曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・駄菓子ロッカー(9)

2014年01月29日 | 連載小説
(9)
 
仕入先の井口商店まで道路工事が6ヶ所。うち、スクーターが横をすり抜けて前まで出られないものが4ヶ所。スクーターはスピードが出ない分小回りに長けているのだが、その利点を道路工事に封殺されて行き帰りに時間がかかった。
 
自民党が第一党に返り咲いて、ナントカミクスと謳ってから本当に道路工事が多い。運搬がどうしても必要なFにとっては頭を痛めるところだ。これが大型車で、さらには遠距離の仕事をしている人であればもっと深刻なことだろう。
「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」ではないが、「アベノミクスの 正体見たり 公共工事」と皮肉りたくもなる。もっともこんな皮肉を言ったところで、当の本人たちにはまったく届かないのだが。
これまで低迷していた経済が多少好転したので、総理も自民党もなかなかやるなという雰囲気があるが、実際は公共工事をはじめとした今までの方法をなぞっただけときている。民主党の経済政策がとにもかくにもひどかったので、自民党の使い古された方法でも斬新に見えてしまうのだ。通信簿が2つ上がったらすごいと感じるが、3から5へ上げるのと1から3に上げるのとでは難易度がまるで違う。1でバトンを受け取った自民党は大きな得をしたのだ。
 
Fは店に着いてシャッターを開け、昼飯がてらテレビをつける。国会が始まり、この日は代表質問が放送されていた。
しかしこの代表質問というもの、本当に税金の無駄遣いだ。質問と解答がかみ合うことはなく、通りいっぺんに互いの主張を述べているだけ。それでも百歩譲って与野党のやりとりならまだ分かるが、自民同士のやりとりで(同志、じゃあないんだろうなぁとてもとても、とFは呟く)、貴重な時間を無為に使う神経が分からない。おまけに自民の2人とも、滑舌がたいそう悪いときている。もっとも役者や噺家ではないのでそれはしょうがないが、こんな身内のやりとりなんか党本部でやってくれぃとFはテレビに向かって野次った。これもまた、本人たちにはまったく届かない。
 
くだらなくてもじっと観ているFだが、この日はどうしても観る気が起きず、テレビを消してCDにした。
先日中古レコード屋で掘り出し物を買ってきたはいいが、まだ聴いていない一枚があった。Fはその、イアン・マクナブのソロ、『Truth and Beauty』をセットしてプレイボタンを押した。
 
(つづく)