Q-ILL MC (キューイル) &DIY TOKION(ディー・アイ・ワイ トキオン)

通称:キューイル、ツバサ
と、そのイルでジャジィなバンドDIY TOKION。

山仁(ex.LOOP JUNKTION)と並ぶ町田ゲトー(ghetto)育ちの二大MC。

(ちなみに、犬式のジャケットを描いてもらったBig!とKANEGONも、この町田ゲトーでの彼らの後輩にあたる。)

年齢は確か山仁と一緒だったから、僕の2歳上。
ということは28だか29だかである。

初回のCro-magnonシゲの時からなんとなく年齢について触れているが、
われわれの交友関係で年齢が取りざたされることは、ほぼない。

そういう上下関係がないから、
音だけで認めたり影響しあうから、
こういうイベントが成り立つことになったのだとも思う。



Q-ILLという男については、
かねがねシゲ親爺から聞いていた。

「町田には山仁と双璧を成すラッパーがもう一人いる」
「トラック造りにかけてもヤバイ腕を持っている」

その他、ここには書けないような伝説やエピソードもいくつか。



初めて会った彼の印象は「ILLな花咲爺さん」。
七福神に仲間入りできそうなヤング仙人みたいな感じなんだが、
話し出すとニコニコとサグ話に花を咲かす。

ラッパーに共通するのは、
日常会話が面白いということ。
当たり前かもしれないが。
中には話し下手なラッパーもいるだろうが。

「キレ系」(TWIGY氏などに近い高めの声域)なんだが、
「まったり」としたマイルドさが香る声質で、
繊細できめ細やかなライミングをカマしてくれる。

「IQ」高い路上の詩人?
そんなサッパリしたもんでもないな。
なんというか。
言葉の過激派。
そっちのが近いかもしれない。

とにかく筋金入りの、ライマーである。


ステージでの構え方も、なんか妙にご利益ありそうで。
長鬚蓄えてるから、ジャマイカかなんかの名のあるクラシックディジェイとか
LKJ(LINTON KWESI JONES)とかみたいに見えてしまう時がある。
この男、50歳とか過ぎてまだやってたら、
いわゆる「神様」系になることだろう。

いやに余裕があるステージングには、
直球で硬派のヒップホップを貫いている揺ぎ無さがある。


そしてそんな彼を支えるバンドDIYが、また素晴らしい。
先日のブエノスでのライブでは、純平(椎名)やシゲクロが
「ROOTSよりやばくねえか!?」と本気で息巻いていた。

「分かってらっしゃる!」と唸らされるグルーブ操作。

決めやブレイクやスクラッチやループの仕方や
時計が狂いそうなドラムのタメとか。

Q-ILLのバンド操作も、
トラックを自身で造るDJ QUIKスタイルだから、
ツボを心得ていらっしゃる。

「スカスカ」のまにまに「ドツ・ドツ」「タ!」、
タメに揺られて波間を揺ら揺ら。

愚かにもティーンエイジャーのバンドマンなんかで、
「音は力いっぱい大きくエネルギッシュ」に出せば力のある音になると勘違いしている人が多いが、
そんな人には、ヒップホップがどうとかジャズがこうとか関係ないから、
一度見てもらいたいバンドである。

力のある音とは、グルーブしている音楽であり、
その面子によってしか生まれない唯一なグルーブを彼らが見つけ出しているからこそ、彼らの音は「間」を楽しみつつその「間」つまり音の存在しない空間を作り出すことにかける執念が「静寂の中の爆音」になるのである。

ジャズ。
トキオンジャズ。
奴らのグルーブは、かなりジャジーで、ちゃんと妖しい。

阪神ファンの僕は彼らの演奏をみて、
下柳の芸術的な投球術を思い出したものである。

ああいう感じ。

ということは、下柳はジャズ的なのか。
そうかもしれない。



Q-ILLの三枚目のアルバムが先ごろドロップされた。

「TOKYO AVANT-GARDE」。
町田という、東京ローカルで生まれてくる音楽の
ストリートのリアルを見尽くした浮つきのない、
しかし熱いマグマのような脳内ビジョン。

虚勢張るラップも、
青春パンクラップも、
嫌いだ。

ラップてのは、
いつものことをいつも話すみたいに、
リアルに根ざしたファンタジーを、
面白おかしく、
時には真顔で、
ちゃんと伝えられるやつのことを言うんだと考えている。

だから、うそくさい作り話をコサエル前に、
物語になるような生き様がなければ、
そんなものはちょっとしたやつならすぐに見抜ける。

で、Q-ILLってのはそれができてる、
実に正統なラッパーなんである。

本当の話が聞きたいかい。
嘘臭くないストーリーテラーがほしいかい。
そういうやつにこそ、東京アヴァンギャルド。


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