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15km/hの時速制限がかかる半径100mの急カーブを抜けて、区間準急が隅田川橋梁を渡る。
十分な加速を得る間もなく、最初の停車駅とうきょうスカイツリー(旧業平橋)駅は目の前だ。
アサヒビールタワーの琥珀色したビールジョッキが、初夏の陽に煌めいている。
昭和初期を代表するアール・デコ様式の浅草駅は、屋上に時計台を載せて威容を誇る。
日光や鬼怒川温泉に向かう特急が始発するこの駅は、朝から観光客や訪日外国人で溢れている。
その賑わいを横目に、呑み人は1番線からの各駅停車に乗り込んで、きょうは伊勢崎線で呑む。
最初の停車駅で東京スカイツリーを見上げる。
朝の太陽と重なって、634mの電波塔は青いシルエットになって天を衝いている。
早朝の何本はを除いて、浅草始発や東京メトロから乗り入れる10両編成は久喜止まり。
多くの乗客がホーム反対側の館林行きに乗り換える。編成は6両に減って車内は混み合う。
乗客の一定数は東南アジアの若者だ。友人を訪ねるだろうか?
この先の沿線の町は、製造業の担い手としてブラジルや東南アジアからの労働者が多い。
浅草駅で求めた「ふらっと両毛 東武フリーパス」は、3日間有効で2,440円とお得感がある。
先ずはフリーエリア最初の駅 茂林寺前で下車して、徒歩7〜8分で分福茶釜の茂林寺を訪ねる。
曹洞宗の名刹は1426年開山と歴史は古い。総門から赤門へと続く参道には21体の狸像が並んでいる。
呑み人が気に入ったのは、頭や尻尾それに足をはやした茶釜と酒瓶を抱えた大狸、何故に玉袋が大きい?
館林から先へ行く列車は4両編成となり、さらにローカル色が濃くなっていく。
この8000系という車両は、昭和の世から走り続けている東武の現役最古参という存在だ。
足利は清和源氏・足利氏発祥の地として歴史がある。近代においては織物業で栄えた町だ。
それではと、足利市駅から渡瀬川を渡って、名所を早回りで観て歩く。
足利学校は平安時代初期に創設されたとされる中世の高等教育機関、
フランシスコ・ザビエルは「坂東のアカデミア」とヨーロッパへ伝えた。
その裏手にある鑁阿寺(ばんなじ)は、真言宗大日派の本山であるが、もともとは足利氏の館。
境内をめぐらせた土塁と堀、四方に設置した門、鎌倉期の武士の館の面影を残している。
市街地の西のこんもりとした山の中腹、朱塗りの美しい神殿は織姫神社、なんともロマンチックだ。
機織をつかさどる天御鉾命(あめのみほこのみこと)と、織女 天八千々姫命(あめのやちちひめのみこと)の
二神をご祭神とする神社は、産業振興と縁結びの神様として知られている。
恋人の聖地となった朱塗りの神殿には、この日もカップルや女性がお詣りの列を成している。
森高千里が歌った「渡瀬橋」を渡って再び足利市駅、8000系の3両編成が高架ホームに入って来る。
新人駅員が先輩の指導を得ながらホームの安全確認をする姿は、この時期ならではの鉄道風景だ。
駅を3つ数えると、伊勢崎線・小泉線・桐生線がX字に交わる要衝太田駅。
北口にはこの地の英雄で、鎌倉幕府を倒す為に挙兵した新田義貞の像が建っている。
同じ清和源氏で、最後は敵対した足利尊氏ゆかりの足利に対抗しているかの様にも見える。
旧帝国陸軍に「一〇〇式重爆撃機」なる機があった。愛称を「呑龍」と云う。
SUBARU の前身である中島飛行機が、ここ太田で製作した。
呑龍なんで勇ましい名前は、呑み人の愛称にもしたいくらいだけど、由来はここ大光院。
地元の人からは「呑龍様(どんりゅうさま)」と親しまれている。
浅草と両毛地方を結ぶ「特急りょうもう」は1日25往復走っている。
でもその殆どは桐生線に入線して赤城方面に向かってしまうから、
伊勢崎線は本線格でありながら、相変わらず3両編成の各駅停車でガタゴトと先を進める。
田園風景と時々姿を現す大規模な工場、関東平野のローカルな夕暮れ風景を3両編成は走る。
新伊勢崎手前から高架に駆け上がると、右手から湘南色の両毛線が寄ってきて、肩を並べてテープを切る。
17:50、この時間だから、足速に階段を降りていく乗客の殆どは高校生だ。
太田まで戻ってきた。高架駅壁面の駅名サインは、すでに赤ちょうちんを点すように煌めいている。
今宵はこの街で呑む。北関東を代表する企業城下町だから、酒場を探すに事欠かないだろう。
90年代の終わり頃、2度ほどこの街にある支店を訪ねたことがある。
大規模再開発前のこの辺りは、違法風俗店が全盛でちょっと異様な街並みだった。
「ここはラスベガスか?」と軽口を叩くほどギラギラしていた覚えがある。
左右に広場のような歩道を取った南一番街を歩いて4ブロック、大箱の海鮮居酒屋の暖簾をくぐる。
キンキンに冷えたジョッキで “SUPER DRY”、思わず「ぷはぁ」と声に出そうだ。
4種盛りの桶を抱えて、酒は置賜の “米鶴”、洒落た陶器ににごり酒が溢れる。
桜色のラベルに霞と見紛ううすにごりが如何にも春らしい、辛口かつ爽やかなキレ味が美味しい。
これはしたり、“十一政宗” は初めましてかも知れない。栃木は矢板の蔵元の酒だって。
さくらの花の天然吟香酵母で醸し上げたと云うから。これも春を感じる酒ってことか。
口あたりまろやかだけど、キレの良い純米酒。さくらの香り?気付かなかったなぁ全然。
アテは “揚げ出し豆腐” ってか、“あさり” がたっぷりと、一品で二度美味しい秀逸な椀なのだ。
「ふらっと両毛 東武フリーパス」で、いやぁ意外と知らない北関東を乗って呑んだ3日間、
最後は “さくら” を感じる二銘柄に酔った伊勢崎線の旅でした。
さてっと、復路は最終の「特急りょうもう」で、舟でも漕ぎながら帰りましょうか。
東武伊勢崎線 浅草〜伊勢崎 114.5km 完乗
<40年前に街で流れたJ-POP>
たそがれ / オフコース 1985