歳を重ねると楽しいとか賢くなるとか・・・・みんな戯言なんだよ。

感じるままに、赴くままに、流れて雲のごとし

人の思いは時を経て通じることもあれば通じぬことまあるわけで…

2018-11-01 | 旅行
このホテルに着いたのは午後の四時を回っていた。鬱蒼と茂った唐松の林のなかにそのホテルはあった。予約する時、少し躊躇した。ネット紹介の写真には随分と騙されてきたし食い物屋の料理見本と同じだ。しかしトライアルしなければ新しい発見にならない。
そのホテルの佇まいは悪くはなかった。正面玄関は中央で両サイドに食堂と客室がある。そんな感じで建物のつくりはスイスの観光地によくあるパターンだった。駐車場は表玄関の手前の脇道を入ったところにあった。すでに二台のボルボCX60が止まっていた。なんだか恥ずかしい気分だった。今夜の客層が頭に浮かんできた。バックで駐車スペースに止めるのに手間取りあたふたしているとホテルの支配人らしき男が近づき声を掛けてきて
「○○様でいらっしゃいますか?」
「そうです。お世話になります。」
そう答えてトランクから荷物を降ろした。
すかさず支配人らしき男は僕の荷物を取り上げた。なんだか人質を確保するシリアのゲリラ兵士みたいだった。そんな気持ちを見透かされぬように「ちょっと冷えますか?今夜は…」と聞くと「昨夜あたりから20度以下ですね」と人懐こい笑顔を向けた。
玄関を、抜けロビーのソファーに案内された。
暖炉と赤茶けた革製のソファーは決して居心地がいいとは言えなかった。
もうすでに日は暮れ始めていて、暖炉の薪は頼りなげに炎を見せていた。
ぼくは落ち着かない素ぶりを悟られぬよう窓の外を眺めた。