坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

八ヶ岳の自然の中の中村キース・へリング美術館

2011年08月25日 | アート全般
60年代、ウォーホルによってキャンベルスープやマリリンの肖像で、アートを高尚なものではなく生活の中の雑誌の切り抜きや広告媒体を応用した、シルクスクリーンによってスリリングにアートの価値観を変えて行きました。
80年代アメリカのアートシーンに躍り出たのが、キース・へリング(1958~90年)でした。1981年、ニューヨークの地下鉄の広告版の黒い紙に、白いチョークで描かれたシンプルの人型やイヌ、ピラミッドなどが出現しました。駅員や警官の目を盗んでその絵は次々と書き換えられました。その記号的なアイテムは人々をくぎ付けにしました。
へリングは、「地下鉄は人種、階級、性別、職業に関係なく、もっとも多くの人が往来する場。ここに描けばみんながみてくれる」と言います。ウォーホルのアートの大衆化は、へリングのストリートアートへと引き継がれたのです。
4コママンガのようなユーモアのあるタッチは、ヒップホップのダンスに呼応するようにはじけています。当時アメリカ社会における経済の混乱や治安が悪化し、犯罪の多発がクローズアップされていました。へリングは大都市の光と影を見抜き、社会風刺的な要素を盛り込んでいきます。
・八ヶ岳の小淵沢の自然豊かな地にある美術館は、白に赤をビビッドに利かせた緑の中に映えています。
フリーハンドで一気に描かれた大作を軸に、へリングはマティスなどの原色と鮮やかな色彩と黒の対比などモダニズムの研究の成果も見て取れます。
大衆の賛辞から一気に商業主義的マーケットの渦に巻き込まれたへリングですが、タイムズスクエアのビルボードのアニメーション制作や舞台デザイン、ポップショップをオープンするなど、それまでのアートの枠をこえて創作を多岐に広がっていきました。
HIV感染の診断後は、作品や活動を通してエイズ防止のメッセージを送り続け、2年後の31歳で亡くなるまで、リズミカルなグラフィティを燃焼させました。

◆中村キース・へリング美術館(山梨県北杜市)
*当美術館の所蔵作品を中心に国内から集められた150点が展示されるキース・へリング展が開催されます。
 ・LOVE POP! キース・へリング展/12年1月21日~2月26日/伊丹市立美術館

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