日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

日置光平と常光 江戸時代の華やかな丁子乱刃を俯瞰している

2024-04-19 | 
日置光平

石堂派の作風を紹介している。先に紹介した常光の兄とも近縁の工とも考えられているのが光平。光平には刀の遺例が少ない。一説には無銘にされて古作に紛れさせたとか。それほどに、古作に紛れるような丁子出来の刃文が優れていたということである。

1 脇差 出羽守源光平
 小沸を交えた匂出来の刃文は、焼頭が高低変化に富む小丁子の連続だが、焼頭が地に突き入るような尖り調子となる傾向が強い。焼頭がやや丸みを帯びて袋状となる刃を交え、刃中には鋭い足が盛んに射す。帽子は乱れ込んで先が小丸に返る。
地鉄は小板目肌が良く詰んだ中にうっすらと板目肌が浮かび上がる上質な肌合い。映り(写真には映らない)は穏やかに自然に起ち、この流派の特質が鮮明となっている。






2 脇差 秦信法橋源光平
 こちらも尖り調子の小丁子を主体とするが、地に深く突き入る丁子が丸みを帯びた袋丁子となり、袋の中には小丁子が複式に配され、焼きの高さは時に鎬筋を越えるところもある。また、焼頭が離れて飛焼となる。小丁子が寄り合って鋭い小足が盛んに入り、高低広狭の変化が特に強く感じられる。鎬地は柾目肌で肌立ち、平地は小板目鍛えにうっすらと板目肌が交じる程度の極上の肌合いで、丁子状の映りが鮮明に現れている。帽子はわずかに乱れ込んで先が焼詰め風となっているのは珍しい。写真のデジタルデータがないので写真を提示できない。押形イラストで細部の様子を確認してほしい。


ここに押形刃文イラストを紹介した以外の作品も、多くは押し合うように密な小丁子の連続になる刃文で、その高低変化のある中に突き入る丁子の頭も複式に小丁子が焼かれたり、尖り調子となるものが多い。鋭い足が盛んに入るのも特徴と言えよう。



対馬守常光

対馬守常光は江戸時代前期の慶安から元禄(最晩年)頃の江戸の刀工。
 いくつかの作例を紹介するが、先に紹介した一例のように、一文字を手本にしながらも、直刃調の穏やかな作風から丁子の出入りが複雑で華やかな出来まで多彩である点をまず心にとどめておきたい。
 今回は写真のデジタルデータが少ないのでこの点はご容赦願いたい。


 脇差 橘常光
 比較的穏やかな出来ながら、互の目の焼頭が丸みを帯びて地に突き入るようなところがあり、また焼頭に尖刃がわずかに交じる。刃中には小足が入り、焼刃は匂口が締まって明るい。帽子は浅い湾れ調子となり、先端は小丸に返る。地鉄は平地が小板目鍛え、鎬地が柾目鍛えで肌起つ風があり、イラストには描かれていないものの乱映りが起ってこの工らしい出来。受領前の作とみられている。古い資料のため写真のデジタルデータがない。押形イラストを参照願いたい。写真よりむしろ細部の働きが理解できるかと思う。



 刀 対馬守橘常光
 焼幅が比較的低いながらも小丁子の頭に多彩な形状が窺える作。地鉄は細やかに詰んだ小板目肌。地沸が微塵に付き、これもイラストには描かれていないものの刃文を映したような映りが鮮明に起つ。小互の目丁子の焼頭は丸みを帯びた刃、尖刃、矢筈状の刃、雁股状の刃となる。帽子は穏やかに乱れ込んで先わずかに掃き掛けて浅く返る。



脇差 対馬入道常光
 延宝八年、五十代中頃の作。まず地鉄は、鎬地が柾目鍛えで肌立ち、平地が良く詰んだ小板目肌。地沸が付いて鎬寄りに乱映りが鮮明に起つ。小丁子乱の刃文は、焼頭が高低躍動的に変化をしながらも、鎬筋までは達せず、丸みのある丁子に頭の尖った丁子が交じり、複式に焼かれた丁子に伴い、盛んに入る小足も長短変化に富む。焼刃は匂を主調にわずかに小沸がつく。帽子は焼刃の調子のまま小模様に乱れ込み、先端は小丸に返る。



脇差 対馬掾橘常光
 逆がかる小丁子乱の刃文構成。地鉄は小杢を交えた小板目鍛えで、古風に肌起ち、地沸が付いて刃文を映したような丁子映りが鮮明に起つ。互の目の頭が小模様ながら地に突き入る風はこの工の特徴。殊に、押し合うように焼かれた小模様の丁子の所々に焼の深い部分が交じっているところ、小丁子に尖刃が交じる点も大きな見どころ。総じて匂主調の鮮やかな焼刃で、長短の足も無数に射して刃中は華やか。帽子は一転して端正な焼刃となるも、先端は焼詰め風にごくわずかに返る程度。
 とある解説書に一文字と常光(常光個人ではなく石堂派という意味であろう)の見分けどころの一つとして、「・・・(一文字の作に比較して)帽子に品位が足りないことなどで・・・」と、意味不明な説明がある。近代の先生方は、複数の作品を比較説明するにあたって「品位が足りない、◯◯に劣る」などのような言葉を安易に使っている。ばかげた説明であることは容易に判るだろう。そもそも、刀の評価をランク付けしなければならなかった江戸時代の悪弊なんだ。そんな説明を鵜呑みにせず、本質に目を向けてほしい。


5として、参考に重花風の複雑な丁子出来の刃文押形イラストを示しておく。