むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

他者の任期を尊重しないものは、自らの任期も保障されない 新興民主主義の制度的脆弱さ

2008-10-09 03:47:30 | 台湾政治
「ラジオ・タイワン・インターナショナル」という名称で、国際放送を運営する台湾政府外郭財団法人・中央廣播電台(中央ラジオ)だが、任期をまだ1年残して民進党政権時代に就任した役員が集団辞職する騒ぎになっている。
9月30日自由時報が1面トップで報じたことから明るみに出たのだが、同報道によると、発端は馬政権になってから新聞局など監督政府機関が「中国批判をあまりしないように」と圧力を加えたことだという。
同放送局は台湾語や華語の番組に何度が出演したことがあるし、役員や内部の人は何人も知り合いがいるので、ちょっと書きにくいところもある。
わたしが現場関係者から聞いたところでは自由時報の報道も一面的、一方的のきらいはある。内部職員には放送業務を知らない政治任命の役員への不満もあったらしいし、政府系放送なのに現政権を声高に批判する番組もあったから、必ずしも馬政権だけに非があるわけでもないようだ。とはいえ、馬政権が「中国批判をあまりするな」といって圧力をかけたのは事実であり、この問題は馬政権の媚中体質を物語るものとして、根が深く、禍根を残すことになるだろう。

禍根といえば、制度的に任期が保障されているはずの政府外郭団体で、任期まで1年以上を残して、次々に馬政権からの圧力で民進党時代に就任した役員が辞めさせられているという問題がある。

もともと台湾の制度やシステムなるものは、あまり信用に値しないところがある。とはいえ、これまで概して守られていた制度が、こうやって政治的な圧力でいとも簡単に覆されてしまうのは、問題であろう。いや、そうやって簡単に制度を反古にしてしまうということは、その矛先は必ず自らにも向かってくるということだ。
制度というものは、信頼に立脚している。その信頼を自ら破れば、その人も信頼されないから、その人(総統)の任期もまた制度的に保障されないことになる。
まして、中華民国憲法は憲法本文のうち3分の2が空文化している意味のない、欠陥だらけの憲法だ(そもそも国家の成立要件たる国土すら、憲法では明確でない)。それが総統の任期を4年だと規定していても、その総統自身が憲法によって制定された法令が保障する他の制度を平気でふみにじった以上は、憲法による総統任期の制度的保障もまた空文化したといえるだろう。
まして国民党勢力は2006年に当時の陳水扁総統の国務機密費横領疑惑で確たる証拠もなしに「問題がある総統は辞めるべきだ」と総統任期は保障されないものだというロジックを自ら展開した前科がある。
当時の国民党はよもや2年後に政権を奪回すると思ってもみなかったからそんな主張をしたのだろうが、「問題がある総統は、民選にもかかわらず辞めるべきだ」という主張、それから今回の憲法の下にある法令で決められた外郭団体役員任期を否定する行動は、中華民国総統なるものの任期が実は不確定で、不安定であることを示しているわけだ。
いや、新興民主主義国家では概して「制度」なるものは未熟で不安定である。最近南アフリカでも大統領が任期を半年近く残して辞任を迫られたように。南アフリカの場合は、半大統領制ではなく、大統領制であり、かつ議会から選出されるので、事実上多数派の与党による任命となるから、台湾とは事情が異なるとはいえ、新興民主主義国家では「任期などの制度」なるものが、不安定であることの証明になる。

そもそも半(準)大統領制なるものは、フランスで定式化し成功したことを除けば、いずれも独裁に傾斜しやすく(そもそも大統領は三権の上にあり、議会に責任を負わないわけだから、独裁制に傾いて当然だ)、民主主義、ましては成熟した市民社会にはなじまない制度である。半大統領制でありながら民主主義国家だったところは、いずれも議院内閣制に移行した(フィンランド、リトアニア、アイルランドなど)。まだ残っているのは韓国と台湾だけだが、いずれも冷戦反共独裁時代のいわば歴史の遺物であり、韓国でも台湾でも無能な大統領を選んでしまったばかりに、制度として破綻が明らかになっている。
そういう意味では、台湾も早晩、議院内閣制、責任内閣制への移行が不可避だろう。もちろんそのためには二院制にして、さらに下院=衆議院の比例代表部分を大幅に増やしたうえで、現在の議会を改選する必要があるだろうが。

その時期は意外に早く来るかもしれない。馬政権は、国民党自身にとっては愚かだが、民進党や市民社会にとっては都合が良いことに、まったく反省能力も検討能力もなく、現在の超不人気な内閣をそのまま温存し、誤った政策を継続させるつもりらしいから。これは自らの破局するまで泥舟に乗って突っ走るということなのである。

3月の総統選挙の結果を見て、私は一瞬台湾人は学習能力もなく、まったくバカな選択をしたものだと思った。腐敗堕落無能の代名詞でしかない国民党を議会の絶対多数派にしたうえ政権に復帰させ、無能であることをみんなが知っていた馬英九を総統に選ぶというのは、どうみても愚かだと思った。
ところが、実はそうではないのかもしれない。わたしが「したたかな隣人」と呼んだように、数々の外来勢力に支配されてきた台湾人は、おそらく本人たちは無意識なのだろうし、それほど深く考えていないようだが、実は後から見て深謀遠慮ともいえる結果を選択することが実は多いからだ。

勝ちすぎた国民党と馬英九、その政権獲得と同時にタイミングよく発生した世界金融危機と中国経済の暴落。もちろん台湾人自身は自覚的ではなかっただろうが、これは実は国民党と馬英九に対して仕掛けられた、巧みなトラップなのだろう。
民進党がいくら党産や歴史問題を持ち出して叩いても壊れなかった国民党。それなら逆に勝たせるだけ勝たせることで、すべての責任と負担がかかるようにすれば、むしろ崩壊を早めることにもなる。ちょうど国民党が命綱にしてきた米国と中国の没落も起こったことだし、勝ちすぎた国民党と馬英九は勝ちすぎたことによって自滅するのである。
過ぎたるは及ばざるが如し、あるいは塞翁が馬の故事はそのあたりをよく示している。
落馬して骨折した子供が1年後の戦争で従軍せずに済み、命拾いしたことになるだろうから。塞翁が馬の故事でもその期間が1年になっているのも意味深長だ。

毒ミルク事件を契機に台湾で急速広がる馬政権への不信と反中国感情

2008-10-09 03:47:00 | 台湾政治
馬英九政権は低空飛行なら、8月中は陳水扁前総統の海外マネーロンダリング疑惑(まあ証拠はないんだが)が勃発、またたいした失点の加算がなかったため、小康状態になっていたが、9月中旬に発覚した中国の毒ミルク事件や台風の相次ぐ襲来に、失点を重ねて、再び危機に陥っている。また毒ミルク事件では、中国の隠蔽・責任転嫁体質が改めて認識されたことから、SARS以来の反中国感情も台湾社会で盛り上がっている。これも「中国経済との交易拡大での景気浮揚」が唯一の寄りどころであった馬政権にとって失点になっている。
毒ミルク事件では、特に9月23日から24日にかけて、政府衛生署が「商店にならぶすべての疑問ある食品を棚卸して検査する」といったかと思えば「パンなどに一部含まれているだけなら販売可」「一般食品でもメラミンが2.5ppm以下なら販売可」などと、基準と対応が二転三転したことが、大きな不満を呼んだ。特に基準量が2.5ppmというのは、甘すぎるという指摘が相次いだ。このため、衛生署長林芳郁は辞任した。しかし後任でSARS事件のときには名声を上げた葉金川も、対応が不明確なため、批判を受けている。馬政権の支持率は再び下がりはじめ、8月には30-40%前後あったものが(それでも低すぎるが)9月下旬には20%台になった。

馬政権の要職や中枢を占めているのは外省人が多く、いずれも中国に気兼ねをし、明らかに親中、媚中傾向が見られる。これが毒ミルク事件での及び腰の対応に反映されている。
だが、これについては、「身内」であるはずの外省人で国民党系(元親民党所属)の経済学者である劉憶如ですら、なんと自由時報のインタビューで馬政権が中国経済をあまりにも過大評価しすぎたと厳しく批判しているくらいだ(10月6日付け5面)。

しかも、馬政権が唯一頼みの綱にしている中国経済も、悲観論が世界的に台頭している。何よりも、わりと中国礼賛的だったはずの日本の「東洋経済」も5月に出した特集号では悲観論のオンパレードだったくらいだ。その中国で株価と不動産価格が暴落している。
まして、米国発の金融危機が起こっている。これは対米輸出に全面的に依存で成長してきた中国経済にとって、泣きっ面に蜂といったところだろう。
だから、中国経済の先行きは真っ暗であり、それに期待してきた馬政権もアウトである。

#ちなみに、米国の金融危機について、中国当局者は「そらみろ、市場万能主義の新自由主義が破綻した。中国みたいに政府の介入度が高いのが正しい」などといっているようだが、まさに「唐人の寝言」といったところだろう。現在の中国経済は新自由主義そのものであり、政府介入は社会(民主)主義的なものではなくて、政府が富を横取りして庶民を貧困に置く収奪のためなのだから、新自由主義の失敗はそのまま現在の中国の経済構造にも直結するのである。それが見えていないとは、中国人はやはり愚かだというしかない。

しかも、現在国際通貨市場では日本円の独歩高の様相を呈しているように、日本経済は相対的に強いのだが(それは日本経済が90年代の米国国際資本の攻撃やその後の小泉「改革」にもかかわらず、戦後以来の強固な日本型社民主義的経済構造も温存してきたためでもあるが)、馬政権はその日本に対して敵対的な姿勢をとっているのである。

米中に依存し、日本と疎遠になろうとしてきた馬政権の政策は、破綻の一途に向かっている。

メイ・シディアックって見事復活したんだ BBCドーハ・ディベーツに登場

2008-10-09 03:46:24 | 中東
2005年9月、私が初めてレバノンを訪れたときにあったテロ事件の被害者として、私自身印象が強い人気キャスターのメイ・シディアック(May Chidiac、宗派はマロン派で、政治的に反シリア)が見事に返り咲いたようだ。BBCワールドで月一回放映されているThe Doha Debatesという番組で4日(5日にかけて何度か再放送があった)見かけた。
http://www.thedohadebates.com/news/item.asp?n=3069 Democracy 'halted' in the Arab world というテーマで主催者側が
This House believes that progress towards democracy has halted in the Arab world
と投げかけて、それに対してパネラーが二人ずつ賛否に分かれて議論するもので、メイ・シディアックは「反」つまり「中東においては民主化は着実に進んでいる」という立場で議論を展開していた。英語はすごくうまいというわけではないが、それでもレバノンの知的女性らしくなかなかハードかつタフに論戦に挑んでいた。
メイは「私自身は悪意ある勢力によってテロに遭い、片手と片足を失ったが、それでも私はレバノンにおいて言論の自由は保証されており、民主主義は着実に進んでいると思う。イラクにおいても進展が期待されるし、その他のアラブにも広がっている」と主張していた。
このテーマについては、日本でも高木規矩郎氏の論文「イスラムと民主主義」『イスラム科学研究』第4号(早稲田イスラム科学研究所)pp.41-76 で中東のオピニオンリーダーへのアンケート調査結果から、民主化が進んでいないという認識が中東知識人に多いことが紹介されている。

もちろんここで問題となるのは民主主義の定義と内実だろう。先進国型民主主義の基準がどこまで非温帯気候地域の多い中東にそのまま適用できるか、先進国型を基準にして「民主化が進んでいない」と論断できるのかという問題がある。
そういう意味では、メイ・シディアックの主張も基準は欧米型にあるとはいえ、中東なりの民主主義のあり方という点では決して後退していないという論点を含んでいたという点では、わたしも同感である。

しかしメイ・シディアックはなかなか強い女性であり、強いジャーナリストである。
3年前にテロにあった直後レバノンで見た報道では、意識不明の重態で、片手足が吹き飛んでいた状態から、よく立ち直り、また活発に言論活動を行っているというのは、敬服する。
まして自身がテロに遭うという不幸にもめげず、レバノンの民主主義に希望を見出している点でも、民主化の踊り場に来ているといえる韓国や台湾、あるいはタイやフィリピン、インドネシアといったアジアの民主主義国にとっても、学ぶべきところは多いと思った。

今度レバノンに行くときに是非会ってみたい。できれば台湾にも呼んでみたいものだ。

バスの後方扉開いたままで走行し、バス会社が謝罪、それがニュースに

2008-10-09 03:45:30 | 台湾その他の話題
台湾社会の進歩は速い。20年前には問題にならなかったことが今では大問題になるらしい。4日三立テレビが報じたところでは、台北市であるバスの後方扉が開いたままの状態で5分間走ったことから、携帯のビデオで録画した客が通報、バス会社が謝罪する騒ぎとなった。私が最初に台湾を訪れた87年からおそらく90年ごろまでは、バスは普通扉が開いたまま走っていて、バス停に止ろうとしないので客はダッシュして飛び乗るし、運転は荒いのでよく年寄りが転倒して骨折していた。まあ、いまでも東南アジア、インド、中東、アフリカなどではそういう状態のところが多いだろうが、台湾でもほんの10数年前まで当たり前にそんな状態だったわけだが、それが今では後方扉が開いていたらニュースになって大問題になってバス会社も謝罪するわけだ。

そういえば、台湾では電気水道などの修理の人は、作業で発生したゴミは片付けずに現場に散らかしたまま帰るのが以前は普通だった。ところが、こないだ水道管(風呂場の棚が突然落下して下にあった水道管が破裂した)が破裂したときに来てくれた修理の人は、ちゃんとゴミはまとめて片付けていった。破裂した原因は相変わらず台湾らしいのだが、修理の人がちゃんと片付けていくようになったのは進歩だな。これ欧米でもちゃんとやるところ少ないはずだから。