フリードリヒの日記

日常の出来事を、やさしい気持ちで書いていきたい

物事は流転する

2010年07月17日 23時02分13秒 | 社会・政治・思想哲学

 好きな言葉に「人事を尽くして天命を待つ」というのがある。
 できる限りのことをやったら、後は運命に任せるという意味。
 自分のできる範囲でベストを尽くすということは、なかなか難しいが、自分でコントロールできる事柄なのでやってられないことはない。
 問題は、自分のコントロールできない「結果」を気にしないでいられるかということである。
 ベストを尽くしたからといって必ずしも自分の満足のいく結果にならないが多い。というか、うまくいかないことの方が多い。
 うまくいかないときに私たちはどうすればいいのだろうか。
 一つの方法として、起こってしまった結果・事柄を、悪いことだとすぐに判断せず「保留する」という態度が必要だ。「人間万事塞翁が馬」ということ。
 例えば、交通事故で大怪我をしてしまったとする。しかし入院先の美人の看護婦さんに出会って結婚できた。その場合、交通事故が必ずしも悪かったとはいえない。しかし、美人の妻がギャンブル好きで、貯金を全部使い果たしてしまった。が、カジノのルーレットで大当たりして大金持ちになったとか、物事は絶えず流転する。
 だから、今起こった出来事が、いいのか悪いのかを判断せず保留するということが、生きる上で重要なのだと思う。

 

 そこで、タルムードの中の「売春宿の門番の話」をひとつ。
 
 ある町に売春宿の門番の仕事があった。体裁も悪く賃金も安かった。しかし、彼の祖父や父がその仕事を代々していたこともあったし、ほかに取り柄もなく読み書きもできなかったので、男は仕方なくその仕事をしていた。
 ある日、売春宿のオーナーの老人が亡くなり、やる気のある若い息子が後を継いだ。息子は早速、売春宿の経営の改善に乗り出した。そして、門番に言った。
「明日から、お客についての報告書を出してください」
「えーっと、私は字が書けません。どうしましょうか?」門番は言った。
「では、仕方ありませんね。やめてもらうしかありません」若いオーナーは冷たく言い放った。
 男は、世界が崩れ落ちていくような気がしていた。今まで門番以外の仕事をしたことがなかったので、どのように生きていこうか途方に暮れていた。
 しかし、彼は売春宿のベッドや家具の足が壊れたときに、それを修理をしていたことを思い出し、その修理で一時的に稼いでいこうと考えた。そして工具を揃えることにした。工具を売っているところは、今いる町から二日かかる場所にあったが、彼はそこに行くことを決意して出発した。
 そして、工具を揃えて帰ってきた。家に入ってブーツも脱ぎ終わらないうちに隣の住人が、どんどんとドアを叩いた。
「スイマセン、かなづちを貸して下さい」と隣の住民は言った。
「私も、これを使って稼いでいこうと思っているので貸すことはできません」
「どうしても必要なんです。レンタル料を払いますので貸してもらえませんか」
 男は考えた。修理の仕事があるかどうか分からないし、レンタル料がもらえるならそっちの方がいいのではないかと。そこで彼は金づちを貸すことにした。
 工具が買えるところが、あまりに遠いので、工具のレンタルは結構いい稼ぎになった。そのうち男は、レンタルではなく売買した方が儲かるのではないかと思い、工具の商売を始めた。そのアイディアは大当たりした。彼はその町で最初の金物屋になった。今まで町には金物屋はなかったのでたくさんの注文をもらい、いい稼ぎになった。彼は人柄もよく一生懸命誠実に働いたから、いつの間にか大金持ちになった。そして、大金持ちになった彼は、町に大金を寄付して学校をいくつも作った。
 ある開校式で彼はサインを求められた。しかし彼はいまだに字が書けなかったので、こう言った。
「私もできればサインをしてあげたい。しかし私は文盲なのです」
「あなたが?」サインを求めた人は信じられないといった顔でこう言った。「あなたのような一代で事業を大成功に導いた立派な人が読み書きもできないなんて、もし読み書きができたらどんなことが成し遂げられたのでしょうか?」
「それなら、お答えできます」男は静かに言った。
「もし、字を知っていたら・・・・・売春宿の門番です」と。

 

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