麗しの枕草子物語
稲穂刈り
八月つごもりの頃、「太秦(ウズマサ)に詣でよう」ということで出掛けましたが、そこで稲穂を刈っているのに出合いました。
穂が伸びている田に多勢が集まって騒いでいるのをよく見てみますと、稲穂を刈っていたのですよ。
『早苗取りしかいつの間に』と詠まれていますが、まことに、「賀茂に詣でよう」とした途上で田植えをしているのに出合ったのは、つい先日のことのように思いますのに、もうこんなに立派に育ったのだと思いますと、感慨ひとしおでございます。
集まっている男たちは、穂先が随分赤くなった稲の、根元の青いところを握って切り取っています。何という刃物なのかは知りませんが、根元を鮮やかに切ってゆくさまは見事で、何だか簡単そうにも見えるので、私もやってみたいような気がしてきます。
どうしてそうするのかは分かりませんが、切り取った穂をずらっと並べて、男たちが自慢でもするかのように並んで坐っているのが、とても面白い風景です。
(第二百十段・八月晦、より)