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ねこやま

徒然備忘録

追憶のかけら / 貫井徳郎

2010-10-31 12:14:36 | な行作家
抜粋

事故で愛妻を喪い、失意の只中にあるうだつの上がらない大学講師の松嶋は、
物故作家の未発表手記を入手する。
絶望を乗り越え、名を上げるために、
物故作家の自殺の真相を究明しようと調査を開始するが、
彼の行く手には得体の知れない悪意が横たわっていた。
二転三転する物語の結末は? 

著者渾身の傑作巨篇。



























渾身・・・
その言葉はこの分厚さに対して渾身と思うな。
すごく内容が詰まっていて、充実した時間を過ごせたとは思わない。

主人公は妻を亡くしたうだつの上がらない大学講師。
大学講師という職がどんなもんなのかまずがわからない。
文中では貧乏暮らしという表現が沢山あり、
金がないのががひしひしと伝わってくる。
彼らはいつか教授になることを夢みているのだろうか。
そうなるために講師をしてるのか?
よくわかんないな。
好きな勉強突き詰めてったらそういうことになるんだろうと思うけど。
トドの詰まりは教授ってやつなんだろうな。

まぁ、その講師として勤めてる大学の教授の娘と結婚するわけで。
たまたま酔っ払った勢いで友達に誘われて、
意識が混濁したままほいほいフーゾク店にいくわけだ。
その店の名刺を見て怒った妻は三歳の娘を連れて実家に帰ってしまった。
ほとぼりが冷めた頃に頭を下げて迎えに行こうと思っていた矢先、
突然の事故で妻は亡くなってしまう・・・

普通にかわいそうだと思う。
本を読み進めていくに、この主人公は純朴で、やさしくて、
単純でとても人間らしい人物だ。
フーゾク店にいったのだって、きっと酔っ払ってわけがわからいままに
ついてって、帰りに名刺をサッと入れられたのも気づかずに
帰宅したんだろうなーというのがわたしでも想像つく。
きっと奥さんもそのぐらいのことわかっていただろうに。
なんて単純に思っていたんだけど、
渾身の長篇ミステリーなんて謳われているから警戒しながら読んでた。
しかしまぁ、そこまで悲惨なのは書かなかったみたい。
って、コレってネタバレか?
まぁ、人によって悲惨かどうかなんて違うしね。
わたしの妄想よりは悲惨じゃなかったかな、と。

弁解の余地も与えられず妻を失ってしまうなんて哀れだなぁと思う。
ただ、ただ。
そんな半端な状態でもう二度と会えないなんて、かわいそうだ。
しかも妻が実家に帰っちゃった理由を義父母に知られているという始末。
そりゃ、娘の産んだ忘れ形見、そんなどうしようもない男に
渡したくないだろうよ。

経済的余裕のない主人公は義父母に娘を預けるしかないのだった。
離れて暮らす父と娘。
一緒に暮らしたいと願う主人公の元へ、
ある日名誉挽回のチャンスが巡ってきた。
物故作家の未発表手記を入手する。
それを論文で発表し、一発当ててやろうと。

物語は最初上下二段で始まって、手記の部分は一段だ。
この作家の未発表手記がそのまま文章として載っている。
時たま現代を挟みながら物語は二元中継で進んでいく。
この手記の部分が旧仮名遣い。
しかし、意外と読みやすい。
この読みやすさってのが実は最初の伏線だったんだよな。
手記は物語の約半分を占める。
わたしとしてはこの手記の部分よりも、
後半の謎解きのあたりがすいすい読めた。
手記は最後著者の自殺で締めくくられているが、著者が自殺に至るまでの
一連の事件を起こした犯人が誰かというのは明記されていない。
その犯人を捜してくれ、という依頼を受けた主人公が
探偵役となってうん十年前の事件の検証をしていく。

ミステリー作品の中での事件の真相は大抵理解不能なことが多い。
今回もそれは例外ではなく、犯人の動機は
一般人が想像もつかないところにある。
それがミステりー小説の醍醐味でもあるなぁ。
社会派ならいざ知らず、ミステリー小説だもの。
事件が起きて、探偵がでてきて、犯人が登場する。
そういう流れがちゃんとしてればミステリー小説は成立する。
"普通"の概念を取っ払っちゃえば、犯人も見えてくるもんなんだろうな。

腑に落ちないのがひとつ。
主人公の妻は結婚前に付き合っている人がいた。
非の打ち所のない三拍子そろっている男。
頭脳明晰・将来有望・見目麗しく性格も爽やか。
そんな男を振ってまでなぜ主人公に惹かれたのか?
本人もわけがわからないといっていたけど、わたしもわかんないなー。
妻にきいてもこたえてくれないときた。
そしたら自分で考えるしかないんだけど・・・
なんで自分なんか?
って思ってる鈍感さとかがよかったとしか思えないんだけど。
まぁ他にも、趣味が合うっていう点もあったようだけどね。
そういうところが好きなんだ?
その謎は最後の彼女の手紙を読んで少しわかったけれど。
不覚にも涙がでた。
主人公のための涙。
かわいそうだった。

腑に落ちないのはこっちか。
どこまでも爽やかキャラの元カレ。
どうやったらあんな男が出来上がるんだ?
と思う。あの親にしてこの子あり。というけれど。
ここまでいい人だといっそ気味が悪いと思うんだが。
世の中にはこういう人もいるのかー。
だとしたら日本の未来は明るいに違いない。


2009.03.31


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