曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・駄菓子ロッカー (2)

2014年01月15日 | 連載小説
(2)

「まったく今日もなぁ!」
Fは朝、いつものように政治面に腹を立てる。パンをかじりながらだからモゴモゴとした発声だが、憤りのセリフをしっかりと部屋に響き渡らせる。
年が変わっても相変わらず。都知事選などという余計なものが入って、さらに政治面が活気付いてしまっている。
だいたいにして今回の都知事選など、本来はいらぬ選挙なのだ。湯水のように税金ばっかり使いやがってと、Fは眉間に皺を寄せた。
不祥事を起こして辞めた前都知事に、ちっとは選挙費用を負担してもらいたいものだ。まぁ法律上そんなことは無理と重々分かっているのだが、しかししっぽを巻いて逃げてしまえば済むという問題でもないだろうに。
 
今回はここにきて、人気があった元首相の二人がタッグを組んで乗り込んできた。間隙を突く、という感じで。これでさらに報道も過熱することだろう。
Fは思う。正直これもどうかなと思うが、それ以上にどうかと思うのが、自民党の官房長官が細川元首相の以前の借入金問題を言っていることだ。今回の猪瀬氏の辞任騒動、金を貸した側は自民党の議員だったのに。そこんところはどうなんだっつうの! Fは一人きりなのに思わず声が出てしまった。
なにもFは自民党だけを嫌っているわけじゃない。政治家すべてが嫌いなのだ。しかしこれに関しては、直前に自分の政党の人間がやっているのにそれを無視して人のことを言う神経が分からない。今回の選挙費用は自民党にも負担してほしいくらいだとFは思っている。
 
一生懸命記事を書いている人や取材した人、そして配達した人。新聞が手に届くまでにはいろんな人たちの苦労があることは知っているが、やはり今日も引き裂かねばならないとFは思った。そうさせる人物や記事が載っているのだ。すまん、記者よ、そして配達人よ。そう念じながらエイッとFは引き裂いた。
 
冬休みの駄菓子屋は混み合い、売り上げを伸ばした。これはしかし例年のことで、休みが終わるとぱったりなのだ。イベント感がなくなるのと、寒さが厳しくなるのとで、子どもの外出が鈍るからだ。
この日も3時をまわったというのに1人も訪れない。そんな店舗のレジ前で、Fは一人ギターをつま弾く。ロバート・ジョンソンのブルースコードを、ゆっくりと。歌詞は分からないので適当だ。
 
商売はさほどうまくいってないが、まぁ仕事の合い間にギターを触れるなんて幸せな人生じゃないか。食わせなきゃならない女房子供がいるわけじゃない。のんびり構えているに越したことはない。駄菓子屋なんてガツガツ儲けを追及する商売じゃないのだ。
 
(つづく)