歳を重ねると楽しいとか賢くなるとか・・・・みんな戯言なんだよ。

感じるままに、赴くままに、流れて雲のごとし

雑木林には死体が埋まっている。

2018-11-28 | 旅行
前菜を食べるフォークが使いにくかった。
握ぎったところが悪かったのか真っ平らではなく盛り上がっていたからだ。このフォークを作った職人の心意気があらぬ視点を見つめていたのだろうか?多分、頑張りすぎたんだ。このフォークナイフを購入した店のセンスに問題があるだけなんだ。しかし、地元の野菜なのか美味しいと思った。
しかし、気になったのは料理ではなく視線。脊髄麻酔を打たれた時のような重い痛みだった。振り返って微笑む勇気はなかった。話しをする相手がいない食事ほど退屈な事はない。でも、そんな退屈さが必要な時だってあるわけで流されっぱなしの自分を憐れみ、その姿を天井板の節穴から覗くもうひとりの自分。そんな存在を感じていた。
そして、そんなふたりの自分を俯瞰的に眺める女の存在を感じて僕は少し狼狽えていた。

窓の外に目をやると四つの光が見えた。
つがいの狸だった。こちらをジッと見つめている。何か言いたげに光りを放っている。
ぼくは、よく聞こえないなぁ。
そう答え、その光りを遮断してしまった。

二口めのワイン飲み給仕を呼んだ。

「悪いけれど、このワインの贈り主に食事をご一緒したいと伝えてくれませんか?」
「承知致しました。」
給仕係は少し間を置きに厨房へと姿を消した。

僕は待つことにして、もう一度つがいの狸の方に目やった。そこにはいなかった。