フリードリヒの日記

日常の出来事を、やさしい気持ちで書いていきたい

梅の花の香り

2020年02月26日 07時00分00秒 | 日々の出来事・雑記

外に出ると、やさしく夜風が頬をなでるように吹きつけた。

もう凍えるような寒さではない。

冬は少しずつ終わりに近づいている。

僕は足首を回し、軽く準備運動をして、走り出した。

顔を上げて、夜空を眺める。曇っていて、月は見えない。ほんのり赤のまじった黒い空が広がっていた。

しばらくゆっくりとしたペースで走った。体がほぐれてきた頃、闇の中から、ふわっと甘い香りが漂ってきた。

僕は立ち止まり、まわりを見渡す。

そこに白い梅の花を見つけた。

梅の木に近寄り、梅の花をながめた。僕は春のはじまりを知らせる梅の花に、いつも心を奪われてしまう。

梅の花は、桜にくらべ派手さはない。しかし、寒さの中で可憐で健気に咲いている。

そして、なにより可愛らしい。

僕は、桜より梅の花が好きだ。女性の好みもそれに似ているかもしれない。


春の夜の闇は あやなし 梅の花 色こそ見えね 香やは 隠るる


古今和歌集の梅の花の和歌だ

現代語訳すると、「春の夜の闇は、わけがわからない。梅の花の色は見えないが、その香りは隠すことができない」

和歌において、桜と梅の扱いは、かなり違う。

桜は花を見て、その散る姿を読む。しかし、梅の花は香りを味わい、その嗅覚をたどり、歌を読む。


僕は太い枝に指を添えて、梅の花に鼻先をつけてみる。

やわらかく甘い香りが、風とともに流れてくる。

甘い香りの余韻に浸りながら、何故かわからないが、胸が締め付けられるような気持ちになる。

僕はその気持ちを振り切るように、また走り出した。

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