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『あのこと』

2023年02月23日 | 映画(あ行)
『あのこと』(原題:L'evenement)
監督:オードレイ・ディヴァン
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ,ケイシー・モッテ・クライン,ルアナ・バイラミ,ルイーズ・オリー=ディケーロ,
   ピオ・マルマイ,サンドリーヌ・ボネール,アナ・ムグラリス,ファブリツィオ・ロンジョーネ他
 
京都河原町で珍肉を食べる会に参加する日、その前に京都シネマで2本ハシゴの2本目。
 
原作は、2022年のノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの『事件』。
ハシゴ1本目の『冬の旅』は1985年のヴェネチア国際映画賞金獅子賞受賞作、本作は2021年の同賞受賞作です。
『冬の旅』で主人公モナを演じたサンドリーヌ・ボネールが、本作では主人公アンヌの母親役。
いやはや、凄烈で一種のホラー作品にも思えます。映像が目に焼き付いて離れない。
 
内容として知っていたのは、「女子学生が予期せぬ妊娠をしてどうするか悩む」、それだけ。
現代の話だと思っていたので、主人公が1940年生まれという設定だと知ったときは驚いた。
そうか、そういう時代の話なのですね。
 
フランス・アングレームの大学で文学を専攻するアンヌは、美人で学業も優秀。
教授からも一目置かれているため、寮生たちの中には彼女を妬んでよからぬ噂を流す者もいる。
そんなことはスルーして我が道を行くアンヌ。
 
ところがあるとき、生理が遅れていることに気づく。想定外の妊娠。
いつか子どもを産みたいとは思っていても、いまは嫌。学業を続けて教師になるという夢がある。
もしもいま出産したら、子どものせいで人生を棒に振ったと恨んでしまうかもしれない。
 
子どもを堕ろしたいと思うが、フランスでは中絶は違法。
お腹の子の父親であるボーイフレンドにも言えず、親友たちにも両親にも打ち明けられず、
困り果てたアンヌは、女友だちの多い同級生ジャンに相談。
きっと孕ませた相手が過去にいて、中絶したことがあるのではと思ったから。
 
どうしようもないまま月日ばかりが経ち、悩みのせいで成績はどんどん下がり……。
 
舞台となっているのは1963年。当時のフランスはこんなふうだったのですね。
親身になってくれるかかりつけ医も、今度ばかりは相談に乗れないと言う。
もしも中絶したことがバレれば、医師免許を剥奪されてしまうだけでなく、何かしら重い罰を受ける様子。
自分の生活圏から離れた産婦人科に行ってみたものの、中絶を希望していると言うと冷ややか。
泣きついて流産しやすくなる薬を処方してもらったはずが、実は流産を予防する薬で。
 
流産するようにアンヌは何でもします。
怖くて直視できなかったのは、編み棒を突っ込むところ。そこまでしても流産できません。
きっと赤ちゃんは生まれたいと思っているのだから、もう産もうよと思ったりも。
 
アンヌの希望どおりに流産するシーンはさらに恐ろしい。
こんな思いまでするのであれば、どうか望まぬ子が生まれぬようにきちんと避妊してください。
 
しんどくて、目を背けたいけれど背けられない1本。

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