
二十一歳の夏は一度しかこない。
百道病院の精神病院に、躁状態で入院したあたしは脱走を決意した。
あだ名がなごやん(患者)という24歳の、茶髪のサラリーマンを連れて。
誰も知らないところに行かなくちゃいけない。
今すぐ。今すぐ。
あたしは見えないものに追い立てられていた。
「なごやん、車持っとらんと?」
「あるけど・・・・・・」
「一緒に逃げよう。もうそれしかなかよ」
「家まで送ってやるよ。それから俺は車戻して病院に帰る」
「嫌ったい」
「子供みたいなこと言わないの」
けれど、あたしが見つめるとなごやんは目を伏せてしまった。
しばらく、そのまま両膝に手をついてあぐらをかいていたが、
やがて深い溜息をついた。
「ほんとに逃げるんだ?」
「ほんとくさ」
亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
頭の中では、ずっとそんな幻聴が聞こえている。
衝動が高まる。
幻聴だとわかっていても、自分ではとめることができない。
亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
―逃げないと。逃げるのに、理由なんていらない。
よくわからないあらすじ。
伝わったかな。
とにかく“あたし”と“なごやん”は精神の病気で。
なごやんはしぶしぶ逃走につきあうことになった。
どこにいくのかもわからず、ただ逃げる。
何から逃げてるのか。
頭の中で聞こえる、幻聴から逃れたいあたし。
読んで、なんか病気のことがすこーしわかった。
躁と鬱ってのは違うんだな。とか。
眠剤ってのはいろいろあんだなーとか。
テトロピンていう薬は怖いなーとか。
そして、本の内容だけど。
あっけらかんとしていて。
博多の言葉がなんとなくあったかくて。
おもしろかった。
亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
ギャル文字みたいだなって誰かいってたけど、資本論だそうです。
2005.10.18