海人の深深たる海底に向いてー深海の不思議ー

地球上の7割を占める海。海の大半は深海。深海生物、潜水調査船など素晴らしい深海の秘蔵画像を紹介。奇抜・奇妙な姿に驚愕!!

チョウチンアンコウのオス

2012年09月08日 | 日記
チョウチンアンコウのオス
 私達の知っている動物のオス、メスの違いはなんだろう? 鳥ではオスが飾り羽などを広げてメスの気をひいたり、美しいさえずりでメスを呼んだりしている。オットセイはオスが大きな身体で強さを発揮し、他のオスをしりぞけてハーレムを維持している。百獣の王ライオンは立派なたてがみでメスを誘っている。このように一般の動物はオスの方がメスより身体が大きい、獲物を捕る能力が優れているなどのイメージを持っている。

 恐ろしい顔や奇抜な体型で知られる深海生物にはこれまでのオスのイメージを覆す生き物がいる。それはチョウチンアンコウの仲間だ。今回はオニアンコウ、ミツクリエナガチョウチンアンコウなどの奇妙な生き方を紹介したい。
 オニアンコウなどは深海の中層で産卵する。卵はゼリー状の帯のような形の中にあって浮力があるので深海から海面に浮いてくる。海面でふ化した仔魚はオス:メスは1:1である。海面付近には植物プランクトンや動物プランクトンが多くふ化した仔魚の餌には困らない。こうして育った仔魚はやがて本来の生息場である深海へ下って行く。
 深海生物であるチョウチンアンコウのメスは頭の先に獲物を捕るための疑似餌であるルアーや発光器官が備わっている。メスはこのルアーを巧みに動かし、近寄ってきたエビや小魚を食べる。胃袋も大きくなるので多くの餌を呑み込んで30センチと大きく育ちオスを寄せるフェロモンを放出している。 一方オスはルアーも発光器官も備わっていない。メスより鋭い目と発達した感覚器官、咬む力の強い口で餌を捕えるのだ。オスは優れた視覚で餌を見つけて襲い、咬みつくと鋭い歯で相手を逃がさない。胃袋など消化器系はあまり発達していないので身体は大きくなれない、せいぜい数センチどまりである。

 オスは大人になると、狭い行動範囲の中からするどい嗅覚でフェロモンをかぎ分け、目で大きなメスを見つけて近寄る。しばらく一緒に泳いで同種のメスと判断すると大きな身体に咬みつくのだ。メスの身体は軟らかく、しっかりした歯でぶら下がれる。咬みついた顎をレバーで固めて外れないようにもする。こうしてくっついたオスは背中であったり、腹側であったり、下半身であったりする。オスの姿勢も様々でひっくり返ったり、横を向いたりまちまちである。
 咬みついたオスの口から酵素がメスの皮膚に入ると、メスの身体から皮膚が伸びて来てオスの口は皮膚に取りこまれてオスはメスの身体と一体化してしまう。まるで雌雄同体のようである。

 一体化したオスにはメスの血管から栄養が届けられるのでガリガリに痩せたオスはしだいに精巣も発達し、太ってくる。一方使わなくなった胃腸や目はやがて退化してしまう。こうしている間にも他のオスがメスの身体に咬みついてくるので数匹のオスが一匹のメスに附着していることがある。
 メスが成熟して産卵時期が近付くとオスの身体にもホルモンが伝わり、精巣の準備が整うのだ。こうして深海の闇の中で複数のオスを身体の一部としたメスが孤独?の中でも産卵し、オスの精子と受精して子孫繁栄が続いているのだ。  このチョウチンアンコウなどの子孫繁栄の戦略は、厳しい深海の環境の中で、メスの身体を大きくして産卵数を増やす、オスとメスの遭遇の機会が少ないからオスはメスの身体に寄生させる、オスは嗅覚でメスのフェロモンを嗅ぎつける能力とメスを見つける目を発達させることに重点を置いている。
 しかし、チョウチンアンコウのオスは、なぜこんなにも厳しい、過酷な生活を強いられているのだろうか? つくづく人間の男性に生まれてきて良かった!と思う。


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