夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『善き人のためのソナタ』

2007年08月23日 | 映画(や行)
『善き人のためのソナタ』(原題:Das Leben der Anderen)
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ,マルティナ・ゲデック,セバスチャン・コッホ他

まちがいなく、今年No.1。
ついこの間まで、今年のマイ・ベストだった
『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)も吹っ飛びました。
おそらく一生、私の心に残るであろう作品です。

1984年、東西冷戦下のドイツ。
東ドイツではシュタージ(秘密警察・諜報機関である国家保安省)が
反体制派の監視を大々的におこない、
政治的危険分子と見るや、証拠を集めてすぐさま処罰。

芸術家たちも仕事を取りあげられることを恐れ、
当たり障りのない活動をするしかないのが実情。
自らの意志を貫き通した場合は、政府から圧力をかけられ続けて
自殺に追い込まれる者も多い。

シュタージのヴィースラー大尉は模範的職員。
国家に忠誠の限りを尽くし、真面目で冷酷。
反体制派の疑いのある者を連行すると、
仲間の名前を白状するまで一睡もさせない尋問手段を取り、
次々と成果を上げる。

ある日、彼が命じられたのは、
反体制派の疑惑が持たれる劇作家ドライマンの監視。
ドライマンと、その恋人で女優のクリスタが住むアパートに
隠しカメラと盗聴器を仕掛けたヴィースラーは
2人を徹底的に監視し始めるのだが……。

キャッチコピーは、
「この曲を本気で聴いた者は、悪人になれない」。

終始無表情で、温かみを全く感じさせないヴィースラーが、
自殺した作家仲間への追悼の意味を込めて
ドライマンが奏でるそのピアノ曲を、盗聴器を通して聴いたとき、
ひと粒の涙を流します。
以降も無表情であることに変わりはありませんが、
その曲が、ヴィースラーの心に明らかな変化をもたらしたことがわかります。

東西ドイツを描いた映画としては
『グッバイ、レーニン!』(2003)、
『ベルリン、僕らの革命』(2004)等々ありますが、
映画の中の「ベルリンの壁崩壊」が伝えられたシーンで、
こんなにもグッと来たのは本作が初めてでした。

派手さはまるでない、静謐な作品です。
だけど、心が打ち震えました。
人間の根元的な善の部分を信じたい、そう思わせてくれます。
このラストシーンは本当に素晴らしい。

まだ30代前半だという監督に脱帽。
東ドイツ出身、まだ50代半ばで、
先月他界してしまった主演のウルリッヒ・ミューエ。
心からご冥福をお祈りいたします。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 続・ちょっと涼しい話でも。 | トップ | 『LOVEHOTELS ラヴホテルズ』 »

映画(や行)」カテゴリの最新記事