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坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

国立美術館に対する事業仕分け

2010年06月19日 | アート全般
4月26日に実施された事業仕分け第2弾では、国立美術館、国立文化財機構の「美術品収集事業」が対象となり、仕分け結果は、国からの負担を増やさない形との条件つきで、事業規模を拡充するというものでした。
文化は別物、規模拡充のお墨付きをもらったような、でもそこには国からの交付金の増額は見込めませんから、収集の資金は民間からの寄付やコスト削減、自己収入の拡大に拠らなければいけないという従来的なものです。
いわゆるコレクションを持たないで、大規模な国際展の運営事業を行う美術館の在り方も今日的であるという指摘もあります。コレクションにとらわれず、縦横な企画の自在さで入場者数を上げている美術館もあります。
ですが歴史的には公立の博物館、美術館の基盤は質のあるコレクションに重点が置かれ、予算のやりくりに頭が痛いところ。豊かなコレクションを誇る企業系の美術館と連携して企画の内容を充実させている館もあり、今後は公民一体となった企画展の充実が期待されます。

もう一つの印象派、フランダースの小村の画家

2010年06月18日 | アート全般
19世紀中ごろ、フランスのバルビゾン派はルソーの「自然へ帰れ」のもとに華やかななパリから離れ、農村に生きる人々を日常にとらえました。ご存じのようにミレーがその代表格ですが、各地から芸術家が集まり一つのコロニー(芸術家村)をつくりました。
一方、同じ頃、ベルギーのフランダース地方のゲントにほど近いラーテム村の緑豊かな大地と川の風光に導かれて芸術家たちが集まり、ラーテム派と呼ばれる一つのコロニーが生まれました。折しも、パリではモネたち若き気鋭の画家たちが外光の下で新しい技法を獲得していきます。
・画像作品エミール・クラウス「マーガレット」1897年
ラーテム派の代表的画家です。「ふらんだーすの光」展(Bunkamura ミュージアム/9月4日~10月24日)では、この作品は出展されませんが、「ピクニック風景」「刈草干し」など農家で働く人物に焦点をあてたクラウスの大作が出品されます。
この作品では、画面の4分の3以上を風にたなびくマーガレットの花畑が占め、洗濯物を干す女性が小さく風景に溶け込むように描かれています。明るい透明感のある朝の風景、光の
探求に情熱を持ちづづけた外光派の特徴がよく表れています。

アートフェア取材記と世界へと躍り出るアーティストの特集

2010年06月12日 | アート全般
久しぶりに『月刊美術』(サン・アート)の7月号の校正の仕事で行かせていただきましたので、予告として7月号の特集の内容を少しお知らせします。
現在では、ギャラリーでの作品購入の他に、一つの会場で出展ギャラリーがブースを設けて一押し作家を紹介し、作品を販売するアートフェアの開催が増えてきています。
1月に開催されたG Tokyo(六本木アーツギャラリー)のアートフェアでは、小山登美夫ギャラリーを主体に世界的に発信する現代アート系ギャラリーが結集。内覧会では顧客との売買のやり取りが活発でした。
『月刊美術』7月号では、北京アートフェア、YOUNG ART TAIPEI 2010の他、アートフェア京都(5月7日~9日/ホテルモントレ京都)などの取材記を掲載。4月に開催されたアートフェア東京などの成果を踏まえて、国内外から注文が殺到したアーティスト23人を作品とともに紹介。村上隆、奈良美智系のアニメタッチから小林孝恒系のニュー具象、日常をそれぞれの視点でとらえた作品、CGならぬ手描きの超絶技巧の虚構的世界、ゆるキャラといわれる癒し系アートまで面白さと奥深さに感激⋯。誌上でアートの最前線を体験してみてはいかがでしょうか。

熊本県立美術館に「黒き猫」あり

2010年05月27日 | アート全般
宮崎県から熊本へと目を移すと、細川家代々の当主のコレクションを保有する永青文庫があり、中でもこの菱田春草「黒き猫」(1910年)は、教科書や切手などにも登場する名品として知られています。文学界では漱石の猫が明治時代の代表であれば、絵画では春草の猫が存在感を放っています。
菱田春草は日本美術院の創設に尽力し、横山大観らとともに輪郭線を描かない「朦朧体」の技法によって、日本画改革を推し進めました。柏の幹の上にうずくまり、こちらをじっと見つめる黒猫。春草は、第4回文展(旧日展)に当初の予定を変更し窮余の策としてこの作品を出品したといわれます。伝統日本画の装飾感と黒猫のしゃれた配置にモダンが漂う作品です。

山梨県立美術館のミレー

2010年05月23日 | アート全般
ゴッホは農民画家フランソワ・ミレーを敬愛していました。パリの華やかな市民生活とは裏腹にバルビゾンの画家たちの農民生活に向けられたまなざし、ゴッホは油絵の技法的には印象派の影響を受け、明るい色面に移行しますが、テーマの上ではミレーらに共感していたのです。「鶏に餌をやる女」(山梨県立美術館)は、農家の日常の一場面が穏やかな光の中に映されています。印象派のタッチに慣れている目にとって、少し暗く感じるかもしれません。この作品は19世紀半ばの制作ですから、印象派の技法の革命はもうそこまできていますが、古典的な陰影法で、この時期写実的な描法への回帰の時代でもあったのです。この農婦のモデルは妻のカトリーヌ。名画「晩鐘」へと続く作品です。

本のカテゴリー

2010年05月22日 | アート全般
直木賞作家の京極夏彦さんと講談社は、「iPad(アイパッド)」向けに、新作ミステリーの電子版を発売するとは発表しました。紙の書籍も同時期に発売されますが、当然ながら電子書籍の方が割安になっています。キャスターの鳥越俊太郎さんは、行き過ぎると活字文化に影響を与えるという危惧を抱いていらっしゃいましたが、出版界に身を置くものにとってこの動向は気になるところです。これから電子書籍はある程度の領域を作っていくと思いますので、現代人の活字離れを少しでもくいとめる役目をしてほしいと思います。本と言えば先頃の「アーティスト・ファイル」(国立新美術館)に出品されていた福田尚代さんの本のカテゴリーをさまざまに操ったインスタレーションを思い起こします。(ちょっと無理やりですが)詩的な回文も独特の手法ですし、物語が綴られた本のページに刺繍をしていくとだんだんと文字は読めなくなりますが、その言の葉のひとつひとつが心に残っていくような印象深い内容でした。

風景画のコローではなく魅惑の女性像

2010年05月20日 | アート全般
肖像画は長い歴史がありますが、その中でも1点といわれると、イタリア・ルネサンス期のダ・ヴィンチの「モナ・リザ」と応える方が多いでしょう。あの神秘の微笑みは時代を超えて魅惑の魔力があるようです。解剖学的に表情の動きとフスマートと呼ばれるダ・ヴィンチ特有の空気遠近法の技法の完璧さは比類なきものでしょう。近代へと目をやると、印象派にも影響を与えた風景画家コローがいます。田園風景の光の感覚、筆の筆触、即興性をもって自然の風光をとらえた画家ですが、女性像も多く残しています。「真珠の女」(1867~70/ルーヴル美術館)は、モナ・リザ風のポーズをとっていますが、貴族的ではなくぐっと親近感がわきます。若い女性が木の葉の冠を頭につけ、そのひと葉が額に影を落としています。それを人々は真珠だと思ったのです。それがタイトルになっているわけですが、コローの影は真珠に値するというほど、この作品の深い精神性を讃えているのです。

東京都美術館の大改修が始まる

2010年05月20日 | アート全般
長年の懸案であった東京都美術館(上野公園)がこの4月から2年がかりの大改修工事に入りました。開館から35年、設備面での老朽化による改修問題は10年以上前から浮上していましたが、全国の公募展団体の歴史を刻んできた美術館であり、毎年開催される公募展の移転先が各公募団体展の頭の痛いところでした。国立新美術館(六本木)の開館とともに日展、二科、二紀、院展なども新しい会場へ移転。観客の方々のにぎわいもそのまま移動したような雰囲気になっています。新しい東京都美術館の構想は、赤れんが風の外観の前川國男設計の佇まいを残し(上野公園のシンボルでもありますから)、外観の設計は壊さずに企画展示室を含む内部の構造をリニューアルする方針ということで建築の保存上も理にかなっているように思います。もう少しこの話題が一般の方々にも普及していくといいのですが。
・東京都リニューアル準備室 TEL 03-5806-3726

可愛い女の子はやはりマルガリータ王女

2010年05月19日 | アート全般
ルソーの迫力の子供の絵を見た後は、やはり文句なく可愛い子どもの肖像画をみたい・・。
ということで、「薔薇色の衣裳のマルガリータ王女」(1653-54年)。スペイン国王4世の宮廷画家として腕を振るったバロック時代の画家、ベラスケスの名作。背後に暗部の調子を置き、穏やかな光が王女に降り注ぐ。王女2歳の時の肖像であどけない表情ですが、しっかりとしたポーズ。早くも婚約が決まっていたウィーン国王家にテレサの成長過程が分かるように、ベラスケスは7歳の時とか複数王女を描いて肖像画としてウィーンに送っています。お見合い写真の替わりになったのですね。華麗な筆さばきで歴史画、宮廷画などスケールの大きい大作を連ねたベラスケス。中でも渾身の一作です。

美の方程式って・・・

2010年05月18日 | アート全般
海の泡の中から生まれたギリシャのヴィーナス像は女性像の美の規準でもありました。身体は宇宙であるといいますがいろいろ数理的にも理に適っているようです。生物多様性の文字が新聞でよく見られるようになり、身近な動植物に目をやると、その「かたち」の不思議さ、自然の摂理を感じさせ、神秘的な感じさえします。巻き貝の螺旋形は本当に美しい。オランダ17世紀に静物画が確立されたときも、貝殻はいろんな場面でモチーフになっています。らせんは完全な相似成長とか、自然の形を科学する本は、高木隆司さんが書いていらっしゃいます。そこから一挙にフェルメールの作品に触れてみますと、幾何学的、数理的な美の規準で人物の配置、手の位置、空間構成がなされていることが解明されています。数理方程式と写実技の極致が豊かな普遍的美を生みだしたのです。