は、平仮名片仮名漢字併用という方法を選び、日本語の構造に合わせた文字表記を工夫してきました。
 「漢字仮名併用、振り仮名つき」私は、この表記法が日本語にあっていると思います。

<おわり>


ことば遊び(音節と文字)

2010-10-19 09:53:00 | 日本語教育
2010/12/05
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>ことばあそび(1)「音節文字遊び」

 日本語教師資格取得をめざす日本人学生への日本語学の授業の中で、「ワークショップ」としてさまざまなことば遊びを行います。
 日本語教育に応用できるいろいろなことば遊びもあるし、日本語教師養成コースに所属する学生が、自らの日本語を見つめ直す、日本語への理解を深めるための遊びもあります。

 日本語の発音、音素・音韻・音節・異音・特殊拍などについて講義したあと、音節を利用した遊びをしてみます。
私が教室で「音節文字」を意識させるために利用していることばあそびのひとつはシリトリです。日本語は「ん」以外の音節は、母音と子音が組み合わさって発音される開音節であり、表記は、音節ひとつにカナ文字ひとつをあてる音節文字によります。

 音節利用の遊びはいくつもありますが、いちばん最初には、シリトリをやらせます。シリトリができるということは、日本語の音節構造がすべて頭のなかに入っているということを意味します。さらに「食べ物しりとり」「動物しりとり」など、ジャンル限定シリトリができる人は、語彙論品詞論がわかっており、「名詞の分類」ができているということになるのです。

 なぜ「n」がつくとシリトリが負けになるのか、ということなどを含めて、春庭日本語学の最初に講義します。日本語にとって、「ン」は、中国の漢字導入にともなって入ってきた発音であり、古い和語には、「ン」がつく言葉はありません。(古くからある野菜の大根ダイコンも大昔はオオネという名前でした)また、「ン」が語頭にくることはありません。義務教育の教科書類に出てくる「ン」がつく語は、地名ンジャメナ(N'Djamena・アフリカのチャドの首都)だけです。アフリカの地名人名には語頭に「ン」がつくことはよくあるのですが、ガーナの初代大統領の名は教科書では「エンクルマ」と書かれています。正しくはNkrumahンクルマです。

 音節文字は一対一対応で表記がたやすく、ひらがな50文字を覚えれば、自分の発音する文を、ほぼ正確に表記できるようになります。英語母語話者は、アルファベット27文字教わったところで、自分の話している言葉を書き表すことができず、右、ライトということを書き表すには、rightという綴り方(スペリング)を教わらない限り、書くことがむずかしい。raitと書いても、riteと書いてもライトと発音できるから、スペリングを習っていないと書けないのです。その点、日本語は、助詞表記や長音表記に誤記があったとしても、読む人に意味は通じます。1年坊主や留学生が「がこおわ、たのしところです」は「がっこうは、たのしいところです」と書きたいのだろうなあと、推測できます。
 中国語も、漢字約5千文字を覚えずには、読み書きできません。

 日本語の表記システムは、50個のかなを覚えるのは少々たいへんでも、その先がらくなシステムなのです。

 しりとりの次の音節文字遊びは、回文。
 右から読んでも左から読んでも同じ意味を伝えることができる、ということば遊びは、西洋でも行われています。古代ギリシャ語から、行われていたということば遊びですが、閉音節言語のアルファベットでこの遊びを行うには、かなり高度な技術を必要とします。

 たとえば、英語で左から読んでも、右から読んでも同じ意味にする遊び、palindromeといいますが、日本語ほど自由には作れません。右側から読んでみてください。
 Madam I'm adam.「奥様、私はアダムです」
 Now I see, referees, I won.「そうわかったよ、審判の皆さん、私の勝ちだ」
 Was it a bar or a bat I saw?「おれが見たのは棒か?それともコウモリか?」
 Borrow or rob?「借りる?それとも盗む?」

 開音節文字の日本語。ひらがなを逆にしてよめれば、小学生でもいっしょに参加できることばの遊びです。トマト、しんぶんし、ミルクとくるみ、胡麻と孫、庭のワニ、アニマルマニア、など、子供といっしょに遊んでみるのも楽しい。

<つづく>
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2010年12月07日


ぽかぽか春庭「名前で回文まさこさま」
2010/12/07
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>ことばあそび(2)「名前で回文まさこさま」

 留学生に回文を紹介するときは、「トマト」「しんぶんし」「ミルクとくるみ」などの「初歩」から、せいぜい「竹やぶ焼けた」「ダンスがすんだ」などを紹介するのみですが、日本語学を学ぶ日本人学生のクラスでは「回文自作」を課題にします。

 回文ルール 
1 濁音と清音はどちらに読んでもいい。
2 小さい「ッ」は、「つ」のひらがなにしてもよいし、つまる音(促音)にしてもよい。
3 拗音は直音に読んでもいい。「ちょき」は逆から読んで「きょち」でもいいし、「ちよき」と読んで「きよち」としてもいい。
4 ハ行点呼音で「わいうえお」に読む音は、「はひふへほ」と読んでもよい。たとえば、春庭は、歴史的仮名遣いで、「はるには」だから、逆から読むとき「はにるは」と読んでもいいし、現代仮名遣いで「はにるわ」「わにるは」と読んでも良い。

 日本人学生に紹介する回文の傑作のいくつか。
 平安時代の回文和歌
 「 むら草に 草の名は もし備はらば なぞしも花の 咲くに咲くらむ 」
むらくさにくさのなはもしそなはらばなそしもはなのさくにさくらむ

 江戸時代、正月初夢に吉夢を招く七福神宝船の絵に描き込まれた回文。
 「 長き夜の遠の眠り皆目覚め 波乗り船の音の良きかな 」
なかきよのとをのねふりのみなめざめなみのりふねのおとのよきかな

 江戸時代に仙台在住の「仙代庵」が作ったのは、短歌の回文。「皆、草の」
 「皆草の名は百と知れ薬なり優れし得は花のさくなみ」  
みなくさのなははくとしれくすりなりすくれしとくははなのさくなみ

 作者不詳のまま「江戸時代の回文」の傑作として有名なのが「時は秋」の回文。単に仮名を逆から読めるというだけでなく、秋の光景を描いた優れた詞文になっています。
 「時は秋 この日に陽 尋ねみん 紅葉錦の葉が 龍田川の岸にふえ 鬱金 峰 伝ひに  陽の濃き淡きと」
ときはあき このひに ひ たづねみん こうえふ にしきの はが たつたかはの きしにふえ うこんみねづたひに ひのこきあはきと  

 初歩課題は「名前」
 知っている名前、また自分の名前を回文にしてみます。
 自分の名前を逆さまに読み、句を付け加えると、回文句、回文川柳ができあがります。
 意味のつながりが強引なこじつけになることもありますし、ちょっと字余り、字足らずになる句が多いのは、ご勘弁願います。

 一番早くできる人、小池恵子さん。「こいけけいこ」最初から名前が回文です。右から読んでも左から読んでも「こいけけいこ」
 やんごとなききわでは、「まさこさま」左右どちらから読んでも「まさこさま」
  息子の保育園クラスメートに「越智幸雄おちさちお」君がいました。両親は、回文になるように名前を付けたのだそうです。

 手始めに歴史上の人物で。春庭創作回文を紹介します。
 第一弾は、平安女流文学編
 紫式部は真剣に源氏物語を書き、付記の指揮もして去っていきました。
「紫式部 真剣源氏 付記指揮 去らむ  むらさきしきふしんけんけんしふきしきさらむ」

 ライバルの清少納言や伊勢も負けじと単語探して和歌を作っています。
「清少納言 単語綯う 良し伊勢  せいしようなこんたんこなうよしいせ」

<つづく>
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2010年12月08日


ぽかぽか春庭「名前で回文坂本龍馬」
2010/12/08
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>ことばあそび(3)「名前で回文、坂本龍馬」

 春庭創作回文第二弾。戦国史の三武将が所望したものシリーズ。
 信長は、濃い味の名古屋味噌を所望しました、Oh!。
 「織田信長 味噌の望み 叶ふのだ、お!」
 「おたのふなか みそののそみ かなふのた、お!」

 豊臣秀吉は、初手から美味を所望しました 
 「初手 美味 豊臣秀吉」「しよてひみ とよとみひてよし」

 家康は、合戦の野営でも若くありたいと望んでいました。
 「徳川家康 野営 若くと 」
 「とくかわいえやすやえいわかくと」    

 春庭創作回文第三弾。幕末篇
 最後のときまで友を案じていたという坂本龍馬
 「舞うより友か 坂本龍馬」
 「まうよりともかさかもとりようま」

 大正昭和篇
 千円札の医学者、アフリカ・ガーナの世では、千円の備蓄も難しかったかも。
 「世で備蓄、野口英世」
 「よでひちくのくちひでよ」
 
 現代の政治家シリーズ
 首相の座、いつまでもつか。首相の座もあと十日で十週間で終い?なんだかなあ。
 菅直人、今しも終い 十何か 「かんなおと いましもしまい とおなんか」 

 口蹄疫もやっと収束したと思ったら、宮崎県知事から都知事をうかがう人、「どげんかせんといかん」が流行語大賞にもなった東国原英夫。タレント知事は、人々に握手の手を差し出すにも、昼に履いているズボンの腰も低くして行きます。

「お手、昼履く腰が低い。行く東国原英夫 おてひるはくこしかひくい いくひかしこくはるひてお」 
 芸名では。知事になってテレビに出る回数はそのまんま。司会も望んでいるとか。
 「ム、そのまんま東、司会まんま 望む」
 「む、そのまんまひかししかひまんまのそむ」

<つづく>
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2010年12月10日


ぽかぽか春庭「名前で回文安藤美姫」
2010/12/10
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>ことばあそび(4)「名前で回文安藤美姫」

 春庭創作回文。スポーツから、10日から始まるグランプリファイナルフィギュアスケート選手篇。
 紅葉の色も濃き秋、鈴木明子は銀盤に舞う。ロシア杯では2位でした。
 濃き秋、鈴木明子「こきあきすすきあきこ」
 安藤美姫はうどんの玉をまたお代わりしています。
 「君うどん、あ又玉、安藤美姫」(きみうどんあまたたまあんどうみき)
 新星、村上佳菜子は、子供時代から、演技の中身でジュニアトップに絡んできました。
 「子、中身絡む 村上佳菜子」(こなかみからむむらかみかなこ)
 高橋大輔は、博多で吸いたい。何を吸うのかは不明。絶対に大麻ではない。
 「高橋大輔吸いたし博多」(たかはしたいすけすいたしはかた)
 小塚崇彦は、そろそろ人恋しい年頃。恋に勝つ子は誰?と、問うています。
「人恋方、勝つ子、小塚崇彦 問ひ」(ひとこひかたかつここつかたかひことひ)

 カフェ友のお名前で回文。
 愛犬との散歩中の山や木々の美しさを愛で、心の中の神に祈る、chiyoisozakiさんへ。
 同音異義語さがしで、辞書をひいたら、「輿地(よち)とは、輿(こし)に乗る全世界、すなわち地球のこと」と出ていて、新しいことばを覚えることができました。
 「輿地 木誘い 神のみか いそさきちよ」
「よちきさそいかみのみかいそさきちよ」

 映画、格闘技、AVの世界で縦横にことばを駆る牧野光永さんの回文。前回お知らせした牧野回文に追加。AV取材に燃えるまっき~に。
「言え!罪の決まりかポルノのルポ駆り牧野光永」「いえつみのきまりかぽるののるぽかりまきのみつえい」
 まっき~さんからの「おかえし回文」をいただきました。自作ではないそうですが、「イタリアでもホモでありたい」
 イタリアだけでなく、世界中で是非。「マカオでおかま」。

 そこで、国の名シリーズ。
 炭鉱33人の救出劇、一人ひとりの個人が知恵を出し合い、理知ですごした穴蔵の生活。
 ・チリの落盤事故 個人は 蔵の理知 チリのらくはんしここしんはくらのりち」
 ・棚からカナダ (たなからかなた)
 ・腰決めてキスが好きでメキシコ (こしきめてきすかすきてめきしこ)
 
 「春庭」で、回文を作ってみましょう。歴史的仮名遣いで「はるには」編。
 春の庭の地の上を、次々に葉が降り敷いて埋め尽くしています。時は静かに移り変われど、世は似たり。
 「世は似る、葉を散る散る地を 春庭よ」「よはにるはをちるちるちをはるにはよ」
 あれ?葉が散るのは春の庭じゃなくて、秋の庭だよね。失敗作。

 ご自分の名前で回文を考えて脳トレーニングにしてください。名前回文、自己紹介のとき披露すると覚えてもらえますよ。以上、言葉遊び、春庭創作回文でした。

 私より上手な回文作者が大勢いて、世に出回っている回文、傑作がたくさんあります。
 う~ん、うまい!と思うものの中からいくつかご紹介。

 まっき~さんへの個人的紹介。お父さんのセクシャリティ篇。
・こそこそ歩くマメな父が乳なめまくる、ア、そこそこ(こそこそあるくまめなちちがちちなめまくる、あそこそこ)
・旦那もホモなんだ(だんなもほもなんだ)
・たいてい顔澄ましマスをかいていた(たいていかおすましますをかいていた)

 美しい自然篇
・虹ふたつが、雨あがった富士に (にじふたつがあめあがったふじに)
・雪に傘 小唄歌う子 坂に消ゆ (ゆきにかさこうたうたうこさかにきゆ)
・たった今、雁が舞い立った(たつたいまがんがまいたつた)
・和歌山や 桜 野良草 山や川(わかやまやさくらのらくさやまやかわ)
・軽はずみに来た滝に、水遙か(かるはずみにきたたきにみずはるか)
・ひなげしのたくさん咲く地区散策、たのしげな日 (ひなげしのたくさんさくちくさんさくたのしげなひ)

 世相篇 
・うかつにダムをひく、国費を無駄に使う(うかつにだむをひくこくひをむだにつかう)八ッ場ダムも大いに揉めました。 
・危機来るかと、軽く聞き (ききくるかとかるくきき)朝鮮半島がにわかにきな臭い。
・右方高速走行法 (うほうこうそくそうこうほう)高速道路は無料になったところもあって。
・痛いかい?解体。(いたいかいかいたい)倒産会社も続出。組織解体は身に染みます。
・力士の仕切り (りきしのしきり)野球賭博で揉めた大相撲も仕切り直し。
・世界を崩したいなら泣いた雫を生かせ (せかいをくずしたいならないたしずくをいかせ)

 世の中、こんなもんです、という回文。 
・内科では薬のリスクはでかいな (ないかではくすりのりすくはでかいな)飲み合わせが悪いと病状悪化の場合もあります。
・世の中ね、顔かお金かなのよ(よのなかねかおかおかねかなのよ)確かに!顔もお金もない春庭は、世に生き延びがたい。
・コネのあるあの猫 (こねのあるあのねこ)猫までコネを使う社会なのか!
・ママが私にしたわがまま (ままがわたしにしたわがまま)
・ 悪ガキ粋がるわ (わるがきいきがるわ)
・住まい持つ奴も居ます (すまいもつやつもいます)私は借家住まい続けてるけど。
・今朝、おいしいおでんで、おいしいお酒(けさおいしいおでんでおいしいおさけ)

 年末雑感篇
・サイナラ。祭りは終わりつまらないさ(さいならまつりはおわりつまらないさ)
・年末はつまんね (ねんまつはつまんね)

 皆様、年末のお忙しい中、つまんね回文におつきあいくださり、ありがとうございます。まことに天下太平上々首尾にて、おひらきです。

<おわり>

音響音声楽

2010-10-16 15:51:00 | 日本語教育
2010/12/01
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌>音響音声学(6)民族楽器の音色

 自分自身の楽しみのひとつとして、音響音声の授業では、「音紹介」ということをしています。私が世界のさまざまな民族楽器やめずらしい音を紹介するのと、学生が見つけてきた「クラスメートに紹介したい音」を発表するコーナーです。
 音響学や音声学の難しい専門用語が飛び交うなか、90分授業の「ほっと一息」つくコーナーなのです。

 これまでに私が紹介した「音」と「楽器」は、「世界で最初に録音された女性の歌声」とか、「ハピドラム」という新しい打楽器、また、タイのラナート(宮廷楽器の木琴)、アフリカのカリンバ(指で金属片をはじく、ピアノの原型)、インドネシアのアンクルン(竹を並べて振るわせ、一人が一音ずつ受け持つハンドベル式の楽器)、アイヌのムックリ(口のそばで糸を弾いてブンブ~ンという音を出す楽器、口琴)、グラスハープ(グラスに水を入れ、グラスのふちをこすって音を出す楽器)、パンフルートなど。
 毎回、世界各地の古楽器、民族楽器を紹介しました。

 以下、ユーチューブの中に紹介されている楽器の音、代表的なものを載せたので、クリックしてみてください。ピアノやバイオリンのようにポピュラーではない、日頃はあまり聞くチャンスのないさまざまな楽器の音色をお楽しみいただけると思います。今日は世界各地の民族楽器を、次回は古楽器、新楽器を特集します。

1)世界の民族楽器アフリカ篇
・カリンバ。アフリカのカリンバは、オルゴールの原型、ピアノの原型となった楽器。板や箱の上に並んだ鉄や竹の棒を親指の爪ではじいて演奏します。地域によって楽器の呼び名は異なり、サンサ、マリンバ等 100 以上の名前があります。
http://www.youtube.com/watch?v=ZvBpGBMALh8

・トーキングドラム(Talking drum)。西アフリカで遠距離の通信に用いる打楽器の総称で、地域によりさまざまな名がつけられています。太鼓の音の高低で会話と同じように通信ができるという。
 ひとつの太鼓で自在に音程を変えて演奏されています。
http://www.youtube.com/watch?v=B4oQJZ2TEVI
 別の地域のトーキングドラム
http://www.youtube.com/watch?v=ufnskSFweao&feature=related

2)世界の民族楽器アジア篇
・アイヌのムックリ
http://www.youtube.com/watch?v=nknrlW4d5Yo

・ラナート
http://www.youtube.com/watch?v=_vQ4ObfAHFY
 タイの映画The Overture 「風のラナート」より
http://www.youtube.com/watch?v=UHeKdX3q5ak
 
・キム。タイの弾琴楽器。中国の楊琴(ヤンキン)の系統の楽器です。女子十二楽坊みたいな合奏。
http://www.youtube.com/watch?v=9gkgp8agdNE&feature=related

・インドネシア
アンクルンには、一人が一音ずつ受け持つ演奏方式と、一人がたくさんのアンクルンを使う方式とがあります。春庭の留学生クラス文化紹介スピーチの授業では、インドネシアの学生が演奏して見せてくれたことがあります。
 一人の演奏
http://www.youtube.com/watch?v=3gkMvpSWxKs&feature=related
 ハンドベルのように一人一音を受け持つ演奏
http://www.youtube.com/watch?v=H4lfA3s4h-E&feature=related

 インドのシタール演奏を日本人演奏者石濱匡雄の演奏で。
http://www.youtube.com/watch?v=42Qqw7-x6Hg

<つづく>
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2010年12月02日


ぽかぽか春庭「古楽器、新楽器」
2010/12/03
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌(7)古楽器、新楽器

 音響音声学の「ほっと一息コーナー」で、学生達にさまざまな楽器の音色を聞かせています。私は世界の民族楽器が好きなので、楽しく紹介しています。学生達は、音楽の時間には習わなかった様々な楽器が世界各地に存在していることを知り、世界の文化への目を向けてくれることにもつながります。

3)古い楽器、新しい楽器
・パンパイプ。ギリシャ神話のパンが妖精シュリンクスを追いかけたところ、シュリンクスは水辺に逃げて葦に姿を変えました。パンはこの葦を笛に仕立ててシュリンクスを偲んだという神話からヨーロッパではパン・フルート、パンパイプ、またシュリンクスと呼ばれています。出自はアジアで、葦の茎や竹を長短に切って息を吹き込んでならす楽器。
 世界各地に民族楽器として存在しています。ルーマニアではナイ、アンデスのフォルクローレではサンポーニャ(Zampoña)と呼ばれている。日本では「パンの笛」のほか、「排簫(はいしょう)」「葦笛」と呼ばれます。
 シューベルト「アベマリア」
http://www.youtube.com/watch?v=Rrv7vOn7qLY&NR=1

・グラスハープ。ヨーロッパでルネサンス以前からガラス製のゴブレットに水を入れて指でこすって音を出す楽器が存在しました。
チャイコフスキー「くるみ割り人形より」
http://www.youtube.com/watch?v=EgoaehDEBrU

・篳篥ひちりき。日本の古い管楽器といえば、雅楽で使われるひちりき。一番有名な人の演奏をどうぞ。
ジョン・レノン「イマジン」。演奏者:東儀秀樹
 http://www.youtube.com/watch?v=dwQ1YaK-igA&feature=related

・ハピドラム。20世紀になり、カリブ海でドラム缶を叩いたことから新しい楽器が作られました。ドラム缶は、叩く場所によって音の高さが異なり、音階が作れることから、楽器として使用されるようになりました。1992年、トリニダード・トバゴ政府は、このスティールドラム(スティール・パンとも呼ばれる)を「国民楽器」として認定。ハピドラムは、それを改良した新しいスティールドラムのひとつです。日本製のスティールドラムは頑工GANKと名付けられています。
GANKの演奏
http://www.youtube.com/watch?v=84RP5sqbsC0&feature=related
スティールパン(鉄鍋)の演奏。演奏者:町田良夫
http://www.youtube.com/watch?v=wnsBh3D27R4

・ギターボットGuitarBot。2009年に実施された「創作楽器コンテスト」の2位入賞作品。制作者のEric Singer氏は、電子楽器バンド『LEMUR』(League of Electronic Musical Urban のソリストとしてこのギターボットを採用しており、ギターボットは「バンドの一員」です。複雑なソロを演奏も、バンドの一員としての合奏能力も備えており、各弦に触れるフレットが電動で上下にスライドして音程を決め、装置の端で回転体の4面に貼りつけられたピックが弦をかき鳴らして音を出しています。
http://www.youtube.com/watch?v=HxLTJmmyqn4
 優勝し、150万円の賞金を得たのはサイレントドラムという、柔らかいゴムのような膜を押すことによって、さまざまな形を作り、その形がコンピュータに入力されて音を作り出す電子楽器。
http://wiredvision.jp/gallery/200904/20090410075334.html

4)番外アフリカ篇
・タモリの「偽外国語」をつかった、アフリカ民族音楽風の曲。「ソバヤ」
 タモリの作詞(というか、適当にアフリカの言語風に歌っている)を書き取ったサイトがありました。マニアというのは、なんと几帳面なことをしてくれるのでしょう。暇人というか、感激です。世の中の役には立ちそうもないことを、真剣にやってくれる人、大好きです。

 タモリの作詞、知らずに聞けば、アフリカのどこかの民族言語と信じると思います。よく聞いていると、そばや、ふろや、とーふや、二階屋、平屋、など、日本語がまじっているのがわかります。タモリは、四カ国語マージャンなどで、でたらめなのに、その国の言葉に聞こえるタモリ語をあやつる芸で一世風靡しました。言語音の特徴を捉える天才です。

http://www.youtube.com/watch?v=Xx8mNJLIwbU&feature=related
タモリ作詞の歌詞
ウガラヌシメヤマ   (ソバヤ ソバーヤ)
ウガシカラモケ    (ソバヤ ソバーヤ)
ウーマカカラハレ   (ソバヤ ソバーヤ)
ウーガラハーヤケ  (ソバヤ ソバーヤ)
ウガクモハーナ   (ソバヤ ソバーヤ)
ユッスガマヨケ    (ソバヤ ソバーヤ)
フロヤノニカイデ   (ソバヤ ソバーヤ)
ウーガーゴガナ   (ソバヤ ソバーヤ)
ウタフクサーバ   (ソバヤ ソバーヤ)
ウッウッウッンガモケ(ソバヤ ソバーヤ)
バーカノカナシリャ (ソバヤ ソバーヤ)
ウエシサマコネボ  (ソバヤ ソバーヤ)
ウーガマガヤワスス (ソバヤ ソバーヤ)
ウガムマカゴケ    (ソバヤ ソバーヤ)
バァーッババーヤモマカゴケ(ソバヤ ソバーヤ)
バッババコマコマコマゴ(ソバヤ ソバーヤ)
バブベベーマズマズガソ(ソバヤ ソバーヤ)
アラビカナマスス (ソバヤ ソバーヤ)
マガグセゲーマヨ (ソバヤ ソバーヤ)
ワーッワーカニカガメケ(ソバヤ ソバーヤ)
ウーケバカソネカナモケ(ソバヤ ソバーヤ)

ウヘッ!(ソバヤ ソバーヤ)
ウワズゼシュホーウォウォ(ソバヤ ソバーヤ)
ガーノガノウォキセメラメェ(ソバヤ ソバーヤ)
ガマバキシミドゥキィ(ソバヤ ソバーヤ)
オーアアーウゲメロキ(ソバヤ ソバーヤ)
ガーマガマゴガマラ(ソバヤ ソバーヤ)
ガッガラガッゴッゲゲッゴォ(ソバヤ ソバーヤ)
ワカボレシネマノユ(ソバヤ ソバーヤ)
ワガボバットブベ(ソバヤ ソバーヤ)
ワキャヌデシネシメタトユ (ソバヤ ソバーヤ)
ワーシャベナベベー(ソバヤ ソバーヤ)
ワカモシネマヴァベ(ソバヤ ソバーヤ)
ソバヤーソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
フロヤフロヤ(ソバヤ ソバーヤ)
トーフヤトーフヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ニカイヤニカイヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ヒラヤヒラーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ガッガナソケゲマヨケ(ソバヤ ソバーヤ)
アークガナワキサマワケ(ソバヤ ソバーヤ)
ワークワクワクワケモンボセ(ソバヤ ソバーヤ)
ワーッソバヤソバヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ブッバブッバブッバブッバイ(ソバヤ ソバーヤ)
ワクサポーケーポーポパヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ソバヤソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ソバヤソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
アーッソバヤソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ソバッヤソバヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ソバッソバッソバッソバッ(ソバヤ ソバーヤ)
アーッアーッアアッアーッ(ソバヤ ソバーヤ)
※ソバーソバーヤ (ソバヤ ソバーヤ)
(少しフェイドアウト)
ソバヤソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ソバヤソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
※ソバヤソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
(フェイドインして元に戻る)
ソバヤソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
ソバヤソバーヤ(ソバヤ ソバーヤ)
アァーーーーーーーーッ!!
ソバッ ソバッソ ソバッソ ソバッソ 
サソバソ ウドン ウドン ウドン ソバ ソバァーー(ソバヤ ソバーヤ)
スープスバヤガマカワキャ(ソバヤ ソバーヤ)
アーッワカナゾソバタフン ソバ ソバ ソーヤ 
ソバヤソバーヤ ソバヤ ソバーヤ ソバヤ ソバーヤ

<つづく>
00:07 コメント(2) ページのトップへ
2010年12月03日


ぽかぽか春庭「アウニマコ」
2010/12/03
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌(8)アウニマコ

 私は最初の大学で小泉文夫と小島美子から民族音楽の授業を受けました。自分でも興味を持って調べてきたので、民族楽器についてはかなり詳しいほうだと思っていたのですが、世界各国からの留学生にまったく知らなかった民族楽器の紹介をしてもらうこともありました。そのひとつが、ソロモン諸島の竹筒の楽器です。

 ソロモン諸島から留学した数学教師。環境激変のためにカルチャーショックを受け、強いホームシックとなりました。島の酋長の一人でもある彼ですが、日本では「日本語が覚えられない落ちこぼれ学生」となってプライドを失い、一時は「帰国したい」と言い出しました。現役教師の「教育学研修」は、半年の日本語学習のあと、1年間の専門教育研修があります。ここで帰国してしまったら、せっかく「数学教育学」を研究するチャンスをなくしてしまい、ソロモンの教育のためにも損失です。

 私は、留学生授業の中で「我が国の文化紹介」という時間をもうけています。留学生にそれぞれの国の文化を紹介する日本語スピーチの時間、私にとっても楽しみな授業です。ソロモンからの留学生、島の民族楽器を紹介したことから自信を取り戻し、数学教育の研修を終えて帰国しました。今ではソロモンの高校で数学のよい指導者になっていると思います。
 http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/d725#comment
 
 彼はこの楽器を「アウニマコ」と呼んでいたので、私もカフェコラムの中にそう書いたのですが、youtubeにアップされているこの楽器の演奏では、演奏者が楽器の説明をしている部分の聞き取りでは、たしかに「アウニマコ」と言っています。しかし、この楽器の名をアウニマコと呼んで言及した人がネットの中にはいないらしく、「ソロモン アウニマコ」というキーワードで検索しても、出てくるのは春庭のサイトだけ。ネットに出てくるのは、youtubeにUPされたアレアレという部族名だけです。

 youtubeにUPされたアウニマコの演奏しているのは、多くの部族に別れているソロモン諸島のなかで、「アレアレ族」という人々です。ソロモン諸島にはたくさんの島があるので、島ごとに言葉も異なっています。共通語は英語とピジン英語ですが、31万人の人口なのに、小さな島の固有言語は50以上もあります。
http://www.youtube.com/watch?v=OVOUz6hWBHQ

 ついでにソロモン島のダンスと楽器演奏
http://www.youtube.com/watch?v=40oTJbqLsCk&feature=related

 学生が発表した「音」で、クラスメートの興味をかき立てた発表では、モンゴルにホームステイしてきた学生による「ホーミーの歌声」、一人の声帯からふたつの高さの音を同時に出すという不思議なモンゴルの歌声です。
http://www.youtube.com/watch?v=0moi71B8jv0

 フィジー島に行って語学研修してきた学生が、「フィジーの英語学校校長の学校紹介スピーチ」をtoutubeで聞かせて、フィジー人の英語はわかりやすい、という発表をしました。教師からの補足解説で、フィジー語は日本語と同じ5母音なので、フィジーなまりの英語と日本語なまりの英語は近い発音になり、聞き取りやすいのでしょう、話すと、「ああ、そうなのか」と、納得していました。

<つづく>
00:32 コメント(2) ページのトップへ
2010年12月04日


ぽかぽか春庭「環境音響学」
2010/12/04
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌(9)環境音響学

 音響音声学のクラスで、環境音響として、水琴窟の音を聞かせました。昔からの音響環境として、茶室などの庭にしつらえたものです。地中に瓶を埋め、そこに水を滴らせる。すると、水音の調べを楽しむことができます。
 http://www.youtube.com/watch?v=MBZBfz_krCM&feature=related

 学生からも、珍しい音環境の紹介がありました。車で走ると、道路の溝をタイヤがこすることによって音が生じ、一定速度で走るとメロディが聞こえる、というメロディロードという道路が、日本の各地に造られている、というのです。各地で録音されたユーチューブの音では、雑音が多くてよく聞き取れないものが多かったのですが、現地にでかけて車で走ってみると、土地にゆかりの曲、トトロ、歩こう、富士山、チューリップなど、様々なメロディがタイヤの下からきこえてくるのだろうと思います。

 学生の「環境音響」発表のひとつ、駅の発着音の発表では、皆が、「あ、この駅行ったことがある。聞いたことある」と盛り上がりました。鉄道ファンのうち、この駅の発着音を聞くためだけに旅行する「駅メロ鉄っちゃん」という人々もいるそうです。
 都内の駅でも、高田馬場・鉄腕アトム、駒込・サクラサクラ、蒲田・蒲田行進曲、三鷹・メダカの学校、恵比寿駅・第三の男、高円寺駅・阿波踊り、など、それぞれの地元にゆかりのメロディは、聞いていて心楽しいです。

 授業では環境音響学についてまでは説明することはないのですが、音響について学んでいくうち、学生の中にもしだいに自分の身の回りの音環境について関心が深まったように思います。日本語音声学から思わぬ広がりを見せた授業になりましたが、私自身勉強になりました。

 日本語音声学も、深く学んでいけばいくらでも新しいことを知っていく機会となりますが、音響学という理系分野の、これまで触れたことのなかった専門分野を少しでも知って本当によかったと思います。平面波球面波、純音複合音、ホワイトノイズとピンクノイズ、新しいことばもいっぱい覚えました。

 完全文系人間だった私、これまで物理や数学など、数字がでてくるとすべて敬遠してきたのですが、音響学も複雑な公式や数字が出てきます。しかし、そういうところはさらっとすっとばしても、音響心理学や環境音響学など、文系との接点になる分野も多いので、雑学好きな私にも楽しめる部分がありました。

 こうして毎年新しく勉強することがあって、守備範囲が広がることは、自分の「言語文化研究」を深めることとはまた別の楽しみがあると感じます。
 専門バカという言葉がありますが、昔、文学の先生から「自分の専門ばかりやっていると、深く極めているように見えて、実はぐるぐる回るばかりで、実際には深くなってはいないのだ」というお話しをうかがったことがありました。
 このときにはピンと来なかった話でしたが、自分の研究を続けている今、この話が腑に落ちるようになりました。ひとつのことを深く追求することは大切ですが、他の広い範囲からの刺激を受けることは、研究の深化に必要なことです。

 これから先、どんな世界が広がっていくのか、あと40年は生きていくつもりの私、楽しみは無限にあります。

<おわり>


音響音声学入門

2010-10-14 05:45:00 | 日本語教育
2010/11/24
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌>日本語学・音響音声学(1)池上彰式

 学生とメールでのやりとりが簡単になり、今期から授業コメントを紙媒体ではなく、メールでの送信としました。コピーするのも簡単になり、学生向けに「授業フィードバックコメントサイト」を開設しました。発表ネームはニックネームにしていますが、クラスメード同士は誰の感想かわかるようになっています。

 サイトにUPされた自分の名前を見ることで、学生は自分のメールが教師に届いたのかどうかを確認でき、翌週「先生、メールの不具合で私の授業感想が届かなかったみたいなので、もう一度送ります」と言ってくる。中には、単純に送付し忘れただけの学生もいるのだけれど、まあ、いいかと「じゃ、もう一度送ってください」と言うことにしています。

 日本語学の発表、ただ日本語教育辞典や日本語学辞典を調べてそれを引き写して発表するのではなく、必ずクイズかゲームをとりいれるよう、指導しています。先週の日本語学演習では、助数詞についての発表をする学生には、ゲームとして「数とり団」をクラスの皆でやるので、ゲーム進行の方法を考えてくるよう伝えておきました。
 授業感想の例をあげると。
===========
学生A:
授業フィードバック
今回は縮約語と助数詞、母音交代のレポートを聞きました、まず縮約語は中学生が対象のレポートでした最初のレジュメのケー番、告るなどはすぐに理解したのですが裏側に書いてあったがじてつやアフレコなどはさっぱりわかりませんでした。
次に助数詞です、つまり物の数える単位ですが何気なく使っているから意識していないだけで結構おもしろいと思います。
母音交代はなんとなくイントネーションにていて結構理解がはやっかたような気がします。
授業感想
 みなさんとても素晴らしい発表でした僕ももっと頑張らなくてはならないとと思いました、最近気付いたのですが先生の解説すごくてなんか池上彰みたいですごいと思いました。

学生B:
授業内容 
一人目の発表は、縮約形・縮約語の発表で、今の若者はその言葉として使っている言葉が本当は縮約されているという発表をしていた。発表は縮約語だけだったので、先生が縮約形のつけたしをした。縮約形とは、・いけなければいけない→いかなきゃなんない、いかなくちゃなんない ・やはり→やっぱり、やっぱ 等に変化することを言う。2人目は、母音交替の発表で、風と上で読み方は、かざかみ になるなどの話をしていた。3人目は、私が助数詞の発表をした。発表の後に、みんなで数取団をやった。
感想 
縮約語は、クイズ全然できませんでした。キャバクラとか、チューハイ、パリーグは、そのままで言葉として成り立っていると思っていたので、分からなかったです。こうしてみると、縮約してあってもそれがそのものの言葉だと思うことばがいっぱいあるんだろうな。と思いました。母音交替は難しかったです。助数詞は、始めて聞いた助数詞とかもあって調べてて楽しかったです。数取団懐かしくて楽しかったです。
================
 
 授業内容をまとめて書かせるのは、こちらも学生がどのように教わったことを把握し理解したかの理解度がわかって、理解不足のところは次回に補足できるので、書かせています。感想コメントは、それぞれの受け止め方がわかるので、こちらも読んでいて参考になります。「先生の解説すごくてなんか池上彰みたいですごいと思いました」という感想コメント、「すごくて~すごい」という日本語がなんですが、ああ、こういうほめ方もあるのだという参考になりました。池上彰が複雑なニュースをわかりやすく伝えている、という意味で、「先生は池上彰みたい」とコメントしたのだろうと受け止めました。
 退屈になりがちな日本語学の解説を、わかりやすく楽しく理解できるようにとこころがけていることを受け止めてくれているようなので、一安心でした。

<つづく>
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2010年11月26日


ぽかぽか春庭「専門外」
2010/11/26
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌>音響音声学(2)専門外

 中学校の国語教師だったころのこと。さほど大きい規模の学校でないところでは、ほとんどの中学校で「専門外」の教科を受け持たされる、ということがありました。美術科免許の先生が社会を教えたり、数学免許の先生が英語を教えたり。学校規模によって教師の人数が決まってしまうので、どうしても教科のばらつきが出て、免許教科外を受け持たざるを得なくなるのです。
 中学生のころ、音楽部に所属していたと話したために、私には「音楽を受け持ってほしい」と打診があったのですが、「とても生徒に教えられるような力はありません」と、お断りしました。音楽を受け持つには、バイエルやチェルニーを習った程度のピアノではとうてい無理、という私の「科目外受け持ち拒否抗弁」に、音楽の先生も賛成してくれたのであやうく教科外科目を持つことは逃れ、3年間国語を教えるのみでやりすごしました。

 カフェ日記でも、中学校美術の先生が数学を受け持ち、たいへん熱心に数学授業にも取り組んでいらっしゃるようすを読ませていただき、頭が下がる思いがします。もともと数学が好きだったのかもしれませんが、免許外の教科でも「生徒にもわかりやすく、自分でも数学を楽しんで」と、毎日の授業を工夫していらっしゃるようす、感心しています。

 私は、数年前「音響音声学」という学科を受け持つことになりました。「私は、日本語学の一部としての日本語音声学しか学んだことはなく、音響学についてはまったく何もできません。日本語音声学としての授業だけでいいのなら担当させていただきます」という条件で授業をはじめ、数年は日本語音声学だけ受け持っていました。

 去年から、「音響学基礎」について「自分も学びながら、学生とともに音についての知識を深めてみよう」という野心を持ち、少しずつ勉強しています。
 音響学は、物理学を基礎としています。周波数とか音波干渉とか、私には無縁だった世界を広げてみることになったのです。
 きっかけは、学生の発表内容でした。ある学生が「日本語と英語の音声の周波数は異なる。日本人には英語の周波数は聞き取りにくい」という発表をしました。いわゆる「英語周波数」にまつわる話です。

 「日本語の周波数は、最低が150HZで、最高でも1,500HZであるのに対し、英語(米語は別)はといえば、最低が2,000HZで始まり、最高は、12,000HZを超える高周波で話されています。英語に限ってみてみると、日本語と英語とでは、なんと、500HZの隔たりがあることになるのです」という記事がネットの中にもあり、日本人が英語会話を聞き取りにくいのは、周波数が異なるからだ、ということを発表したのでした。

 直感的に「それは違う」と思ったのですが、周波数とかヘルツとか言われると、数字に弱い私のおつむは、もううまく反論することができなくなってしまい、大いに反省しました。

 そこで、一念発起、音響について学びはじめ、「音」というものを物理学・工学的に理解することにしたのです。
 中学校理科、高校物理の時間に、音速がうんぬんかんぬんで、ジェット機は音速より速く飛ぶから、自分の出す音は聞こえない、とか、光は音より速いから、花火が光ってだいぶたってから「ド~ン」という音が聞こえる、などの話は理解できたのですが、その先の、フーリエ変換だの、等ラウドネス曲線だのメル尺度だのと言われても、もう何がなにやら、の世界です。

 でも、辛抱強く音響学関連について学び、今では自信をもって、「日本人が英会話を聞き取れないのは、周波数のせいではない」と言い切れます。英語と日本語の周波数が異なるから聞き取れない、という説は「とんでも科学、似非科学」であると学生には説明できます。サイレンの音が自分に近づくときと遠ざかるとき音の高さが変わることも物理学的に「ドップラー効果のしくみ」として説明できるようになりました。

 音声と音響について、自分の知識の幅が広がりました。

<つづく>
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2010年11月27日


ぽかぽか春庭「モスキートーン」
2010/11/27
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌>音響音声学(3)モスキートーン

 音響の基礎。
 音は、ものが振動することによって発生します。その振動が水や空気など媒体を伝わって耳に届くのです。空気中より水中のほうが速く音が届きます。1000メートル上空からと1000メートル海中から同時に音を鳴らすと、海からの音のほうが速く耳に届くのです。空気のない宇宙空間ではモノが振動したとしても、音を伝える媒体がないので、宇宙は無音です。

 音には、三つの要素があります。音量(音の大きさ・単位はデジベル)と、周波数(音の高低・単位はヘルツHz)と、音色(音の波形の違いとして見ることができる)の三つです。
 
 人間の耳は、人によって差があるけれど、およそ20ヘルツという低い音から、20000ヘルツという高い音まで聞き取ることができます。ヘルツというのは、音の高さを表す数字です。音の波が、1秒間に1回発生すると1ヘルツ。音のゆれが1秒間に20回発生すると20ヘルツです。20ヘルツより低い音もこの世には存在していますが、人間の耳には音としては感じられません。ただし、「振動」として身体に感じる人もいます。

 音の大きさはデジベルという単位で表します。人の普通の会話は30~50デジベルくらい、にぎやかな交差点の騒音は80~90デジベルくらい。120デジベルという大音量を聞かされると、短時間で難聴になってしまいますが、90デジベルくらいでも長時間聞いていると難聴になります。大きな音を出すチェーンソーを長時間使っていた木材伐採の労働者が短期間に難聴になったことから、音の大きさの問題が話題になったことがありました。
 ものが動くと音が生じるのですが、蝶の羽ばたきは2デジベルという小さな音なので、普通の人の耳には聞こえません。150~200デジベルというような大音量を耳の近くで聞かされると、鼓膜が破れるなどしてしまいます。音の大きさは騒音問題となって、特に都市地域では大問題になっています。

 音の高さ低さについて。20ヘルツ以下の音は、音というより振動として身体に感じます。8000ヘルツ以上の高音は人間の耳にはキーンという耳鳴りのような音に聞こえます。赤ん坊は高い音でも聞き取ります。25歳くらいまでは高音を聞き取り、しだいに高音が聞こえなくなっていきます。年をとると高音が聞こえなくなります。

 モスキートーン(Mosquitone,モスキート音)の聞き取り実験を「音響音声学」の教室でやってみました。
 子供の頃から聞こえにくかった私の耳は、もはや10000ヘルツまでしか聞こえなくなっていることがわかりました。いっしょに実験した学生達、私が10000ヘルツの音に「聞こえない」と言ったことにショックを受けていました。「老人の耳が聞こえにくくなっているって、ほんとなんだぁ」と思ったようです。

 学生達には15000の音はほとんどが聞き取りましたが、それ以上になると聞こえない者もでてきます。赤ちゃんの中には18000ヘルツの音に反応を見せることもあります。20000ヘルツでは皆が聞こえなくなります。ただし、犬や猫には聞こえます。この高周波音を応用したのが「犬笛」です。人の耳に聞こえず、犬や猫だけに聞こえる笛の音です。

 モスキートーンの音を聞いて何ヘルツまで聞こえるか確かめたい方は、次のサイトへ。25歳以上の方へ警告。最初の低い音の時は普通の音量でいいですが、高ヘルツになるにしたがって、音量を下げないと、キンキンした音が不快です。
http://www.youtube.com/watch?v=b3u7o7zBH5U

 いかがでしたか。私には10000ヘルツ以上はまったく聞こえません。若者は15000Hz~17000Hzが聞こえます。自分の耳年齢を自覚するのはよいことです。

 個人差があるのですが、年齢別のおおよその音の聞こえのめやす。
10歳代以下、20Hz~20,000Hz、
20歳代で20Hz~18,000Hz
30歳代で20Hz~15,000Hz、
40歳代で20Hz~14,000Hz
50歳代で20Hz~12,000Hz、
60歳代で20Hz~10,000Hz

 さて、この実験をふまえて、読んでいただくと、昨日の記事の「英語日本語周波数の違い」という論がわかりやすくなります。
 明日は、「英語日本語周波数の違い」という説が「とんでも科学」だということをお話ししたいと思います。

<つづく>
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2010年11月28日


ぽかぽか春庭「オギャア~は440ヘルツ」
2010/11/28
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌>音響音声学(4)オギャア~は440ヘルツ

 モスキートーンの聞き取り実験、やってみましたか。50歳以上の方、高音が聞こえないことに気づいたことと思います。これは自然なエイジングですから、高い音が聞こえないのは当然と思ってください。見た目を若く保つのは個人の努力次第ですが、耳の聞こえの老化は免れません。

 さて、世にある低い音高い音のさまざまな音の中で、人の話し声はどれくらいの周波数でしょうか。
 小学校中学校の音楽の時間に習った楽譜を思い出してください。♪ドレミファソラシド~の音階を「アアアアアアアアア」と発声練習をしました。楽譜のト音記号の下のドでア~と発声すると、約260ヘルツです。楽譜の上のほうに書き記された1オクターブ高いドが倍の約520ヘルツ(倍音といいます)。ピアノの伴奏の楽譜ヘ音記号がついているほうの、1オクターブ低いドは半分の約130ヘルツです。

 赤ちゃんが生まれた時に発声するオギャアという鳴き声の高さはおよそ440Hz前後です。この声はどの国に生まれようと、大きなちがいはありません。
 普通の声で話しているとき、男性の声での平均の高さは、150~550ヘルツくらい。女性は400~800ヘルツくらい。(男性は声変わりすると声帯が太くなり、声が低くなります)。話し声の高さは人それぞれですし、年齢によっても異なります。
 歌うときは、話し声より高い音低い音を出しています。中学校などの音楽教科書の合唱曲では下は100ヘルツの低音から、上は900ヘルツくらいまで出すような曲もあります。高い音を出す女性ソプラノ歌手だと、ア~と言いながら、1600ヘルツの音まで出すそうです。

 言葉を発音するに当たって、声の高さ(基本周波数)が500Hzを超えると母音(特にoの母音)が不明瞭になり始めます。500Hzというのはピアノの鍵盤でいうと、中央のド(C4)から数えて11番目のB4の辺り。一般の人では、1000Hzを超えると母音を発声することが不可能になるので、言語音としては用いられません。
 子音の周波数は母音より高いのですが、子音だけで発音する言語は、世界中にありません。必ず子音と母音が組合わさって発声されるのが人の言語です。

 私が直感的に「英語日本語周波数の違い」説を聞いて「この説は似非科学だ」と感じることができたのは、日本語音声学を学んで人の声の周波数について知っていたからです。音についての知識がまったくない場合、ヘルツだの周波数だとの聞かされると、なんとなく科学的な感じがして、信じ込んでしまうかもしれません。

 「日本語の周波数は、最低が150HZで、最高でも1,500HZであるのに対し、英語(米語は別)はといえば、最低が2,000HZで始まり、最高は、12,000HZを超える高周波で話されています。英語に限ってみてみると、日本語と英語とでは、なんと、500HZの隔たりがあることになるのです」という説のおかしな点がもうおわかりですね。
 
 どうしてこの説を「変だ」と感じたのかというと、まず、「英語の周波数が最高12000ヘルツを超える高周波である」という点でした。どの言語にも中心的な音声の周波数がありますが、12000ヘルツの高音など、ソプラノ歌手にもとうてい発声できない高い音です。
 しかも、「英語と米語は別」と書かれている点。どう見ても、音声学を学んだ人の説とは思えません。英語と米語は、発音の面で違いがありますが、それは音の周波数とは関わりがありません。母音の音色の違いや、語と語の音の融合(リエゾン)の違いによります。

 ケータイ電話は、言語音の周波数に合わせて、どの国のどの会社のケータイも200ヘルツから3400ヘルツの音のみを伝えるように設計されています。英語母語話者が、3400ヘルツ以上の高音を発声したとしても、ケータイではその音は伝わらないのです。もし、英語母語話者の発声が3000ヘルツ以上の高音が中心の音声ばかりであるなら、ケータイ電話では英語の会話は聞こえないということになります。(ちなみに、鈴虫や松虫などの虫の鳴き声は4000ヘルツ前後なので、ケータイではまったく聞こえません)。この事実だけでも、英語の周波数が高いから日本人には聞き取れないというのが「とんでも科学」であることがわかります。

 さて、さらに詳しく人の声の周波数について調べてみることにします。

<つづく>
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2010年11月30日


ぽかぽか春庭「人の声の周波数」
2010/11/30
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポンご教師日誌>音響音声学(4)人の声の周波数

 人間の声は、どの言語でも母音(呼気が口中のどこにも邪魔されずに出てくる音)と子音(口の中で舌や歯、唇などによって音が遮られてから外に出てくる音)の二種類があります。子音のほうが周波数が高い音になります。

 日本語の母音の「ア」の周波数を計測してみると、基本周波数と呼ばれるもので、男性は150Hz~250Hzくらい、女性は250Hzから300Hzくらいです。子供はさらに高い周波数です。
 「ア」の音声分析についてさらに詳しく知りたい方は、以下のサイトを。(音響測定を専門にしている会社のサイトです)
http://www.ymec.com/hp/signal/voice1.htm

 子音の周波数は母音より高くなります。日本語子音の周波数を計測すると、おおよそ「パ行」の[p]の音は、700Hzくらい。「カ行」の[k]の音は、960Hzから1300Hzです。
 英語母語話者の[k]の音の周波数を計測した実験によると、'cloudy'の[k]は、1,500Hz。came'、'market'、'capitol'の[k]だと、2,500Hz。日本語の[k]の子音より高いことがわかります。子音の周波数だけ比べると、英語のほうが高い、ということが言えるので、おそらく「英語と日本語の周波数が異なるから日本人は英語を聞き取れない」という説を出した人、(もしくは英語教材販売戦略担当者)は、ここを拡大解釈したのだろうと思います。

 しかし、英語でも日本語でも子音だけを発声しているのではありません。
 日本語は子音の数と母音の数はほぼ同じだけ発声されます。ひとつの子音に必ずひとつの母音を伴って発声するのが日本語の音声だからです。
 それに比べて、英語は子音の数のほうが多い。日本語でストライクというと、子音が5つで母音が5つになります。英語でstrike[straik]というと、子音は4つで、母音はaiという二重母音ひとつだけです。日本人の耳に聞き取りにくいとしたら、この「子音の連続」が聞き難い、ということでしょう。

 子音のほうが周波数が高いので、子音だけを比べれば英語のほうが高いということができるかもしれませんが、それでも、子供の声のほうが大人の声よりも高い、というほどの違いは「英語と日本語の平均的な周波数」に存在しません。声の響きにとって、母音が重要な要素だからです。
 たとえば、日本語で「た」と発音したとき、[t]と[a]が組み合わされて発音されますが、子音の[t]と[a]の音の持続時間を比べてみると、[t]は、[a]の15分の1の長さしかありません。「た」という音のほとんどは[a]という母音の響きを聞いていることになります。

 「英語日本語周波数のちがい説」の元の説は「世界の各言語には、もっとも中心的となる周波数がある」というだけのもので、それを、英語教材販売会社かどこかが、「日本人の耳には英語が聞き取りにくい。でも我が社のCD教材を聞いていると英語が簡単に聞き取れるようになりますよ」ということの宣伝のために、元の説を「とんでも科学」に変換したというのが真相のようです。

 日本人が英語を聞き取りにくいのは、以下のような理由がありますが、いずれも周波数の問題ではありません。

1,母音の数が異なる。日本語共通語は母音の数は5つ。英語の母音単音は9つ。(二重母音なども数にいれると30種類以上になる)
 
2,母音の音色が異なる。日本語の方が、口の開け方の変化が少ない。ことに「ウ」は口をすぼめない「ウ」なので、英語のウと異なる。しかし、英語の母音の音色のうち、「イ、ウ、エ、オ」の4つは、日本語と全く同じではないが、日本語の母音と同じで充分通じる。日本語にはない音色の母音。「イとエの中間の音」「エとアの中間」「アとオの中間」「オとウの中間」「口をあまり開けないア」などが、日本語の母音と異なる。

3,音節の構造が異なる。日本語は「子音+母音」の開音節。英語は「子音」が多用され、子音で音を閉じる閉音節の単語が多い

4,英語は、単語の中に強い部分と弱い部分を含む強弱アクセント。日本語は語に高い音と低い音が存在する高低アクセント。

<つづく>

虹の授業日本語基礎3万葉仮名

2010-10-05 07:48:00 | 日本語教育
2008/06/20
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(27)万葉仮名こもよみこもち

 日本語の漢字利用は、3つの方法がとられました。古代中国語の発音をそのまま取り入れる「音読み」と、日本語の意味にあてはめて、漢字を日本語通りに読む「訓読み」。
 それから、日本語の音節ひとつに漢字をひとつ当てる「万葉仮名」の方法。

 1)万葉仮名の方法。
 古代中国の仏典翻訳で、サンスクリット語の「ナーム」の「ナー」の発音に漢字の「南」を当て字し、「ム」の発音に「無」の字をあてる、という方法で、「音訳」をおこなった方法が、日本語にも応用されました。

 日本語の「は」という音節に中国語の漢字の音にあてはめて「波」、「な」を「奈」と表記しました。

 万葉仮名は、「な」という発音に対し、「奈」「那」「難」「南」「名」「菜」などの漢字のあてて表記しています。これらの漢字を崩した草書文字「崩し字」の表記は、「変体仮名」として、江戸時代まで使われていました。

 文字を知らなかった日本語が、「はな」という発音を「波奈」と書けるようになったのです。

 日本語音節ひとつに漢字ひとつをあてはめる万葉仮名が成立したあと、草書体の「くずした形」の書き方がひろまり、「草仮名」と呼ばれました。
 草仮名から「ひらがな」が形成されます。

 2)音読みの方法
 「花」は、現代中国語での発音は[hua(-)]です。
 古代中国語(中国南部地方)では[khua]という発音だったと思われます。四声はわかりません。(おそらく1声)

 古代中国語の「花」、有気音(息を強く出す音)で、「クファ」と聞こえたでしょう。
 日本語では、古代中国語の発音をまねて「カ」と発音しました。音読みで漢字を輸入したのです。
 
 3)また、「花」は、日本語の「はな」と同じものを指し示しているから、「花」を「はな」と読むことにしました。漢字訓読みの成立です。

 「海」は現代中国語では[hai(v)]です。古代中国語では[khai]。日本語では「カイ」という発音として取り入れました。
 日本語の「うみ」と中国語の「海」は同じものを指し示しているから「海」を「ウミ」と読むことにしました。

 「万葉集」は、このような漢字の音読みと訓読み、万葉仮名を混ぜ合わせて、工夫した表記がなされています。 

 万葉集の冒頭。(万葉集成立は7世紀末~8世紀初)
 雄略天皇の御製とされる万葉集冒頭の歌は、大君が求婚するときの伝承歌だったと推測されます。

 万葉仮名とひらがなを対照してみてください。 

籠毛与 美籠母乳 布久思毛与 美夫君志持 
此岳爾 菜採須児 家吉閑 名告紗根
虚見津 山跡乃国者 押奈戸手 吾許曾居
師吉名倍手 吾己曾座
我許背歯告目 家呼毛名雄母

こもよ みこもち ふくしもよ みぶくしもち
このおかに なつますこ いえきかな なのらさね
そらみつ やまとのくには おしなべて われこそをれ
しきなべて われこそませ
われこそは のらめ いえをも なをも

<つづく>
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2008年06月21日


ぽかぽか春庭「万葉仮名なにはつにさくやこのはな」
2008/06/21
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(28)万葉仮名なにはつにさくやこのはな

 (万葉集冒頭部分の春庭現代語)
   かご、美しい籠を持って、土を掘り起こす串、美しい串を持って
   この岡に 菜を摘んでいる乙女よ   家を聞こう 名を告げてください
   そらみつ 大和の国は おしなべて わたしのもとにある
   ひろく敷き渡ってわたしが支配している
   わたしこそは あなたに告げよう 家をも名をも

 求婚の意志を示すために自分の名を告げ相手の名を聞いています。
 自分の名前は、親と配偶者以外に知られてはならない大切なものでした。本名を告げることは、本名に伴う自分自身のすべてを相手にゆだねることになります。

 日本語音節発音に一字をあてている表記。籠毛与の「毛与」は、現代ひらがなにすると「もよ」です。
 日本語の発音、音節ひとつに漢字ひとつがあてられています。これが万葉仮名です。

 また、「籠こ」「岳おか」「家いへ」「吾われ」「山やま」などの名詞、持(もつ)告(のる)など、動詞に、同じ意味の漢字をあてて「訓読み」がなされている部分もあります。

 現在残されているもっとも古い写本でも、「万葉集写本」は1000年代以後のものです。
 このころの写本だと、日本語の文法構造がきちんと意識されていることがわかります。

 すなわち、名詞や動詞など、意味概念を表す語と、助詞などの文法機能を表す部分が区別されて表記されているのです。

 万葉集が編纂された当時の書き方はどうであったのか、推察の手がかりが発掘されました。
 先月、5月22日に発表された「万葉の和歌木簡」は、日本語言語文化にとって、大変重要なものです。

 聖武天皇の都跡といわれる紫香楽宮(しがらきのみや)から出土した木簡に、二首の歌が記されていました。

 この木簡の年代は、他の木簡に記されていた年代から740年前後のものと推測されます。
 万葉集16巻の成立年代は、750年前後(編者大友家持は785年没)。最終成立時期は800年前後)

 木簡に記された2首の歌は、紀貫之が書いた古今和歌集の仮名序(905年)に、初心者が最初に習う「歌の父母」である、と紹介した歌そのものです。
 貫之が、和歌を習うにも、お習字するにも手本とすべき「歌の父母」としたのは、次の二首。

「難波津(なにはつ)に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」
「安積香山(あさかやま)影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに」

 奈良時代、下級官吏が筆を手に「手習い」をして、懸命に文字の習得につとめているようすがわかる木簡も出土しており、この時代、人々にとって文字を読み書きすることは、「人生」がかかった大切なことだったことがわかっています。

 徳島県の観音寺遺跡から、7世紀のもの(689年以前と推察できる)と思われる習書木簡(お習字のための木簡)が出土しています。万葉仮名で「奈尓波ツ尓昨久矢己乃波奈なにはつにさくやこのはな」と記されていました。

 紀貫之が古今集仮名序に「歌の父母」として示した二首の和歌を、人々は口にだしてそらんじ、文字を習ったことでしょう。

<つづく>
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2008年06月22日


ぽかぽか春庭「万葉仮名くらげなすただよへる」
2008/06/22
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(29)万葉仮名くらげなすただよへる

 聖武天皇の紫香楽宮(しがらきのみや)跡から発掘された木簡。
 日本語の音節ひとつに漢字1字あてる万葉仮名で「奈迩波ツ尓(なにはつに)」「夜己能波(やこのは)」「由己(ゆご)」という文字が、木簡に書かれていました。

 古今和歌集仮名序に、紀貫之が引用した「難波津(なにはつ)に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」の一部とみられます。

 この歌の作者とされているのは、日本に漢字を伝えたという伝承がある王仁。
 大雀命(おほささきのみかど・後世につけられた名は仁徳天皇)が即位したとき、治世の繁栄を願った祝いの歌。

 冬ごもりをおえて咲き誇る花。年ごとに咲く花に、大王の繁栄を重ねた歌なので、王仁個人の歌というよりも、「みかどをそへたてまつれるうた」として、伝承されてきた和歌なのだと思います。

 もう一首。
 木簡の裏側には、「阿佐可夜(あさかや)」、下部には「流夜真(るやま)」と書かれていました。万葉集16巻に載っている、「安積香山(あさかやま)影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに」という歌が読みとれます。

 大和の国から九州へ東北へと勢力を広げたヤマトの大王。大王から陸奥国に派遣された葛城王をもてなす宴会で、昔、采女(うねめ)として大和朝廷に仕えていた女性が詠んだとされている歌です。

 地方の首長たちは、自分の娘や姉妹をヤマトの大王のもとに采女(うねめ=宮廷の女官)として差し出すことになっていました。采女のつとめを終えてふるさと陸奥の国へ戻っていた女性が、葛城王の前に召し出されて、歌を詠んだ。

 アサカヤ(マ)という日本語発音に「阿佐可夜(?)」という漢字が一字一音であてられています。万葉集成立以前に、広く「万葉仮名」が使われていたことがわかる、貴重な木簡です。

 万葉仮名の表記方法で記載されているもうひとつの書。
 古事記(成立712年)の冒頭。

「天地初發之時於高天原成神名天之御中主神【訓高下天云阿麻下效此】次高御産巣日神次神産巣日神 此三柱神者並獨神成坐而隱身也次國稚如浮脂而久羅下那洲多陀用幣流 ...」
と、太安万侶らは、記しました。

 「くらげ」ということばには、音節ひとつに漢字ひとつを「当て字」して「久羅下」と書き表し、「くらげなすただよへる=久羅下那洲多陀用幣流」と、音節文字の原型があらわれています。

 古事記本文は、漢字だけを用いて「変体漢文(日本風漢文)」で書かれていますが、古語や固有名詞のように漢文では表記できない部分は、一字一音表記で記す、すなわち音節文字の万葉仮名で記録するという表記スタイルを取っています。
 「花」は万葉仮名で書くと「波奈」,「クラゲ」は「久羅下」と書き表したのです。

 この表記方法を読み解いたのが、本居宣長です。(宣長の息子、本居春庭も国学者です。春庭が名前を借りています)

<つづく>
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2008年06月23日


ぽかぽか春庭「男もすなる日記にかかれた女手の草仮名」
2008/06/23
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(30)男もすなる日記にかかれた女手の草仮名

 この古事記万葉集の時代から200年ちょっとたったとき。紀貫之が、ひらがなの文章として、土佐日記を書きました。(成立935年)
 当時、男は漢字を書き、ひらがなは「女手」と呼ばれました。

 それで、紀貫之は「ひらがな表記」をするにあたって、わざわざ「男も書くという日記というものを、女も書いてみます」と、冒頭に記しました。教養ある男性は漢字漢文で文章を書くべきとされた時代に、あえて「女のふり」をして、ひらがな文を書いたのです。

 紀貫之は、漢文もお得意だったことでしょうが、こまかい情景の描写や気持ちの表現には、やはり頭に浮かんだ通りの文を、そのまま表記できるひらがなで書きつづってみたかったのでしょう。

 万葉仮名の表記方法で古事記や万葉集が記録されて以来、草仮名(ひらがな)が改良され、ひらがなの普及が、土佐日記を生み、源氏物語を生み枕草子を生んだのです。ひらがなは、漢字と組み合わせると自在に日本語を書き表せるからです。
 意味内容を持つ語は漢字訓読み、音読みを組み合わせて、文法的機能を表す助詞などはひらがなで、文法意識を持った文章が書き残せるようになっていました。

 音節文字ひらがなができ、さらに「いろは歌」の普及によって一般庶民の間にも文字が使われるようになり、中世近世の高い識字率を生みました。世界中で、近代教育普及以前に、日本ほど一般庶民が高い識字率を示していた国は、ほかにありません。

 漢字にもアルファベットにもできなかったことを、ひらがなが成し遂げたのです。
 これは、日本文化のおおいに誇るべき点です。日本日本文化の根幹に「仮名文字」があります。

 漢字をくずした形のひらがなができあがった。さて、もとの漢字、全部わかって、いますか。日本語学習者、漢字を覚えた後、ひらがなの元の漢字について質問してくる人がいますよ。

 クイズをしてみましょう。

 クイズ(1)「あ」の元になった漢字は「安」です。
 では、「え」の元の漢字は何でしょうか。
 え た は に も み な し ら む の元の漢字を推測してください。

 クイズ(2)「世」は、ひらがなの「せ」の元字です。
 では、 以 寸 不 仁 也 尤 奴 遠 部 与 ひらがなの何の元字?

 クイズ(3)カタカナは漢字の一部分をとって作られています。次の漢字は、どのカタカナの元字でしょうか。
 畿 散 川 奴 八 女 礼 乎 三 己

 さて、15点満点。何点でしたか。

 クイズの答えは、以下のひらがなカタカナの元漢字表を見て、みつけてください。

ひらがなの元漢字表(漢字の草書体から)
安 以 宇 衣 於
加 畿 久 計 己
左 之 寸 世 曽
太 知 川 天 止
奈 仁 奴 称 乃
波 比 不 部 保
末 美 武 女 毛
也・・由・・与
良 利 留 礼 呂
和 為・・恵 遠

ウィキペディア ひらがな表
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Hiragana_origin.svg

カタカナの元漢字表(漢字の一部分をつかう)
阿 伊 宇 江 於
加 畿 久 ケ 己
散 之 須 世 曽
多 千 川 天 止
奈 二 奴 称 乃
八 比 不 部 保
末 三 牟 女 毛
也・・由・・与
良 利 流 礼 呂
和 井・・恵 乎
(ウィキペディア カタカナ表)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A

<つづく>
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2008年06月24日


ぽかぽか春庭「生娘芝生で生ビール」
2008/06/24
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(31)生娘芝生で生ビール

 1) 音節文字は、ひとまとまりの発音「子音と母音の組み合わせ」を含んでいるでいる。
 2) ひらがなひとつで、日本語音節ひとつの発音を表している。(だだし、後世に記述するようになった拗音は、音節ひとつをひらがなふたつで表す。きゃ、きゅ、きょ、など)
 3) 漢字から新しい文字が作られた。一つの漢字が一つの音節を表す万葉仮名から草仮名ができたこと。
 以上、日本語のひらがなカタカナについて確認しました。

 kotosuzume さんからのご質問
 「中国語では、外国人名やオノマトペ(擬音擬声語擬態語)、をどのように書き表しているのか」
について、春庭掲示板に回答を載せております。

 また、春庭本宅HP『話し言葉の通い路』の中、
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/0307tyuu7mi.htm
に、「中国語漢語外来語カタカナ語」というタイトルで、中国が外来語をどのように表記しているか、書いてあります。
 カフェコラム7月に掲載予定。

 漢字ならお得意だろうと思われる中国語話者にとっても、日本の表記システムにむずかしい点があります。音読みも訓読みも覚えなければならないので。

 中国語標準語(北京官話=マンダリン)の漢字の読みは、原則ひとつの漢字に読み方(発音)はひとつだけです。
 「行」の発音は[xing(/)]だけ。

 日本語の漢字は、ひとつの漢字に読み方は音読みが最大3種類。
 漢字輸入時期の違いによります。奈良時代以前の発音=呉音。奈良時代以後の発音=漢音。鎌倉室町時代以後の発音=唐宋音。
行の読みは
呉音ギョウ「一行いちぎょう」「修行しゅぎょう」、
漢音コウ「一行いっこう」「旅行りょこう」、
唐音アン「行灯あんどん」「行脚あんぎゃ」

 「一行」でも、文脈により、「上からいちぎょう目」「芭蕉師弟いっこうは、宿に着いた」など、読み分けなければなりません。

 日本の漢字の訓読みは、ひとつの漢字に最大10種類。
 クイズです。
 「生」のよみかた、12通り。音読みの2種類はだいじょうぶでしょう。
 さて、10通りの読み方がある訓読みは?
 「生」の訓読み、全部言えますか。辞書を見ないで、幾つ思い出せるかな?

音読みは2種類
A)呉音読みの「ショウ」一生、生涯、生滅、生国、生者必滅、生姜(ショウガ)
B)漢音読みの「セイ」 学生、先生、生活、生殺与奪

 訓読みの確認。(覚え方:言う翁、なりわい生麩あいさんさん)
1)い 生きる、生かす、生ける
2)う 生まれる、生む
3)お 生う、生い立ち
4)き 生娘、生一本、生粋、生地、生真面目、生絹(きぎぬ/すずし)
5)な 生る 生り物、生り年、
6)なり 生業(なりわい)
7)なま 生ビール、生足、生兵法、生返事、生半可
8)ふ 芝生
9)あい 生憎(あいにく)
10)常用漢字表外の特殊な読み方 生飯(さば/さんぱん) (生方=うぶかた、その他、人名訓よみはさまざま)

<つづく>
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2008年06月25日


ぽかぽか春庭「鬼子母神に生飯」
2008/06/25 
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>にじの授業(32)鬼子母神に生飯

 同級生に生方さんがいたから「うぶかた」は、知っていましたが、「生飯」を「さんぱん」と読むとは、私も知りませんでした。「生飯」は「さば」というひらがな表記もありますが、これは撥音「ん」や促音「っ」を昔は表記できなかったため。

投稿者:sumitomo
 生飯(さば/さんぱん)・・・はずかしながら!初対面です・・・また、一つ日本語覚えました。2008-06-24 14:43 

 すみともさんは謙虚ひかえめな方ですから、初々しくはじらいながら「生飯」とご対面。

 私も「生飯」初対面でしたが、知らないことばに出会うのは、うれしいこと。「はじめまして!日本語さん」の気持ちです。

 広辞苑の説明では、生飯は唐音読み「サンパン」、「ン」の字を表記しないと「サバ」になる。意味は、「食前に飯を取り分けて、鬼神に供えること」とあります。

 明治時代、皇室は聖徳太子以来千年の伝統を持つ仏教信仰を捨てて、廃仏毀釈を進めました。
 生飯も、「仏教行事に由来するから」と廃止されてしまった宮中行事のひとつだそうです。

 インド仏教、サンスクリット語ではサバ。
 この場合の母音は、鼻母音と思われるので、中国語表記されたときに「散飯」「生飯」「祭飯」などの当て字がされたと考えられます。

 飯を散らす供養なので散飯とも言いますが、他に、サンパンの当て字として、産飯、三飯、祭飯。サバの当て字として、三把、最把。

 仏教辞典では
「食事のときに少しの飯粒をとりわけて鬼界の衆生(餓鬼など)に施すこと。あまねく諸鬼に散ずるために「散飯」ともいう。
 最初に三宝(仏法僧)、次に不動明王、鬼子母神に供するところから「三飯」という。
 
 「さんぱん」は、常用漢字としての読み方ではないし、仏教文化研究の留学生には必要なことばかもしれませんが、一般的には知らなくても一生困りません。
 でも、「生ビール」はナマだけれど「生娘」を「ナマ娘」と読んではいけない、ということは、留学生も覚えなければなりません。

 ナマ娘だと、なんだか生々しい。
 靴下やストッキングを履いていない足を「ナマ足」と呼ぶようになって以来、ナマ娘は、下着も上着も身につけていない、すなわち「スッポンポン」で人前にでているって気がしてなりません。

 生娘が飲む生ビール。鬼子母神に供する生飯。
 さて、鬼子母神です。

 同音異義語の練習で、日本語教師志望者に「きしゃ行事にきしゃした人へのインタビューを終えたきしゃのきしゃがきしゃできしゃした」のかき分け問題を課します。

 答えを確かめるために、広辞苑の「きしゃ」が並んでいるページをコピーして渡します。ゆっくりめに時間をとるので、早い人はちゃっちゃと「きしゃ」の答えを調べて、時間が十分余る。

 各人、正解の漢字をチェックしたあと、私からの質問。「はい、いま、『きしゃ』が書かれているページを読みましたね。『きしゃ』は、いくつあった?」
 日本人学生たち、騎射、喜捨、貴社、記者、汽車、帰社、などを答えます。

 私の質問の真意は次にある。「はい、質問。きしぼじんって何?」
 私が配った古い版の広辞苑では、「きしぼじん」と「きしゃ」は、同じページにのっています。私が学生に課したかったのは、「きしゃ」を調べた後、余った時間でそのページの挿し絵に目がむくかどうか、ということ。

 電子辞書が普及していますが、電子辞書では「きしゃ」という漢字を調べたいとき、当該の文字しか画面に出てこない。
 しかし、紙の辞書なら、「きしゃ」を調べると、そのページにある鬼子母神の挿し絵に目が向く。(向かないでボウッとすごす学生も多いけど)

 あれ、この絵は、なんだろう?鬼子母神って、きいたことあるな。そうだ、大学近くの最寄り駅から都電にのったとき、「鬼子母神前」ってとこ、通ったことがあったなあ。
 鬼子母神とはどんな仏神なのか、それまで興味がなかったことにも目を向けるチャンス。

 東京の最後の地下鉄路線「副都心線」開通で「鬼子母神前」は、ますます人気のスポットになっています。

 日本語教師にとって、新しい文字、新しいことばを知るきっかけは、どこにもころがっています。電子辞書は、学校に持って来るには、英和も国語も漢和もはいっているから、軽くて便利です。

 でも、家で調べるなら、だんぜん重たい広辞苑や大辞林をひいてみてください。「きしゃ」をしらべて鬼子母神もついでに調べられるのは、紙の辞書ならでは。

 そんな話を学生にはしています。

<つづく>
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2008年06月26日


ぽかぽか春庭「リス栗鼠りす」
008/06/26
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(33)リス栗鼠りす

 現代仮名遣いでは動植物は原則としてカタカナで書くことになっています。
 ですが、リスは、「リス」「りす」「栗鼠」と、三種類の文字で書くことができ、どれをつかっても理解してもらえる。

 平成生まれの日本人学生たち、栗鼠が読めない。
 現代中国語(北京語)ではリスは「松鼠son(-)shu(v)」です。現代中国語で「栗の実」は「栗子lizi」です。

 古代中国語南部地方では、リスは、栗の実を食べる動物、「栗鼠lishu」という語だったのだと推測されます。日本語の和語にはラリルレロを語頭にする語はなかったから、栗鼠は中国語から入った語と推測できます。

 古代日本語では、狩りをして肉として食べられる動物は全部「しし」でした。中国語漢字が入ってから「鹿」や「猪」「獣」などの文字を使うようになりましたが、発音は全部「しし」でした。「しし=肉=肉になる動物」。

 肉を利用しない栗鼠の場合、中国語の「リス」という読み方がそのまま動物名になりました。

 一方、ニスはふつうはカタカナで書き、ひらがなや漢字の当て字「仮漆」という表記はほとんど見かけません。
 ニスの語源はオランダ語のvernis(英語のvarnishにあたる)だとお話しました。タバコは、たばこ・煙草という表記も可能で、外来語意識はなくなっているけれど、ニスには外来語意識が残っているので、カナカナ表記するほうが多いです。

 でも、ニスという語を初めて耳で聞いたときに、それが外来語なのかどうか、どうやって区別しますか?私たちは、カタカナで書いているから外来語だと思っているだけです。 留学生にとって、カタカナのことばの表記を覚えるのは、なかなかたいへんです。

 英語圏の学生は、英語由来の語だと、どうしても英語の発音通りに書こうとしてしまうし、英語圏以外の留学生にとっては、どれがカタカナで書けばいいのかわからないから、一語一語、書いて覚えます。

 また、外来語の省略語は、もとの語とはまったくちがう意味になるものもあるので、かれらにとっては、「オリジナルな日本語」であり、「カタカナで書かなければならない語」として記憶しなければなりません。

 パーソナルコンピュータを略して「パソコン」、エアーコンディショナーを省略して「エアコン」というのは説明しやすい省略語ですが、リストラクション(再構築)が、リストラになると、「会社都合の人員整理で首切り」の意味に変化してしまうので、元の英語はださないほうが意味の混乱が少ない。

 カタカナ語の指導にも気をつかいます。

<つづく>
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2008年06月27日


ぽかぽか春庭「すぐに、へんし~ん」
2008/06/27
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(34)すぐに、へんし~ん!

 「りす」という音のつながりを耳にして、頭には「りす」「リス」「栗鼠」という三種類の表記が思い浮かぶ。
 一方、「南」という文字を見れば、「みなみ」「なん」という発音が思い浮かび、「風」という文字を目にすると「かぜ」「ふう」という発音がでてくる。

 「南風」という文字のつながりを見て、「なんぷう」「みなみかぜ」さらには、「ハエ」という発音もある。現代日本語で、「ハエ」は、関西以西の地方で使われていますが、日葡辞典(にっぽじてん=室町末期に宣教師によって編纂された日本語ポルトガル語辞典)にも記載されています。
 東風なら、とうふう、ひがしかぜ、こち。

 このように、ある文字列をみて、同時にふたつの発音を思い浮かべることができるという言語生活を日常的に行っているところは、世界中にほかにはありません。

 「行って」と「世界中」、どう読みましたか?
 文字を見て、どう読むか(発音するか)ということにルールはあります。
 「世」は「せ」「よ」、中には「なか、ちゅう、じゅう」という読み方があるけれど、世界中は「せかいじゅう」と発音する。

 「行って」はこの場合は「おこなって」と読むのですが、「いって」という読み方も可能です。「行う」「行く」は、二つの動詞に同じ漢字をあてて、活用の「テ」をつけると、漢字表記が同じになるので、文脈から判断するしかなくなります。
 行う行って、行く行って。私は、「おこなって」と書きたいとき、漢字を使いません。まぎらわしいから。「着る・着く」は、「着て・着いて」と、区別できるのですが。

 こんな不便はありますが、漢字仮名交ぜ表記は、日本語文法機能をうまく表現できる、見た目にわかりやすい表記です。速読に適しています。小学校1年生から漢字教育が徹底され、義務教育終了時には、常用漢字約2千字の読み書きができる「ことになっています」

 しかし、日本語を習う側にとっては、なかなかたいへんです。

 「すぐヘンシンをおねがいします」と、頼まれたとき、漢字を知らない小学校一年生でも、「ヘンシン」の意味を考えます。そして、○○レンジャーだか○○マンだかの変身ポーズをとって、「へんし~ん」と、言うかも知れません。

 でも、大人だったら、「変身」なのか「変心」なのか、「返信」なのか考えて、仕事などの通常の状況だったら、「返信しなくちゃ」と判断します。
 上司に「あ、君、営業部から連絡きたから、すぐにヘンシンして」と言われて、上司のまえでウルトラマンのヘンシンポーズをとったりしたら、出世は見込めません。ジョークの通じない人、多いですから。

<つづく>
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2008年06月28日


ぽかぽか春庭「JR駅前スタバで2時に待ち合わせ」
2008/06/28
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(35)JR駅前スタバで2時に待ち合わせ

 「ニジの授業」の最初に、学生に「に」「じ」を書き取らせました。
 私は、「に、じ」を、どのように書いてもいいですよ、と言いました。そうしたら、漢字で書いた人、ひらがなで書いた人、カタカナ、ローマ字、2時のように数字を使った人もいました。

 虹、二時、二字、二児、二次、にじ、にぢ、ニジ、ニヂ、2時、2[日寸]、2次、2字、2次、niji nidi nizi、、、、なぜ、こんなにいろんな書き方が出てくるのか。
 漢字、ひらがな、カタカナ、数字、アルファベット。
 それは、この5種類の表記法を、日本語母語話者は、みなが実際に使って生活しているからです。

 [日寸]は、中国簡体字の「時」です。中国語を学習中の日本人学生が、どんな表記でもいいというので、書いた文字。

 中国では漢字と数字、韓国朝鮮では、ハングルと数字、アラビア語の地域ではアラビア文字とアラビア数字。タイではタイ文字とタイ数字。
 ほとんどの地域で、数字と文字の2種類で表記しているのに、日本語は、5種類の文字を使い、町のなかにも、駅名でも看板でも、ひらがな、カタカナ、ローマ字、漢字、数字、どれも使われています。

 私たちは、漢字もひらがなも混ぜて書くことを身に付けてきましたが、日本語学習者にとって、日本語教育の最初の関門は、文字です。

 「明日、JRの駅前で待ち合わせましょう。2時に駅前のスタバでコーヒーでも飲みながら待っています」というメールを受け取ったとしましょう。
 ごく普通の文面と思って読んだでしょう。

 文字表記のうえからみると、世界でももっとも使用文字種類の多い文面なのです。
 この短い文面に、漢字、ひらがな、カタカナ、数字、アルファベット、すべて入っていて、どれも、生活に欠かすことができない文字です。

 日本語学習者から見ると、5種類の文字をすべて使いこなせなければ、日本人からのメール連絡も受け取れず、日常生活にさしさわりが出ます。

 同じ音を表すのに、「あ」と「ア」のふたつとも覚えなければならないことだけでも、かなり負担が大きいです。ここでまごまごしていると、漢字教育が始まったとき、あっぷあっぷになります。

 日本語学習者、漢字を覚えないと語彙力が伸びないので、漢字を覚えない人は、いつまでたっても、小学生程度の文章しか読みこなすことができません。

 日常会話だけできればいいという人は、無理に漢字を覚えなくてもなんとかなります。でも、留学生が「大学の授業を受けたい」と希望したとき、漢字を覚えなければ、授業を聞き取ることもできません。

 工学部の先生が、授業で「え~、このセンケースーガクをキソとしてコーテーハンイをニンチさせるカテイにおいて~」なんて、講義したとき、たとえば、「コーテイ」を、高低、肯定、行程、公定、校庭、工程、公邸、校訂、皇帝、高弟、更訂、航程、黄帝などのなかから、適切な語彙を選び出し、「ハンイ」は「範囲、反意、犯意、叛意、藩医」から、「カテイ」について、「家庭、仮定、過程、課程、下底」という候補の中から、適切な意味を推測しなければなりません。

 「工程範囲の過程」だろうと思ったら、「高低範囲の下底」かもしれません。
 私たちは、文脈から漢字をあてはめて発言意図を推測するということを、毎日無意識の脳内処理でやっているのです。

<つづく>
09:39 コメント(5) 編集 ページのトップへ
2008年06月29日


ぽかぽか春庭「虹は虫ヘン、天の蛇」
2008/06/29
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(36)虹は虫ヘン、天の蛇

 日本語教師、漢字が読み書きできるだけでなく、漢字について学習者が質問してきたとき、答えてやらなければなりません。
 日本語教師は、日本語学習者にとって、日本文化の窓口なのですから。

 虹、という字を日本語学習者に教えます。
 なぜ、空に出ている虹のヘンが「虫」なのか、と留学生が質問してきたら、なんとこたえますか。これは、漢字文化のトリビア。考えてみて。
 虹は虫の仲間?

 「虹はなぜ虫ヘンか。はい、こんなトリビア、知らなくても生きていけるし、日本語教師をつとめていくこともできます。でも、もし、漢字に興味をもって知りたがる留学生がいたとき、わからない、と答えるよりも、教えてあげられたほうがいい。

 わからないことを質問されたらどうするか、そんなこと、簡単。来週までに調べておきますね、と答えればいいだけです。

 私も、質問されるまでは、なぜ虹が虫へんなのかなんて、気にしたこともありませんでした。何年か前に留学生から質問がでたとき、調べたんです。
 答えを教えてほしい?
 でも、先生から答えを教わって暗記するのが勉強じゃないの。自分で興味を持って調べることが勉強。

 私たちは百科事典として生きているのではないから、すべてのことを知っている必要はない。
 でも、日本語に関すること、日本文化や歴史に関すること、調べ方はしっておいたほうがいい。ここを調べればこれがわかる、という調べ方は身につけておくように。

 もっとも、最近はなんでも検索すればわかるけどね。
 ただし、検索した記事に間違いが多いから、必ず、複数の本、複数のサイトを調べなさいよ。

 なぜ、「虹」は、虫ヘンなのか。
 虹は、蟻、蜂、蝶のように、古代の人は、虹を虫だと思ったのか?
 という宿題について、翌週、調べてきた人がいたら、発表してもらう。
 だれも考えてなかったら、教師が解説するしかないけれど。

 教師の話をきいて、「ヘェ」ボタンを押したところで、そんなのは、3日もたてば忘れちゃいます。でも、自分で調べたことは一生忘れない。自分で調べることが大切なんですよ。

 古代中国では、竜や蛇が水をつかさどっていると考えられていました。龍神・蛇神が、雨のあとに空に作るものが、虹です。
 沖縄の宮古島では、虹のことを「てぃんばう=天の蛇」というそうです。竜や蛇が雨や水に関わることが、言葉に直接あらわされていますね。

 では、なぜ蛇や龍が「虫」なのか。次回の解説で。

<つづく>
07:21 コメント(5) 編集 ページのトップへ
2008年06月30日


ぽかぽか春庭「オスのにじもメスのにじも虫の仲間」
2008/06/30
春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(37)虫の仲間

 ムシが三つくっつかった「蟲」が、「虫」の本来に文字。「ムシ」がウヨウヨ集まった姿。現在は省略されて「虫」ひとつ。

 中国の文字、漢字には、古代中国人のものの考え方が反映されています。

 古代中国の人々にとって、海にいるのは魚の仲間。
 水の中に住んでいて泳ぐ動物は魚ヘンだから、くじらは鯨。
 空は鳥。ヘンやツクリその他に鳥がいる。鳩、鶴、鷲、鷹、鴨、鴎、、、、
 毛皮の四つ足「ケモノ」には「獣偏」がある。「猫」や「狼」の左側の部分。
 動物のうち、水の中で暮らしている魚でもなく、陸にいて毛皮がある四つ足でもなく、鳥でないものはどうするか。

 四つ足、鳥、魚以外の動物、これをひとくくり。「虫」と呼びました。
 空飛ぶ鳥に見えるけれど、卵を産まないコウモリは、鳥でもケモノでもない。
 こうもりは「蝙蝠」。すなわち、虫のなかまにされた。

 今でいう昆虫などだけが虫なのではなく、魚、鳥、四つ足動物以外のものが虫。カエルって、漢字で書いてみて。そう、「蛙」だよね。虫へんです。
 蝦エビも、蟹カニも、蚯蚓ミミズも、蠍サソリも、蛤ハマグリ、蜆シジミも虫の仲間でした。

 爬虫類は、蜥蜴トカゲは虫の仲間だけれど、水の中で暮らす鰐は魚の仲間。
 亀は甲羅の形から象形文字が作られた。
 竜も、頭に「辛シン(針のような頭飾り=つの)」をつけた姿の象形文字です。
 蛇の右側(旁ツクリ)も、蛇の姿から作られた象形文字です。

 竜が水をつかさどる神とされてから、背中のたてがみを表現した、より威厳がありそうな「龍」の文字も使われるようになりました。私自身の使い分けでは、「想像上の動物」を意味するときは「竜」、神体・神獣を表すときは「龍」を使っています。

 工業などの漢字、工は、ものさしの形から作られた象形文字です。ものを作るときに、ものさしを使うので、意味は「作ること、工作」
 じょうずに作ったら、「巧」です。

 空に龍神蛇神が作った虹。竜が空に横たわる姿を現しています。
 「虹コウ」はオスの龍が空に横たわる姿。メスの龍が空にかかると、「[虫+睨-目]ゲイ」です。

 「にじ」オスとメスの区別なんぞ考えたことも見たこともなかった。どうやって区別するんだろう?すべての物事を陰陽にわけたい中国の考え方が、このようなところにも表れていると言えるのかもしれません。

 このような古代中国人のものの見方を表現している漢字。
 殷時代の甲骨にたくさんの漢字原型が記されています。発掘が進むたびにより古い時代の甲骨文字が発見されていますが、およそ紀元前2千年前から文字が作られてきた、と今のところは考えておきましょう。

 甲骨文字はすでに文字としての形態を示していますが、文字の前身の絵文字となると、寧夏回族自治区中衛県の大麦地で発見された岩画群に大量の絵文字が表されており、甲骨文字以前の姿を見せています。甲骨文字より数千年前にすでに絵文字が存在しています。

 東京大学博物館所蔵の甲骨文字画像
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/DM_CD/DM_CONT/KOKOTSU/HOME.HTM

<つづく>


虹の授業日本語基礎2音節

2010-10-05 07:45:00 | 日本語教育
2008/06/05
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(12)ノーサイ研究・拍、モーラと音節文字について

 先月末、ある日の講師室での雑談。
 ある先生が、授業中の学生発言の報告をしてくれました。
 「中国の学生が、日本のノーサイ・システムについて研究したい、と言うのよ。農祭かしら、納采かな、と質問してみたけれど、なんだか話がかみ合わない。よくよく聞いたら、労災システムの研究をしたいということでした。中国では、まだ会社の労災などが整備されていないんだって。
 でもどうしてローサイがノーサイになっちゃうんでしょう?」

 日本語学の立派な著書をお持ちの先生ですが、それでも、中国語方言発音の異音までは、気にしていなかったようです。
 かく言う私も、中国南部出身者を教えるようになるまでは、その地方では、[n][r]が異音であることなど知りませんでした。

 「習うより慣れろ」
 「本から得た知識、基礎を知っておくことは大切ですが、日本語学の知識をすべて身につけてから教えようなんて言っていたら、百年かかる。

 それより、ある程度の基礎知識を得たら、実際に現場にでて教えてみるといい。学生の間違い方のパターンを知ることで、日本語文法の知識を増やすことができるし、学生発音のまちがい方を知れば、音声学の知識が必要なことがわかる。

 いろんな失敗をしながら体験的に日本語学を学ぶほうが、しっかり身につきますよ。知らないことだらけで、恥をかくのも勉強のうち」
と、日本語教師志望者には言っています。

 日本語教師1年2年やったくらいで、一人前にお給料もらえると思いなさんな。
 日本語教師になって3年間は、「研修中」と考えて、お給料をいただきながら教育実習をさせてもらっている、と考えなさい。

 だいたい、日本語教師20年やっている私が、薄給をかまんできるのも、「教えながら学べることが、なんと多いことか」と思っていられるからです。

 開音節と閉音節については、また、のちほど詳しく話します。日本語は開音節を組み合わせてコトバを組み立てている、ということだけ覚えておいてください。
 「じ(字)」は一音節の語です。「にじ(虹)」は二音節の語です。「にじかん(二時間)」は、四音節の語です。

 音節を「モーラ=拍」ということもあります。ことばを区別するひとまとまりの音を、音の長さからみたときの言い方を拍と呼びます。「おじさん」は4拍です。「おじあさん」は5拍です。「おじさん」と「おじいさん」の区別ができない人に、拍手しながら、おジさんは4つ手をうつ、おじいさんは5つ手をうつ、と教えて、拍手させながら発音させると、区別できるようになりますよ。

 ことばの意味を区別するひとまとまりの音を音節といいます。
 日本語には、この音節の数がいくつあるか、かぞえてください。宿題です。
 ヒントにはなりませんが、参考までに。中国語の音節数は、400~500。英語の音節数は6000以上(学者によって数え方がことなるのですが)

<つづく>
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2008年06月06日


ぽかぽか春庭「日本語の音の種類はいくつ?」
2008/06/06
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(13)日本語の音の種類はいくつ?日本語の音節数

 日本語の音節はいくつあるか、という問題。考えた?これは、日本語の表記方法と密接な関係があります。

 音節数と同時に、日本語の表音文字、ひらがなカタカナについて確認しておきましょう。

 日本語のひらがなとカタカナは、音節ひとつにひとつの文字をあてはめています。音節文字といいます。

 このような音節文字は、現在使用されている世界の文字の中では、少数派。
 日本語のひらがなは、最初から母音と子音を含んだ文字になっています。
 「かka」「さsa」と、ひとつの文字で、「母音+子音」を表しています。

 このような音節文字によって表記している民族、多くありません。
 大地震があった四川省に住む少数民族、イ族の「彝語」を表記する文字が、「音節文字」です。

 「涼山規範彝文」は、声調も含めた異なる音節を、各々別の文字で表しています。
 「彝文の文字」は、日本語のひらがなと同じく真正の音節文字。
 文字の数は800あまり。つまり、音節が800あります。

 イ族の800の文字、覚えるのがちょっとたいへんかもしれません。
 でも、覚えてしまえば、イ族の人たち、自分たちの母語を、そのままに記録できます。
 漢族の子供たちが覚えなければならない漢字の6千よりは文字数が少ない。

 イ族の文字は、こんな字です。ウィキペディア画像より
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Yiwen.jpg

 「日本語の音節はいくつ」クイズ、答え合わせをしましょう。
 ことばに用いる発音のひとまとまりが音節でした。
 日本語のことばの発音の種類=音節がいくつあるかという答えは、音節文字の数を考えてみてね。
 
 イ族の文字が800あり、音節文字が800あるっていうのが、ヒントです。
 はい、いくつ?
 日本語母語話者にとって、答えはかんたん。ひらがな表の数を思い出して。(五十音図を見せる)はい、これ、50音図です。

あいうえお
かきくけこ
さしすせそ
たちつてと
なにぬねの
はひふへほ
まみむめも
や ゆ よ
らりるれろ
わ   を

 「わかった、音節は50ある」と、学生の声。
 え?音節の数、50だけ?
 これは清音の表です。文字は50だけれど、発音は清音だけ?

 そう、濁音もありますね。「は行」には半濁音(P音)もあるし、拗音もあります。拗音は、ひらがなを二つ組み合わせてひとつの音節を表しています。「きゃ、きゅ、きょ」のように、小さい「ゃ、ゅ、ょ」を組み合わせる音。

がぎぐげご きゃきゅきょ ぎゃぎゅぎょ
ざじずぜぞ しゃしゅしょ じゃじゅじょ
だぢづでど ちゃちゅちょ ぢゃぢゅぢょ
      にゃにゅにょ
ばびぶべぼ ひゃひゅひょ ぴゃぴゅぴょ
ぱぴぷぺぽ ぴゃぴゅぴょ
      みゃみゅみょ
     りゃりゅりょ

 清音濁音拗音を全部たします。
 はい、これにプラス、カタカナの外来語の音があります。

<つづく>
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2008年06月07日


ぽかぽか春庭「レディとフィルム・カタカナで書く音節」
2008/06/07
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(14)レディとフィルム・カタカナで書く音節

 外来語に使うカタカナ表記の音。
 たとえば、オフィスレディとかディナーっていうときの「ディ」、ひらがなの詞には、「でぃ」と表記する語はありません。

 ツィゴイネルワイゼンのツィとか、レッドツェッペリンなどのツェ。「トゥルー・ラブ」なんてときの「トゥ」とか、」
 さて、合計いくつになったかな?

 若い人は新しい外来語の音、発音できますよね。
 若い人が写真のフィルムという時の「フィ」もカタカナだけでつかう。お年寄りはこの音をつかいません。フイルムといいます。
 「あ、そうそう、うちのおばあちゃん、フイルムって言うよ」と、平成生まれの日本人学生。
 
 そういうのを全部加えると。はい、そうです。百前後。
 115あります。音声学者によって、数え方はまちまちですが、ま、115前後と思ってください。

 まちまちというわけは。学者によって「どの音を日本語の音韻として認めるか」という基準が異なるからです。
 大多数の日本語母語話者が生まれたときからこの音を不自由なく使いこなせる、という基準にゆれがあります。

 たとえば「ウィ」という音。機転機知などの「wit」
 ウィットと発音する人とウイットと発音する人がいます。

 この場合、「ウィ」を日本語の「標準的な音」と認めるかどうか、判断が分かれます。日本語母語話者大多数が「ウィ」という音を生まれたときから習得していれば、「日本語の音」と認めることができるのですが。

 「ウェ」という音。まだ、日本語の音としては「ウエ」の発音が多数です。
 結婚「wedding」を、ウエディングと発音する日本語母語話者が多い。ウエディングケーキ、ウエディングリングなど。

 この場合、「ディ」という音は、おおかたの人が使っているけれど、「ウェディング」という人は少ない。「ウェ」という音は、標準的な発音になっていない。

 イ族の文字が800あり、音節文字が800あるというのから見ると、音節が115で音節文字の種類が50個というのは、少ないですよね。
 音の種類の少なさからいうと、太平洋のハワイ諸島の現地語ハワイ語の次に、音の種類が少ない。

 発音の種類が少ないからと言って、単語の数が少ないってことはありません。
 この115の音節だけで森羅万象のことばを表現できます。同音異義語が多いことに関しては、漢字表記の説明のときにします。

 世界中のことばの発音のなかで、日本語の発音の種類は少ない、ということを確認しました。たった50個の文字で、スペリングなど習わなくても、ある程度書けます。発音通りに書いていけばいいのですから。

 ある程度というのは。
 長音の書き方の規則がちょっと面倒。
 「時計 とけえ」「お姉さん おねいさん」「大きい おうきい」などのひらがな表記の間違いは、日本語学習者だけでなく、日本語母語話者である日本人の子供にも、よく見る間違いです。

 長音の書き方さえマスターすれば、あとは、だいたい問題ありません。

 有声音(濁音)と無声音(清音)はセットで同じ文字を使います。
 有声音(濁音)には、「清音」に「点々」を加える表記体系なので、文字数は50種類ほどです。50音と呼ばれています。

 中世近世の日本の一般庶民は、識字率が世界で一番高かった。これは、最低限の50個さえ覚えれば、母語を話すとおりに記録でき、読むことができたからです。
 音節文字の仮名は、たいへん簡単ですぐれた表記方法なのです。

 世界の主流派表記システムでは、アルファベットやハングルのように、音素/単音文字がほとんどです。母音の文字と子音を組み合わせながら表記します。文字の数が少なくてすみます。

 英語の文字。アルファベットは27個で少ないですが、この27個を覚えただけでは読み書きできません。

<つづく>
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2008年06月08日


ぽかぽか春庭「クフロも苦労したスペリング」
2008/06/08
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(15)クフロも苦労したスペリング

 英語母語話者、ふくろうは「アゥル」と発音すればいいのだと知っています。でも、書き方はわかりません。owlとつづるのだと教わらないと、書けないのです。

 くまのプーさんに登場する「ふくろう=owlアゥル」は、自分の名前を「wolウォル」と書いています。先日亡くなった石井桃子は、「くふろ」と翻訳していました。

 子供の頃は、なんで「ふくろう」は「くふろ」だなんて書き間違えてしまったのだろう、と不思議に思いました。文字を声に出して読んでみれば、本人だって間違えてること気づくだろうに、と思ったのです。
 大人になってから原文を見て、スペリングの間違いなのだとわかりました。

 私なら、「ふくるう」か、「ふくろつ」と訳してみたい。留学生はしょっちゅう「ろ」「る」を間違えたり、「う」と「つ」を間違えたりするので。

 「スペリングの間違い」という原文の意味からは、ずれてしまいますが、日本の子供が読んだとき、「ふくろつ」という間違いのほうが納得できるのではないでしょうか。
 あ、ふくろうさん、「う」の上の点を書き忘れてるよ、と、子供たちツッコミを入れることができます。

 (余談:日本語で どづぞ」という本、おもしろかった。海外で見かける、おもしろ日本語表記集です)

 ふくろうが間違えてしまったように、英語は、単語の綴り方を一語一語習わなければ、書けないのです。フォニックを学んでも、やはり書けないのはある。
 その点、日本語では、「ハル」と聞こえたら、「はる」と書けばいいのです。「アキ」と聞こえたら「あき」です。

 英語ではそうは、いきません。聞こえた通りにアルファベットを並べてもだめです。
 「笑う」という動作を表すには、「ラフ」という発音でいいのだ、と、知っている人も、スペリングを学ばない限り、綴りがlaughとは、書けません。
 laafでも、laff、laphでもだめなんだよね。

 灯りはライト。発音を知っている英語母語話者の子供でも、lightというつづりは、わかりません。「gh」は、近世以前の英語発音のなごり。日本語でいうと、旧仮名遣いの「てふてふ」みたいなものです。

 「てふてふ」は、昔むかしは、テフテフと発音していたから発音の通りに「てふてふ」と書いていたのです。いまでは、発音が変化して「ちょうちょう」というようになった。そこで、「てふてふ」と書くのをやめて、「ちょうちょう」と書くことにした。

 日本語では「発音通りに書く」のが基本です。
 英語は、いまだに「てふてふ」と書いて「ちょうちょう」と発音するっていう表記方式をとっているのです。

<つづく>
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2008年06月09日


ぽかぽか春庭「タケtakeのフォニックス」
2008/06/09
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(16)タケtakeのフォニックス

 表記の面では、旧式スペリングを墨守する英語のほうが、現代仮名遣いを採用した日本語よりずっと保守的。
 英語のスペリングが覚えにくいのは、表記法が旧弊であるからです。

 学生時代、英語のスペリングテストでいつも失敗していたというあなた、自分の頭が悪くてつづりを覚えられないのだと思っていませんでしたか。そんなことはありません。英語の表記法が悪いのです。

 私が中学生だったときの英語の先生は、英単語を正しくつづれることが英語教育の王道でもあるかのように、「早くスペルを覚えろ」と、しかりつけました。英語のスペリングができるかできないかで英語の成績が決まった、といってもいいくらい。

 しかも、私が最初に教わった先生はフォニックスを理解していなかった。
 takeを「タケ」と読んだクラスメート武田君をバカにして笑った教師に、私は「この最後のeは、発音しませんね。なんでこのeをくっつけないといけないのですか」と質問しました。

 先生の答えは「へりくつ言ってないで、つづりを覚えろ」でした。
 そして、「女が生意気言ってると、ヨメのもらい手がなくなるゾ」と、クラスの笑いをとっていました。現代なら、これも立派なセクハラ発言。

 私が最初に英語を教わった先生は、数学免許の先生。英語教師が不足したので、自分の担任クラスの英語を引き受けたのでした。英語について、わかっていなかった。

 英語のaにもひとつの文字にたくさんの発音があります。
 そのなかで、文字の名前のとおりに「エイ」と発音する場合があります。
 take cake lake sameなどの最後のeは、eの前にある子音の、その前にある「a」は、「エイ」という発音になりますよ、という記号です。こういう決まりをフォニックスといいます。

 高校のときの英語の先生は、「英文学」専攻の先生でしたから、ひたすら「英文和訳」を続けました。この先生もフォニックスは知らなかった。

 昔の英語の先生は、「シェークスピアなどの英文学を翻訳書で読んで、日本語で卒論を書いて、英語の教師免許をとった」という人も多かったですから、英語学や第二言語教授法を知らない先生も大勢英語を教えていました。

 英語の先生がフォニックスを教えてくれれば、だいぶ、つづりと発音のルールがわかりやすくなります。
 フォニックスは、発音とつづり字の関係を教えてくれます。

<つづく>
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2008年06月10日


ぽかぽか春庭「アンのスペリングコンテスト」
2008/06/10
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(17)アンのスペリングコンテスト

 日本語は母音が5つ。そして母音音節文字が5つ「あいうえお」なので、たいへん合理的です。
 ところが、英語は母音を表す文字がaiueoの5つで、20もの母音を表します。
 エの口をしてアと発音するとか、オの口の形をしてアというとか、母音の種類がたくさんあります。

 ひとつの文字「o」でも、さまざまな発音を担っています。ふくろうowl「o」は、[o]ではなく[a]と発音します。ああ、ややこしい。

 aと発音させたいなら、awlとつづって、何が悪い、と、私は思いますが、日本語の旧仮名遣いでは「てふてふ」と書いて「ちょうちょう」と読んでいたのですから、文句はいえないでセウ。

 長母音や二重母音などには、二つの母音文字を組み合わせます。

 「o」二つを用いる場合をチェックしてみましょう。
 ブーツbootsの「oo」やブームboom「oo」は、長母音の「ウー u:」ですが、本bookの「oo」の発音は、短母音の「ウッ u」です。

 子音の発音も一字一発音ではありません。
 たとえば、「c」という文字は、[k][s]の2種類の発音を担っています。cakeのときは「k」で、centerのときは「s」。

フォニックスを知れば、cの次にくる文字によって「k」か「s」か、わかりますが、初めて綴り字を習う子供には、なかなかやっかいです。

 英語話者の子供たちにとっても、スペリングを覚えるのは、努力甚大苦労百倍です。
 日本の学校で、毎日のように「漢字テスト」があるように、学校ではスペリングテストが繰り返され、学校をあげてのスペリングコンテストが催されます。

 英語圏の地域の学校では、大規模な「スペリングコンテスト」を、地域行事として行うところもあります。
 「赤毛のアン」シリーズにも、アヴォンリーで、プリンスエドワード島あげてのスペリングコンテストが開かれるという話がありました。

 今年、NHKで、アンのふるさとを訪ねるテレビ番組がありました。
 視聴者層のねらいは、案内人の松坂慶子と同世代か30代くらいまでの人だろうと思います。テレビアニメの「赤毛のアン」を見て育った人たちです。

 私もアニメの再放送を何度かみましたが、最初の放映では、シリーズ全部を見ていないのです。
 最初に放送された1979年、世界名作劇場での放映を半分まで見たところで、ケニアへ出発してしまったから。

 私にとってのアンは、村岡花子訳の本でした。
 母がアンシリーズが大好きで、本を取りそろえていたので、私も読むようになったのです。

<つづく>
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2008年06月11日


ぽかぽか春庭「アンの[e]と[ちゑ]
2008/06/11
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(18)アンの[e]と「ちゑ」

 高校時代のクラスメートのひとりは、私の結婚式のスピーチで、突然、私の亡き母を出席者に紹介しはじめました。
 「この結婚式を空から見守っているハルちゃんのお母さんは、赤毛のアンが大好きでした。私も影響されて読むようになりました」と、スピーチし、母の影響がそんなところまで広がっていたのかと、私もびっくりしました。

 今の大学生はテレビの「赤毛のアン」も見ていないので、アンの名の「e」のエピソードを話しても、ピンとこないみたい。

 赤毛のアンは、「私の名前はannじゃなくてanneなの」と、自分の名前の綴り字を説明していました。発音しない「e」があるかどうか、アンにとってはとても大切なこと。

 子音のひとつ前の「a」ではなく、子音ふたつ「nn」の前の「a」だから、ann でもanneでも、発音はアンです。それでも、アンにとっては、eがあったほうが、「ロマンチックに聞こえる」「優雅に思える」と感じられる大事なeでした。
 「e」があってもなくても「アン」に代わりはないけれど、このオマケの「e」は、アンにとっては、大切なもの。
 
 母は、英語教育など受けたことはなく、英語はぜんぜんわからない人でしたが、このアンの名前の綴り字については、とても深い理解を示していました。

 「他人にとって、不必要に見えるものでも、その人本人にとって大事なものなら、まわりの人もたいせつにしてあげなくちゃね。他の人にとっては、必要ないものでも、その人にとっては、たいせつな、必要なものって、いっぱいあるんだよ」と、母は言っていました。

 lightの「gh」とか、いらない発音を書き残している英語の不合理なつづり字ですが、「そのghって、発音しないのなら、とっちゃえば」と、言うことはできませんね。英語を読み書きする人たちにとって、必要なのであるならば。

 ひとりノリつっこみ。
 え?このghって、英語圏の人にとって必要なんですか?「gh」があると、灯りlightの明るさが優雅に感じられるとか、電灯の費用も気にならなくなるとか、、、、、、

 日本語のひらがな表記は、原則、一字一音節です。合理的ですね。
清音と濁音のセットで同じ文字を使うことによって、115ある音節を50種の文字で表すことができます。
 ひらがなは、正確には46種です。「いろは47文字」プラス「ん」マイナス「ゑ」「ゐ」、すなわち46が、現在表記されている仮名文字。

 ひらがなが成立した当時、ワ行の「わゐ ゑを」のうち、「ゐ」「ゑ」とは発音が変化してア行の「い」「え」の発音と同じ音になってしまったので、発音通りに書く現在の仮名表記では必要のない文字になりました。

 「ゑ」の元になった漢字は「恵」です。
 私はこの「ゑ」の表記が好きなので、たとえば、「人間の知恵」というときの「知恵」は「ちえ」ではなく、「ちゑ」とひらがな表記をしてみたりします。
 現代仮名遣いには不必要な「ゑ」かもしれませんが、「ちゑ」と書くと、なんだか「古式ゆかしい」気がしてきます。

 「発音通りに書く」というのは、現代仮名遣いのよい点です。
 よい点である一方で、丸谷才一のように、頑固に旧仮名遣いでの執筆を貫こうとする表記意識も、それはそれで一見識だと思います。

 中学高校のころは、外国語を読むようによみづらく感じた旧仮名遣いの表記法が、日本語教師をめざして大学に再入学した頃から、スラスラと、現代仮名遣いと同じに読めるようになりました。
 要は慣れですね。

 ひらがな長音表記を「おかーさん」にしたほうがいい、というくらいの徹底した「現代仮名遣い」を推進したい春庭ですが、一方で旧仮名遣いの表現も残しておいて、旧仮名遣いで表現したい人があってもいいと考えます。

 これは、「標準語がある一方、各地の方言を大切にしたい」という考え方といっしょです。
 なんでも「ぜったいにこれひとつだけ」」しか認めないと言うのは性に合わないのです。

 アンにはannもanneも可能なら、本人が好きな方を大切にしてやればよい。

 「あの人はちえさんでしょう」を「ちゑさんでせう」と書きたい人がいれば、それも認める。

<つづく>
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2008年06月12日


ぽかぽか春庭「ぢじづず、ん?ひらがな表記テスト」
2008/06/12
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(19)ぢじづず、ん?ひらがな表記テスト

 発音通りに書くのが現代仮名遣いの原則、とはいえ、日本語にも例外が三つだけあります。さて、発音と文字が一対一対応でないのは、何と何?

 「は」と「へ」の文字は、ひとつの文字が2種類の発音を担っている。
 この2種類の発音のちがいは、日本語母語話者も意識しています。小学生のとき、「わたしわ がっこうえ いきました」と、発音通りに書くと、先生に赤ペンで添削されたから。

 「は」。
 意味内容を担う「語/詞」に用いるときは「ha」と発音する。「はな」「はつおん」など。助詞として用いるとき「は=wa」と発音する。
 「へ」。「へや」「へいわ」などのときは「he」と発音する。助詞のときは「へ=e」と発音する。

 三つ目の例外は「ん」。
 日本語母語話者は、「ん」はひとつの発音だと思っていますが、音声学からいうと、[n][m][ng]の三つの発音があります。

 この三つの音は、異音(発音はちがっても、同じ音に聞こえる)ですから、その違いは、母語話者には意識されていません。
 「ん」の発音については、春庭カフェコラム2007/10/05~10/07をご覧ください。
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/200710A

 話した通りにかけばよい日本語も、いくつか「覚えないと書けない」ことがあります。「じ/ぢ」「ず/づ」のかき分けと長音表記です。ちょっと、ややこしい点があります。

 学習者が表記にとまどっているとき、「どうしてお姉さんをおねいさん、って、書くのよ」「大きいbigは、おうきいじゃなくて、おおきいって書くと教えたでしょ」と思わずに、ああ、私もりんごをappuruと書いたことがあったなあ、と自分自身の失敗を思い出すことにしています。

 ひらがなひとつでも、学習者の疑問質問と、とまどい間違いを大切にしてくださいね。
 ひらがなカタカナの教えかた、大切ですよ。

 はい、ここでスペリングコンテストを行います。英語じゃありません。日本語の表記テスト。

正しい表記、aまたはbを選んでください。
A:
1)小遣いaこづかい・bこずかい 
2)稲妻aいなずま・bいなづま 
3)鼻血aはなぢ・bはなじ 
4)地面aじめん・bぢめん
5)aこぢんまり・bこじんまり 
B:
6)狼aおおかみbおうかみ 
7)大凡aおおよそ・bおうよそ 
8)公aおおやけ・bおうやけ 
9)仰せaおおせ・bおうせ 
10)氷aこおり・bこうり

 簡単でしたか。「日本語なら、お手のものだ」ですよね。
 10点満点。合格点に達したかな?

 日本語学習者は、一生懸命この表記を勉強するんですよ。
 以上のクイズは、日本語教師をめざす人のための「日本語教育能力検定試験」の過去問と、日本語学習者のための「日本語能力試験」の過去問からえらびました。

 クイズの正解。全部「a」
 解説は次回。

<つづく>
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2008年06月13日


ぽかぽか春庭「大路をゆく王子」
2008/06/13
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(20)大路をゆく王子

 「ぢ・じ」「ず・づ」のかき分け。
 原則、元の語の通りに書く。三日月は、「月つき」の濁音だから「三日月みかづき」と書く。元の語が「血ち」だから、「鼻血」は、「はなぢ」

 日本語学習者が「ぢとじは同じ発音ですね」「ぢかん、どうしてダメですか」「みかずきはいいですか」と質問してきたとき、どうしますか。

 「時間はじかん、三日月はみかづき。なんでもいいから、覚えろ」という人もいます。それもひとつの教授法だといえます。理屈よりとにかく暗記。
 でも、理屈で納得できないと先に進めない学生もいるんですよ。

 日本語学習者が、「オの長音long vowelはウと書きます。王子はおうじ。でも、大路はおおじです。なぜですか」と質問してきたとします。あなたには、どう解説していいかわかりません。どうしますか。

 そのときは、「では、来週答えます」と言っていいですから、翌週、説明してやってください。
 答えは、日本語現代仮名遣いの本に載っていますよ。
 現代仮名遣いは1946年制定、1986年に改定されました。

 「お」の長音表記について。
 王は、オーと長音long vowelで発音します。「お」の長音は「う」とかきます。「おうじ」です。
 「おとおさん」ではなくて「おとうさん」、「とおだい灯台」ではなく「とうだい」

 古代日本語の発音では、大きいは「おほきい」でした。千年の間に、発音が変化して、「おほきい→ オーキー」と発音するようになりました。
 60年ほど前までの、日本語の書き方では。
 大きい=おほきい、大路=おほじ、と書きました。古代の発音通りに書いていたのです。
 現代仮名遣いでは「ほ→お」と書くのが決まりです。ライティングルールです。

 「大おお」がつくことばは、おお~と書いてください。だから「大路」は「おおじ」です。「王子おうじ」も「大路おおじ」も発音は「オージ」ですが、書き方はちがいます。

 春庭の「ひらがな長音表記の主張」をもう一度。
 カタカナと同じように、長音記号「ー」をつかって、おかーさん、おとーさん、おばーさん、おーじ」と、書けばよい。

 ひらがな表記の例外。
 稲妻は、もともとの意味は「稲の妻」。稲を育てる水をもたらす稲光=稲妻いなづま、でした。しかし、現代人の意識には「妻」という意識がなく、「いなずま」として一語に理解されているから「いなずま」と書く。(ただし、許容範囲として、いなづまでもOK」

 ややこしい例外表記について、次回解説。
 じめん、きずな、さかずき、など、私には納得できないカナ表記がいろいろあります。

<つづく>
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2008年06月14日


ぽかぽか春庭「きずな絆と手綱たづな、地面じめんと頭痛ずつう」
2008/06/14
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(21)きずな絆と手綱たづな、地面じめんと頭痛ずつう

 手綱は、「綱」という語が意識され、「手(た)プラス綱」という意識が残っているから「たづな」と書く。
 しかし、絆は「きずな」。

 きずな(絆)の元の語は、「きプラス綱」です。
 しかし、現代人にとって「気+綱」という語構成の意識がなくて、一語のまとまった単語であると、みなされているから「きずな」になる。

 「高坏たかつき」は、清音のまま「つ」と書きます。しかし、杯は、「酒+ツキ」であるにもかかわらず、「さかずき」になるのは矛盾しているように、私は思います。
 「杯」は「ひとつのまとまった語であって、分解する意識が現代人にない」と見なされ、「さかずき」になりました。う~ん、どうだろう?

 現代仮名遣いを決めた人たちにとって、「現代人には酒+ツキとは意識されていない」と判断できるものであったのでしょうが、私は、「語源を残す」という意味で「さかづき」「いなづま」のほうがいいと思います。
 許容範囲として、「きづな、さかづき」も、認められてはいますが。

 「じめん」は「地ち」の「面」であるが、現代語では「じめん」の一語で理解されているから「じめん」と書く。こちらははっきりと「ぢめんは誤記」とされ、「ぢめん」は、許容範囲にも入っていません。

 語頭の表記として「ぢ」と「ず」は出来る限りさける、という表記基準により、「ぢめん」がさけられた。

 「陣屋」も「ぢん」+「や」であるのに、「ぢんや」と表記できません。「じんや」です。
 「頭づ」+「痛」も、「ずつう」ですし、図画も「づが」だと、漢字表記されません。「ずが」になります。
 現代語で「ヅ」を語頭に表記するのは「ヅラ(かつら)の略語」くらいでしょう。

 「おお」と書く「おの長音」は、少ないですから、覚えてしまいましょう。
 日本語初級で扱う語は、「大おお」がつくことばのほかは、「狼、氷、通り、多い」。中級から扱う語「公、覆う、仰せ」。上級から扱う語「概ね(おおむね)、大凡(おおよそ)」これくらいのものです。

 ああ、日本語表記もややこしい、と思った方。ローマ字表記なら、どうでしょうか。

<つづく>
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2008年06月15日


ぽかぽか春庭「Takuboku no roomaji nikki」
2008/06/15
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(22)takuboku no roomaji nikki

 日本語を全文をローマ字表記するなら、文字数は23または19ですみます。
 [l][q][v][x]は、日本語ローマ字表記には用いません。外務省ヘボン式は[j][c][f]を使いますが、文科省訓令式は使いません。

 訓令式だと、母音aiueo 半母音yw 子音kgsztdnhpbmr。たった19個の文字で、すべての音節を表記できるのです。
 文字数は少ないですが、読む段となると、私は苦手です。

 さて、ローマ字表記にしてみると、、、
 文字の数は少なくてすみますが、ローマ字書きの日本語、私には、たいへん読みにくいです。

 以下のローマ字文章、根気と興味があったら、お読みください(ヘボン式を採用)

 Zenbun o roomaji de kaita bun wa totemo yominikui.
 Ishikawa Takuboku wa roomaji nikki o kakinokosimasita ga kenkyuusha wa kaidoku ga mendooda to omotteirukotodeshoune.

 takuboku wa tsuma ya hahaoya ga yomenaikoto wo shitteite wazawaza roomaji no nikki wo kaitanodesu. tsuma ni naisho de yosiwara e ittakotonado himitsu no dekigoto mo roomaji de kakinokoshimasita.

 日本語は、概念を表す語=意味内容を持つ「詞」には漢字表記を、文法機能を表す部分はひらがな表記を、外来語にはカタカナをあてて表記しています。この「漢字ひらがな交ぜ書き」が、日本語には合っています。
 膠着語の特徴と合致しているからです。

 日本語をローマ字表記にしようという運動は、明治以来何度か大きな勢力となりましたが、ついに、ローマ字での文章表記を公式にしようという活動は採用されませんでした。

 敗戦後、GHQによって日本語の表記は、ローマ字にされそうでした。でも、ならなかったというお話は、春庭カフェコラム2006/07/09と2006/07/10に書きましたので、ごらんください。
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/200607A

 お隣の朝鮮半島では、14世紀まで、正式文書は漢文だけで書かれました。
 古代朝鮮には、自国語を「話していたとおりに記録した文章」は、ありません。
 韓国朝鮮語を「話している発音の通りに記録」できるようになったのは、15世紀のハングル発明以後です。

 古代朝鮮語と古代日本語の比較ができれば、もっと系統論がはっきりするのですが、古代朝鮮語の記録がないので、比較研究はむずかしい。
 古代朝鮮語の記録は、中国と日本の文書に残された断片を照らし合わせて推測する以外の方法が見つかっていません。

 古代朝鮮語の記録がないため、現代韓国語と古代日本語を語呂合わせで対照するという、言語学無視の日本語論もありました。『人麻呂の暗号』『もう一つの万葉集』『日本語の悲劇』などです。

 言語学にとっては「言語学の理論を無視したトンデモ日本語論」ですから、このような説を本気にする人がいたら困りますが、本気にしないで「おもしろがる程度」にお読みください。

<つづく>

2008/06/16
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(23)表記練習ハングル文字

 日本語学習者にとって、ひらがなカタカナを覚えるのもたいへんなんですよ、ということを、日本語教師志望者に身にしみさせ、日本語との発音対照を考えるために、前期は「ハングル文字で自分の名前を書こう」後期は「タイ文字で自分の名前を書こう」という演習を行っています。

 ハングルは、韓国語朝鮮語の発音に適した、たいへんすぐれた表音文字です。音素文字を組み合わせて語を表記します。「k」は「フ」です。 「a」は「ト」です。

 子音と母音を組み合わせれば「ka」=「フト」です。音素文字を、二つ、三つ、四つまで組み合わせることができます。

 今年、現代日本語論の授業には、日本語教師志望者の日本人学生に混じって、韓国からの留学生も出席しています。イさんがハングル表記の先生です。
 日本人学生たち、ハングル表をみて、自分の名前を書いてみる。
 すんなり表記できる学生もいるし、「ない、ない、みつからない」と、言う学生もでてくる。

 渡辺さんは「ワとベがありません」と、困っている。
 黒木さんは「クが2種類あります、どっちがいいんですか」と、悩んでいる。
 厚木さんは、「アはみつかったけど、ツがありません。ギもありません。ぜんぜん書けません」と、大弱り。

 「はい、どう書いたらいいか、わからない人、イさんに相談してね。書けた人は、それで正しいかどうか、イ先生に○をもらって」

ハングル表の一例
http://denchina.hp.infoseek.co.jp/hankiri.htm

 この練習は、ハングル文字を覚えるためにしているのではありません。
 他の母語の学習者の発音と日本語の発音を比べて、どこが間違いやすいか意識するために行うのです。

 ハングルでは、濁音と清音は異音です。語頭には清音を使います。語中には、濁音をつかいます。ハングルの「フト」は、「カ」「ガ」どちらにも読めるのです。
 「ツ」や「ワ」にあたる発音と文字は、ハングルにはありません。

 ハングル表ととひらがな表を比べて、「カ」と「ガ」が異音であることを知ると、日本語の語頭の濁音は、韓国の学生にとって、間違いやすいことがわかります。学生は「カクセイ」となることもあるし、「赤い」は「あがい」になってしまうこともある。他の濁音も同じ。

<つづく>
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2008年06月17日


ぽかぽか春庭「ハングル練習おちゅかれさま」
2008/06/17
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(24)ハングル練習おちゅかれさま

 日本人学生たち、名前の文字をさがして、ハングル表には「チュ」はあるけれど、「ツ」がないことに気づきます。
 すると、母語に「ツ」がない韓国の留学生にとって、「ツミキ」「ツクダニ」は、言いにくいことがわかります。

 「th」という発音がない日本語母語話者にとって、thank youがsank youになってしまうのと同じで、zaという発音を持たないタイの日本語学習者は「おはようごじゃいます」と、なりがちです。

 もちろん練習すればできるようになります。
 でも、意識しないとついつい私たちのサンキューがthankでなくsankとなるように、おはようごじゃいます、になるのです。

 ハングル練習をして、隣の国の言語でも、日本語と比較するといろんな違いがあることに、気づきます。
 日本語母語話者にとって「ツ」は特別むずかしい発音に思えないとしても、この発音が母語になければ、なかなか習得できない人もいる、ということが、わかってきます。

 日本語のタ行の音は、3種類の発音が入り交じってできています。
ta ti tu te to タ・ティ・トゥ・テ・ト、
cha chi chu che cho チャ・チ・チュ・チェ・チョ、
tsa tsi tsu tse tso  ツァ・ツィ・ツ・ツェ・ツォ

 「ツ音」の行、「つ」以外は、日本語でも外来語にしか用いない発音です。
 日本人にとって「ツァ」「ツェ」などが発音しにくいのと同じように、日本語学習者のなかで、「ツ」を苦手にしている人、多いです。

 タイ語母語話者などが、「お疲れさま」を「おちゅかれさま」と、言うときがあります。バイトを終えて、疲れたときなど、ついつい日本語の発音に気が回らなくなって、お国なまりがでちゃうんですね。

 「韓国語母語話者の発音誤用の特徴は~」「タイ人の学習者はここをよく間違える」「中国語母語話者は~」と、教師が箇条書きにして示してやるほうが、手っ取り早いのかもしれません。
 でも、私は「自分で気づく」ことを優先するために、時間をかけてハングル表記練習をさせています。

 自分や友達の名前の表記文字が、ハングルにないことに気づけば、韓国では自分の名前の発音をどうやって声に出し、文字にしていくのか、知りたくなるからです。

<つづく>
06:10 コメント(3) 編集 ページのトップへ
2008年06月18日


ぽかぽか春庭「ウォアタナへさんギョエテさんスミスさん」
2008/06/18
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(25)ギョーテとは俺のことかとゲーテ言い

 韓国からの留学生イさんは、「つ」の発音もじょうずでした。
 ハングルの名前の書き方を、イさんはていねいに指導していました。

 渡辺さんの「ワ」は、ハングルにはないので、ウォァoaで代用するしかないみたい。
 ハングル文字表記では渡辺さんは「ウォアタナヘ」になる。
 土田さんは「チュチタ」になる。

 イギリスやアメリカのスミスさん。綴りはsmithさんです。最後のthは、日本語音節にはない音ですから、suで代用し、日本語発音ではsumisuスミスさんと呼ぶしかありません。
 sumithさんをスミスさんと呼んでいるのですから、渡辺さんもウォアタナベさんで我慢してもらうよりほかありません。
 
 名前の発音、他言語で表記するのはとてもむずかしい。
 ドイツの文豪ゲーテ (Goethe) の日本語表記は、ゲーテのほか、「ギョエテ」「ゲョエテ」「ギョーツ」「グーテ」「ゲエテ」などが、ありました。苦心の表記だったのでしょうね。

 ハングルで、ウォァと書いて「ワ」の代用にしてみると、日本語の「ワ」も、ウァまたはオァという半母音であることがわかってきます。

 日本語の半母音は、「ワ行」と「ヤ行」です。
 「や」はイァ、「ヨ」はイォという半母音です。

 以上、表音文字(文字が音声をあらわす)のうち、音素文字である英語アルファベットとハングル文字について、学びました。
 また、音節文字は、中国イ族の文字と、日本語のひらがなカタカナについて確認しました。

<つづく>
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2008年06月19日


ぽかぽか春庭「ナムアミダブツ漢字音訳」
2008/06/19
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(26)ナムアミダブツ漢字音訳

 日本語は、ひらがなの創案、そして「いろは歌」の普及で、一般庶民でも文字が手軽に読み書きできるようになりました。
 ひらがな、カタカナの成立について復習しておきましょう。

 今から1300年前、文字を持たなかった祖先は、漢字を知ったあと、母語に適した表記システムを改良しました。ひらがなカタカナの成立は、日本語と日本文化にとって最大の出来事でした。

 8世紀の日本。太安万侶らは、苦心して「万葉仮名」を利用した日本語表記のシステムを考案しました。
 もともと、中国に、発音を漢字で説明する方法がありました。
 サンスクリット語(梵語)から漢語への翻訳のさいに方法化されていたシステムです。
 それを手本に、漢字を発音記号として日本語の音節を表せるようになったのです。

 サンスクリット語で、「ナーム」というのは、名詞では「名前」という意味であり、動詞では「名を呼ぶ、名を唱える」という意味です。
 サンスクリット語のナームは、同じ印欧語族の英語では「nameネィム」です。日本語外来語としてはネームです。

 漢語に翻訳すれば「名を唱える」は、「称名」です。
 でも、翻訳せずに、音訳(音をそのまま漢字に当てはめる)すれば、「南無ナム」です。

 サンスクリット語の「アミータ」は、aが否定辞。英語に当てはめれば、「un」です。mitaは、「量る」です。「アミータ=量れない」という意味。
 サンスクリット語mitaを英語にあてはめるとmeter。日本語外来語ではメーターです。
 漢語に翻訳すれば「無量」。音訳なら「阿弥陀」です。

 サンスクリット語のbuddha(ブッダ)、意味は「目覚めた人」「悟った人」。
 漢字音訳では「仏陀」。意訳は「覚醒者」

 サンスクリット語の「ナームアミータブッダ」
 漢字音訳すれば、「南無阿弥陀仏」
 漢語意訳すれば「称名無量仏」となります。

 日本語では「ナムアミダブツ=阿弥陀仏のお名前を唱えたてまつる」略して早く言うと「ナンマンダブ」
 「ナンマンダブ」と、死ぬ前にひとことつぶやけば、極楽往生。量り知れない慈悲心を持つ阿弥陀様は、衆生をお救いくださるのです。
 日本仏教、コンビニエント便利至極ですね!

 さて、ナンマンダブの御利益、「発音記号としての漢字」が、日本語ひらがなに応用されました。

<つづく>


虹の授業日本語基礎1

2010-10-03 09:14:00 | 日本語教育
2008/05/23
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(1)ジャンボ

 毎年、最初の授業は、どんなふうに始めようか、工夫をする。
 特に、日本人学部生の授業、学生の興味をひいて、日本語学や日本語教育について、「おもしろそう」と、感じてもらうためにはどうしたらよいか。

 今年は「ニジの授業」を試みました。

 最初は毎年「じゃんぼ!」の挨拶から始めます。
 「じゃんぼ!ジナラング、ハルニワ。ジナラコニニ?」
 どぎまぎして答えない学生には、にっこり笑いかけて、もう一度繰り返します。
 黙っているときは深追いせずに次へ。

 感のいい学生がいると、なんどか繰り返されている「ジナラング、ハルニワ。ジナラコニニ?」の意味を推測する人があらわれます。

 「ジ、ジナ、え~と、ジナラング スズキ」と、返答あいさつができる。そしたら、拍手、拍手。
 「今、みなさんは、はじめてスワヒリ語をききました。ジャンボという挨拶は聞いたことがあるかもしれないね。でも、自己紹介のスワヒリ語は、初めて聞いたと思います。

 それでも、鈴木さんは、自分の名前を言うことができました。ジナは名前、ジナラングは、私の名前、ということです」

次に挨拶を受けた学生は、にこにこと「ジナラング、たなか」
 教師「ニメフラヒツタオナナ!お会いできてうれしいです」

 「このように、まったく知らない言語であっても、何度かきいているうちに、状況から考えて、意味が分かります。  今、私はスワヒリ語だけをつかって、鈴木さん、田中さんにスワヒリ語の自己紹介をしてもらうことができました。日本語教育も、この方式で行うことが基本です。

 もちろん、わかってもらうための工夫はさまざまにあります。今の場合は、名前を言っているのだと言うことが、学習者に推測がつくという例でしたが、ほかの文型でも、いろいろな「意味をわからせる工夫」があります。

 中国語や英語で単語の意味を説明したりすることもありますが、原則、日本語だけで、にほんごを教えていきます」

 「この教え方を直接法、ダイレクトメソッドと、いいます。直接法については、またあとで詳しく説明します」

 「今日、みなさんはスワヒリ語の聞き取りができました。次に、日本語のききとり、リスニングができるかどうかのテストから始めたいと思います。日本語だから、できるよね」

「え~、私は日本語を話すロボットです。この日本語ロボットは、性能がまだよくないです。日本語をいうから、ノートに書き取ってください。どんなふうに書いてもいいです。注意深く聞いてね。3回いいます」

 「に、じ。 ni、 ji。ニ、ヂ、、、、」ロボットの発音、たどたどしいです。

 学生たちに、書いたものを発表させます。どんなふうに書いてもいいと言ったので、「にじ、にぢ、ニジ、ニヂ、2じ、2時、二時、二次、2字、二字、二児、虹、niji、 nizi、 nidi、
 さまざまな表記が出てきます。ここから日本語学のイントロダクション授業を始めます。

<つづく>
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2008年05月24日


ぽかぽか春庭「ニジ、にじ、niji、虹と二時」
2008/05/24
春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(2)ニジ、にじ、niji、虹と二時

 スワヒリ語について、興味をもつ学生がいると、この言語が東アフリカ地域の共通言語として、ケニア、タンザニア、ウガンダなどで使われていることばであることなどを紹介します。私にとっては、ケニアは青春の9ヶ月をすごした思い出の地であることなどを話したり。

 歌って踊れる教師ハルニワ、元ミュージカル女優。
 調子にのるとここらでスワヒリ語の歌「マライカ(私の天使)」を歌いたくなるんですけれど、今年は、教室では歌いませんでした。スワヒリ語の話から、日本語の発音へと話をすすめます。

 教師:「今、みなさんはスワヒリ語を聞いて意味を推測できました。次に、日本語のききとり、リスニングができるかどうかのテストから始めたいと思います。日本語だから、できるよね。

 え~、私は日本語を話すロボットです。この日本語ロボットは、性能がまだよくないです。日本語をいうから、ノートに書き取ってください。どんなふうに書いてもいいです。注意深く聞いてね。3回いいます。
 「に、じ。 ni、 ji。ニ、ヂ、、、、」

 ロボットの発音、たどたどしいです。

 学生たちに、書いたものを発表させます。どんなふうに書いてもいいと言ったので、「にじ、にぢ、ニジ、ニヂ、2じ、2時、二時、二次、2字、二字、二児、虹、niji、 nizi、 nidi、
 さまざまな表記が出てきます。ここから日本語学のイントロダクション授業を始めます。

 ロボットは、わざとロボット風な音声で「に、じ」と発音します。性能がよくないので、ことさらに平らなアクセントで発音しているのです。

 そのため、二時また二次と書いたり、虹と書く学生が出てきます。
 ひらがなやカタカナで書く学生のうち、私の「五十音図」の授業を受けたことのある学生だと、微妙な発音の差をききとって、「にじ」「にぢ」をかき分ける学生もいます。

 平安時代まで「じ」と「ぢ」の発音は別々だったのに、鎌倉時代中期から混同がはじまり、室町時代の末には、「じ」と「ぢ」の発音の区別はなくなりました。
 一部の方言には残されていますが、現代標準語では、区別はありません。
 文字表記の区別はありますが、発音の区別はないのです。

 という文字と発音の講義を聞いたことのある学生は、「じ」「ぢ」の発音をわざと言い分けた私の「に、じ。に、ぢ」を、文字に示したのです。

 日本語は、時代によって、発音も文法も変化してきたことを話します。授業で扱うのは、現代日本語。
 古典日本語については、ときどき「日本語史」として扱うけれど、中心は、現代使われている標準語です。

 次に、「虹、二時」の聞き分けができるかどうかのテスト。こん度は、高低アクセントをつけて発音する。そうすると、意味のちがいを聞き取ることができる。

 教師:「このテストでわかったこと何?最初のロボットの発音で、なぜ、虹と書いた人と2時と書いた人がいたのでしょうか。そうね、日本語は、音を高く言ったり、低く言ったりすることによって、同じ、ニジでも、意味が変わるよね。

 はじめて、日本語を習う学習者にとって、日本語と同じアクセントシステムを持っている母語の人なら、むずかしくないけれど、高低アクセントじゃない、たとえば、英語のように強弱アクセントの人だと、雨と飴、箸と橋のちがいをききとるのが難しい、と感じる人がいるかもしれないね」

<つづく>
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2008年05月25日


ぽかぽか春庭「外務省のnijiと文部省のnizi」
2008/05/25
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(3)外務省のnijiと文部省のnizi

 では、「日本語学イントロダクション」を。
 といっても、何度か同じことを書いてきたことの、今回は「にじバージョン」ということで、これまで春庭コラムを読んできてくださった方には、新しい情報はありません。ま、同じ落語でも、演じる場所と客によって語り口を変えるのだ、と思ってお読みください。
==========
 日本語教師を志望するひと、まず、日本語のどこが難しいのか知ってください。
 つまり、対照言語学を知り、日本語と他の言語のちがいを知る必要があります。対照言語学というのはふたつの言語を比べて異同を研究する分野です。

 「比較言語学」は、同じ系統の言語、たとえば、サンスクリット語と英語、ペルシャ語とドイツ語などを比較し、共通祖先の言語をさぐっていく分野。
 「対照言語学」は、まったく系統のことなる言語ふたつ、たとえば英語と日本語、中国語とフランス語などを並べて研究していきます。

 母語は、自然に身についてしまったから、あなたたちにとって、どこも難しいところはありません。でも、学習者にとって、どこが難しいのか意識することは、大切です。そこをきちんと意識するために、日本語学をならうのですよ」

 「高低アクセントとイントネーションについては、またあとで詳しく学びます。今は、日本語には高低アクセントがあるってことだけ頭の隅においといて。つぎに、ローマ字表記とひらがなカタカナを見てみましょう」

 「ローマ字で書いたひと、niji、nizi、nidiの3種類の書き方がでてきました。このことから分かることは何?」
 まず、niziと nidiの違いは、さきほどひらがなの、にじ、にぢ、の違いの話と同じなので、省略。では、nijiとniziの違いは何?」
==========

 学生たち「??」

 小学校の時にならったローマ字と、パスポートに書く氏名ローマ字表記が違っていることに、気づいていない人が多い。
 梶山次郎Kajiyama Jiroとか、福島ふたばFukushima Futabaのように、学校では、Ziro、 Hukusimaと習ったのに、パスポートではFukushimaと、異なる表記になっている人ならちがっていることに気づくけれども。

 ローマ字表記に、外務省が採用したヘボン式ローマ字と、文部省が採用した「訓令式」があることを話します。
=========
 日本語教科書がローマ字表記で編集されている場合は、どちらかひとつを採用しています。表記の方式、文部省と外務省がそれぞれ自分たちで決めた表記方式をゆずらず、二種類の表記があります。

 何を共通語標準語とするか、どの文字をつかって自国語を書き表すかなど、コトバに関する決め事は、国が決定します。「言語政策」と言います。これは、「社会言語学」の分野で扱うことなので、この授業では扱いませんけれど、簡単に言語政策の一端を紹介しておきますね。

 国民の共通語をどう決めていくかというのは、近代国家成立にとって、国の基本となる大事なことです。
 国民意識というのは、共通のコトバ、共通の宗教などを基盤として成立するからです。日本の場合、共通の宗教というのはありません。宗教は自由。だから、「日本語を使って生活している」ということは、国民にとって、たいへん重要な共同体形成意識となっています。

<つづく>
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2008年05月26日


ひと夏の経験「痛い!」
 「日本語学イントロコース」、食前のアペリティフで、七色ジュース「にじのしずく」を飲んでもらい、前菜の「公用語のはなし」にはいっておりますが、、、、

 発音表記文法などの「日本語学イントロコース・メインディッシュ」へと進むまえに、ちょっと、箸休めのご報告を。

 熱演で日本語学概論を講じたあとにおきた、教室内のできごとについて。
 涙のご報告、、、、トホホ。

日本語イントロは5/28へ続く。

2008/05/26
ぽかぽか春庭やちまた日記>ひと夏の経験(1)痛い!

 生まれてはじめて経験することって、、、、痛い、、、、。
 痛かったです。ひとりで泣きました。
 BGMは、この曲で。
 http://www.youtube.com/watch?v=GGb4b6bcn3M

 この夏、初夏の風吹き抜ける教室で、生まれて初めての経験を、、、、、、
 ♪あなたに女の子のいちば~ん大切なものをあげるわ♪

 え~、私の場合、あげたんじゃなくて、あがってきたんです。私の、大切な壊れやすい部分の上に、あなたがのっかってきました。
 私のうえにのしかかって来た、あなた。パソコン机さん、重かったです。
 私の大切な壊れやすい部分。足の親指の骨。

 ♪こわれてもいい  捨ててもいい  愛は尊いわ
  誰でも一度だけ  経験するのよ  誘惑の甘い罠

 誘惑されたつもりはないのに、、、、 骨折しました。
 捻挫は何度もしているけれど、骨折は生まれて初めての経験でした。

 5月20日火曜日の授業。
 学生に発表させました。日頃ビデオ、パワーポイントなどを使うために、教室は大学内のパソコン教室を使用しています。
 まじめで熱心な2年生日本人男子学生、「国際交流プログラム」で使用したという「留学生と日本人学生、交流のための手作りカード」をクラスメートに紹介しました。

 いつも眠そうな女子学生が、そのカードを、パソコン教室の机の隙間に落としてしまいました。授業後、女子学生はちょっと試して「あ、ダメ、とれないや」と帰ってしまいました。
 4:20~5:50の授業なので、終了チャイムで皆ソッコー帰るのです。6時すぎると最寄り駅までの学バスの本数が減るので。

 発表した男子学生は、「パソコンで作って、ラミネートカバーして、苦労したのに」と、残念そう。
 責任を感じた教師春庭は、学生が教室から出たあと、パソコン机を倒して、すきまのカードをとろうと試みました。

 教室用3人がけのパソコン机を、ひとりで無理して倒したら、、、、
 机は私の左足の上に落ちました。なんとマヌケな。

 痛かったけれど、とにかくカードを拾い、つくえを戻そうとしたけれど、もう戻せません。近くにいた1年生女子学生を呼んで、手伝ってもらいました。
 痛む足をひきずって帰宅したのは夜9時すぎ。

 翌日水曜日の朝、クリニックへ行ったら、「左足親指骨折全治3ヶ月」という診断でした。

「骨折、動かないでいれば3ヶ月より早くなおるけれど、動いちゃうとなおりが遅いよ。年取れば年取っているほど」と、先生が言ったけれど、動かないわけにはいきません。
 休めば給与がなくなく非常勤講師。生活費は私の薄給でまかなっているのですから、私が休めば、一家で干上がる。

 クリニックで松葉杖をかりて歩いてみたけれど、松葉杖があると歩きづらいことが判明。杖も、使い慣れていないとだめなんですね。
 骨折しても授業を休めない非常勤講師。
 水曜日午後は、タクシーで往復。いつもは自転車で往復している大学なので。

 あ~、見舞いのことばは、、、イラネー。お見舞い金一封のみ受付中。タクシー代のたしにします。

<つづく>
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2008年05月27日


ぽかぽか春庭「ひと夏の経験・つらい」
2008/05/27
ぽかぽか春庭やちまた日記>ひと夏の経験(2)つらい!

 木曜日の出講先は、私の出身校です。タクシーつかったら、講師料などふっとぶ遠方にあります。
 私が在学しているころは自転車通学ができる近所だったのに、区内から東京都下に移転してしまった。近くにいてほしかったよう。

 足をひきずり、泣く泣く階段をのぼり、駅から教室までいつもの3倍の時間をかけて歩きました。左親指骨折ですから、痛くはあっても、右足だけに力をいれて、左足をひきずれば、なんとか歩けないことはない。

 木曜日の電車で。シルバーシートにふんぞりかえってゲームをしているワカゾー、シルバーシートからどく気配もなし。「席ゆずってもらえませんか」と、言おうか言うまいか迷っていたら、ごま塩頭の中年男性が、ときどき痛みにゆがむ私の表情に気づいて席をゆずってくれました。ありがたい。

 金曜日の電車、通学する大学生でいっぱいの時間帯。30分間たちっぱなしで、ついに電車の床に座り込みました。周囲のワカゾーども、いっさい反応なし。
 このヤロー、私が教えている大学の学生なら、単位やらんゾ!と、心の中でわめくも、だれも席を譲ってはくれない。もっとも、自分が教えている大学だろうと、直接授業をとっていない無名のセンコーなんぞ、まるっきり無視するのが、近頃の大学生。

 右足だけに力をいれ、荷物も右肩だけで持っていて、体中へんなふうに力を入れているために、右足と腰が痛くなりました。仕事から帰ってきて、クリニックで右足に電気をかけてもらいました。

 日頃、身体のご不自由な方々のための外出ヘルプもしたことあるし、電車内では、お年寄りお子さんづれの方には席をゆずるようにしている。でも、自分が不自由な身になってみると、世の冷たさ無関心さが、身にしみました。

 私の第一の失敗。机を倒そうとしたときに、ひとりで処理しようとしたこと。「落ちたカードをひろう」程度のことで、事務方の人を呼んだりしたら、「なにかと雑用を押しつける先生」と言われてしまうのではないか、と躊躇した。ああ、気兼ねせずに、頼めば良かった。

 第二の失敗。電車のなかで、若者に「怪我をしているので、席をゆずってください」と言えなかったこと。頼めば、すんなり譲ってくれる若者もいるのだろうに、言えなかった。
 ひとりで背負い込もうとするのが、私の悪い癖。

 でも「怪我をしたので、働けません。来月の生活費、なんとかならないでしょうか」と、夫に言っても、無駄。たぶん、「ないものはない」で、おわりだから。これは一生の失敗。ほんとに不運な人生です。

 「痛むのか?」なんて、夫に言われたりしたら、かえって腹がたって「同情するなら金をくれ!」と、なつかしの「家なきこ」のせりふを叫びたくなるだろうから、家なき夫には何も言わない。

 6月3日に検査入院する姑のつきそいは、娘にかわってもらことになりました。
 見舞いにいくと約束していたウェブ友の病院面会も辞退しました。
 夫が結婚式披露宴に出ないと言っていた夫の姪の結婚式。私がかわりに出席すると言ったのだけれど、6月14日では、まだ完治していないからと、欠席連絡をしました。

 5月初夏から6月7月、全治3ヶ月の、私の「ひと夏の経験」
 身体が不自由なときの気持ちを身にしみさせるための貴重な経験と思って、完治の日まで、不自由、堪え忍びます。

   ♪汚れてもいい  泣いてもいい
 はい、痛さに泣きました。

 ♪こわれてもいい  捨ててもいい  愛は尊いわ
  誰でも一度だけ  経験するのよ  誘惑の甘い罠

 あ~、この経験一度だけでいいけどなあ。年取ってからの骨折はくせになるっていうから、あと何度、よごれてこわれて、泣くことやら。
 それでもって、愛は尊くなかったなー、骨折の身に、愛は冷たかった。

今回の教訓:
尊い愛を知りたい人へ。
すてきな「ひと夏のケーケン」をしたいとき、押し倒す相手は、イケメンに限る。パソコン机を押し倒すのはやめておけ。 
 
<おわり> 
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2008年05月28日


ぽかぽか春庭「世界のなかの日本語・モンゴル力士は日本語がじょうず」
2008/05/28
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(4)世界のなかの日本語・モンゴル力士は日本語がじょうず

 怪我はホント、怖いです。
 怪我がこわい職業といえば、スポーツ選手。
 格闘技の選手など、怪我との戦いの連続のようです。

 怪我のため休場することが多い大相撲。相手に怪我をさせないよう取り組むのも技のひとつといいますが、それでも怪我をするし、取り組み以外での「ぶつかりあい」も多いみたい。

 にらみ合いが話題となった、大相撲の両横綱。どちらもモンゴル出身で、ライバル意識もそうとう激しいようです。土俵上でのにらみあいは、「両成敗」という判断になりましたが、土俵外のにらみあいは続くでしょうね。西と東の差はあっても、横綱でいる間は、ふたりの立場に差はありません。

 しかし、引退したとき、分かれ道ができる。
 横綱は5年間は一代横綱として親方になれるけれど、親方株を買って相撲協会に残るためには、日本国籍の取得が条件とされているからです。

 モンゴル人女性と結婚した朝青龍は、引退後は帰国し、モンゴルで実業家か政治家になるのではないかとうわさされています。朝青龍はモンゴルでの大英雄だし、実家はモンゴルで手広く商売をしているので。

 相撲界の「タニマチ」有力者の娘と結婚した白鵬は、帰化して日本国籍をとるかもしれません。親方株を得て、相撲協会に残るだろう、と憶測されています。
 かって、アメリカハワイ出身の高見山、曙、小錦、武蔵丸が帰化しました。モンゴル出身の旭天鵬も、師匠大島親方の養子となって帰化した、という例があります。

 たいていの国で、外国人が国籍を変更して自国民になることを認めています。
 外国人が帰化申請して国籍変更が認められるには。
 生活能力のあるなしの審査などで比較的簡単に国籍変更が認められる国もある一方、なかなか帰化申請が通らない国もあります。

 日本は、難しいほうのひとつ。
 審査基準の項目のひとつとして、経済的自立などのほかの条件として、
1、思想要件:日本国に被害を及ぼす等の思想を持っている場合は帰化許可されない。
2、言語要件:日本語の読み書きができること。最低限度の読み書きが必要とされている。

 また、日本で働く専門労働者の受け入れについて、日本政府は「日本語を習得していること」を条件にあげたので、労働者を送り出している側の国からは「厳しすぎる」という声も出ています。

 IT産業などで働く場合、日本語より英語を使って仕事をすることのほうが多い場合もあるのに、日本語を「就労条件」にすると、受け入れ間口を狭めることになるから。
 しかし、IT産業などの「直接、社会で人とコミュニケーションをとる必要のない仕事」以外で、日本社会の就労状況を見ると、日本語の話せない人を、たとえば、介護や看護の現場などに受け入れることは、難しいでしょうね。

 ちなみに、モンゴル出身力士がすばやく日本語を覚えるのは、モンゴル語と日本語は、ともにウラルアルタイ語族に属し、語順がおなじだから。
 単語を覚えるだけで、文法を覚える必要がないので、ハワイ出身で英語を話した力士たちより、上達が早い。

 公用語または公用語とみなされていることばを、一国一言語にしているのは、世界のなかで、日本と韓国くらいです。

 たいていの国は自国内にふたつか三つ以上の言語を話す国民を有しています。

 たとえば、インド。
 全国的な公用語(連邦公用語)はヒンディ語と英語のふたつですが、州ごとの公用語は、20以上がそれぞれの州で認められています。実際に使われている言語は、インド一国内に、300言語あるといわれていますから、公用語20でも少ないのかも。

<つづく>
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2008年05月29日


ぽかぽか春庭「公用語って?」
2008/05/29
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(5)公用語って?

 公用語として認めるというのは「公用語で教育を受ける権利」「公用語を使って不便なく生活する権利」を付与するということです。

 単純な例でいえば、国が発行するお札に、公用語での表記を併記する必要があります。義務教育教科書を、公用語別に発行し、その言語での教師育成をはかるなど、教育水準がどの公用語も不利にならないようにしなければなりません。
 インドのお札には13種類の文字で金額を表記してあります。

 チベット民族問題にゆれているお隣中国のお札には、現在、漢字とならんで、ウイグル文字(アラビア語をもとにしたウイグル語の表記文字)、チベット文字、モンゴル文字が表記されています。

 漢字以外の表記をもつ少数民族は、他にもいますが、人口や、どれだけ漢族に同化しているか、などのさまざまな問題があり、お札表記文字は漢字を入れて4種類。

 前代の支配者だった満州族は、ほぼ完全に漢族に同化し、満州文字は研究者以外には読めない文字になっているので、表記されていませんし、東北に多く住む朝鮮族の使うハングル文字も書かれていません。

 この漢字以外の3種類の文字をよくみると、チベット、新疆ウイグル自治区など、中国内で、独立または自治権拡大を望んでいる民族であることがわかります。
 人口11億5千万人という圧倒的な多数派である漢族にとって、チベット、ウイグル、モンゴルは、「少数民族」のなかでも、とりわけ扱い方に注意を払う必要がある民族なのでしょう。

 支配民族となったことがあるモンゴル族(元王朝)、満州族(清王朝)に対して、ウイグル族、チベット族にとっては、漢族と同化することはないし、自治権を与えられていると言っても、結局は漢族共産党政権の支配下に置かれていることが、なにかと抑圧感を強める結果となるのでしょう。

 少数民族には優遇策もとられていて、表面上は、どの民族も仲良しに見えるのですが。
 去年私が赴任していた中国政府直轄の学校にも、「新疆班」という特別クラスがありました。選ばれたウイグル人が日本語を学ぶクラスです。
 彼らにとって、母語はウイグル語。小学校中学校で中国語を習い、さらに日本語も学んでいる。「多言語共生」を生きている人々です。

 元気な若者たちのクラスで、「校内綱引き大会」をしたとき、新疆班は、圧倒的な強さで優勝しました。「民族の底力」を見せてやろう、という迫力を感じました。

 (綱引き大会。ちなみに、私が担任した博士2班は一回戦敗退。教職員対決では、事務職>日本語教師>中国語教師でした。)

 さて、中国語の話者は13億人。国連公用語のひとつ。それからみたら少ないですが、日本語は、1億3千万人の話者がいて、世界のなかでは、多い方から10番目前後に位置する「メジャー言語」のひとつです。

 3000以上あるという世界の言語のなかでは、「多数派言語」のひとつですが、日本語を「マイナー言語」と思いこんでいる人も多い。
 これは、国連公用語になっていないせいもあるでしょう。
 国連公用語、英語、中国語、アラビア語、スペイン語、フランス語、ロシア語

 ここで、問題、日本国内の「公用語」はなに?
 答えは「日本語=日本の公用語」ではありません。
 「え?日本語じゃないの?」

 事実上、社会生活や教育で使われている言語は日本語ですが、法的に「日本語を公用語とする」という明文化されたものはありません。
 「日本語=日本の社会に生きているみなが、公に使われる言語として認めていることば」ということであり、事実上の公用語ではありますが。

 「日本の法廷で裁判官検事らが使う言語は、日本語とする」という裁判所の規定はありますが。(そのため、法廷通訳の役割は重要です)
 
<つづく>
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2008年05月30日


ぽかぽか春庭「v私たちの国語=日本語?」
2008/05/30
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(6)私たちの国語=日本語?

 「社会全体で共通して使用しており、みなが『国語』とは日本語だ」と、思いこんでいる言語として日本語があり、事実上は「国語=日本語」ですが、日本国内には、法律で定められた公用語はありません。
 法的に公用語を定めるまでもなく、みなが日本語を母語としている、ということでもありますが。

 近代国家というものは、ベネディクト・アンダーソンが述べているように、国民が「自分たちは、○○国の国民だ、国家に帰属している」と、思いこむことから始まる『想像の共同体』です。
 この思いこみを形成するツールのひとつが言語です。

 明治政府が近代国家を形成しようとしたとき、富国強兵殖産興業に加えて、「標準語の制定」を急いだのも、「ことば」が国家の要だったからです。
 「私たちは日本語を話している」という意識も、実は「あたりまえ」のことではなく、「近代国家によって洗脳されてきた、すり込み」なのです。

 「日本国内でも英語を公用語にしよう」と発言した人がいましたが、おそらく「公用語」の意味がわかっていないのだろうと思います。

 英語を「公用語」と定めるのなら、お札も日本語と英語も表記が必要。英語で教育する公立学校を、英語話者のために公費設立すべきだし、英語話者が日常生活において、日本語母語話者に比べて、いささかの不利も被らないようにする法的な措置が必要です。

 ビジネス社会で英語を使えるようになることと、国の言語政策として英語を公用語とする、ということの区別もつかないような人に、英語うんぬんの議論をしてほしくない。

 140年前の近代国家成立時、 日本には、日本語を話す国民のほかにアイヌ語を話す国民がいました。しかし、アイヌ語は明治政府に認めてもらえませんでした。

 明治政府は、アイヌ語を認めるどころか、弾圧し日本語を強制しました。このことは、日本がアジアに進出したときの日本語強制政策の手本となりました。日本語教育史にとって、残念な歴史のひとつです。

 自分たちにとって残念な結果となった歴史をふりかえることは苦しいことですが、日本語教師がこれからの教育のために知っておくべき歴史がたくさんあります。
 歴史的事実を掘り下げつつ、未来をめざす。

 あらたに公用語を定めるのなら、英語ではなく、アイヌ語こそを公用語にすべきです。

 アイヌ語は、国会内通用言語として認められています。
 アイヌ出身の萱野茂(かやのしげる1926~2006年)が、国会議員として1994年から1998年までつとめたおかげ。

 アイヌ語を公用語として認めるよう求める運動もこれから大きくなっていくことでしょう。弾圧の結果、アイヌ語母語話者が現在は消滅していますが、アイヌ語とアイヌ文化を守り、継承していこうという運動は広がっています。

 アイヌの人々の文化を尊重し、権利を認める運動は、ようやくはじまったところです。
 日本語概論を学ぶ上で、アイヌ文化を尊重し、アイヌ語を知っていくことは大事ですよ。

自分たちが生きている社会にどんな文化がありどんな歴史を有してきたのかも知らないで、異文化の中に生きてきた人々に日本語を教えようなんて、おこがましいことです。

<つづく>
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2008年05月31日


ぽかぽか春庭「アンガウル島の日本語」
2008/05/31
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(7)アンガウル島の日本語

 英語を話せるから日本語教師としてやっていける、と思っているような日本語教師もかっては多かったのですが、「英語第一主義の日本語教師」なんて、これからの時代に生き残っていけません。

 日本語を知っていると同時に、自分たちの文化アイデンティティをしっかりもっていることが大事。そのためは、日本文化のひとつとして、アイヌ文化やアイヌ語への理解をもっていてください。
 「共生」とか「他文化主義」というかけ声は大きくなりましたが、まだまだ日本は閉鎖社会です。世界へ向かって開かれる日本語教師をめざしましょうね。

 以上のような問題は、社会言語学のなかで、言語政策として詳しく学ぶことができますが、この日本語概論ではこれ以上詳しくは扱いません。
 また、異文化交流や、自国内の文化理解についても、他の講義プログラムがありますから、受講してください。

 社会言語学は、標準語と方言、敬語など、社会のなかにことばがどのような様態であらわれるかを見ていきますので、興味がある人は、後期開講の「社会言語論」の授業をうけてください。

 日本語は、1億2千万人の母語話者がおり、大人数が話している言語です。話者数の多さで言ったら、世界の3000以上ある言語のなかでは、十指に入る大言語。
 でも、母語話者以外の日本語を第二言語として話す人は、ごく少ない。

 英語は、母語話者以外に、第二言語として話す話者が世界に10億人以上、います。英語を公用語にしている国も数多い。
 フランス語を母語として話している人は、8~9千万人で、日本語母語話者より少ないけれど、フランス語を公用語としている地域の話者を入れると、約4億人の話者がいます。

 日本語を法律上の公用語にしているのは、ミクロネシア・パラオ共和国のなかの小さな島、人口200人足らずの「アンガウル島」だけです。しかし、たったひとつの島(州)でも、日本語を「地域で通用する言語」としてみなす地域があることはうれしいことです。

 アンガウル州では、自然保護の活動をしている日本のNPO法人のOWS(The Oceanic Wildlife Society)が、自然を守るためにまた自然を生かした観光事業のプロジェクトを展開してきました。(2003~2006)

 私は、太平洋地域では、西サモア、パプアニューギニアやソロモン諸島などからの留学生を担当したことがありますが、パラオ出身の学生には教えたことがありません。
 パラオは、自然豊かで親日的な国。前大統領は日系のナカムラ氏でした。いつか行ってみたい国のひとつです。
===============
 じゃんぼ!の挨拶や、「に、じ」の聞き取りをしている間は、おもしろそうって思った人も、いよいよこれから、日本語学イントロダクションの授業中継をはじめるってことで「対照言語学」「言語政策論」だの「公用語」だのっていう専門用語が並びだして、眠くなってしまったかも知れません。

 言語学には、音声学、音韻論、統語論、形態論、意味論、遂行論、命名論など、さまざまな研究分野があります。
 個別言語学とは、「いわゆる各国語」の言語学です。「日本語学」とは、個別言語学の中の一分野です。

 春庭の日本語学紹介、にほんごイントロ・コースは、「専門的に日本語学を教える」というより、「できる限り楽しく日本語の諸相を紹介して、日本語学に興味をもってもらう」というほうを優先しています。

 だから、「こんな教え方では、日本語学の専門知識が身につかないではないか」という批判もあろうかと思います。

 私の方針は、「日本語に興味をもつきっかけを提供し、興味を持ったら、自分で専門書を読むようになってくれればいい」ということです。
 音声学も形態論も敬語論(待遇表現論)も、よい入門書がたくさん市販されているので、一冊手にとって読み終えれば、日本語のさまざまな現象が体系的にわかります。

 「日本語学イントロコース」、食前のアペリティフで、七色ジュース「にじのしずく」を飲んでもらい、前菜の「公用語のはなし」がおわると、いよいよスープ、メインディッシュへと話がすすみます。

 では、6月のメインディシュをお楽しみに。
 6月最初は、「日本語はボインが好き」ってことから。え?あなたは、ボインが好きじゃないの?それじゃ、お楽しみに、って言えませんね。ざ~んねん。

<つづく>

2008/06/01
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(8)ボインとシイン

 日本語学イントロ授業、つづけています。

 社会言語学だの対照言語学だのということばで、眠気をもよおした方、眠気防止に、BGMをかけながら、この授業記録をよんでください。
http://www.youtube.com/watch?v=10w_sEcHlGs
(オズの魔法使いより、ジュディ・ガーランドの歌う「虹のかなたに」)

 さて、「[Ni+ji」「Ni+zi」というローマ字表記を見て、日本語学受講者として気づいてほしいことは、文部省と外務省の表記の差のことだけではありません。

 日本語母語話者は、「課はどこだ?」とか「蚊に刺された」という発言をして、「か」と発音したとき、自分は「か」というひとまとまりの音を発音したとおもっています。「か」が分解できるとおもっていません。

 「N i」、「J i」をよく見てね。「に」「じ」と、どこが違う?
 はい、そうね。「に」は文字ひとつだけれど、「Ni」は、文字ふたつです。
 [n」[i]をひとつの音の表記とみなします。
 「か」をローマ字表記すると、「ka」。分解できますね。「k」「a」のふたつの文字を使います。この[k]また[a]、ひとつひとつを、「単音」「音素」といいます。

 [n]を単独で発音する/ N /は、日本語にとって、特別な音です。特殊拍というのですが、これはあとで音声についてもう一度学習するときに話します。

 [a]、[i]のような音を「母音ボイン」といいます。日本語だと母音は、「あいうえお」の5つです。母音5つの日本語に対して、スペイン語イタリア語など同じく母音5つの言語は発音しやすい。とくに、イタリア語は発音しやすい。なぜかというと。ことばの音作りの基礎が同じしくみだから。

 [n][z]のような音を「子音シイン」といいます。
 日本語は、[ni]や[ji]のように、いつも、子音と母音がふたつ組合わさった音によって単語ができあがっています。これは、日本語の発音の大きな特徴です。

 イタリア語も、だいたいこの母音と子音を組み合わせた発音なので、日本語母語話者にとって、発音しやすいのです。スワヒリ語も日本語と音の組み立て方が同じです。発音しやすい。

スワヒリ語やイタリア語は、カタカナ書きをして、その通りに読んでいけば、ほぼ、現地の発音と同じに聞こえます。
 イタリアへ行ったら「Ti amo.ティアモ 」と、言いましょう。ケニアへ行ったら「Nakupendaナクペンダ」と言いましょう。このとおりにカタカナで読めば、「愛しています」と表現できます。

 一方英語は日本語と発音の仕組みがちがうし、英語の母音は、少なく数える学者の数だと16、多く数える学者だと20以上あると言います。日本語母語話者にとって、英語は実に習いにくい、発音のやっかいな言語です。

 英語をカタカナ書きして「アイラブユー」と言うと、「私はあなたをこすります」になることもあるから、お気をつけください。

<つづく>
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2008年06月02日


ぽかぽか春庭「のぐちさんは笑う・音節の話」
2008/06/02
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(9)のぐちさんは笑う・音節の話

 はい、まずは、日本語をしっかり身につけましょう。
 「か」をローマ字で書いてみましょう。そう、「ka」ですね。ではkaのなかの「a」だけ発音してみて。

 学生たち「アー」
 はい、よくできました。
 のどに手をあててください。「あ~」と言って。はい、いまのどがビリビリとふるえました。声帯を震わせたからです。この声帯がふるえる音を有声音といいます。

では次に「k」。aなしに、これだけ発音しましょう。
 学生を指名すると。
 「ケイ」
 そうね、アルファベットの「文字の名前」はケイです。でも、ここでは、文字の名前を言うのではなくて、kaという発音のなかの前半分のkだけ発音してほしいのです。

 「k」の発音をしてくださいと言って、学生何名かに発音させると「ku」と言う。つぎつぎにあてていく。「ku」、「ku」、「 ku」、、、、、中に「k」と発音できた学生がいると、拍手拍手。よくできました。

 他の学生にもこの「k」だけの発音を伝授します。
 「ちびまるこのクラスメート、のぐちさんを知ってますか」
 学生たち、ちびまるこのアニメを見て育った世代なので、みな、のぐちさんをよく知っている。

 はい、のぐちさんが笑います。kっkっkっ。これがkの発音です。はい、みなさんも、のぐちさんになってください。
 k、k、k、、、、、

 では、のどに手をあてて、もう一度「のぐちさん笑い」をします。「kっkっkっ」
 こんどは、のどがふるえなかったでしょ?声帯をつかっていないからです。これを無声音といいます。

 あら、「くっ」で、ふるえたの?それは「ku」です。[u]をつけちゃったから、声帯がふるえた。[u]は、母音で、有声音ですから。

 普段、私たちはkaの音のkだけを分解して発音することがないので、kの音を発音しようとしても、どうしてもkuになります。
 日本語母語話者がbook storeを発音すると bukku sutoa、ブックストアとなります。bookの[k]だけを発音することはむずかしい。

 日本語ではkだけを音のまとまりとして使うことがないのです。アイウエオの音がkに組合わさった、ka、ki、ku、ke、koを、ことばを表現する最小単位として使っています。
 この「ことばを組み立てている音の、ひとまとまりのくぎり」を音節といいます。

<つづく>
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2008年06月03日


ぽかぽか春庭「おばさんお肉来て、おばあさんはここに切って・促音と長音」
2008/06/03
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(10)おばさんお肉来て、おばあさんはここに切って・促音と長音

 母音だけを発音したり、母音と子音をふたつ組み合わせて発音するしくみを「開音節=open syllable」といいます。
 英語のcat やdogのように、子音で終わる語の音のしくみを「閉音節」と、言います。

 日本語を生まれたときから話している人は、いつも開音節でことばを組み立てるので、閉音節の発音が苦手です。catはkyatto、dogはdogguという発音になりがちです。
日本人にとって、苦手な発音があるということは、自分の母語と異なる発音の日本語は、その人にとって、とても難しい.。

 日本語を生まれたときから話している人を、「日本語母語話者」と呼びます。単純に日本人と言ってしまうこともありますが、日本語学の授業で日本人というとき、日本国国籍所有者という意味でなくて、日本語母語話者という意味で使うことが多い。

 ほんとうは、日本国籍所有者と日本語母語話者は別ですが、日本国内では、「日本で生まれ育った日本国籍所有者=日本語母語話者」と思われているので、わたしも、つい、日本人=日本語母語話者の意味でつかってしまいます。

 生まれたときから日本語を話している人はlaとraの音に違いはないと思っています。「light」「 right」も、どちらも区別なしに「ライト」と聞こえます。kaとkhaも同じ「か」という音に聞こえます。でも、英語ではlaとraは違う音声だし、タイ語や中国語では、kaとkhaは違う音声です。kaは無気音で、khaは息がでる有気音です。
 
 日本語では、kaa-sanと呼びかけても、 khaa-sanと言っても、お母さんは、自分が呼ばれたと思って振り向きます。kaa-sanも khaa-sanも、同じ意味になるから。でも無気音と有気音を区別する言語なら、kaとkhaは、別の意味になるのです。

 日本語母語話者にとって、区別できない音があるのと同じように、他の母語話者にとって、「か」と「が」は、まったく区別がないし、「きて」「きって」の区別がわからない人もいる。「おばさん」と「おばあさん」の区別がわからない人もいる。

 「おばさん、切ってください」「おばあさん、来てください」という文は、どちらも同じに聞こえる、という地域の人もいるのです。
 「おばさん」と「おばあさん」は、短母音と長母音のちがい、「来て」と「切って」は、促音(つまる音)を使うか使わないかのちがい。この区別がむずかしいという言語のひとはかなりいます。

 どこのどんな発音が難しいのか、ということを知らないと、日本語教師、つとまりませんよ。小さいツの。つまる音、促音がどうしても発音できない人もいるのです。

 「まち」と「マッチ」の区別がわからない、という人がクラスにいたとき、どうして区別できないの?と思わずに、ああ、私も「右のライトrightも、灯りのライトlightも、同じライトにきこえるなあ」と、思ってくださいね。

<つづく>
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2008年06月04日


ぽかぽか春庭「おじいさんリスにニス塗るおじさん・異音と音節の話」
2008/06/04
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>虹をかける授業(11)おじいさんリスにニス塗るおじさん・異音と音節の話

 どの音をことばの区別に利用するか、それぞれの母語によって異なります。
 日本人にとっては、「thank you」と言っても、「sank you」と言っても、同じサンキューに聞こえます。他の言語の人にとって「おじさん」と「おじいさん」は、同じに聞こえます。

 このように、音声的には異なる音であっても、ことばの組み立ての上では「同じ音」と認識するある二つの音を、音韻論では「異音イオン」と言います。

 日本語標準語では、濁音の「が」と鼻濁音の「ガ」が、異音のセットです。
 ひらがな表記では同じ「が」ですが、口から息を出す口音・有声音「が」と、鼻から息を出す鼻濁音(鼻音・有声音)「が」のふたつがあります。
 語頭の「が」は口音、語中の「が」は鼻濁音を使う、というのが標準語の「が」の発音でした。

 「私は雅楽の楽譜が読めない」というとき、雅楽(ががく)の最初の「が」は、口音、二番目の「が」は鼻濁音。「楽譜が」の最初の「が」は口音、二番目の助詞「が」は鼻濁音。このふたつの異音を無意識に使い分けていたのです。

 かって、NHKのアナウンサーは、このふたつの音を使い分けられないとニュースを読ませてもらえない、と言われましたが、今はどうでしょう。
 現在、若い世代のなかには、鼻濁音「が」を使わない人が増えています。全部、口へ息を出す濁音の「が」です。

 それで、日本語の異音の話をするとき、「が」の例を使っても、わかってもらえなくなりました。
 もうひとつ、日本語のわかりやすい異音のセット、「ん」の発音があります。
 「ん」の異音については、春庭カフェコラム2007年/10/05~10/07をご参照ください。
 
 nとrが同じ音に聞こえるという人もいる。
 中国南部の出身者にとっては、「栗鼠リス」も「ニス」も同じ音に聞こえます。[n][r]が異音だからです。

 塗料のニスの語源はオランダ語vernisです。英語だとvarnishですが、これは語彙論のところで「外来語のはなし」で詳しく教えます。今は、リスとニスの発音のはなし。

 日本語では、リスとニス、動物のリスと塗料のニスは違うことばですよね。なんで違うことばなのに、区別できないんだ、と思ってはいけません。
 日本語を生まれたときから話している人には、thankと sank の区別ができませんし、lice とriceの聞き取り区別ができないのですから。シラミもご飯も同じ「ライス」です。

 日本語母語話者にとって、「l」と「r」は同じ音に聞こえる「異音」です。中国南部出身者にとって、「n」「r」は、同じ音に聞こえる異音です。

 母語によって、どの音声をことばを区別する音に採用しているかが異なります。この違いをまず知ること。

<つづく>

春庭の漢字授業-語彙教育としての漢字教育

2010-08-17 14:43:00 | 日本語教育
2010/10/13
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(1)文字表記

後期授業がはじまり、日本人学部生のための日本語教師養成コースの「現代日本語学演習」や「日本語教育研究」の講義を行っています。半期90分授業を演習は15回、研究は30回の講義。日本語教育コースであるから、教育面にも触れますが、何よりも日本語についてさまざまな面から「気づき」をしてほしいというのが、私の教育法です。

 「ひらがな五十音」を見ても、漢字をみても、留学生の誤用文を見ても、日本語についての新たな発見ができるはず。今まで知っていると思い込んでいる日本語について、実はまだまだ知らないことが山のようにあり、留学生に日本語を教えるためには、自分自身の日本語力を高めていくことが必要だということに気づいてほしいというのが、私の授業のの目的です。

 前回は、ローマ字書きについての復習。みな、小学生のとき文科省式のローマ字を習ってきたのに、パスポートをとるときは外務省式のローマ字表記で名前を書いていることにまったく気づいていませんでした。そこでヘボン式ローマ字表記を復習しました。私の授業方法は、ノートにサシスセソ、タチツテト、ザジズデド、ジャジジュジェジョなどをかかせて、隣の人と異同を確かめ合う、という方法。ただ「ヘボン式とはこのような書き方をします」と解説するのではなく、自分たちで表記を確かめ合うということで二つの書き方があることを納得させます。

 毎回書かせている学生の授業記録(今回からメール送付にしました)による感想。
 A:訓令式(文部科学省)とヘボン式(外務省)の違いについて、確かに苗字で福や深などがつく人はHではなくFを使っていました。サ行をローマ字で書いてみると確かに若干の違いがあるということがとても不思議でした。
 B:私はヘボン式という言葉を初めて聞いたし、どういったものかの予測もできなかったので、それが一番印象的でした。ヘボン式というのはローマ字のパスポートで使うような外務省の表記法で発音が重視された表記。(ta ti tu te to)それとは別に訓令式というものがあって、これは学校の授業で習うような文科省の表記法。(講師訂正:ヘボン式と訓令式の表記をまったく逆にとらえています。訓令式が(ta ti tu te to)、ヘボン式が(ta chi tsu te to)です。

 学生にノート記録を提出させることによって、学生の誤解も知ることができ、私にとっての授業記録にもなりますし、メール送付の場合、転載も簡単なので授業ノートサイトを作って、学生がクラスメートのノートを覗けるようにしたところ、互いに参考にしあえるという効果もありました。

 今回は、これまで何度も同じテーマで書いてきた「留学生のための漢字教育」について載せます。何度も同じ話題を書いてきているので、春庭コラムを続けて読んでくださっている方にとっては、「また、あの話だよ」と思うことばかりなのですが、教師は同じテーマでも手をかえ品を変え、学生の顔ぶれに合わせてアレンジしているのです。これから半月間12回続けてUPしますが、授業ではこの12回分を90分授業2コマほどで「日本語の文字表記、文字表記教育漢字教育」として解説します。

 表意文字の漢字について復習しておきましょう。
 中国の漢字は、世界の文字のなかで少数派。発音を表す音素文字(アルファベットはそのひとつ)でも音節文字(ひらがなカタカナはこれ)でもありません。文字ひとつひとつが意味を表す「表意文字」です。発音と、語の意味内容を同時に表しています。

 2007年に中国へ赴任したときだったか、2009年のことだったか忘れましたが、中国のお札に、漢字とともにモンゴル文字、ウイグル文字、チベット文字が併記されていることを書きました。中国には、54の少数民族がいますから、漢字以外の文字もさまざまにあります。最大の中心民族である漢族の文字は、もちろん「漢字」。

 単語の数は無数・無限大ですから、使用する文字数は、世界で一番多い。現代中国語では約6千字の組み合わせで、無限大の単語を表現しています。
 日常生活で使用する5000~6000字のほか、漢字文字数、5万字もあります。康熙字典(こうきじてん)には49,030字を記載。
 現代中国語漢字大辞典では、簡体字も加えて、約5万5千字の文字が記載されています。
 学生たちは、漢字の数が5万あるということも「初めて知った」と言います。

<つづく>
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2010年10月15日


ぽかぽか春庭「絵文字から発音表記へ」
2010/10/15
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(2)絵文字から発音表記へ

 2005年から小学校のローマ字指導は、ヘボン式も取り入れた新訓令式(日本式ローマ字にヘボン式も加えたもの)を教えるようになりました。ただ、現在の大学生は旧訓令式でローマ字教育を受けてきたので、ヘボン式との差異を教えています。日本語の文字の表記は音節を元にしているので、「し」という音節は「si」と書く、という指導でよいのですが、英語発音重視が強まった結果、「し」の発音には「si」より「shi」のほうがよい、ということになったのですが、これは英語を重視した表記法であるということです。スペイン語では「ju」は日本語の「フ」に近い発音ですが、「フ」を表記するとき、スペイン語方式の「ju」ではなく、英語方式の「fu」が採用されています。旧訓令式では「hu」と表記。表記と発音の問題はなかなか深い問題があるのです。

 漢字は、文字のひとつひとつが意味を持っていることが大切な要素になっています。地方の方言によって同じ漢字の姓名も発音が異なる。でも、同じ漢字の姓なら、「先祖は同族かもしれない」と感じるみたいです。互いに異なる民族または国家でも、使用する文字が同一であることをもって「同種同文」、同じ文化を持つと感じるのが中華思想のひとつ。
 中国語の方言、発音が異なっても、使用する文字は同じ漢字です。
 漢族にとって「漢字を使用している民族は同族」という意識があります。

 中国の広い大地。発音の差が大きい地方でも、文字の読み書きができる人を相手にするのであれば、漢字表記すれば、だいたいの意味がわかります。そのため、中国の各地放送局が作るドラマやニュースでは、ほとんどの場合、字幕として漢字表記が出ています。
 漢字は、中国語の方言を話す人たちにとって、「全中国共通語」を知ることでもあります。中国語は、同じ漢族のことばでも方言差が大きくて、方言の通訳が必要です。
 それぞれ別の発音でも、表記すれば何を言っているか、通訳がなくてもわかります。筆談ができるからです。

 日本語にとっても、漢字は意味概念を一目で理解するのに適した表記です.。「山」は三つの頂を持つ山塊を表した絵から作られました。日本語はその文字をとりいれて、元の古代中国の発音「サン」と同じ意味を表す日本語の「やま」の両方を使うことにしました。現代標準中国語の発音では「山シャン」という発音です。「行」という文字は、中国の時代や地域によって異なっていた発音を、それぞれ取り入れました。奈良時代以前に取り入れた古代中国の発音は「ギョウ」でした。この発音を呉音といいます。修行、行列など。平安初期ころに取り入れた発音は「コウ」です。旅行、行軍など。この発音を「漢音」といいます。鎌倉室町ころに取り入れた発音は「アン」です。行灯、行脚など。現代標準中国語の発音では「シン」です。発音は別々ですが、意味は「目的方向へ向かって進んでいく」で、足を表した形がふたつ並んでいる絵が元になっています。

 一目見てすぐに意味を伝えることができるもの、それは「絵」です。
 魚の絵を描けば、それが少々下手くそな絵であっても、魚であることは理解できるでしょう。花の絵をかけば、花を描いたのだと、たいていはわかります。

 古代エジプトのヒエログリフをはじめ、世界で文字が最初に作られたとき、絵文字→象形文字がほとんどでした。ヒエログリフは、時代が進むと「表音文字」と同じ使われ方もされるようになっていき、アルファベットなどと同じ「音を表す文字」として、王の名前などの発音を示すことも出来ました。

<つづく>
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2010年10月16日


ぽかぽか春庭「絵文字から表語文字へ」
2010/10/16
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(3)絵文字から表語文字へ

 絵文字(表意文字)としてのヒエログリフも、アルファベットと同じ表音文字としてのヒエログリフも、どちらも、紀元後4世紀には、だれも読めなくなってしまいました。(解読は19世紀のシャンポリオンによる)
 サンシャイン60ビルにある古代オリエント博物館に、「ヒエログリフで名前をかこう」というコーナーがあります。私も、自分の名前を書いてみたことがありました。ハングルで自分の名前の発音が、ひらがなとまったく同じには書けないように、ヒエログリフでも同じ発音にはなりません。
 しかし、近い音をさがして絵文字を組み合わせると、名前がつづれます。ヒエログリフを日本語の五十音表にあてはめた表を掲載しているサイト
http://www.mojix.net/mojio/hiero/jkw.html#alphabet
「ヒエログリフで名前を書こう」というサイト。
http://www.isop.co.jp/main/hiero/hieroindex.htm

 ヒエログリフで「ふくろうの絵」は「m」「ム」の音を表しています。
「コブラの絵」は、[dj]の発音を表す。日本語のカナだと少し音が違うけれど「ジェ」「ジュ」に聞こえる音。

 2010年6月、友人のK子さんがエジプトトルコ旅行をしてきて、パピルスに書かれたヒエログリフと、胸にヒエログリフの絵がついているTシャツをおみやげにくれました。さっそく後期の日本語学演習のクラスで披露しました。ついでに「古代文字」のいろいろ、まだ解読されていないマヤ文字とか、解読されたくさび形文字とか、現代の若者にも人気の中国の少数民族の文字であるトンパ文字を見せました。

 だれも読めなくなってしまったエジプトのヒエログリフ。
 ヒエログリフなどに比べて、漢字が独自である点は、絵が意味を表し、ひとつの単語や意味形態素として、数千年も使われ続けていることです。
 山は、三つの頂がある山の絵からできており、数千年の間、ずっと「山」という意味を表してきました。
 水の流れを三本の線で表した「川」は、ずっと、川の意味で表示されてきました。

 漢字はひとつの文字がひとつの単語を表す表語文字です。
 「花」は単語(名詞)をあらわし、「春になると草や木に見られる、美しい色をした植物の繁殖器官」をさししめす。 漢字形態素(部首)としては「草冠+化」から出来ています。草冠は植物であるという意味を表し、化は発音を表しています。
 形態素というのは、言語学で、音や意味の最小単位をあらわすものです。漢字の形態素は、部首として分けることができます。漢字の形態素とはどのようなものでしょうか。

 たとえば、意味の形態素として、「攵」があります。部首としての日本語での呼び方は「ノブン」で、旁(ツクリ)の形態素「攴=ボクヅクリ・ボクニョウ」の省略形です。
 改、攻、政、放など、漢字の右側に使われます。
 「攵」だけでは単独の漢字として用いられることはありません。ツクリになったとき、「し向ける、その行為動作を強いる」という意味を表し、「動詞」の記号となります。元の絵は鞭を手に持って打っている絵でした。
 「攵」が右側にある文字は、「動詞」としての機能をもつ、ということを表しています。
 このように、音声を表さず、意味内容だけ表す文字もあるし、形声文字のように、「音声」を与えるために使われる文字もある。

<つづく>
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2010年10月17日


ぽかぽか春庭「音と意味の組み合わせ」
2010/10/17
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(5)音と意味の組み合わせ

 虹は「虫=蛇・竜」が「工=ものさし」を用いて工作してできたものです。「工」はコウと発音します。「工」を発音を表す記号として形声文字が作られます。
 「コウ」と発音する「大きな川」を表すことばがありました。このことばを文字にしたいとき、「コウ」という発音の文字として「工」を選び、意味形態素のとして「水= シ (部首の名前としてはサンズイ)」を加えれば、「江」。「長江」などでは、広くて大きな川、の意味。
 日本語では大きな川の河口や「入り江」を表し「江戸」「江ノ島」「江口」などに用いられます。

 象形文字、会意文字、形声文字など、漢字の成り立ちには6種類があり、音を表す文字の用法も開発されていたのに、漢字は、語の意味を表す文字=表語文字としてそのまま数千年も使われてきました。
 日本語も、この、「意味を表す文字」をとりいれ、さらに音を表す文字「仮名」を作り上げました。

 漢字は、どこで作られた文字ですか?と、質問すると、大学生たち、みな「中国」と答えます。はい、その通り。小学生でも知っています。
 でも、自分たちが使っている文字が、隣の国で作られた文字だということを意識しながら、国語に必要な文字として使いこなしている民族は、世界の中では少数派です。

 お隣韓国では、15世紀に国王の世宗が学者に命じて、自国語にふさわしい表記文字ハングルを完成しました。かって使用していた漢字は、氏名地名の表記などごく一部に使っているだけです。

 ベトナムもかっては漢字を用いていましたが、今は、アルファベット使用になりました。現在アルファベットを使用しているベトナムの小学生は、アルファベットがどこで作られたかなどということは、気にもしていないし、教わることもないでしょう。
 アメリカやイギリスの小学生も同じこと。文字表記論の学者でもなければ、アルファベットの起源について、詳しく知る人はいないでしょう。

 でも、日本の小学生は、中国から来た漢字、中国由来の漢語であることを意識しつつ文字を教わっていく。
 中国語読み(音よみ)と日本語読み(訓よみ)を併用しているためです。

 日本語母語話者は、自分たちの読み書きする文字が外国からもたらされたことを意識しながら、母語の読み書きに自然に使用している、という世界に例のない文字使用者なのです。
 モンゴルは独立以来、モンゴル語を書き表すのにキリル(ロシア)アルファベット文字を借用していました。しかし、キリル文字を使用する場合、モンゴル文字はまったく使用せず、数種類の文字を混ぜて使うことはしていない。

 日本語では、漢字とひらがなカタカナを交ぜ書きにしています。この数種類の文字を混ぜて使うということは、日本語の特徴のひとつです。
 日本語表記に合っている表記方法ですが、非漢字圏の学習者にとっては、「日本語の習得が困難」と思わせてしまう原因のひとつです。

 逆に、はじめて知った表意文字のおもしろさに、「漢字オタク」になる留学生も多く、薔薇や憂鬱がそらで書ける、という程度ではなく、漢字文化のさまざまな面に興味を持つようになります。

<つづく>
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2010年10月19日


ぽかぽか春庭「ベトナムも韓国も「公園」は「公園」」
2010/10/19
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(6)ベトナムも韓国も「公園」は「公園」

 先週学生に披露したヒエログリフやトンパ文字については、学生からの授業コメントで「始めて見て興味がもてた」「トンパ文字は絵そのもので、文字とは思えない」などの反応があり、「世界の文字」に関心を広げることができたこと、よかったです。
 漢字は東アジアに広がり、文化圏を形成しました。漢字文化圏の広がりを知るために、中国、韓国、ベトナム、日本の単語を比べてみるとおもしろいです。
 現在、表記の上で韓国はハングル表記、ベトナムはアルファベット表記になっていますが、語源の同じものは多い。

 公園(コウエン)を表すことば。中国語ゴンユァン(gongyuan)、韓国語コンウォン、ベトナム語ゴンヴィエン(gong vien)。
 音だけ聞くと、別々の語みたいですけれど、漢字で書き表せば、全部「公園」です。発音の違いは、それぞれの「ナマリ」と思えばよろしい。

 「安全」「言論」「政治」「法律」など、数多くの語が、ベトナム韓国中国日本で、共通の「漢字語・漢語由来の語」として、それぞれの国語でつかわれているのです。(中国起源の漢字語と、日本が明治期に作った漢字語の両方がある)

 漢字文化圏とひとくくりにはできないことは承知の上で、でも、共通の語がたくさんあることを、文化の広がりと分かち合いのために生かすことはできないかと考えています。

 以下、春庭の日本語教育概論の中の授業の一部として、日本人学生に「漢字の指導方法」として講義した記録です。毎年同じような講義をしていますが、毎年学生の人数や顔ぶれに合わせてアレンジはしているのです。留学生への漢字指導部分と、日本人学生への「日本語教育概論・日本語教授法」の授業がいりまじった記録になっていて、わかりにくい部分があるかもしれません。

 留学生対象の授業は、基本的には、日本語直接法(日本語だけで日本語を教える方法)ですが、一部分、英語を媒介語にしています。折衷法という教え方です。
 非漢字圏の日本語学習者への漢字指導の一例の紹介です。

 非漢字圏の日本語学習者用の漢字教科書のほとんどは、象形文字から指導を始めます。10月15日金曜日は、非漢字圏学生、モンゴル、レバノン、ミャンマーの3人への第一回目の漢字授業でした。象形文字から導入しました。
 山の形から「山」という漢字ができた、水の流れの形から「川」ができた、と指導をはじめます。
 このやり方は、漢字に興味を持たせるために、とても効果的です。

 しかし、このため、絵文字には興味を示しても、形声文字になると、興味を失ってしまう留学生もでてきます。

 私は、象形文字の説明の前に、漢字はパーツ(ラディカルズradicals)で出来ているという説明をします。漢字の大部分は形声文字だからです。
 ほとんどの漢字は、音声を表すパーツと、意味を表すパーツで組み立ててできていることを教えます。

<つづく>
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2010年10月20日


ぽかぽか春庭「花の指導」
2010/10/20
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(6)花の指導

 形声文字であっても、できるだけ会意文字のように、パーツに意味を与えて、覚えやすくします。「花」という文字を例にとって、非漢字圏留学生への漢字指導を考えましょう。
 まず、漢字に興味と不安を持っている非漢字圏留学生に「漢字は、ことばの意味を表している文字です。形は複雑なものが多いですが、組み合わせのパーツを覚えると覚えやすくなりますから、大丈夫。心配しないでね」と、不安を取り除きます。

 漢字は、発音と意味を同時に表します。「花」は、三つの部分で出来ています。「サ」と「イ」と「ヒ」です。(草冠が表記できないのでネットではサで代用)
 分解して、並べたサ、イ、ヒ、を「さ、い、ひ」と声を出して読む留学生も出てくる。カタカナは既習なので。

 みなさんは、カタカナを覚えましたね。形を覚えるために、カタカナの「サとイとヒ」の組み合わせ、と覚えてもいいです。でも、漢字の形は、カタカナとは少し違います。イは、カタカナのイじゃありません。
 じゃ、まず「花」の発音から覚えましょう。

1)発音指導 音読みchainese readingは「カ」、訓読みjapanese readingは「はな」
 花の絵をホワイトボードに貼っておき、「花」とゆっくり大きく書く。
 現代中国語では、「花」は、「hua(-)」という発音です。
 現代日本語の音読みchinese readingは、古代中国語の発音です。音読みは「カ」という発音です。化は発音記号と思ってください。漢字の大部分は、意味と発音記号を組み合わせた文字です。

 日本語でflowerは「はな」ですね。訓読みjapanese readingは「はな」です。
 「花」には、二つの読み方があります。訓読み「はな」、音読み「カ」です。読み方はちがっているけれど、意味は同じです。

 「花」は発音を示し、同時に「はな・flower」という「意味meaning」を表しています。
 「化=カ」という発音と、「草の仲間、植物」という「草冠grass top」を組み合わせた文字です。

<つづく>
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2010年10月22日


ぽかぽか春庭「草からチェンジ!で花になる」
2010/10/22
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(7)草からチェンジ!で花になる

2)字形の説明。
 「人」は、足を広げて立っている姿を表します。それを左側に片寄せたのが人偏の「イ」。
 「ヒ」は、人が横向きになった姿を表しています。腰を下ろして足を前に投げ出し、手を前に出した姿を横から見た形です。
 立っていた人が、向きを変えて腰をおろすところを表す、つまり、「変化した」ことを表すのが「化」。change、 chemistry、の意味です。(漢字の形の成立には諸説があり、化学の化にも別説がありますが、ここでは留学生のために形の記憶を定着させやすい説を採用しています)

 春庭の授業は、先生が教室を動き回る。「花」の授業でも、立ったり座ったりします。
 黒板に、頭をつけた人の絵を描いておきます。「人」の字のてっぺんに丸い顔を描き、下には靴の絵をくっつけておきます。足を広げて留学生の前に立ちます。手は体側に。椅子をそばに置いておきます。
 「はい、先生を見てください。今、私は立っています。人という文字の形です」
 次に、立っている姿から、「チェンジ!」と言って、横に向きを変えて椅子に座ります。
 横から見て「ヒ」の形になるよう、手と足を前にのばします。

 「はい、チェンジしました。化はチェンジ!ですよ。」
 「ヒ」がカタカナのヒではなく、人が横向きになった姿だと、インプットします。ヒのトップに小さな○を書いて目鼻をつけておき、上の横棒の端に5本の指、下の横棒の先に靴の形を描いておくと、人が横向きになったようすが留学生にもわかります。

 植物を表す草冠。植物は、葉からつぼみをもち、チェンジすると花になります。
 草が変化して咲いたところを表したのが「花」。
 (実際の「花」という文字の成立は、化学の「化」の字は発音を表しているだけですが、留学生の記憶のための説明です)

 このように漢字の成り立ちを説明すると、非漢字圏の留学生も興味を持ちます。
 次に書き順の指導。漢字のストローク基本は、左から右へ。上から下へ。
 でも、タイ文字やアラビア文字では、下から上へ書く文字が多いので、どうしても母語の文字のクセがぬけず、下から上へ線を書き上げる人もいる。そして、アラビア文字は右から左へ書くので、左から右へ、上から下への書き順は逆に感じるのです。

 昔は、画数から読み方を調べる方法が「漢字の読みを知る」もっとも重要な方法だったので、書き順と画数を間違えるとその後の漢字学習にさしさわりが出ました。
 でも、今は、漢字の読みを調べたいとき、画面にペンで直接字形をいいかげんにでも書き込めば、読みがわかるようになっています。最近は、よほど字形が悪くなる場合をのぞいて、以前ほど筆順をやかましくいわなくなっています。

 ただ、留学生には、字形のちがいとフォントの違いの区別がわかりません。命令の「令」の字の場合、教科書体「令」では下の部分は「マ」になりますが、同じ文字です。でも、「柿かき」と「杮葺こけらぶき、柿落とし」の「こけら」の文字は、違う字です。「柿」の市は一番上に「点」を書いて「なべぶた」を書いてから「巾」を書きますが、「こけら」は「一」を書いてから「冂」を書き、そのあと、上から一気に「|」を書く、そんな微妙な字形の違いを知ってびっくりしたことがありました。
 現在の指導では「こけら」を教えることはないので、今のところ問題ありませんので、「大」と「犬」は点があるかないかで意味が違いますよ、一点一画が大切です、と教えています。

<つづく>
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2010年10月23日


ぽかぽか春庭「斧で立ち木を切ると新しい薪ができる」
2010/10/23
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(8)斧で立ち木を切ると新しい薪ができる

 最後に、「花」使うことばの使い方指導。音読みの熟語「花びん(花瓶)」「花だん(花壇)」
 訓読みの熟語「花火」の説明のついでに、花火大会について「日本の花火はとてもきれいです。花火大会は、無料です」と夏休みの活動として、おすすめします。
 「お花見」というと、桜を見ることになる、という日本文化についての説明もして、「春にはお花見してくださいね」と、おすすめ。

 日本人も、なぜ「花」が「花」という字形なのか、知らないで書いている人もいるのだけれど、これは「なんでもいいから漢字おぼえろ」と、先生に言われて、ひと文字一文字やみくもに書いて覚えてきたから。
 私、こどものころ、「花は、サイヒ」とおぼえました。

 「花」の説明で漢字に興味を持ってもらえた次の時間には、象形文字の導入をします。
 「山」「川」「門」「車」「雨」「火」など、絵からできた文字は、見た目にわかりやすく、学生も興味を持って覚えます。絵と文字を並べたり、絵からだんだん文字に変化している過程を順に並べたカードを示します。

 「花」のイントロダクションで、形声文字について「草冠と発音のカ(化)の組み合わせ」を導入したあとは、形声文字も抵抗なく漢字学習に取り組んでもらえます。

 以下のリンクは、英語による「漢字の成り立ち別分類」のサイト
http://www.csse.monash.edu.au/~jwb/kanjitypes.html

 会意文字でも、形声文字でも、できるだけ印象に残るように、形の説明をします。
 会意文字「新」の説明。
 「立」「木」「斤」を最初に分解して教える。木の絵、人が立っている絵、斧の絵。
 「立」は、平らな字面「一」の上に人が立っている絵を描く。木も象形文字で絵にできる。斤の元の形は木を切る「おの」です。「オノ=ax」

 立っている木の絵を、斧で断ち切る動作をして「cut!」と言う。切り株の絵を描き、切り株の面をさして「New!」と言う。

 「新」は、立つ、木、オノ三つの意味を組み合わせて、立ち木を切って新しい薪を作るという会意によって「あたらしい」という意味の漢字が成り立っています。

 日本酒の酒という文字。ヘンは、水や液体を表す「さんずい」です。ツクリは、酉。
 酉の形の説明。
 酒瓶の絵を描きます。酉は、ビンの下に液体がたまっている絵からできた文字です。

 漢字はおもしろいけれど、非漢字圏の日本語学習者にとって覚えるのはたいへんです。
 「たいへんですが、がんばってね。」と励まします。

<つづく>
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2010年10月24日



春庭の漢字授業2-語彙教育としての漢字教育

2010-08-17 08:25:00 | 日本語教育
ぽかぽか春庭「犬をかいます」
2010/10/24
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(9)犬をかいます

 2008年6月12日の「非漢字圏クラス初級(文法)」での授業で。
 教科書に「犬を 10ぴきも かっています」という例文がありました。
 予想より多いことを表す「も」の使い方の練習文です。「すもうとりは ごはんを 20ぱいも 食べます」などの文とともに出てきます。

 わかりにくいかと心配した「すもうとり」は、「Japanese Sumo wrestler」と、媒介語の英語での説明で問題なし。グランドチャンピオンのハクホーも「ゆーめーです」。
 しかし「犬~」のほうは、例文を理解してもらうのに、時間がかかりました。
 「先生、かっていますは、ばいですか」という質問が出たので、一瞬「??」
 日頃「私は英語がわからないから、質問は日本語で」と申し渡しているのですが、質問の意図を確認するため、英語でもう一度質問させてみると、「かう=buy」なのか、という質問でした。

 高低アクセントがちがう、という説明をしたあと、「ひらがなで書いてあるから、飼うと買う、どちらかわかりませんでした。犬を飼います、と書いてふりがなを書いておけば、わかります。買うと同じだと思いません。日本語は漢字表記が必要です」と、ここぞとばかり、同音異義語の区別には漢字表記が有効であることを伝えました。

 漢字表記をした上で、ふりがなをつけておくのが一番適切な表記方法だと、私は考えています。今は、ワープロでのふりがな表記も簡単にできるようになっています。

 非漢字圏の学習者に漢字を指導するのはなかなかたいへんですが、基本となる象形文字や指示文字は、意味を教えやすい文字です。
 水の流れを三本の線で表現すれば「川」。三つの頂を表現すれば「山」です。
 
 字形の説明。山や川など、絵から成立した象形文字は、見た目にわかりやすく形を指導できる。「上、下、中」など、位置関係や「一、二、三」などの数を表す指事文字も意味を伝えやすい。

 次に、二つの漢字の意味を組み合わせる会意文字。
 会意文字も、「月はあかるい。お日様もあかるい。「日+月=明」は、とてもあかるい。クリアリィ、ブライトネス」というと、わかってくれます。

 木がたくさんあると、林、もっと多いと森。これもわかりやすい。
 品川の「品」は、口mouthが三つあるのではなく、四角い器が三つあって、品物が入っている。「three goods in the boxes」と覚える留学生もいる。
 「休」は、人が木によりかかってやすんでいる、と説明。(異説もありますが、覚えやすさ優先)

 漢字の字形のなりたちには諸説あります。白川静のように、独自の学説を提出している学者も。諸説ある中で、私は多少強引な解釈であっても、現在の字形を覚えるために覚えやすい説明をしています。
 「体」は、台湾の学生がクラスいるときは、旧字の「體」も紹介しますが、非漢字圏学生だけのときは、body=「人」+「本=origin」と説明します。

 絵文字から発達した象形文字。位置や数を示す指事文字。意味を加えていく会意文字。一部が音を表す形声文字。音だけ借りてきた仮借文字。
 それらを組み合わせて単語の意味を表します。

<つづく>
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2010年10月26日


ぽかぽか春庭「愛人が暗算する」
2010/10/26
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(10)愛人が暗算する

 常用漢字の数は約2000ですが、読み方がたくさんあるので、中国語母語話者の留学生でも、「読み方が覚えきれない」と、ネを上げます。
 中国人留学生には、「大丈夫、あなたたちは、中国語の何千もの漢字を覚えてきたのですから、日本語漢字2000の読み方だって、習得できますよ」と、励まします。

 中国語の場合、現代の簡体漢字でも、5000~6000を知らないと、新聞は読めません。
 中国では、近代まで、文字は「知識人だけのもの」で、一般の人にとっては縁遠いものでした。
 中国では、とにかく、漢字を覚えることが、教育の第一歩です。中国の秀才たち、科挙の伝統があるためか、とにかく暗記第一主義です。文字を覚えないことには、上級学校へ進学することもできません。

 また、漢字を見れば意味がわかるから日本語は簡単だ、と考えて来日する中国人留学生には、最初に「手紙はトイレットペーパーじゃない」「汽水はサイダーじゃない」「愛人は妻じゃない」など、日本語と中国語では熟語の意味がちがうものがあることをたたき込みます。

 安易に「熟語なら漢字の意味を推測できる」と思ってしまうと、間違えることもあるので。
 「愛人が暗算します」と日本人が書いていても、驚くことはない。中国語のように、「妻がだまし討ちにする」という意味じゃないから。

 英語などのインドヨーロッパ語は、「音声言語」が言語学の基礎となっていますが、漢字導入以来、日本語は「音声言語」であると同時に、「音声と表記が同時に脳内に浮かぶ言語」として脳内変換されています。

 脳波の研究で、ことばを耳できいたとき、脳のどの部分が働くのか、という実験がありました。
 漢字を使う中国語母語話者と日本語母語話者は、他の言語の人とは使われる脳の部位がことなっている、という結果がでました。この実験、「中国語母語話者で文字が読めない人」との比較が記録されていませんでしたが、ことばを聞いたとき、音声処理の脳部位だけでなく、イメージ処理の脳部位も働いていることがわかって、納得です。日本人は、音声で日本語を聞いたとき、無意識であっても、ちゃんと脳は、文字イメージを働かせているということは、言えると思います。
 漢字イメージ処理は、左側頭葉後部が働くのだそうです。

 先生が授業中に、きしゃのきしゃがきしゃできしゃした、と発言したとき、漢字を思い浮かべることができない留学生には、この文の意味がわからないのです。
 実際にこんなこと言う先生いないけどね。いたとして、練習しましょう。
 貴社の記者が汽車で帰社した。

 はい、ノートに、「こうかいとこうかいのこうかいをこうかいした日記をブログに書いてこうかいし、こうかいした」と書いてみよう。
 紅海と黄海の公海を航海した日記をブログに書いて公開し後悔した。

 日本語は、高低アクセントでコトバの意味を聞き分けるといいましたが、実際に高低アクセントがふたつある語のセット、日常生活のなかで、「飴がふってきた」と表現しても、聞く人は、あ、雨なんだな、と推察してくれます。食卓で「橋、とって」と言われた人はお箸を渡してやります。

 でも、同音異義語の見極めはたいへんです。
 漢字によって意味を分ける語のセットはたくさんあり、文字を知らないと意味の区別ができません。

<つづく>
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2010年10月27日


ぽかぽか春庭「同音異義語」
2010/10/27
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(11)同音異義語

 同音異義語について、日本人学生から質問がでることもあります。
 「日本語には漢字熟語の同音異義語がたくさんあることがわかりましたが、それじゃ、中国の人も同音異義語がたくさんあって、聞き分けが困るんじゃないんですか。同じ漢字をつかう言語なのだから」

 はい、お答えしましょう。
 中国の人にとっては、公開と航海は、まったく違う発音です。同音異義語じゃありません。
 公開はgong(-)-hai(-)、航海はhang(/)-hai(v)です。同じhaiであっても、平らに発音するとか、一度さがってまた上がる、など、高低アクセントがことなるので、ちがう発音です。

 日本語の「はしが」と発音するとき、私たちは意味によって音の高さを変えています。すなわち、「箸が・端が・橋が」は音の高さで区別できます。箸が(高低低)端が(低高高)橋が(低高低)です。

 「はし」を、音の高さで区別するように、 元々の中国語には、四声という4種類の高低アクセントがあります。中国語の漢字ひとつひとつが高低アクセントを持っています。

 日本語へ漢字を取り入れたとき、四声はほとんど考慮しませんでした。仏典の文字を書き写すことが重要だったので。発音ではなく、文字で区別ができれば十分でした。
 また、中国語の有気音と無気音の違いは、一部有声音と無声音の違いに変化させて取りいれましたが、それでも同音になった漢字がたくさんでました。

 これは、「thank you」という英語のthの音が日本語にないから、「sank you」という発音に代用させたのと同じことです。現在では、日本語外来語として「サンキュー」という語が使用されており、サンキューと発音すると、「ありがとう」の意味だと理解されます。

 日本語は、それまで発音していなかった音を中国語からたくさんとりいれました。きゃ、きゅ、きょなどの拗音、「ん」も、中国語から入ってきた発音です。
 「朱雀しゅじゃく」という発音も、ひらがなでは「すざく」と表記していました。拗音の表記方法がなかったからです。「すざく」と書いても、発音はスザク、スジャク、シュジャク、いろいろありました。

 中国語では、日本語に取り入れられた漢字熟語のように、同音異義語がずらずら並ぶと言うことはありません。
 皇帝と黄帝は、同じ発音にはならず、同音異義語ではないのです。工程と航程も違います。

 日本語の高低アクセントは「高低」「低高」の2種類が基本ですが、中国語は「高低」「低高」「高低高」など、4種類の高低アクセントがあります。(タイ語は6種類、ベトナム語は7種類)

 「麻」「媽」「罵」「馬」は、カタカナ表記なら全部同じ「マー」ですが、高低アクセントを変えることによって、異なる音として聞き分けられます。

 同じ「マー」という発音でも高低アクセントの違いによって、「まーまーま、まーまー」「麻媽媽、罵馬」は、「麻かあさんが、馬を叱る」という意味になり、中国語の発音練習の最初に繰り返し練習させられます。
 この「マー」四声が聞き分けられずに中国語最初で挫折する人も多い。

<つづく>
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2010年10月29日


ぽかぽか春庭「薔薇や顰蹙書けなくても、、、」
2010/10/29
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(12)薔薇や顰蹙書けなくても、、、

 日本語学習者にとって、日本語発音の習得は、文字習得に比べればそれほど難しくありません。母語と異なる発音には苦労するけれども、もともと日本語の音節数は少ないのですから。また、母音が5つ、というのも、世界の言語の中ではもっとも普通の数です。

 非漢字圏の日本語学習者たち、日本語の発音習得はそれほど苦労はしないけれど、文字練習になると、ひらがなカタカナで最初にダウン。それを乗り越えても漢字で挫折。留学生たちには、「漢字、日本人にとっても、たいへんだよね。覚えるの。書けない字があっても大丈夫、今は電子辞書だとかパソコンですぐに表示できるから。でも、まずは、まずは、読み方がわかり、意味がわかること。漢字を復習してね。」と、言っています。

 漢字、読み書きできるということは、日本語の語彙がそれだけ身についているということ。準一級の漢字が読み書きできるということは、自分が読む文章のなかで、準1級漢検にでてくる程度の語彙は理解しているということです。

 訓読みをひとつひとつ覚えていき、音読みの熟語をひとつひとつ覚えて、日本語学習たちは、いっしょうけんめいに漢字を学習します。日本語教師志望者は、最低でも漢字検定2級、できれば準1級の範囲の漢字は読めるように、同音異義語の区別ができるようにしておきましょう。2級は常用漢字の範囲内程度の漢字が出題されますから、一般の社会で必要とされる漢字です。1級となると、ほとんど趣味の世界のような、見たこともない漢字が並びますから、よほどの漢字オタクか、漢字クイズに出演するタレントになるのでもなければ、社会生活では使わない漢字が多い。

 日本語教師たるもの、漢字が書けないのに漢字教育をしてもよいのか。はい、私はしょっちゅう、漢字を書き間違えたり、思い出さなかったりして、顰蹙をかっていますが、、、、
 私は、「ひんしゅく」と、ソラでかけません。ヒンのほうは、「あるくページは卑しい」と分解して覚え、薔薇の薔は「草十人人一回」と分解して覚えたのですが、こんどは顰蹙の「蹙」が書けなかったり、薔薇の「薇」が書けなかったり。

 でも、そんなことにめげてはいません。書けなくても意味がわかり使い方を知っていれば、今の世の中パソコンでもケータイでも文字を出すことが出来ます。それより、語彙をたくさん知っているほうが、漢字教育に役立つし、同音異義語の使い分けも大切。漢字の教え方は、先生の工夫次第でいくらでもおもしろくできる。
 日本語学習者が漢字嫌いになるか、漢字好きになるかの分かれ目は、先生の漢字指導にかかってきます。

 日本語教師志望者のみなさん、それぞれに漢字指導の授業案を考えてみて。
 大学の授業ヒトコマ90分で15~20文字の指導をするとして、読み指導、書き指導、熟語指導、同音異義語や対義語への注意など、教えなければならない項目は盛りだくさん。
 ひとつの漢字に当てられる時間は5~6分です。筆順&書き練習にあてる時間も一字につき3分はほしいから、意味用法の導入に使える時間はひとつの漢字を3分。3分で意味や使い方を説明する練習をしてみてください。意味用法が、学習者の印象に残り、字形を忘れられないようにインプットする。

 漢字指導の模擬授業。練習をしてみましょう。
 5分間で、漢字指導。指導する文字は「楽」の一字。
 音読み。ガク、ガッ。熟語=音楽、楽器、
     ラク、ラッ。熟語=楽園、楽観(楽観の対義語・悲観)らく・ニ(副詞)
 訓読み。たの・シイ(形容詞)。たの・シム(動詞)
 
 5分で、字形の説明、筆順、読み方。熟語の意味用法。例文。初級の学習者にもわかる日本語で解説するのは至難の業です。

 ほら、「楽園ラクエンは、paradiseパラダイスと同じですか」と、クリスチャンの留学生が質問していますよ。詳しい説明をしたいけれど、、、、
 解説をゆっくりしていれば、たちまち時間はすぎて、書き練習の時間がなるなる。
ゆっくり書かかせて、学習者の字形を直してやりたいと思えば、説明の時間が短くなる。5~6分で1字教えるというノルマはなかなかたいへんです。

<つづく>
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2010年10月30日


ぽかぽか春庭「漢字の楽園」
2010/10/30
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(13)漢字の楽園

 たいへんではあるけれど、文字教育は楽しい。日本に留学してはじめて漢字を習った非漢字圏の女子留学生が、一番好きな文字として「楽」を選びました。理由を述べてもらい「楽しいことが好き」「音楽が好き」というような答えが出るのだろうと予想したのですが。「楽という字は、ロボットに見えます。アンテナをつけた人型ロボットがダンスをしているみたいです」と、私には思いもつかなかった発想で、違う角度から漢字を見る楽しさを教えてくれました。ドラエモンのアニメを見て日本に興味を持ったという留学生にとって、「楽」がダンスするロボットに見えるという漢字の形のおもしろさを再認識させてくれました。
 日本語教育は楽しい仕事です。みなさん、がんばって工夫しながら日本語教育をめざしてください。
=============
 と、ニホン語教師志望者のための日本語教育学概論の授業を9月1日から8日まで、一日に90分授業5コマ連続という過酷な集中授業、漢字教育論のほか、日本語文型、文法論も日本語音声学も社会言語学も、日本語教育法もいろいろぶちこんで、なんとか修了しました。

 今期10月から担当する初級漢字クラスでやってみたいことがあります。
 同僚のアイコ先生、上級漢字授業の最後のほうで、筆ペン習字の時間を作っています。これまで学んだ漢字の中で、「一番好きな字」をA3の紙を横にして右半分に書かせ、左半分にその理由を日本語で書いてもらいます。クラス全員の分を縮小コピーして綴じ、漢字学習修了の記念品として留学生に渡しています。

 前々からぜひマネをして取り入れたいと思っているクラス活動なのですが、残念ながら私の受け持つ漢字指導は、初級さいしょの漢字学習で、「この字が好きな理由」を書くのも、上級のように宿題にして自由に書かせるということができません。理由を書く日本語文の指導だけで一コマ使ってしまいそうだからです。初級漢字クラスで、90分を日本語文章指導に当てている余裕がないのです。教えるべき漢字数は決まっていて、試験までに全部を教え込まねばならず、90分で20文字導入するのでせいいっぱいの授業時間。

 今期、国費留学生コースのひとつのクラスが、留学生数が3名という少人数です。日本の文科省が国費留学生の出費を抑えてきて、学生数が予定よりぐんと減ったのです。このままこの「国費留学生コース」が閉鎖になるかもしれず、そうなったら私は失業ですけれど、先のことを憂えているより、3人という少人数でひとりひとりの留学生にしっかりと向かいあえる今期を生かさない手はありません。国籍はミャンマー、レバノン、モンゴル。
 おまけに、専任の先生がサバティカル(研究のために1年間大学出勤を免除される制度)を使うため、自分のクラスで予定表にないことをやったとしても、「試験範囲をきちんとこなさないと困ります」と叱られることもなさそうです。チャンス!

 この「好きな文字の習字」をぜひやってみようと思っています。ホームステイをしたおりに「日本の書道」を体験する留学生もいるので、クラスの中では書道をしたことがなかったのですが、今期のチャンスにしたいことしてみるつもりです。ちなみに私自身は書道苦手です。国語科教師免許を取得するには書道が必修になっていたため、1年間書道授業を受講しましたが、時は学生紛争緒時代。ほんの数回、筆と硯を持って国語科教育の教室で「仮名文字指導」というのを受けたところで、大学は学生ストライキに突入、ロックアウト学園封鎖という事態になり、先生の自宅へ清書を数枚送付しただけで単位をもらいました。字が下手なのは生まれつきだし、書道塾へも通わなかったし、中学校国語教師時代も書道の授業は別の能筆先生が担当していたので、私はやりませんでした。
 インチキお習字の私ですが、留学生に「好きな漢字」を書いてもらうのを今期の楽しみにしています。

<つづく>
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2010年10月31日


ぽかぽか春庭「こうせいへの日本語」
2010/10/31
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>春庭の漢字授業(14)こうせいへの日本語

 同音異義語の漢字書き取り練習、次は、「コウセイへの日本語」、って書いてください。そして、コウセイにあたることばを知ってる限りえんぴつで書き出してみて。思い出せなくなったら、辞書つかっていいから、赤ペンで書いてみて。

「岩波国語辞典」交声、攻勢、公正、校正、更正、厚生、後生、後世、恒星、構成、曠世(世にまれなこと)、

「広辞苑」上記以外に、向性、高声、孔聖、好晴、控制、硬性、興盛、薨逝、鴻声
坑井(鉱山の縦穴)
苟生(何事もなしえないで生きながらえること)
荒政(飢饉などへの救済の政治)
広西(カンシー・中国の地名)
江西(中国の揚子江地方にある地名/滋賀県近江地方の西)、

 熟語の意味を考えると、「こうせいへのにほんご」は、どんな意味になりましたか。
 「攻勢への日本語」、でも「公正への日本語」でも、「興盛への日本語」でも、意味が通じるでしょう?
 曠世、坑井、苟生この三つは、私も意味を知らず、使ったことのない熟語でした。

 漢字教育というのは、日本語にとって、語彙教育であるとも言えます。
 日本語の語彙の7割を漢字熟語が担っています。漢字を知るということは、語彙を増やすということなのです。
 私も、曠世、坑井、苟生という語について、新しい知識を得ました。この熟語をつかうことは一生ないかもしれないけれど。

 一生使うことの無いかもしれない漢字、10月30日土曜日にひとつ知りました。源氏物語のかな文字使用と「仮名手本」に関する論文の中、「八世紀前期成立の史書『古事記』及び『日本書紀』では、五世紀に朝鮮半島経由で漢字漢文が齎されている」という記述がありました。漢字伝来に関する論述、私は絶対に使わない「齎」という文字。「斉藤」の「斉」の字、異体字がたくさんあって、斉藤、齋藤、斎藤、など、サイの字がいろいろありますから、「齎」も音読みは「サイ」だろうと見当をつけて漢和辞典ひいてみると、はたして斉の次のつぎに出ていました。

 斉の動詞としての訓読みは「ととのう・そろう・ひとしい」。「斎」の訓読みは「いわう・いつく」ということは知っていましたが、「齎」という字は動詞としてはいったいどんな意味?「齎」の動詞としての読み方は「もたらす」でした。受け身形「齎される」は、「もたらされる」。うぁあ、さすが書道家の論文だ、難しい字をよく知っている、と感心しましたが、私なら、常用漢字外の文字を書くときは振り仮名をつけるとかします。このような常用漢字外の字を論文中に書くことはありません。まあ、漢字の使用は人それぞれの好みということです。

 さて。後世にことばの架け橋を架けましょう。「コーセーへの日本語」ということばを書きましたね。
 本日の宿題、ミニレポートです。「私が選ぶ、後世に残したい日本語」というタイトルで、なぜ、その言葉を選んだかという理由を書いてください。400字以上。 
 「え~、宿題かくのぉ~、作文、きら~い!」という日本人学生たちの面倒くさそうな声。日本語母語話者が日本語で作文を書くの、どこがたいへんなの?日本語学習者も、毎日、日本語作文を書いて練習しているんですよ。

 学生が選んだ「後世にのこしたい日本語」、それぞれ自分の好きなことばを選んで書いてきました。
 「ありがとう」「お母さん」「友達」「おはよう」「一期一会」「希望」「夢」など、みな、「残しておきたい好きなことば」を持っていて、理由をあげています。
 日本人の中にただ一人混じって「現代日本語概論」を受講している韓国人留学生イさんの好きな日本語は「一流」でした。きっと、イさんは「一流の日本語の使い手」を目指しているのでしょう。

 みな、それぞれの「後世にのこしたい日本語」を大切にして、日本語学習者にとってのよい日本語教師になれるよう、言葉にたいする興味を持ち続けて下さい、とニホン語教師志望者たちにお話して、春庭の「日本語学概論」「日本語教育概論」の中の、「漢字教育について」の授業は終了。漢字表記の話のほか、日本語の歴史、日本語の音声、文法と、日本語教師になるための日本語修行は続きます。「日頃日本語を無意識に使って暮らしているけれど、外から日本語を見る目を持つと、こんなにも言葉について知らないことがあったんだ」という感想を学生が持ってくれること、という春庭の第一の目標は達成されます。

<おわり