米議会では共和、民主両党の指導者が共に環太平洋連携協定(TPP)をうやむやのまま放置しようとしているもようで、トランプ次期大統領も就任すれば承認に動かないのは確実だ。米国がTPPの恩恵を分け合う賢明さを持ち合わせないにしても、TPPは守る価値がある。残る11カ国で発効させるべきだ。
もちろん、それは簡単なことではないだろう。各国政府はこれまでの協議で、米市場へのアクセス拡大のため 譲歩しているのだから。例えば、日本は農産物市場の自由化進展で合意。TPPは2018年2月までに全参加国が国内手続きを終えれば発効する。その期限を前にトランプ氏の気持ちが変わるのを日本は期待しているようだが、そうならなかった場合の代替案が存在する兆しはない。
TPP反対のプラカードを掲げる民主党全国委員会参加者ら(米フィラデルフィア)日本や他の署名国はTPPが米国抜きでも、発効されないよりもはるかにましであると認識する必要がある。11カ国参加のTPP-11はメンバー国にプラスとなるルールや基準を策定し、これには労働や環境、知的財産、デジタルコマースの保護が含まれよう。合意が義務づける改革により、各国経済は競争力と効率性が増すことになるが、そもそも政府がこの機会を逃せば、改革推進そのものが大変かもしれない。メンバー国の輸出産業は貿易拡大から恩恵を得るし、消費者も一段と安く製品を手に入れられることになる。
たとえ米国不在のTPPとなっても幅広い意味でのプラス効果もある。それは中国ではなく、日本やシンガポール、オーストラリアといった同盟国同士が貿易自由化の先頭に立ち、他国に選択肢を与えられるという点だ。アジア経済の統合を深めることで、このTPPは重要だが変動激しい同地域に安定を促すだろう。
もちろん、TPP参加国は別の自由貿易協定を選ぶことも可能だ。これには中国が主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が含まれる。だが、これらにTPPほどの期待はできない。RCEPによって貿易障壁が下がるペースと規模は米国抜きのTPPには及ばない。11カ国参加のTPPにはそれ自体に価値があり、メンバー国はさまざまな交渉で強みを持てる。最終的に、縮小版TPPが成功して恩恵が明らかになれば、米国が考え直して仲間として戻ってくるかもしれない。
もちろん、全メンバー参加のTPPの方が 戦略的ロジックの面で説得力があるのは言うまでもない。米国がアジア太平洋地域で過去数十年及ぼしてきた影響を維持する最善の方法は、世界最大の経済大国である同国と世界で最も成長著しい同地域の経済を第2次世界大戦後に米国が支えてきた自由主義の秩序を促すルールの下で統合することだ。遅かれ早かれ、米国はその政策の賢明さを認識することだろう。その際、全くのゼロからやり直すよりも既に存在するTPPに米国が参加する方がより簡単だろう。
米国はこのチャンスを今年逃すという大きな間違いを犯そうとしている。しかし、この間違いを修正不能とする必要はない。TPPの残る参加国が米国に関係なく進んでくれれば、その修正はやりやすくなる。