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旅の途中
にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。 街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、 時には単車に跨って。
旅の途中

大阪線と京都線ジャンクションのポイントを渡って、橿原神宮行き急行が1番線に入線する。
クリスタルホワイトのフェイスにオレンジの急行のLEDが煌めいているのは9020系だ。

大阪・京都・橿原神宮・奈良の4方面に鉄路を延ばす大和西大寺から旅に出る。
首都圏在住の呑み人が近鉄を呑み潰すチェレンジは、結構難易度が高いけれど、
まぁ楽しく乗って呑んで食べて行きたいね。まずは橿原線から始めたい。

すでに真夏の陽が照りつける休日、急行最初の停車駅 西ノ京で途中下車しよう。
ご存知の通り、真っ直ぐ南下する橿原線の左手には薬師寺の塔頭が並んでいる。

薬師寺は法相宗の寺院で南都七大寺の一つ、薬師三尊を本尊としている。開基は天武天皇だ。
高田好胤管主以来進めてきた白鳳伽藍復興事業により、堂塔の鮮やかな朱色は平城の時代を甦らせた。

寺が創建されたおよそ1300年前から残る国宝の三重塔(東塔)も大規模修理を終えた。
大小の屋根が織りなすバランスの美しさは「凍れる音楽」とも称せれている。

次の急行停車駅 近鉄郡山は、時間の関係で途中下車を見送り。
郡山城は豊臣秀長の頃、城郭も城下町も100万石に相応しい大規模なものになったという。
続いて平端(ひらはた)で途中下車、ここは天理線の乗換駅
呑み潰しのゲームだから、こうした支線を漏れなく拾っておかなくてはいけない。
分岐のY字が広がった地点に駅があるから、橿原線から少し離れた1番ホームに
天理行き急行が緩いカーブを描いて侵入してきた。

3駅4.5kmの旅だからあっという間の終着駅。天理線は全線複線で、6両編成が15分おきにシャトルし、
日中は京都や難波から直通の急行が走っているのだから、天理市と宗教本部の実力はすごい。

天理教本部や石上神宮方面に向かって延びるアーケード天理本通を歩くと酒蔵がある。
明治10年創業の稲田酒造は、天理産の酒米で “稲天” を醸す、正に地酒の蔵のようだ。

リーチインの中に見つけた純米酒 “黒松稲天” は300mlのスクリューキャップタイプ。
これは良い、ロングシートの中でも呑めるかも知れない。
っと早速バンダナに包んだら、すっきりとして旨みのある酒を復路の電車でいただくのだ。

戻ってきた平端駅は、京都と橿原神宮や賢島を結ぶ特急の待避駅になっている。
各駅停車が発車を待つ間、ホーム上にチャイムが鳴り響いて、上下線の特急が駆け抜けていく。

次の急行停車駅 田原本のことは別の機会に触れるとして、さらに先は大和八木。
ここもまた、大阪・京都・橿原神宮・名古屋と4方面へのジャンクションになった重要な駅、
この駅は大阪線が橿原線をオーバークロスする構造になっているので、
構内には、京都方向と名古屋方向を結ぶための新ノ口連絡線が設けられている。

大和八木(八木西口)を降りると、江戸時代の旧い町家が保存される今井町を訪ねることができる。
天文年間に本願寺の勢力によって建てられた称念寺が、農民などを門徒化し、
諸国の浪人や商人を集め、周辺に濠と土居を巡らせ、一向宗布教の拠点としたのが始まりだそうだ。
その後は商工業都市として、俗に「今井千軒」とか「海の堺 陸の今井」と呼ばれるほどに発展した。
白壁の国重要文化財、古民家カフェ、レストランなどが点在し、散策するだけでも楽しい。
中尊坊通りにある “出世男” の河合酒造が呑み人の目的地だ。

ラストスパートする急行は畝傍御陵前に停車した後、橿原神宮前に終着する。
ここでは阿倍野橋から走ってきた南大阪線、それに続く吉野線と逆Yの字に合流して、
鉄路はさらに吉野方面に延びているけど、両線とは軌間が違うため、橿原線の南下はここで止まるのだ。

駅を背に500mも進むと鬱蒼とした杜と大きな鳥居が見えてくる。橿原神宮だ。
表参道から神橋を渡って第二鳥居を潜る。次第に気が引き締まっていくのが解るから不思議だ。

御祭神は神武天皇。日本書紀によると九州高千穂から東に向かった神日本磐余彦火火出見天皇は、
苦難を乗り越え、畝傍山の東南麓に橿原宮を創建し即位したとされるから、ここは建国の聖地になる。

暫し神話の時代に想いを馳せたら、現に戻って旅を締めくくる一杯と行きたい。
生憎っと飲食店のアイドルタイム、駅構内の「きはる」に腰を落ち着ける。
縁起の良い “出世男” の純米を冷えたグラスに注いでもらう。香り豊かな旨口が沁みますね。
アテにこの店ご自慢の “おでん”、“牛すじ” が美味い。あとは “柿の葉すし” をいただく。

蓋を開けてしまった近畿日本鉄道の呑み潰し、さて何日いや何年かかるだろうか。
とはいえ今回の休日。この先どんな旨い酒肴に出会えるか楽しみなのだ。
近鉄橿原線 大和西大寺〜橿原神宮前 23.8km 完乗
近鉄天理線 平端〜天理 4.5km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
にくまれそうな NEWフェイス / 吉川晃司 1985