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ねこやま

徒然備忘録

イン・ザ・プール / 奥田英朗

2010-11-13 06:41:13 | 奥田英朗
抜粋

「いらっしゃーい」。
伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、
甲高い声に迎えられる。
色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。
そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。
プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、
治療する医者のほうがもっと変。
こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。

新・爆笑小説 トンデモ精神科医伊良部登場!











アレー?
長篇だと思ったら・・・短編だったんだー。
一篇読み終わってこれで終わり?
もっと読みたい。
と思った。
次のぺージをめくって短編連作だったことに気づく。

これはみんなが面白いって騒ぐわけだわ。
こんなふざけた精神科医いたら怖いなぁ。
自分は絶対に診察されたくない。
なぜって、すぐに注射したがるんだもの。
口癖のように毎回診察に訪れる患者にいう一言は

「じゃあ、注射しましょうか」

いったい何を打たれているんだか・・・注射フェチの変態医師。
注射を打つ時に白衣から覗く真っ白な太もも。
彼女の太ももの付け根に“watch me”の小さいシール。
注射を打つ看護師は露出狂。

こんなふざけた精神科にみんな結局は癒されていく。



●イン・ザ・プール
水泳中毒の男

原因不明の下痢や体調不良を訴える患者に
扱いきれなくなった内科医はサジを投げた。
行き先は精神科。
悩みを聞くでもなく、ふざけたことばかりいう医者に
辟易しつつもなんとなくその医者に従って運動を始めた患者。
しかしこれが水泳中毒に・・・
この水泳にはまっていく心理が面白かった。
わたしが走らないと罪悪感があるっていうのとは、また別なんだもんな。
一日でも休むと、かえって体調が悪い。
そりゃ、中毒だって話。

この医者の面白いところは一緒になってハマるところだ。
ところで、伊良部は水泳のお陰で少しは痩せたのか?


●勃ちっぱなし
持続勃起症の男

読んで字の如く。
“たちっぱなし”という言葉を変換してもこの字はでてこなかった。
こういう意味の時にあてる漢字なんだなぁ。

これはもう読んでてすごく患者に同情した。
男じゃないからこの痛みはわかんないけど・・・
すんごい痛そうだな~って思った。

犯罪者の気持ちがわかった気がした。
彼らは、小さな嘘を隠すために、大きな罪を犯してしまうのだ。(文中より)


うーん。
この状況でこの悟り。
納得してしまった。


●コンパニオン
被害妄想の女

これが一番医者っぽい対応をしていたように思う。


●フレンズ
ケータイ中毒の少年

いや、イマドキこういう人、珍しくないかもしれない。
昔、テレビでこんな実験を見たことがあった。
一日にメールを100件以上(うろ覚え)する女子高校生二人をつかまえて、
片方の娘に何時間かケータイ抜きで過ごしてもらう。
すると、もう一人の娘は会話中に何度もケータイ操作。
どこいっても、ケータイ操作。
カラオケいっても歌いながらケータイ操作。
もう一人のケータイ抜きの娘はとうとう泣き出してしまう・・・

・・・・・・・・・・ナンデ?

理由をきいてみると、寂しかったから。
別に一緒にいる相手にないがしろにされて寂しいと思ったわけじゃなく、
ケータイが手元にナイ、ということが寂しかったそうだ。
もはや彼女にとってケータイの不在は
不安と恐怖の対象になっていたのだ。

わたしなんかからすると考えられない。
一日に一回もケータイがその意味を成さない時があるというのに。
アラームとしての機能以外。

こんな風(中毒)になっちゃうのは、やっぱりかわいそうだと思う。
今回の伊良部の対応も、医者っぽかった。
自分がしていることを同じように伊良部にされてみて、
なんとなくわかってしまった少年。
意識してやってるのかどうかってのがこの医者の謎なところ。
読んでてこれが一番切なかった。


●いてもたっても
強迫神経症の男

何がきっかけなのかわからないけれど、
ありとあらゆる心配事が気になっていてもたってもいられない男の話。

なんて疲れる生き方をしてる人だろう。

地球は、人のいるところより人のいないところ
の方がはるかに広いの。だから目をつぶって石を投げても、
当たらないことの方が多いの。(文中より)


極論だけど、伊良部のように生きられたら周りは迷惑だけど、
本人は幸せだろうな、と思うのだ。
なんて素晴らしい世界を見てるんだろう、伊良部は。
自分の理論の中でぬくぬくと過ごしている。
その行動が周りにどう思われようとこの男は何も感じないのだ。

































人間という器を脱げば、精神だけが残る。
人間は精神で生きている。といっても過言ではない。だろう。
五感があって、思考があって、初めて人間の身体は動き出す。
その精神が弱ってしまうと、人間としての機能も弱ってしまう。
原因不明の難病。そこには精神病もはいるんじゃなかろうか。
どんなに原因を探ったって、
自分の深層心理に近づけたかどうかなんてこと、誰にわかるんだろう。
本人が近づけたと思えばそうなるだけのことだ。
なんでこうなるの?なんでこうなっちゃったの?なんで?
こうだからこうに違いない。
人は、原因を探す。
探さざるを得ないのだ。
なんでも理由をつけたがる。
そういう風にできている。
こと自分のことに関しては。
自分に興味がないなんてやつは、
生きててもきっとつまらないに違いない。
だって自分に興味が持てないのに、
他のものに興味をもてるもんだろうか。
これをするのだけは好き。
どうして?
それは面白いと感じるから。
素晴らしいと感じるから。
おいしいと感じるから。
それを感じてるのは全部自分なのだから。


2008.05.18


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