むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

新興民主主義レバノン、韓国、台湾の政局が同時進行で混迷・・・

2006-11-14 06:55:13 | 中東
久々にレバノンのニュースをチェックしていたら、あらら、レバノンでも反シリア派主導内閣の中の親シリア派が国際法廷設置に反発して閣僚辞任、政局混迷とはな・・・。しかも「両派の対立」「倒閣運動」「要求が通らなければ大規模デモも辞さない構え」「デモにはデモで対抗する」「弱みにつけ込んで倒閣を目指している」など、なにやらデジャヴュな展開・・・。

そういえば、距離はまったく違うし、文化圏もまったく違うんだけど、台湾とレバノンって似ているところがけっこう多い。まず気温の推移もほぼ同じ(台湾のほうが若干暑い)、海洋貿易立国である点、さらに地政学的に微妙な位置にあるため大国の干渉が強く、エスニック(台湾は言語、レバノンは宗教)の対立、アイデンティティの分裂や曖昧さがぬぐえないところも共通している。また最近市民デモなど動員型運動を通じて民主化を勝ち取ったところも通じる。
ここで大国の干渉と最近市民動員型で民主化を勝ち取ったという点では韓国も当てはまるのだが、奇しくもこの三カ国ともに微妙に異なる理由と背景であるとはいえ、ほぼ同じ時期に同じように政局が混迷・・・。民主主義の難しさを改めて感じさせる事例である。

もっとも、欧米日などの「成熟かつ安定した先進民主主義国家」も、歴史的には同じような経過をたどって成熟させてきたのであって、他人事と笑うことは禁物だろう。ただそのわりに米国系のマスコミには自国の19世紀のどうしょうもない腐敗と混乱を棚に上げて新興民主主義を嘲笑する傾向があるのはおかしい。
レバノン、韓国、台湾の新興かつ脆弱な民主主義の混迷も、必要不可欠な通過儀礼である。それを笑うとしたらつまり「民主主義は世界普遍で、当たり前に求めるべきもの」という米国のネオコンあたりの宣伝がウソだったといっているようなものである。
やはり暖かく見守るしかないし、日本は世論と政府が一丸となって、こうした不安定な新興民主主義を守り立てる方策を考えるべきではないだろうか。これは日本がやるべきだろう。米国あたりがやると余計混乱に拍車をかけ、複雑にしてしまいそうなので蒙御免。
(なぜか今日は寝付きにくいので、また起きてブログを書き込むことにした。マージダ・ルーミー2006年アルバムを聴きながら。外は雨・・・)


読売
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061113id24.htm
(2006年11月13日23時45分 読売新聞)
レバノンの親シリア閣僚6人辞任、国際法廷設置に反発
 【カイロ=柳沢亨之】レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなどに所属する親シリア派閣僚計6人が11日から13日にかけて、辞任を発表した。
 シリアの関与が指摘されているハリリ・レバノン元首相暗殺事件を巡り、シニオラ首相ら反シリア派が国際法廷設置を急いでいることに反発した。今夏のイスラエル軍の攻撃で再燃した親シリア、反シリア両派の政権内での対立は国際法廷問題で一気に激化、レバノンは重大な政治危機に直面した。
(略)
 首相任命権を持つ親シリア派のラフード大統領は12日、「内閣は違憲」と総辞職を促した。これに対し首相は辞表の受理を拒否している。
 さらに深刻なのが、親シリア、反シリア両派が街頭での直接行動を扇動し始めたことだ。ヒズボラは12日、以前から示唆していたデモ実施方針を改めて強調。一方、反シリアのイスラム教ドルーズ派幹部らも「デモにはデモで対抗する」と宣言し、不測の事態に発展する可能性もある。
(略)
 一方、ヒズボラが倒閣運動を実行に移したことについては、後ろ盾のシリアとイランの意向との見方も根強い。米国には先の中間選挙前後から、イラク情勢打開のためシリア、イランとの対話を求める動きがある。このため反シリア派には「米国からの支援が揺らぐ懸念」(外交筋)が強い。レバノン消息筋は「イラン、シリアが反シリア派の弱みにつけ込んで倒閣を目指している可能性もある」と見る。


朝日
http://www.asahi.com/special/MiddleEast/TKY200611130169.html
レバノン6閣僚が辞意 ポスト巡り首相と対立
2006年11月13日20時23分
 1000人を超える死者を出したイスラエルとシーア派組織ヒズボラの戦闘が8月に終わったレバノンで、シニョーラ首相ら反シリア派と、ヒズボラを中心とする親シリア派の対立が深まっている。親シリア派は閣僚ポストの分配などをめぐる論争から、閣僚5人が11日、辞任を表明。13日にも、さらに1人が辞意を表明し、政界はマヒ状態となった。
 シニョーラ首相ら反シリア派は、欧米や中東のスンニ派産油国からの援助で復興を進め、イランから武器供給を受けて国軍をしのぐ武力を持つヒズボラ軍事部門を解体しようとしている。
 しかし、ヒズボラは「イスラエルを利するだけ」と武装解除を拒否。逆にシニョーラ政権と対立するキリスト教野党勢力などと連携し、「挙国一致内閣で外国の干渉から国を守るため」として閣僚ポストの3分の1を親シリア派側に譲るよう求め、各派が協議していた。
 フネイシュ水資源相(ヒズボラ)らシーア派閣僚5人が11日の協議後に辞任を表明。要求が通らなければ大規模デモも辞さない構えをみせた。
(以下略)


The Daily Star
http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&categ_id=2&article_id=76853
1113 Crippled Cabinet will still discuss Hariri court

http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&categ_id=2&article_id=76850
1113 Sfeir accuses opposition of rejecting international support

http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&article_id=76832&categ_id=17
1113 editorial: Why won't Lebanon's politicians come clean with the public?

http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&categ_id=2&article_id=76852
1113 March 14 points finger at Tehran, Damascus

産経(共同電)
http://www.sankei.co.jp/news/061112/kok007.htm
1112
シーア派5閣僚が辞意 レバノン情勢再び緊迫

読売
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061111i306.htm?from=main3
レバノン首相、元首相暗殺の国際法廷設置で国連案支持

庶民感覚から遊離した新潮流、これからどこへ行く?

2006-11-14 06:54:35 | 台湾政治
ここ数日、民進党やそれに近いオピニオンリーダーが陳水扁打倒に動いている。どうも国民党メディアの策動に乗せられている感じで、気分が悪い。
2000年陳水扁当選に一役買ったといわれているノーベル化学賞受賞経験者李遠哲、外省人出身ながら台湾語も達者で台湾意識が強い元総統府秘書長陳師孟、民進党を長年支援してきた食品会社義美の経営者で雑誌も発行する高志明らがそれぞれ陳水扁総統の辞職もしくは一時離職を求める声明などを発表した。
そして、13日には、民進党所属の立法委員(国会議員)で、党内派閥新潮流の重要人物でもある林濁水・李文忠両氏が陳水扁総統への不満を理由に議員を辞職した。
「陳水扁総統を支えてきた元側近や忠実な支持者までも」という点で、特に民進党議員の辞職は民進党内に強い衝撃を与えている。
しかし、奇妙だ。陳水扁夫人起訴が実際には台湾の民意にそれほど効果を発揮しなかったのを見計らったかのように、「元側近や忠実な支持者までも」がこのタイミングで行動を起こしたことに、国民党系メディアがここ数ヶ月仕組んできたキャンペーンにまんまと乗せられてのか、あるいは個人的な魂胆から進んで乗っているのか知らないが、とにかくタイミングを考えると気味が悪い。
李遠哲はもはや影響力もない単なる学者馬鹿だから影響もたいしたことないし、高志明もいってみれば食品会社のおやじだから政治センスがおかしいのも仕方ないが、骨もありセンスもあるはずの陳師孟の言動はどうも解せない。
議員を辞職した新潮流の二人は、新潮流としてポスト陳水扁に蘇貞昌を担ぎ出すための魂胆や策略があるんだろうが、それでもタイミングがあまりにも悪すぎる。これでは蘇貞昌も迷惑ではないか?

これについて同日夜の緑系テレビ局討論番組(民視の頭家来開講、三立の大話新聞)でそれぞれテーマとして取り上げられた。民視は「民進党と新潮流自身も傷つけるもの」という意見が大勢。三立は当の2人を出して例によっていろんな意見を出すというもの。
ここ数週間、わりと両番組を見ることが多いが、三立の大話新聞は巷ではわりと中立公平とされているが、緑寄りだが(だから馬英九の特別支出費問題や資産増加も批判する)、陳水扁には距離を置いていて、民視の開講は陳水扁擁護色が強いという感じだ。
毎度思うが、この二つの番組はそここそ水準も高く、なかなか参考や勉強にもなる。そういう点で、日本の台湾駐在記者などは取材がてら真っ先に見てほしい感じはするが(日本国内の政治部記者が日曜日の政治討論番組ウオッチが必須になっているのと同様)、ただ台湾語が多用されるし、かなり早口なので日本人の多くはついていけないだろうとは思う。
民視の開講では、反新潮流派の民進党議員や弁護士らが主に話していた。いわく「12日の自由時報トップで馬英九が火曜日にも特別支出費の不正流用で検察の事情聴取を受けるという報道があったその翌日に新潮流の議員の辞任というのは、まるで馬英九疑惑を掻き消すような効果を狙ったようなもの」「新潮流などの若手議員は、陳水扁憎しなのか、統一派メディアにちょこちょこ出ていて、統一派のお先棒を担ぐようなことばかりしている。タイミングとしておかしい」「そんなに民進党全体と意見が食い違うなら、離党すればいい。民進党にとどまるのは党を傷つけるだけ」「新潮流でも高雄市長に立候補している陳菊は迷惑だろう。選挙によい影響を与えないからだ。また新潮流でも北部と南部では意見が異なるようだ」「議員を辞めてどうなる?防衛性兵器購入、馬の特別支出費などの問題は立法委員だからこそできることではないのか?」など批判が大勢だった。
これに対して、三立の大話新聞は以前から陳水扁とも距離を置こうという感じもあったのと、辞職した当人が出ていたこともあって(台湾人らしいメンツを重視して)、もう少し辞職に対しては穏便な発言が多かった。当事者の林や李は「陳総統の潔白を信じているが、混乱した政治的な責任はある。去就を決めるのは陳総統自身だが、混乱についてなんらかの対応をすべきだ。そうでなければせっかく台北市と高雄市で勝てる候補を出しているのに、このままだとそれが生かされない。その原因は陳総統にある」、つまり自らの議員辞職の理由について「民進党を愛する気持ちからだ」と釈明していた。
これは本心かも知れないし、善意なのだろう。だから民視で反新潮流派が「馬英九とつながっている」かのような邪推する意見があったのはアンフェアといえるかもしれない。しかし反新潮流派が指摘する「タイミング」の問題は大きいように思う。

台湾人はよく「善意」であることを強調して、結果的な効果やタイミングの悪さを反省しようとしない傾向があるが、林濁水の釈明もそうした台湾人の欠点が現れていた感がある。ほかにここ数日陳水扁辞職や一時離職を求める声明や意見書を発表した李遠哲、陳師孟、高志明ら緑系オピニオンリーダーも同じである。タイミングがおかしいから、結果的に本人たちの「民進党思い」とは裏腹に、民進党だけでなくすべての本土勢力を毀損する効果をもたらしている。
それにしても、5月から続いている国民党勢力による陳水扁バッシングは、しつこい。青側が繰り出して効果がないとみると、緑陣営からもそれを引き継ぐように次々と切れ目なくバッシングが続いている。5月の陳水扁の娘婿の疑惑と逮捕、それが落ち着いたと思ったら、7月には「親緑学者」による陳総統辞職要求の二度にわたる声明、さらに8月には民進党から離れてしまっているとはいえ本土派には違いない施明徳による声明と、9月には施とそれに追随する民進党系が発起した「倒扁」デモ。ただそれが9月下旬には青系統に牛耳られていることが明らかになって10月にはしぼんだと思ったら、今度は11月に入ってから陳総統夫人らの起訴、そして起訴もあまり効果がないことがわかってから、今度は陳水扁を守り立ててきた元側近や民進党所属議員の離反である。こう都合よく切れ目なく続いているのを見ると、陰謀論も考えたくもなるではないか。

新潮流はこれからどこに行くつもりだろう。陳水扁を追い詰めて、蘇貞昌を立てようとしても、その先の展望があるのか?
08年に総統選挙があろうと内閣制に移行しようと、いずれにしても本土派が政権を維持するには、民進党が束になっても足りず、勢い国民党本土派との暗黙の了解や連携が必要である。
その点では、最近いやらしいとはいえ、国民党本土派抱き込みを狙っている李登輝の行動はまだしも意味はある。同じく国民党も視野に入れている謝長廷の一見するとわかりにくい策謀もある意味で理解できる。
しかし、新潮流が行っている策謀は何か?新潮流には民進党の新潮流以外の派閥や系列とは隙間があるし、台連や国民党本土派はもっと反感を抱いている。新潮流だけでは台湾の民意の過半数を確保できない。だからこそ新潮流はこれまで民進党の枠組みで反新潮流派とも共存して陳水扁政権を守り立てる必要があったのだし、そうしてきた。ここに来て、陳水扁のレームダック化に直面して、一気に陳水扁おろしに動いているのだろうが、今の新潮流が、民進党全体の枠組みを否定して、派閥利益だけで動いたとしても、結果的には勝ち目はないし、本土派全体の利益にもならないだろう。そういう点では、民視の討論番組で指摘されたように、新潮流はまさしく馬英九の事実上の走狗に堕しているという批判も結果的には否定できない。

それはそうと民進党の「三宝」といわれ、独立派色や草の根色が強いトリオとして林重謨、蔡啓芳、侯水盛の3立法委員がいる。わりと野暮ったく、失言や放言も多く、ヤクザっぽい感じも強い彼らだが、日頃から台湾語も多用するし、庶民感情を代弁しているところがあるので、放言癖の割にはどことなく憎めない。じじつ、私は彼らのことが結構好きだ。その庶民派の三宝は今回、新潮流批判の急先鋒となっている。
それが普通の庶民感覚ではないだろうか?
屋台を引いたり、ゴミを収集している人たちは、一連の総統バッシングについて「陳水扁のあの顔を見れば悪いこと出来ないことがわかる。学者どもは何をいっているんだ」という意見が強い。
台湾は一見すると学歴社会、知識人重視社会のように見えて、同時に、庶民も知識人も一票の重みは同等となった民主化を反映して「冷房のきいた部屋で頭でっかちになっている知識人なるもの」に反発と懐疑を抱く草莽の気質が充満しているのである。その辺の底流や基層の動きや心情を見据えないと台湾のこれからの動きを見誤ることになるだろう。