雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

盗人と王の知恵比べ ( 1 ) ・ 今昔物語 ( 20 - 32 )

2024-04-17 07:59:16 | 今昔物語拾い読み ・ その2


     『 盗人と王の知恵比べ ( 1 ) ・ 今昔物語 ( 20 - 32 ) 』


今は昔、
震旦の[ 欠字。王朝名が入るが不詳。]の御代に、国王の財宝を納めて置いている蔵があった。
その蔵に、財宝を盗み取ろうとして、盗人二人が進入した。親子である。親は蔵の内に入り財宝を取り出し、子は外に立っていて、取り出す物を受け取っていた。
ところが、そこへ蔵を護っている者たちがやって来た。
外に立っていた子は、その様子を見て、「番人がやって来たとはいえ、自分は逃げれば捕まることはないだろう。だが、内にいる我が親は、逃げることは出来ず、きっと捕まるだろう。生きて恥をか
くよりは、いっそのこと、親を殺して誰だか分らないようにするのがいい」と思って、近くに寄って親に言った。「そこまで番人が来てしまった。どうすればいいでしょうか」と。
親はそれを聞くと、「どこだ、どこにいるのだ」と言って、蔵の内にいながら顔を差し出したところ、子は、その親の首を太刀で以て打ち落して、首を持って逃げ去った。

そこへ、蔵の番人どもが来てみると、蔵の戸が打ち破られていた。誰かが進入したようだ。驚き大騒ぎして、登って(床が高いらしい。)見ると、蔵の内に血がたくさん流れている。怪しみながらよく見ると、頭のない死体があった。また、蔵の財物がたくさんなくなっていた。
そこで、国王にこの由を申し上げた。

国王は、「その蔵の内に、頭をなくして倒れていた死人は、それは、蔵に侵入した盗人である。きっと、親子であろう。親は蔵の内に入って財物を取り出し、子は外に立っていて、それを受け取っていたが、人がやって来て出会ったので、内より逃げようとしたが逃げ出すことが出来ずに捕らえられるところだったが、誰だか分らないようにするため、子が父の首を取って逃げたのであろう」と考えつかれた。
そして、この国の風習として、昔から親が死んだ後、日の吉凶にかかわらず、三日の内に必ず葬ることは、定まった風習である。されば、その頭のない死体を取り出して、路の辻に棄て置いて、密かに人を配置して見張らせた。

さて、逃げ出した盗人は、「我が親の死体が取り出されて、辻に置かれている」のを見て、「これは、きっと見張りがいて見守っているのだ」と思い至って、日暮れ時になってから、策をめぐらして、人が深く酔う酒を求めて、多くの瓶に入れて肴も添えて、自分は普段とは違う姿に変装して、その酒と肴を担って、その死体の辺りを通り過ぎた。
その死体を見張っていた者どもは、一日中見張っていて疲れ、とても腹が空いていたので、この酒・肴を担い持って通るのを、奪い取って、たらふく飲んだ。

それから、この盗人は、さらに策をめぐらして、よく乾いた木で、少しでも火を付ければ燃えてしまう物を車に積んで、牛に引かせて運んで行き、あの死体の辺りを通り過ぎようとしたが、暗いために誤ったように見せて、その死体の上に運んできた木をぶちまけた。車を引いていた盗人は、「ああ、とんでもない事をしました。すぐに人を呼んできて取り除きます」と言って、そのまま去って行った。

この死体を見張っている者どもは、すっかり酔って、仰向けになってすっかり寝入っていて、この騒ぎにも気がついていない。
そこで、見とがめる人もいないのを確認すると、盗人は、火を灯して道を行く人のようにして、この死体の辺りを火を振り回して通り、火を木の山に打ちかけて逃げ去った。
見張っていた者どもは、全員が、ぐっすりと寝入っていて気がつかないうちに、死体はすっかり焼けてしまった。

見張りの者どもが、皆泥酔しているうちに、待ち受けている盗人は現れず、死体は灰になってしまった。
「我等はおとがめを蒙って、首を取られるだろう」と恐れおののいたが、国王にこの由を申し上げた。
国王は、この見張りの者を咎められることもなく、「この盗人は、極めてずる賢い奴だ」と仰せられた。
そして、この国の風習として、昔から父母を葬ってから三日の内に、必ず沐浴する河がある。(どうやら、この物語は天竺が発祥もとらしい。)
「その河で必ず沐浴するはずだ。されば、今日から三日の間に、その河で沐浴する者を、きっと捕らえて連れて参れ」と宣旨が下された。

                 ( 以下、( 2 ) に続く )         

      ☆   ☆   ☆


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