脳辺雑記帖 (Nohhen-zahts)

脳病と心筋梗塞を患っての独り暮し、Rondo-Nth の生活・世相雑記。気まぐれ更新ですが、気長にお付合い下さい。

昔の同僚と会う。

2008年04月14日 16時09分25秒 | 近況
昨日の日曜日、雨模様の曇り空だったが、
以前に勤めていた職場で同僚だった女性と
午後の二時に、東京駅のホームで待ち合わせをした。

彼女と会うのは、実に丸12年ぶりである。
彼女の方が、先にホームに来ていたようであるが、
私は、その人が本人であることに気付かなかった。
声を掛けられて、その女性をまじまじと見た。

彼女は、細身にやつれていて、顔色に潤いが乏しく、
体全体が縮んでしまったかのように見えた。
特に後姿など、私の知るその人とは、別人である。
彼女は、最初だけ挨拶程度に笑顔を見せたが、
後は、どこか無表情で気持ちも沈んだ風情だった。

駅を出て、日本橋へ歩き、目に付いた喫茶店に入り、
お茶を飲みながら、3時間も彼女のする話に耳を傾けた。
彼女は半年前に、ある会社に転職して現在に至っている。
話題は、昔と今をひっきりなしに行ったり来たりで、
彼女の喋り方に落ち着きがなく、おまけに声が小さく、
また、ある種の符丁を使うので、何を言っているのか、
正直なところよく聴き取れないまま、私はうなずきを繰り返していた。

彼女は前職で、相当苦労したらしい。
そこの仕事は専門職なので、アシスタントがついていたのだが、
彼女にはアシが付かず、担当の仕事以外にも、仕事の出来ない
若手の尻拭いで、無給で土・日も出勤を続けていたらしい。
ストレスで胃潰瘍が出来る程だったという。

そのような経緯から、長年勤め慣れた前職を辞めたらしいのだが、
現在の転職先でも、引継ぎで仕事を教えてくれる人が、
だいぶ性格がひねくれているらしく、どうにも我慢の限度らしい。
社長とも話し合ったが、あと五日勤めたら退職する、のだそうである。

彼女は既婚者なので、夫がいるわけであるが、
この旦那さんの会社は、長年業績不振で、妻である自分も、
稼ぎ手にならないと生計が立たないのだそうである。
言い忘れたが、彼女は難病の持病持ちで、何度か入院しており、
今でも定期的に大学病院に通院し、服薬を続けている病身でもある。

彼女のどこか諦めたような、浮かぬ顔つきも、もっともである。
何て励ましたらいいのか、私には言葉が出てこなかった。

長話に疲れたので、喫茶店を出て、一緒に銀座まで歩いた。
近頃にしては、珍しく寒く、大通りを冷たい風が吹き抜けていた。
銀座は、シャネルなどの高級ブランドのビルがやけに増えた。

私と彼女の共通の前職は、銀座にあったので、
ここに映画館があって、前に大きな駐車場があって、など、
ひと昔前の銀座の裏通りを、二人で思い出しながら散策した。
でも、今の彼女の心のエネルギーは、低い処を流れているようだった。

私は歩いていて、とにかく体が冷えて寒いので、帰りたくなり、
どんよりした空の夕暮れどきに、京橋の街角で彼女と別れることにした。
彼女は、まだ一人でブラブラしていたいから、と言い残し、
どこか虚ろな様子と、当てもないような足取りで、私から離れて行った。

私は、彼女の後姿を追いかけるように、
「また、会おうよ。今度は飲みに行こう!」と
別れの挨拶代わりに、言葉を投げてみた。
すると彼女は、肩越しに小さく振り返り、
「そうね。またね‥。」と乾いた声で応えてくれたが、
私には、心が何処にあるのか、分からない感じだった。

もう少し、彼女に付き合って時間を過ごしても良かった。
でも、どうしても、この日は、
会話がかつてのようにかみ合わず、味気なく空を切るように感じられた。
また、12年ぶりに出会った彼女の心には、
今の私という存在が無力な気がして、仕様がなかった。

彼女は、今、寄る辺のない淋しさと孤独に、
一人で必死に耐えようとしているのかもしれない。
中途半端な優しさを貰うよりも、一人で淡々と歩くこと、
そんな無心な行いのみが、唯一、彼女の心を救っていくのかもしれない。








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