
”黒ひげ”の攻撃により、何百年もの間、世界の海を守り続けた海軍本部の「正義の要塞」が崩壊した。その様子はシャボンディ諸島に中継され、人々の海軍が勝ったという安堵を一瞬にして払拭した。
”火拳のエース”を捉えてこの戦争の引き金を引いた海賊”黒ひげ”が、海賊”白ひげ”の能力を手に入れたのだ・・・!!!人々の脳裏に、黒ひげの名は恐怖と共に刻み込まれた。

黒ひげは絶好調だった。
「ゼハハハ!!!力が!!!体の中から湧き上がってきやがる!!なんてすげェ能力だ!!!この世の全てを思い通りにできそうだ!!!・・・どれ手始めに、このマリンフォードでも沈めて行こうか!!」

黒ひげを止めたのは、海軍本部のトップ、センゴク元帥であった。
センゴクは再び巨大な仏の姿となり、【衝撃波】を黒ひげ海賊団に向けて撃った。
「要塞ならまた建て直せばいい。しかし、ここの世界の中心に位置する島、マリンフォード!!悪党共の横行を恐れる世界中の人々にとっては、”ここに”我々がする事に意味があるのだ!!!仁義という名の”正義”は滅びん!!!軽々しくここを沈めるなどと口にするな!青二才がァ!!!」それは、先ほどエースや白ひげに向けていたのはレベルの違う、激しい怒りの形相であった。


一方、親を失った”白ひげ海賊団”の船員達は、全力で退却の準備にかかっていた。
育ての親の遺体を海軍本部に残していくことは忍びなく、そのオヤジの遺体に手を出し、事もあろうかオヤジの【グラグラの実】の能力を吸い出して自分のものとした黒ひげは到底許しておけないが、今はとにかく海軍本部から逃げることが先決であった。
マルコは一番隊隊長として、哀しみに暮れる暇なく皆に退却を促し続け、皆は涙を呑んで退却を続けた。
ジンベエはその腕に、気絶して瀕死のルフィを抱きかかえて逃げていた。
逃げながら必死にルフィに呼びかけ続けた。 「ルフィ君!!しっかりせぇよ!!生きにゃいかんぞ!!!エースさんがおらぬこの世界を・・・明日も明後日も!!お前さん、しっっかり生きにゃあいかんぞ!!!」
それはジンベエ本人に向けられた言葉なのかもしれない。
白ひげの大恩に報いる為、エース救出の為にその命を捨てる覚悟で乗り込んできたというのに、二人は目の前で死に、そして自分がのうのうと生き残っている。
ジンベエもまた、白ひげとエースのいない世界で、生き続けねばならなかった。
ただ、ジンベエには生きる目的があった。
”白ひげ”がその命に変えて守り通し、インペルダウンの監獄の中でエースさんから直接「ジンベエ・・・おれがこのまま死んだらよ、悪ィけど弟のこと・・・気にかけてやってくれよ・・・。」と頼まれた”麦わらのルフィ”を守り通すこと!!
エースに頼まれた時、ジンベエは「いくらアンタの弟じゃとゆうても海賊の世界、わしはホレ込んだ男にしか手は貸さんし、守りもせん」と答えたのだ。
エースの弟、麦わらのルフィはそれに値する男だった。ならば、”約束”は果たせねばならない。
だがここは海軍本部の本拠地マリンフォード。大将級の戦力を1つとして欠いていない海軍がそう簡単に海賊を逃がすはずもない。
まずは”青キジ”が湾の海水を再び凍らせて、艦の身動きを奪い、さらに地下からは赤犬がマグマを噴出させて、海賊達の陸地での足場を奪いながら、ジンベエの行く手に立ち塞がった。
「そのドラゴンの息子をこっちへ渡せ!!!ジンベエ」
ジンベエは、自分が赤犬に勝てるとは思ってはいない。圧倒的な力量差があることは充分にわかっている、だが「わしはこの男を命に代えても守ると決め取とる」と答えた。覚悟はとうに決まってある。ここで命を張らずして、どこでこの命を使うのか。
ジンベエはとにかく海へ出れさえすれば、魚人である自分は逃げ切れると踏んでいたが、海は凍りつき、逃げ場は失われていた。ジンベエの姿を目にした青キジは「すまんね、ジンベエ・・・」と小さくつぶやいた。
行き場を失ったジンベエの体の背後から、赤犬のマグマの拳が貫いた。
ルフィを、その体で守るようにして、赤犬の拳を受ける様は、まるでルフィを守ったエースのようであった。

だが今回はジンベエの体を貫通して、ルフィの体にも赤犬のマグマが到達し、ルフィはその体を焦がした。ジンベエは自分の負った傷を意に介せず、それでもルフィを心配し、守ろうとした。 「ウウ・・・ルフィ君・・・すまん!!!更なる傷を負わせた!!!」
ルフィは心臓を僅かに避けて致命傷には至らなかったが、エースやジンベエ同様に胸を焼きえぐられていた。
これ以上身動きのとれないジンベエとルフィに、同時にトドメを刺そうと歩み寄ったところで赤犬は、不意にその体を砂の刃で斬られた。

赤犬を止めたのはクロコダイルだった。
クロコダイルは【砂嵐(サーブルス)】でジンベエとルフィの体を空高く舞い上げると、「誰か受け取ってさっさと船に乗せちまえ!!!ジンベエ!守りてェもんはしっかり守りやがれ!!!これ以上こいつらの思い通りにさせんじゃねェよ!!!」といつになく怒りで冷静さを失ったクロコダイルは、二人の逃走を手伝った。

空高く舞い上がったジンベエとルフィを受け取った「誰か」は、逃走中のキャプテン・バギーであった。
バギーは頂上戦争があまりにも怖くて、インペルダウンから連れてきた部下達を見放して、自分一人で飛んで逃げている最中に、クロコダイルに吹き飛ばされたジンベエとぶつかってしまった事故だった。
だがそれを目撃した部下達は、「クロコダイルの呼びかけに反応して、ジンベエと麦わらを助けてやった」とキャプテン・バギー伝説に加筆されたことは言うまでもない。

ルフィを追う赤犬の前に、逃亡を図っていたはずの白ひげ海賊団の隊長達が立ち塞がった。
赤犬は呆れた。 「・・・揃いも揃って・・あの麦わら小僧の為に命を落としたいんかい。お前らともあろう者らが・・・大層じゃのう、白ひげ海賊団!!!」

”麦わらのルフィ”は、オヤジとエースを失った白ひげ海賊団の、最後に残された”望み”であった。
「おれ達は全員、あいつの持つ底知れねぇ執念と力を目の当たりにした・・!!エースが守り、オヤジが認めた男を、おれ達は新しい時代へ送ってやる義務がある!!!赤犬、お前が今殺しておきたいと思う”危険度”と、おれ達が生かしてやりたいと思う大層な”期待値”は同じじゃねェのか!!」
あっちではセンゴクと黒ひげが、こっちでは白ひげ海賊団の隊長達と赤犬が激突し、頂上決戦の終わりは見えそうにもなく、戦乱はより激しさを増していた。
その戦いの最中、まだ凍っていないマリンフォードの海域に突如一隻の潜水艦が浮上して、バギーに向かって叫んだ。
「麦わら屋をこっちへ乗せろ!!!そいつらをここから逃がす!!!おれは医者だ!!!」

ジンベエとルフィを逃がす為に現れた潜水艦は、”北の海(ノースブルー)”のルーキー、で”死の外科医”の異名を持つトラファルガー・ローだった。
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