眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『午後8時の訪問者』

2019-05-05 13:05:15 | 映画・本

主人公の女性医師のことばかりグダグダ書いた「ひとこと感想」その4。

たった今まで、ダルデンヌ兄弟の監督作品だということを忘れていた自分(好きな監督さんなのに情けナヤ~)・・・なんてことはさておき、この映画を観たときは、主人公の女性医師(アデル・エネル)が終始見せる「分厚い」強さ!に驚いた。

フランスの女優さんは(あくまで私の思い込みだけれど)どんな役柄のときも「(男性から見た)女性」であることを止めないように見える。そういう文化なのだろうと私は(勝手に)思っているのだけれど、この映画の主人公は違っていて、最初から最後まで「優秀な、でもまだ修行中?の若い医師」としての顔しか見せないのだ。

たとえば、夜一人になった診療所で、殺人事件への関与が疑われる男性患者が、大声で怒鳴って暴れだす。彼女もさすがに、一瞬後ろに跳び退るほど驚く。が、その後警戒心は見せても、怯える風情は見せない。

観客の私が「ちょっとソコには近づかない方が・・・」と思うような場面でも、迷わず近づき相手と話そうとする。勇気があるのか無防備なのか、怖がりの私など「こういう場所の診療所の医者って、自分なんかは到底務まらないなあ」と思うような場面でも、彼女は誰か他の人を探す?援助を期待する??といった気持ちは、カケラも浮かばないように見える。

地味で目立たない外見。あまり変化を見せない表情。いかにも「理詰めでモノを考えそう」な自然科学畑の人間に見える彼女は、しかしその無表情の下で、自分が取った行動が間違っていた(その結果少女は死に至ったのではないか)ことを本気で受け止め、その責任を果たすためにも「真相」を突き止めようと奔走するのを止めない。

映画はミステリーとサスペンスとして、そんな彼女の行動を追いかけるのだけれど・・・ギリギリの瀬戸際まで相手を追い詰めて「事実」を吐露させたときでさえ、相手に「自分で警察に電話」させる。彼女はそういう人なのだ。そして、この追跡劇を通じて、彼女自身の人生も方向を変える・・・

高齢の患者の手を引いて階段を下りるラスト・シーン。何気ない温かい光が、ほんの少し和らいだ彼女の表情に似つかわしく、厳しい現実から目を背けずに生きる選択をした彼女への、作り手からのエールのようにも見えた。共感しようにも出来ないくらい、自分とは正反対の女性像?だったけれど、この「逃げない」生き方は私の目にも眩しかった。



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