曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・駄菓子ロッカー(6)

2014年01月23日 | 連載小説
(6)
 
F、二日酔いの朝。
昨晩も調子に乗りすぎた。金曜の夜でメンバー中3人が翌日休みということで、ピッチは当然早かった。Fはまんまとそれにつられるカタチとなってしまったのだ。おまけに2次会、そして〆のラーメン屋でも一杯。これでは二日酔いにならない方が不思議というものだ。寝しなにかけたドアーズは、ジム・モリスンの声すら聴かずに落ちてしまった。
もう酒は絶対呑まんと思うが、これはもう毎度のことで何度も思っている。何度も、ということは、つまりは実行していないということだ。
 
洗顔、着替え、布団たたみ。通常の2倍の時間をかけて、朝の諸々をのそのそとこなしていく。
動作を一区切りするごとに、今日は休もうかなどと思う。しかし思ったそばからそれを打ち消す。ダメだダメだ、それだけはやっちゃいけない、と。
自営業はやろうと思えばできてしまうのが怖いところだ。そして休んだところで当座はどうもならない。しかしこれは堤防決壊の前の小さな穴のようなもので、ひとたび穴があいてしまえば必ず大きくなるし、崩壊まではあっという間だ。酒乱やアル中だって一杯目で豹変したりぶっ倒れたりするわけではない。最初の一杯は普通の人と変わらない呑み方なのだ。しかしその後が違う。その者たちの酒は、泥酔に確実に繋がる一杯なのだ。
店もそれと同じ。二日酔いでのずる休みは他の休みとは違って、廃業へと確実に繋がっている休みなのだ。
 
出勤があると言っていたイチだけは、酒量を抑えていた。仲間内の気さくさで、お前のようなアマちゃんな呑み方はしたくねぇと、他の4人から相当からかわれていた。それでも抑えていたのだから立派なものだ。
酒呑みというのは当日と翌日で評価が変わるのが面白いところだ。前日は意気地なし呼ばわりされていたのが、翌日は、「あいつ聡明だったなぁ」となる。少なくとも自分は聡明ではなかったと、Fは反省した。
 
それでも、仕入れをあらかじめしておくだけ利口になった。多い少ないはあるが、商品は満遍なく揃っている。子どもたちにはそれぞれ嗜好があり、多くの子がそっぽを向く不人気な商品を目当てにしている子もいる。せっかく来てお気に入りの一品がなかったら、ガッカリすることだろう。だから安直に品切れを放置してはいけないのだ。
メシも食う気が起きない。とりあえず、軽くて頭にガンガンこないニック・ロウの曲を聴きながら、Fはしばらく寝転がっていた。「あ~ダメだ~」などと呟きながら。そしてCDが終わると、よたよたと靴を履いて店へと向かっていったのだった。
 
(つづく)